2009年12月12日

核の脅威と無防備国家日本 防衛省元制服組の核武装論

核の脅威と無防備国家日本―日本人は核とどう向きあうのか核の脅威と無防備国家日本―日本人は核とどう向きあうのか
著者:矢野 義昭
販売元:光人社
発売日:2009-11
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図書館の新刊書コーナーに置いてあったので読んでみた。今年12月に出たばかりの本だ。

著者の矢野義昭さんは、昭和25年生まれの元陸将補で、平成18年に陸上自衛隊の小平学校副校長をもって退官し、現在は拓殖大学大学院で安全保障を研究しているという。

矢野さんは世界の核保有国の動向、特に中国やロシアの核兵器強化の動きを取り上げ、米国の核の傘がいざとなったときに本当に頼れるのか疑問を投げかける。


矢野さんの描く核武装後のバラ色の日本の未来

そして日本を取り巻く核保有国の現状とミサイル防御(MD)システムの限界、北朝鮮の核武装、核保有による抑止力効果などを説明し、元制服組として国を守る使命から、憲法では認められていない「集団的自衛権」を容認し、国際核管理体制の構築が望ましいと語る。

しかし国際的な核管理には時間が掛かるだろうから、まずは日本は核保有をすべきだと。

「被爆国の日本が、かりに自衛のために核を保有したとしても、どの国もそれを道義的に責めることはできないはずである。また、日本の立場に、理解を示す国も出てくるかもしれない。」

また防衛予算上も核兵器の方が安くつくので、今後の日本の少子高齢化と財政事情を考慮した場合、中国・ロシア・核を持つ統一朝鮮と通常兵力のみで拮抗させるのは不可能なので、費用対効果上も核保有は効率的な防衛手段であると。

潜水艦搭載巡航ミサイルと地上配備ICBMの組み合わせで2兆円、核巡航ミサイルだけなら1兆円、運用経費は1兆円という見方があるという。

日本が核を保有し、地域的な核均衡が維持されれば、米軍縮小も可能で、日本の国際的な威信と外交交渉力が高まり、長年の懸案であった国連安保理の常任理事国入り、領土問題解決に前進が見られるだろう。

日本の国家としての危機対処力への内外の信頼が高まり、邦人拉致なども減少。

日本の経済力も軍事的な実力を背景とすることから、国際的な信頼度がたかまり、日本との自由貿易協定を希望する国も増え、円は基軸通貨の一角を占めるようになり、通商摩擦でもより強く国益を主張できる。

科学技術でも核兵器技術が国家的先端技術力の一分野となり、原子力の民生利用、宇宙開発、海洋開発などの国家プロジェクト推進の基盤がより強固となり、好影響を与える。自立的な核燃料サイクルも確立する。

まったくテレビの”太田総理”のマニフェストの様である。「こうして日本は平和になった…。」


生命よりも大切なもの

矢野さんは、「個々人の生命を危険にさらしても守るべき共通の価値がある」という。矢野さんの結論を引用すると。

「核保有は国家の主権護持の意思と能力の象徴である。

究極的には自国みずからの意志決定にもとづき運用すべきものであり、同盟国であっても核作戦指揮権限は本来、委譲すべきものではない。

その意味では、核共有にも限界があり、同盟も永遠ではなく安全保障を全面的に依存できるものではない。

最終的な力の拠り所となる核戦力については、種々制約があるなかでも、いざというときに最大限に自主独立性をもって行使できる体制をめざし、可能なすべての努力を傾注すべきである。」


現在の世界の核配備状況

整理の意味でSIPRI(ストックホルム国際平和研究所) Year Bookによる世界で配備されている核弾頭数を次に記す。

     2006年         2009年
米国  約1万発         2,702発
ロシア 約1万6千発       4,834発
中国    130発         186発
英国    185発         160発
フランス  348発         300発
インド   110発          60〜70発
パキスタン 110発          60発
北朝鮮    10発          不明
イスラエル  60〜85発       80発

2009年には各国の削減が進んで、米国とロシアは2006年の数字の1/4強にまで削減している。

このほかに戦術核弾頭が米国で500発、ロシアで5〜6,000発、ミサイルからはずされて備蓄している核弾頭が米国で予備弾頭も入れて6,000発、ロシアで1万発、核弾頭解体後に残されたプルトニウムの弾芯が、米国で1万4千個、ロシアでも同数以上保管されているという。

配備された核兵器は削減しても、米国・ロシアともに、いざとなったら核攻撃能力はすぐに復活できる体制にあるのだ。


参考になった情報

結論には全く賛成できないが、参考になった情報を箇条書きで紹介しておく。

★2005年に中国国防大学防務学院長朱成虎少将が、米軍が攻撃してきた場合、中国は核兵器を使用する。米国は西岸の100から200の都市が破壊されることを覚悟すべきだと恫喝している。

(筆者コメント:この種の発言をする中国軍人はいつの時代でも必ずいる。軍人の本音だろうが、検閲されているとはいえインターネットで情報を収集し、自由化に慣れた中国国民が米国との全面核戦争を臨むかは疑問だ)

★中国の軍事的台頭により、いずれ米国の核の傘も機能しない時がくる。

★米国では2002年からRRW(Reliable Replacable Warhead=信頼性のある交換可能な弾頭)計画を進めてきた。核弾頭配備は削減するが、核弾頭備蓄は続けるというものだ。

ロシアの2007年の国防予算は311億ドルで、アメリカの5,000億ドルに比べて圧倒的に少ないので、新型戦術核ミサイルなどの少数精鋭兵器に力を入れている。新型の路上移動、潜水艦搭載型のICBMSS−27 トーポリMは慣性誘導弾でなく、軌道を修正できる機動型弾頭だ。

★現在の迎撃ミサイルによるミサイル防衛システム(MD)は慣性運動体のみを対象としており、ロシアのトーポリMなどの非慣性誘導弾は簡単に回避できる。またおとりミサイルやおとり弾頭で簡単に対策ができる。

★レーザーによるミサイル防衛システムができれば、確実にミサイルを破壊できるが、多大な研究開発費が必要で、開発にはめどが立っていない。

★イギリスは核弾頭と原子力潜水艦を自国でつくり、ミサイルだけ米国から購入している。米国に一部依存しながらも自前の核戦力を持つ。

★フランスはドゴール時代の対米不信から核兵器を自前で開発し、1966年からはNATOの軍事機構を脱退していた。2009年サルコジ大統領がNATOへの完全復帰を宣言し、ドイツとの核兵器の共同保有を提案しているが、ドイツのメルケル首相は拒否したという。

★ドイツ、イタリア、カナダ、オランダ、ベルギー、ギリシャ、トルコの7カ国(のちにカナダとギリシャが脱退)は非核保有国ながら、米国と核兵器のニュークリア・シェアリングを行っている。これは戦闘爆撃機に搭載する20発の核爆弾のみであり、平時には米軍の管理下で、有事には米国大統領の命令に基づき、核爆弾のhandling overを行うというものだ。


筆者の意見

この本の結論には全く賛同できないが、資料としては参考になった。

田母神さんの本を読んで、ニュークリアシェアリングに興味を持っていたが、現実的ではないことがこの本でよくわかった。また日本として核武装は決して取るべき道ではないことを強く感じた。

またそもそも核爆弾はそんな簡単に作れるわけではないことは、以前「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介した通りだ。

日本の強みは資源ではない。勤勉な国民と工業力、つまり無形資産だ。

いかなる国が日本を核攻撃して占領しても、日本の無形資産を破壊してしまった後では全く意味が無いだろう。やはり日本は被爆国として今までの方針を堅持して、世界の核廃絶を呼びかけるべきだろう。

オバマ大統領登場で核廃絶の流れは変わった。もちろん世界から核廃絶がそう簡単にできるとは誰も思っていない。しかし一歩を踏み出すことが重要なのだ。だからオバマ大統領が昨日12月10日ノーベル平和賞を受賞したのだ。

世界で唯一の被爆国である日本が、堂々と核廃絶を国是として世界に訴えることが、世界から信頼と尊敬を得る正攻法ではないかと強く感じた。それこそ国連安保理事会の常任理事国になるための、日本ならではの主張ではないか。

退役自衛官だから書けた、一部の(たぶん少数だと思うが)自衛官の本音なのかもしれない。

冒頭に紹介したバラ色の未来の様なスキだらけの議論で、あまりおすすめできない本だが、反面教師として自らの考えをまとめるには役に立つと思う。


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Posted by yaori at 00:16│Comments(0)TrackBack(0)自衛隊・安全保障 | 戦史

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