2010年01月17日

半島へ、ふたたび 蓮池薫さんの韓国旅行記 再び踏んだ朝鮮半島の土

半島へ、ふたたび半島へ、ふたたび
著者:蓮池 薫
販売元:新潮社
発売日:2009-06
おすすめ度:4.5
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元拉致被害者で、現在は新潟産業大学専任講師、翻訳家として活動する蓮池薫さんのソウル旅行記。

筆者も家族で昨年9月にソウルに旅行して、この本で出てくる観光地なども訪問したばかりなので興味深く読めた。

この本の第1部は、蓮池夫妻のソウル旅行記、第2部は日本での翻訳家としての活動と韓国人原作者との対話を紹介している。

旅行記は蓮池さんのブログ(My Back Page)を元に構成したもので、ブログは本の出版に際して閉鎖されており、本の目次などが載っている。


第1部はソウル旅行のトピックス

第1部はトピック中心の内容で楽しめる。

たとえば、韓国のドラマは普通週2回放送され、前回の放送分に対する視聴者の反響を次回に反映することが慣例となっているので、制作は非常にあわただしく、監督が現場でメガホンを握ったまま居眠りしていたということがあるという。

視聴者はどんどん注文をつけてくるので、「冬のソナタ」も何度も変更され、ペ・ヨンジュンの演じる「チュンサン」は死ぬはずだったのが、ハッピーエンドに終わったという。

ソウルタワーからソウルの夜景を見て、蓮池さんが思い出したのは、拉致されて北朝鮮の船から見る柏崎の夜景だったという。

「捕縛され、ボートで運ばれながら、殴られて腫れ上がったまぶたのすき間から見た最後の日本の姿は、故郷柏崎のほんわかとやさしい夜景だった」

こんな具合にところどころに拉致の思い出、北朝鮮で暮らしていた時代の苦労話が紹介される。

いままで蓮池さんの本数冊をこのブログで紹介したが、北朝鮮の生活について具体的に書いているものは初めてだと思う。


ソウルでの訪問先

蓮池夫妻が訪問した場所は普通の観光客が訪れない場所も含まれている。

★教保文庫 ー メインの大通り世宗路に面する巨大書店 翻訳家の蓮池さんならではの韓国の書籍の売れ行き調査だ

★景福宮(キョンボック) これはソウル一の観光名所 表紙の写真もここの写真だ

★仁寺洞 ー 繁華街

★ナイフギャラリー ー 日本の手裏剣を購入したという

★Nソウルタワー

★地下鉄 ー 駅に駅員がおらず、自動販売機は千ウォン札しか受け付けず困ったという。実は筆者もソウルの地下鉄の電子マネーではトラブルを経験した。地下鉄内では布教者に出会ったという。

★戦争記念館 ー ピョンヤンの戦勝記念館との対比 北のT−34戦車との再会

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出典:Wikipedia

★漢南区の住宅密集地「月の町」の狭い道路

★韓屋村 北でのキムチ作りを思い出したという。北では一人当たり300キロの白菜と一人当たり50キロの大根が配布される。10キロの乾燥唐辛子を自分で粉にして唐辛子だらけになった思い出。家族4人分1トン以上の白菜を300個くらいの瓶に漬ける作業は大変だったという。

★ベストセラー作家、孔枝泳さん、金薫さん、パク・ピョンウクさん達との会食。

★西大門刑務所歴史館 ー 北朝鮮の革命映画に登場していたという。
 
★韓国占い ー 占い師に奥さんのことを「残念だが、真に心を分かち合った相手ではない」と言われたという。

★猛スピードで走るタクシーの運転手 ー 注意したら、李明博大統領がソウル市長の時にタクシー認可を緩和して、タクシーの台数が1.5倍に増えたので、客の回転を上げないと暮らしていけないと抗弁するタクシーの運転手。

たしかに筆者もソウルのタクシー、特にデラックスタクシーではない普通のタクシーは運転が荒くてハラハラした。


初めて日本を訪れた韓国人が驚くこと

蓮池さんは、初めて日本を訪れた韓国人の驚くことは次の通りだ書いている。そしてソウル旅行の時に、これらの感想に挙げられた日本との違いを検証している。

1.自動販売機が多い
2.タクシーが自動ドアになっている
3.女子高校生のスカートが短い
4.カラスがやたら多く、しかも大きい
5.町並みがきれいで清潔
6.路線バスの停車位置が正確


第2部は蓮池さんの翻訳家としてのデビュー

第2部は蓮池薫さんが、翻訳家としてデビューするところから、韓国人の原作者との交流を紹介している。

蓮池さんは、翻訳家として生きることを決心し、翻訳家の友人に相談し、「北極で冷蔵庫を売る凄腕」エージェントを紹介して貰う。彼女が蓮池さんの翻訳処女作「孤将」の原作を推薦してくれたという。

孤将 (新潮文庫)孤将 (新潮文庫)
著者:金 薫
販売元:新潮社
発売日:2008-09-30
おすすめ度:4.0
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最後に「半島へ、ふたたび」が拉致問題の世論喚起に役立てばと切に願っていると記して終わっている。

ソウルへは日本のほとんどの地域から2時間弱のフライトで行けるが、蓮池さん夫妻にとっては、朝鮮半島に再び足を踏み入れることには、大きな心理的な壁があったことと思う。

この本では韓国との比較で、北朝鮮の思い出がところどころに紹介されていて興味ぶかい。蓮池さんは北朝鮮でも日本語講師として生活できていたから、まだましだったのだと思うが、他の拉致被害者はひどい目にあって、自殺あるいは餓死に近い形でなくなった人も多いのではないかと思う。

拉致問題がデッドロックに乗り上げて久しく、北朝鮮が核兵器を持った以上、交渉はなかなか進まないと思うが、金正日も健康問題から息子の誰かに政権を譲る可能性もあるので、是非タイミングを捉えて、たとえば日本から調査団を長期派遣するとか、交渉を前に進めて欲しいものである。

そんなことを考えさせれら本だった。

蓮池さんの北朝鮮時代の生活が、かいま見えて参考になった。


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Posted by yaori at 00:09│Comments(0)TrackBack(0) 拉致問題 | 蓮池薫

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