2010年02月14日

骸骨ビルの庭 シリアスな小説好き向けの作品

骸骨ビルの庭(上)骸骨ビルの庭(上)
著者:宮本 輝
販売元:講談社
発売日:2009-06-23
おすすめ度:3.5
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骸骨ビルの庭(下)骸骨ビルの庭(下)
著者:宮本 輝
販売元:講談社
発売日:2009-06-23
おすすめ度:3.5
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家内が図書館で借りていたので読んでみた。

大阪十三(じゅうそう)にある通称「骸骨ビル」という戦前からの堅牢なビルで暮らした元戦争孤児たちと、孤児たちの育ての親との強いきずなを、ビル管理人の「私」が日記に記す形で語る小説。

戦争孤児といっても親に捨てられた遺棄児童がほとんどで、親から捨てられたことでそれぞれが心に傷をもっているという設定だ。

育ての親の一人は南方帰りで九死に一生を得たビルオーナー。もう一人は元結核患者のオーナーの友人で、二人とも戦後すぐには20代だった。

オーナーの戦場からの奇跡的な生還体験と、友人の結核からの奇跡的な治癒体験が、彼らが縁もゆかりもない戦争孤児たちの育ての親となろうと決心した理由だ。

「私」は家電メーカーを早期退職したが職が見つからず、買収したビルに居座る住人を追い出すという使命を受けて、東京の不動産マネージメント会社からビル管理人として派遣され、大阪に単身赴任する。

ビルオーナーはだいぶ前に亡くなり、ビルには元孤児の親代わりのオーナーの友人が住んでいて、元孤児のそれぞれが作業場や事務室として部屋を持っていて、毎日のように訪れる。

オカマバーのママになったり、食堂を経営したり、金属加工業や運送業など、それぞれの道に進んだ元孤児たち10人余りの話を「私」が聞いて、ストーリーが展開する。

ビルオーナーが亡くなったあと、新しい所有者はビルを売却し、今住んでいるオーナーの友人と元孤児を追い出すべく管理人を送り込むが、前の管理人は、すぐにやめてしまう。

「私」も着任早々、「家族や兄弟、親の住所まで知って居るんだぞ。彼らが不慮の事故に遭わないように祈る」という脅迫を突きつけられる。

「私」は脅しに負けず頑張るというよりは、何もしないで時間を過ごすことを選び、元孤児と一緒に裏庭での野菜栽培とか、元孤児が経営する定食屋で料理を教わり、のらりくらりと暮らすうちに、解決の糸口が生まれる。

日記なので、ところどころに「私」が読んでいる本が紹介されている。読んでいる本とは、このブログで「夜と霧」を紹介したユダヤ人強制収容所から生還した心理学者ヴィクトール・フランクルの「意味への意志」や、司馬遷の「史記」など筆者も読みたいものばかりだ。

この小説の対象読者がわかる。

意味への意志意味への意志
著者:ヴィクトール・E. フランクル
販売元:春秋社
発売日:2002-07
おすすめ度:4.0
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史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫)史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫)
著者:司馬 遷
販売元:筑摩書房
発売日:1997-07
おすすめ度:5.0
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戦争は65年も前に終わり、「戦争孤児」は、ほとんど死語に近いと思うが、親代わりとなった南方帰りの兵隊上がりのビルオーナーの青年が、心の葛藤を覚えながら、九死に一生を得た戦争経験から、ビルに住み着いていた孤児たちの親代わりとなるというストーリーは、当時ならあり得た話かもしれない。

平成生まれの人にはわかるかな?という気はするが、元々「群像」に連載されていた小説なので、中高年向けのストーリーだ。

群像 2010年 03月号 [雑誌]群像 2010年 03月号 [雑誌]
販売元:講談社
発売日:2010-02-06
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例によって小説のあらすじは詳しくは紹介しないが、シリアスな小説好きの人には楽しめる作品だと思う。


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Posted by yaori at 10:48│Comments(0)TrackBack(0)

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