2010年01月06日

スーパーマーケットほど素敵な商売はない 安土敏さんのスーパーの教科書

+++今回のあらすじは長いです+++

スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則
著者:安土 敏
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-12-11
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スーパー業界の理論家、そして小説家としても知られる安土敏(あづちさとし)さんのスーパーマーケットの教科書。

安土さんの「小説スーパーマーケット」は故伊丹十三監督の映画「スーパーの女」の参考文献にもなり、安土さん自身が映画のアドバイザーも務めている。



小説スーパーマーケット (上) (講談社文庫)小説スーパーマーケット (上) (講談社文庫)
著者:安土 敏
販売元:講談社
発売日:1984-02
おすすめ度:5.0
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「不倫疑惑の潔白を死をもって証明する」と言い残した伊丹十三監督の顔がなつかしい。YouTubeのこの短いビデオが、良いスーパーのチェックポイントを紹介していて面白い。

この本は安土さんが会長を勤めるオール日本スーパーマーケット協会(AJS)の機関紙「Network」の巻頭言を加筆修正したものだ(この巻頭言はAJSのホームページの荒井伸也コラムとしても掲載されている)。元々スーパーマーケット業界の人向けに書かれたものなので、経営上のアドバイスと、経験に基づく業界人へのアドバイスで構成されている。

このブログは筆者の読書ノートも兼ねているので、仕事に役立つ本のあらすじはどうしても長くなってしまう。この本も大変参考になり、あらすじが長くなってしまったので、経営上のアドバイスの部分は”続きを読む”に箇条書きで掲載した。


GMSとスーパーとは違う

筆者は米国ピッツバーグに合計9年間駐在し、ポイント業界にもいたので、イオングループ、IYグループ両方とビジネス経験があり、世界最高の顧客管理を誇る英国のTESCOの本や、今度紹介するウォルマートのサム・ウォルトンの本なども読んでいる。

流通業界のことは、ある程度分かっているつもりだったが、この本を読んで自分の知識はうわべだけで、本当のところは全然分かっていないことがよくわかった。

その一例として、この本では最初に「スーパーマーケットの誤解を解く」ということで、GMS(総合スーパー)とスーパーマーケットの違いについて解説している。

たとえばジャスコとサミットとは同じスーパーマーケットである。筆者は商品構成が、何でも置いている(ジャスコ)のと、食品・日用品主体(サミット)の差くらいにしか思っていなかったが、両者は戦略も異なり、戦う土俵も違うことが、この本を読んでわかった。

GMSは一日来店客1万人程度の大型店で、基本的に1都市に1店舗の大型店をつくることが出店戦略だ。その都市の商圏人口の大きさによって、店舗の大きさも変わる。

GMSは多くの客に来店して貰うために、価格を「破壊的」にして、しかも遠くからわざわざ来店してもらうために、珍しい商品も置かなければならない。

様々な商品を置いているので、たとえば家具や衣料品のセールなど、来店の動機さえつくれれば、他の商品はそこそこの値段で良いので、生鮮食品の価格を常に「破壊的」にする必要はない。

一方スーパーは住宅地なら一日2〜3,000人程度の客数だ。大体半径500メートル以内に5,000世帯あれば出店が可能なので、1都市に何軒も同じスーパーがある。客数が少なく商品の回転が低いにもかかわらず、生鮮食品主体なので、高度な鮮度管理技術が要求される。

基本的に日用品と生鮮食品以外は置いていないので、他の商品のセールで客を惹きつけることはできないため、食品の鮮度と価格が勝負だ。高級和牛も最先端の流行商品もいらないのだ。

だから「GMSの食品売り場を取り出して、そこに日用雑貨を加えワンフロアの店舗にして住宅地に持って行っても、いいスーパーにはならない」と安土さんは語る。

実際に近くのGMSとスーパーを比較してみると、この差が分かる。

筆者の住んでいる町田市には、町田からJR横浜線で1駅の小淵という場所にイトーヨーカ堂とジャスコが隣り合わせで出店している。国道16号沿いに立地して、それぞれ1,000台を越える大駐車場を持っている。

一方サミットは町田駅からやや離れたところに、ヤマダ電機と一緒に出店しており、駐車場も完備している。周りには食品スーパーの競合がひしめいており、小田急・東急両デパートのデパ地下の食品売り場もそれなりに充実しているので、食品スーパーとしては町田は激戦区だと思う。

ジャスコは松阪牛など高級和牛を置いており、イトーヨーカ堂は本マグロの良いのを置いている。PB商品もあるので、加工食品の価格も安い。しかしどちらも店がでかすぎる上に、お客が多くて混雑しており、買い物しにくいこと、この上ない。

一方サミットは、通路も広く、壁際をメイン通路とするスーパーのオーソドックスなレイアウトで、外側のメイン通路を一周すればほとんどの買い物が出来る。ポイントマニアの筆者にはうれしい土日ポイント5倍だし、競合他社に比べて価格も安い。

自宅からの距離はどちらも同じようなものだが、どうせ土日しか行かないので、食品なら混雑したジャスコよりサミットに行っているが、この差にはちゃんと理由があることが、この本を読んで初めてわかった。

「GMSとスーパーは同じ食品を扱っている以上、互いに多少は影響を受けるが、直接的には競合しない」のだと安土さんは語る。GMSは安い物から高級品まで豊富な品揃えが要求されるが、スーパーは「つまらない売り場」が最良の売り場なのだと。


安土さんの経歴

安土敏(本名:荒井伸也)さんは、昭和12年(1937年)生まれ。東京大学卒業後、住友商事に入社。住友商事と米国西海岸の大手スーパーマーケットセーフウェイとの合弁会社、サミットストアに経営建て直しのために1970年に出向し、40年間スーパーマーケット経営ひとすじに歩んできた。

サミット(サミットストアが社名変更)の社長、会長を歴任し、現在はオール日本スーパーマーケット協会(AJS)の会長だ。

安土さんはサミットストアを立て直すために、昭和52年に関西スーパーマーケットの北野祐次 現名誉会長にスーパーの経営の教えを請うたと語る。北野さんはAJSの名誉会長で、いわば安土さんのメンターである。

「スーパーマーケットはおかず屋です」と言い切った北野さんの見方が、スーパーは「内食産業」と考えていた安土さんの考えとぴったり一致したという。

いままで筆者は、安土さんの「小説スーパーマーケット」と「企業家サラリーマン」を読んだことがある。

企業家サラリーマン (講談社文庫)
著者:安土 敏
販売元:講談社
発売日:1989-06
おすすめ度:5.0
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安土さんは小説のほかに、「日本スーパーマーケット原論」や、「日本スーパーマーケット創論」など、スーパーマーケット業界についての著書も多い。

日本スーパーマーケット創論 内食提供ビジネスのマネジメント日本スーパーマーケット創論 内食提供ビジネスのマネジメント
著者:安土 敏
販売元:商業界
発売日:2006-05-09
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スーパーマーケットほど素敵な商売はない

安土さんは、生まれ変わってもスーパーの仕事をしたいと語っており、長嶋茂雄の言葉のように、「家庭内食がある限り、スーパーは永遠に不滅だ」と語る。

その理由は、1.スーパーマーケットは正直でなければ生き残れないビジネスであること、 2.スーパーのビジネスは半永久的に安定しており、科学的な分析が可能であることだ。

この本の冒頭で「スーパーの女」の故伊丹十三監督の言葉を紹介している。

「安土さん、スーパーマーケットって、本当に素晴らしい商売ですね」

「スーパーマーケットで働いているパートタイマーは、ほとんどがその店の近くに住んでいる主婦です。その人たちは、同時にお客様。だからゴマカシができない商売です。ゴマカシのない商売ほど、働く人にとって素晴らしいものはありません」

昔は多くのスーパーが、売れ残ったパックを新しい日付でパックしなおしたり、40年ほど前は、アルゼンチンの馬肉に牛脂肪を組み合わせるとおいしい霜降りのスキヤキ肉が出来るということで、合成肉を売っていたという。

ちなみにアルゼンチンの牛肉は、大前研一氏によると、世界一美味いそうだが(アルゼンチン駐在経験者の筆者も同感できる)、家畜の伝染病である口蹄疫汚染国であるとして、日本には生肉は輸出できない。しかし馬肉であれば生肉輸出が可能なのだ。

安土さんは、再パックなどのごまかし表示と徹底的に闘った。一時は利益は減ったが、すぐに売り上げと利益が増加したという。冒頭の伊丹十三監督のビデオでも再パックは取り上げられているが、消費者の目はふし穴ではないのだ。

スーパーのビジネスは、基本的に半径500メートルを中心とした「不特定多数」に対して「おかずの提供」という一定の役割を果たすというものので、ビジネスは安定している。その上、ポイント○倍デーや、チラシの出来不出来などの販促効果が検証しやすい科学的分析の対象としても最適のビジネスだ。


この本でもっとも参考になった点をいくつか紹介しておく。


長期安定収益確保の為にはスクラップアンドビルドは不可欠

小売業では一旦地域ナンバーワン店となれば、そのままで良いわけではない。スクラップアンドビルドが不可欠なのだと安土さんは語る。

イトーヨーカ堂と、ダイエーや西友・マイカルなど他GMSとの差は、イトーヨーカ堂は一旦出店して成功した商圏は、スクラップアンドビルドで、たとえ同じ地区でイトーヨーカ堂グループの店が一時的に競合することになっても、絶対に離さないということだ。

イトーヨーカ堂の戦略は、短期の利益を犠牲にしても長期の利益を求めるというものである。イトーヨーカ堂が出遅れと見られていた1970年代はスローペースの成長だったが、これはコストを掛けても既存商圏を守っていたからで、既存商圏を守らず、単に新規出店を繰り返したダイエーは破滅の道を歩んだ。

ダイエー前社長樋口泰行さんのダイエー時代の奮闘記、「変人力」を以前紹介したが、社長に着任してまずやったのは、263店舗のうち54店舗の不採算店を閉めることで、ダイエーのスクラップアンドビルドの遅れを物語っている。店舗閉鎖で商圏も失い、ダイエーの地盤沈下に拍車を掛ける結果となった訳だ。

安土さんはスクラップアンドビルドは、いわば車のエンジンの排気量を変えるようなものだと語る。儲かっている店を潰す勇気も必要なのだ。

この本では、サミットの各店のスクラップアンドビルドの有様が語られている。

1970年代に導入した関西スーパーの生鮮食品のジャストインタイム方式では店舗面積は300ー400坪必要だったが、当時のサミットストアの店は狭く、時には売り場より作業場の方が広くなったという。

安土さんには思い入れがあるのだろう、立て替えられなかった閉鎖店は、名誉の戦死として店名と閉鎖年を書いている。「スーパーの女」の舞台の多摩プラーザ店も閉鎖され、今はマンションになっている。

目先の利益と中長期の利益が矛盾するのがこの業種の特色だ。だから「勝つ出店」ではなく、「負けない出店」なのだと。


お客に足を運んでもらうために不可欠な要素

価格とは店の「価値そのもの」である。もし価格が高いと判断されたら、たとえどんなに品揃えが良く、品質・鮮度・接客サービス・飽きさせない工夫が優れていても、客足は遠のく。だから競合の価格には常に注意を払わなければならない。

もっともチラシで宣伝する特売品のみを買う客はほとんどなく、平均的に特売品以外の10品目も同時に買うという。どうやら非セール品の値付けが、スーパー経営のコツのようだ。

品揃えも重要だ。

スーパーでは「いい物を置こう」と考える前に、「悪い物を置かないで、完璧な品揃えをする」という考えが大切だ。たとえ野菜とかの部門が良くても、肉とか魚とか、どこかの部門が弱いと、客はその店に向かわなくなる。

スーパーは半径500メートル以内の5,000世帯を商圏としている。価格が高いという印象を持たれたり、ある部門が弱かったりすると、客の足は競合に向かう。不特定多数を相手にするスーパーにとって、多数の主婦の下した評価は常に正しいと受け入れざるを得ないのだ。

「店全体の機能(はたらき)」が勝れば、価格水準で劣ることが無ければ、いかなる競合にも勝てるのだと安土さんは語る。


理論の姿をした迷信や常識

成功するスーパーの立地条件は、まずは半径500メートル以内の商圏に5,000世帯以上が住んでいるかどうかで、客単価に最も影響を与えるのは競合店の有無・強弱と、駐車場の有無である。

サミットは当初所得水準に目を付けて、杉並区と世田谷区に出店したが、所得水準は全く客単価に影響しなかった。これは「理論の姿をした迷信や常識」に惑わされた結果なのだと。


スーパー経営は長期安定利益を目指す経営

安土さんは短期利益の最大化を求める経営姿勢には警鐘を鳴らす。あるべき姿は、「使命を達成して利益を上げること」なのだと。より良いスーパーをつくるべく、利益を出しながら、10年後を見据えた店舗経営が必要なのだ。

たとえば短期利益を求めるなら、魚屋・肉屋は専門家に委託する方法がある。また一時はやった集中加工場を持つセントラルパッケージ方式というやり方もある。

しかし、これらは鮮度の良い商品を販売し、長期利益の最大化を目指すという方向性とは合致していない。そのため安土さんは、1.セントラルパッケージ方式からの決別、2.委託に頼らない未来志向の従業員教育、3.正直商売への転換を実施したという。


ダイエーとイトーヨーカ堂の差は不動産投資だったのか?

ダイエーはバブルの頃土地を買いあさって、バブル崩壊で大損したが、イトーヨーカ堂は土地を買わなかったので、バブルの被害はなかった。それがダイエーとイトーヨーカ堂の差だと、まことしやかに言われている。

しかしサミットも土地を購入していたので、バブルのかなり前に買った土地なら、バブル崩壊後も含み益があった。不動産投資が損か益かは、単に土地取得タイミングの問題である。

むしろイトーヨーカ堂はバブル前までは、経営が伸び悩んでいると見られていたので、土地まで買う潤沢な資金が手当てできなかったことがこの差ではないかと語る。

結局、或る時期には土地を取得すべきであり、或る時期には取得してはならないというのが結論だと。


ウォルマート経営への疑問

ウォルマートについて安土さんは次の本を参考に挙げている。

ウォルマートに呑みこまれる世界ウォルマートに呑みこまれる世界
著者:チャールズ・フィッシュマン
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-08-03
おすすめ度:4.5
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「あの店は大嫌い。でも買ってしまう」というのはウォルマートを言う言葉だが、その徹底した低価格は製造業を絞り上げ、下請化してしまう可能性がある。

製造業はさらに価格を下げるために、米国から中国などの低開発国に生産基盤を移す。そうなると米国の雇用が失われ、結局消費者自身の生活水準にも影響すると安土さんは指摘する。

筆者はサム・ウォルトンの「私のウォルマート商法」を読んだので今度あらすじを紹介するが、サムの本はサムが亡くなった1994年に書かれた本だ。最近のウォルマートについては安土さんの勧める本が詳しいようだ。こちらも読んでみる。

私のウォルマート商法―すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)私のウォルマート商法―すべて小さく考えよ (講談社プラスアルファ文庫)
著者:サム ウォルトン
販売元:講談社
発売日:2002-11
おすすめ度:4.5
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スーパーマーケットで幸せになろう

安土さんは最後にスーパー業界を目指す人に「スーパーマーケットで幸せになろう」という章をつくって、「流れに身を任せてはいけない」、「人生航海の3つの指針、『健康な身体』『能力』『哲学』」、「スピーチ能力はプレゼンテーション能力」や「20歳台から『書く能力』『相手の立場に立って考える能力』を磨け」など、経験者として至れり尽くせりのアドバイスを書いている。


大変参考になる本なので、もっと詳しく紹介したいが、あらすじが長くなりすぎるので、経営上のアドバイスは”続きを読む”に箇条書きで紹介した。

抽象論でなく、安土さんの40年にわたるスーパーマーケット経営実体験をふんだんに織り込んでいるので大変わかりやすい。スーパー業界を理解するために最適な教科書である。

是非一読をおすすめする。


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スーパー経営上のアドバイス


★「店舗自由裁量礼賛主義」より、本部と店舗の「作(曲)」、「演(奏)」分業関係を構築する

★大手GMSの大量仕入のメリットは、生鮮食品の管理技術で打ち消せる

★「あるべきロス率」基準をつくり、ロスを気にしない

★スーパーの生きる道は、徹底した正直さにある

★未知の商品を定番化する努力が、販売員を使った「売り込み」、「拡販」
「側面販売」、「試食販売」、「推奨販売」を充実させることが、良い接客サービスにつながる。しかし、それはきちんとシナリオを用意した「訓練された側面販売」でなくてはならない。

★モニター会議には必ず経営トップが出席する

★トップは直属でない部下を評価してはならない(直属上司のみが部下を評価する)

★優れた同業他社の人から学ぶ
荒井さんは関西スーパーマーケットから学んだ。

「変人力」で前ダイエー社長の樋口さんは、或る同業他社の経営者から次のように言われたと語っている。

「一番効くのは、競合店との比較を価格とか商品などで毎日毎日徹底的にやることです。結局お客さまは比較競争力があれば買いに来て頂ける。お店に定着してくださる。これがすべてです。10年掛かってやっとわかったことなんですよ」

簡単ではあるが、まさに金言だと思う。


Posted by yaori at 13:07│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 企業経営

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