2009年06月17日

日本は侵略国家ではない 田母神論文を収録

日本は「侵略国家」ではない!日本は「侵略国家」ではない!
著者:渡部 昇一
販売元:海竜社
発売日:2008-12
おすすめ度:3.5
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元航空自衛隊幕僚長田母神俊雄さんと、上智大学名誉教授渡部昇一さんの共著。

田母神さんは、昨年「日本は侵略国家であったのか」論文が、アパグループ代表、元谷外志雄さん主催の「真の近現代史観」論文コンテストで優勝したが、政府公式見解と異なる主張を公にした責任を問われて幕僚長を更迭された。

それからはマスコミにしばしば登場し、ひょうきんなキャラクターで人気となっている。

普通本を読む時には、著者の意見に同感できるか、新しい知識を得られないと良い本とは思わない。

その意味ではこの本はどちらも中途半端なので、おすすめはできないが、こんな意見の人もいて、たぶん主張には真実も含まれているのだろうとは思う。


信念の人 田母神さん

田母神さんは信念の人だと思う。

まだ現役だったころに中国に出張した時、日本は侵略国家だったという中国の軍人に対して、真っ向から日本は悪くないと反論したという。

それから日中防衛交流に影響が出る時期もあったが、しばらくしたら収まったという。


辞任の原因 村山談話からの乖離

平成7年の村山富市首相の、「戦後50年の終戦記念日にあたって」、いわゆる「村山談話」は次の通りだ。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。

私は、未来に過ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明致します。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」

歴代首相は就任すると必ず、野党から「村山談話」を突きつけられ、踏襲するかどうか迫られる。まるで踏み絵だという。

麻生首相が「踏襲」(とうしゅう)を「ふしゅう」と読んでしまったため、マスコミの餌食になったが、麻生首相も例外ではなかった。


村山談話は言論弾圧の道具?

田母神さんは、前述の懸賞論文の件で航空幕僚長を解任された直後に、参議院の外交防衛委員会に参考人として招致された。

田母神さんの個人的な見解は封印され、文民統制違反としてやり玉に挙げられたという。

国会が終わったあと、田母神さんは「『村山談話』は原論弾圧の道具だ。自由な議論を追求することができないなら、日本は北朝鮮と同じだ」と記者に発言し、これまた火に油を注ぐ結果となる。


「日本は悪い国?」

「我が国は侵略国家であり、醜く悪い国」と表明する日本国とは、いったいどういう国なのかと田母神さんは語る。

田母神さんは、日本の戦後知識人が日本を「悪い国」にしたと語り、全面講和を主張した南原繁総長はスターリンの指示を受けて全面講和を貫いたとか、南原さんの後の矢内原忠雄総長は、戦前「神よ、日本を滅ぼしたまえ」という論文を書いており、一橋大学の都留重人名誉教授は、本物の共産党のスパイだったと言われているという。

こんな初めて聞く話がやたら出てくる。


日本のおわび外交は小和田恒さんから?

谷沢永一関西大学名誉教授は、日本がお詫び外交に変わったのは、昭和60年の皇太子妃雅子様の父君の小和田恒(ひさし)氏の、悪いのは日本だったという国会発言からだと語っていることを、渡部氏は紹介している。

国際司法裁判所所長の小和田恒氏は、東大の横田喜三郎教授(後に外務省顧問)の影響を受けているが、横田教授は、東京裁判を国際法上も有効で、アメリカの占領政策を擁護する発言をしていという。

前防衛大臣の石破茂氏は中国共産党系の新聞に、「靖国神社を参拝したこともないし、これからも絶対に参拝しない」、「大東亜戦争は日本の侵略戦争でした」、「南京大虐殺も事実です」などと答えており、売国的発言であると渡部氏は語る。

「日本は悪い国だった」と売国的発言をした当時現役防衛大臣の石破氏が追求されず、「日本はいい国だった」と正論を述べた田母神さんが更迭されるのは、どういうことだと。


航空自衛隊には最高の戦闘機が必要?

田母神さんの話で興味を惹くのは、「日本の航空自衛隊には、徹底的に世界最高の飛行機を与えなければなりません。そしてそれには、一番練度の高いパイロットがいなければなりません。空幕さえしっかりしていれば、敵は来ることができないのです。」という発言だ。

自衛隊は米国が機密が漏れるとして売りたがらないF−22が必要だと言いたいのだろう。以前も書いたが、いまさら人が飛行機に飛び乗って迎撃に行く時代なのだろうか?むしろミサイルや無人機・軍事衛星などの時代ではないのだろうか?

F-22






出典:Wikipedia

田母神さんは、戦前戦後を通じての航空のエース源田実さんの発言を引用して、零戦が勝てなくなって日本はダメになったので、終戦直前には最新鋭の「紫電改」を導入してアメリカ軍を苦しめたが、戦力集中でなく各地に戦力を散らばらせたので負けたのだと語っている。

ちなみに筆者は、ちばてつやさんのマンガ「紫電改のタカ」を子どもの頃読んでいたので、紫電改には親しみがあるが、実際は生産量も少なく、燃料も不足していたので到底戦局を変える力はなかったのが現実だ。

紫電改のタカ (4) (中公文庫―コミック版 (Cち1-4))紫電改のタカ (4) (中公文庫―コミック版 (Cち1-4))
著者:ちば てつや
販売元:中央公論新社
発売日:2006-07
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出典: Wikipedia


戦闘機さえ強ければ爆撃機は来られない。爆撃機が来られなければ、船も来られないのだと田母神さんは語っているが、およそあきれた話である。

第2次世界大戦は、石油確保とロジスティックス(兵站)が戦争に勝つための必須条件だという近代戦争の典型だと思う。

日本もドイツも戦闘機は残っていた。特にドイツは最新式のジェット戦闘機、ME262を2,000機以上も製造していたが、燃料が不足していたので、迎撃はおろかパイロットの訓練にも飛び立てず、連合軍の爆撃を許したのだ。

Messerschmitt_Me_262




出典: Wikipedia


紫電改も同じ事だ。全部で1,400機程度では数としても不足な上に、燃料がなくては、迎撃にも飛び立てない。


田母神論文

この本では問題になった田母神論文が原文で紹介されている。

渡部さんも書いているが、原稿用紙にすると18枚であり、これは論文ではなくエッセーである。

証拠も不十分で、言いっぱなしの感があり、論拠としてはきわめて薄弱と言わざるを得ない。

田母神論文の論点を抜き出すと。

★我が国は戦前中国大陸や朝鮮半島を侵略したと言われるが、実は日本軍のこれらの国に対する駐留は条約に基づいたものであることは意外に知られていない。

★日本は相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。(略)国際法上合法的に中国大陸に権益を得て、これを守るために条約に基づいて軍を配置したのである。

★この日本軍に対して蒋介石国民党は頻繁にテロ行為を繰り返す。邦人に対する大規模な暴行、惨殺事件も繰り返し発生する。(略)日本政府は辛抱強く和平を追求するが、その都度蒋介石に裏切られるのである。

★実は蒋介石はコミンテルンに動かされていた。(略)コミンテルンの目的は日本軍と国民党を戦わせ、両者を疲弊させ、最終的に毛沢東共産党に中国大陸を支配させることであった。

★我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者なのである。

★張作霖爆死事件もコミンテルンの仕業である。

★盧溝橋事件の仕掛け人は自分だと劉少奇自身が東京裁判中に語った。

★日本統治時代に満州の人口は1932年の3千万人が、1945年では5千万人、韓国は35年間で1千3百万人が、2千5百万人に倍増。日本統治時代は豊かで治安が良かった証拠である。

★朝鮮人出身の日本の将軍もいたし、朝鮮王室は日本の宮家となった。

★コミンテルンに動かされていたハリー・ホワイトがハル・ノートを書いた。

★日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行した。

★日本があのとき大東亜戦争を戦わなければ、現在のような人種平等の世界が来るのがあと100年、200年遅れていたかもしれない。

★大東亜戦争を「あの愚劣な戦争」などという人がいる。戦争などしなくても今日の平和で豊かな社会が実現できたと思っているのだろう。

★今なお大東亜戦争で我が国の侵略がアジア諸国に耐え難い苦しみを与えたと思っている人が多い。しかし私たちは多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識しておく必要がある。

★タイで、ビルマで、インドで、シンガポールで、インドネシアで、大東亜戦争を戦った日本の評価は高いのだ。そして日本軍に直接接していた人たちの多くは日本軍に高い評価を与え、日本軍を直接見ていない人たちが日本軍の残虐行為を吹聴している場合が多いことも知っておかなければならない。

★日本軍の軍紀が他国に比較して如何に厳正であったか多くの外国人の証言もある。我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である。

★日本は古い歴史と優れた伝統を持つ素晴らしい国なのだ。(略)嘘やねつ造は全く必要がない。個別事象に目を向ければ悪行と言われるものもあるだろう。それは現在の先進国の中でも暴行や殺人が起こるのと同じ事である。

★私たちは輝かしい日本の歴史を取り戻さなければならない。歴史を抹殺された国家は衰退の一途を辿るのみである。


「なんでもコミンテルン陰謀説」

それにしても田母神さんと渡部昇一さんの、いわば「なんでもコミンテルン陰謀説」には閉口する。

筆者が20年以上も前に当時はやっていた「なんでもユダヤ陰謀説」で大変な失敗をした経験があることは以前ブログで書いたが、今度は「なんでもコミンテルン陰謀説」である。

ユダヤが解ると世界が見えてくる―1990年「終年経済戦争」へのシナリオ (トクマブックス)
著者:宇野 正美
販売元:徳間書店
発売日:1986-05
おすすめ度:2.5
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米国政府財務省高官にハリー・ホワイトというコミンテルンのスパイがいたのかも知れないが、それにしてもコーデル・ハルは以前から対日強硬派の急先鋒で、強硬な対日要求を最終決定したのはルーズベルトである。

今度紹介する「真珠湾の真実」を読むと、たしかに日米開戦は厭戦気分が大勢を占めるアメリカ国民を戦争に向かわせるためにルーズベルトが仕掛けた疑いが強いと思う。

真珠湾の真実 ― ルーズベルト欺瞞の日々真珠湾の真実 ― ルーズベルト欺瞞の日々
著者:ロバート・B・スティネット
販売元:文藝春秋
発売日:2001-06-26
おすすめ度:3.0
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しかし日米関係を決定的に悪化させたのは、1940年9月の日独伊三国同盟だと思う。

米国が全体主義国のドイツ・イタリアを敵国とみなし、民主主義を守るためとして英国に武器を「駆逐艦・基地協定」を結んで供給し、1941年3月からはロシア、それに中国の蒋介石政権にも最新兵器をレンンドリース法で無償貸与していたのは周知の事実であり、独伊と同盟を結べば、英国を支援する米国とどういう関係になるのかは自明の理である。


1986年頃、「なんでもユダヤ陰謀説」の本は、ベストセラーになったが、今回の「なんでもコミンテルン陰謀説」の本もよく売れているようだ。

歴史を判断するには、前後の動きと力学を大局的に見なければならない。一面の真実が含まれているのかもしれないが、この本については筆者はあえて「なんでもコミンテルン陰謀説」とレッテルを貼らせてもらう。


これでは決して歴史学のメインストリームとはなり得ないだろう。それでも興味ある人にのみおすすめする。



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Posted by yaori at 00:03│Comments(0)TrackBack(0) 歴史 | 自衛隊・安全保障

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