2010年03月24日

衝撃!EUパワー 理念と対話から生まれた人類の英知の超国家

+++今回のあらすじは長いです+++

衝撃! EUパワー 世界最大「超国家」の誕生衝撃! EUパワー 世界最大「超国家」の誕生
著者:大前 研一
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-11-06
おすすめ度:3.5
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日本を代表するビジネス「伝道師」大前研一氏の最新作。今度はEUとグレーターEUということで、中欧やCISの国も紹介している。

本と同じくDVDも発売されている。

衝撃!  EUパワー 世界最大「超国家」の誕生 (DVD)衝撃! EUパワー 世界最大「超国家」の誕生 (DVD)
著者:大前 研一
販売元:ビジネス・ブレークスルー出版
発売日:2009-11-20
おすすめ度:5.0
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この本の中でイチオシとされているウクライナとルーマニアの詳細レポートも含まれているので、この地域のビジネスチャンスを研究している人は、DVDも参考になるだろう。

このブログでも大前さんの「ロシアショック」と、「東欧チャンス」のあらすじを紹介している。

ロシア・ショックロシア・ショック
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2008-11-11
おすすめ度:4.0
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東欧チャンス (PATHFINDER (5))東欧チャンス (PATHFINDER (5))
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2005-06-15
おすすめ度:4.0
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同じような地域についての三冊めの本ではあるが、同じネタの繰り返しは少なく、新しい情報とインサイト(洞察)が多いのはさすがである。

この本では、戦争なしで版図を拡大した超国家EUのすごさと、EU加盟を申請している各国のなかから有望な国にフォーカスして説明している。

ヨーロッパがここまで進化してこれたのは、「二度とお互いが戦いあうなどという愚かなことはするまい」という固い決意があったからだと大前さんは語る。

フランスが指導者という面で貢献し、ドイツが資金的に応分以上の負担をしてきた。トップ同士が仲が良く、しかも長年指導的立場にいた。これがEUがここまで進化した理由である。

「東アジア共同体」とかいう言葉を意味もなく連発する指導者が日本におり、中国や韓国は日本と一緒にやっていこうという気はさらさらない。

EUの60年にわたる執念と、ドイツの徹底した第2次世界大戦に対する反省がなければ、共同体も共通通貨も成り立たない。だから日本の「東アジア共同体」とかいう構想は、実現への工程表も決意もない代物である。

戦後日本と同じ復興の道を歩んできたドイツが、今や世界最大の超国家EUの中核として変貌している姿を見ると、大前さんは「スゲー!」と感嘆するという。自国の持つ強みを失わず、周辺国と軋轢なく共存している姿はしたたかさと尊敬の念を感じるのだと。

この本を読むと、たしかにEUは人類の英知の産物だと思う。


EUのすごさ

筆者はEUには駐在したことはなく、いままで出張や旅行でしかEUに行ったことがないので、合計9年間駐在したアメリカの方が土地勘があり親しみがあるが、この本を読んで、いまさらながらに超国家EUを作り上げた先駆者、ビジョナリー達の「戦争に頼らず話し合いで理想の大国を作ろう」という熱意と先見性に頭が下がる思いだ。

実は昨年読んで、まだあらすじを書いていないのだが、EUの父、ジャン・モネーの回想録も大変参考になった。

ジャン・モネ―回想録ジャン・モネ―回想録
著者:ジャン・オメール・マリ・ガブリエル モネ
販売元:日本関税協会
発売日:2008-12-05
おすすめ度:1.0
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大前さんの本では、EUの発端の欧州石炭鉄鋼共同体の提唱者ロベール・シューマンやEEC(欧州経済共同体)の委員長を10年間務めたジャック・ドロールなどの名前しか出てこず、ジャン・モネの名前は出てこないが、英仏独間の難しい交渉をまとめ上げた実務部隊の中心はジャン・モネである。


EU加盟国

EU加盟国は27ヶ国、通貨Euro採用国は16ヶ国だ。EU加盟国27ヶ国の人口を合計すると約5億人(アメリカは3億人)、GDPはアメリカの14兆ドルを超え、18兆ドルに達する巨大マーケットだ。

EUの加盟国拡大は次の図の通りだ。年を追うごとに加盟国が増えていくのがよくわかる。

European_Union_enlargement







出典:Wikipedia

ゴールドマンサックスはじめ、アナリストの中には、21世紀はBRICsの時代だとか、米中2大国の時代とか予想する人が多いが、大前さんの予想は異なる。

大前さんは「21世紀は超国家EUの時代になる」と予言している。

以前大前さんの「東欧チャンス」のあらすじで紹介したが、レスター・サローの"Building Wealth"では次のように書いている。

宇宙から見た場合、地球上で文化が発達し、裕福で教育水準が高い人が多く住んでいる最も魅力的な場所。それがEUだ。(筆者訳)

Building Wealth: The New Rules for Individuals, Companies, and Nations in a Knowledge-Based EconomyBuilding Wealth: The New Rules for Individuals, Companies, and Nations in a Knowledge-Based Economy
著者:Lester C. Thurow
販売元:Harper Paperbacks
発売日:2000-08-01
おすすめ度:4.5
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中東欧・CISの中では資源と農業生産のウクライナと、低賃金で良質な労働力が確保できるルーマニア、一律10%のフラットタックスを導入したブルガリアが有望だ。

EUはこれからも東方展開を続け、2012年プーチンが大統領に復帰して2回目の大統領を退任する2020年頃にロシアもEUに加盟すると大前さんは予想する。

EUのいわば「秘密兵器」はトルコだ。トルコはもう20年以上も加盟交渉を続けてきたが、まだ加盟が決定していない。トルコは徴兵制があり、NATOでも2番目に大きい軍隊の規模で、アメリカもトルコのEU加盟を後押ししている。

トルコについては「世界一の親日国トルコ」という本を読んだので、今度あらすじを紹介する。筆者のピッツバーグ時代の隣人にはトルコ人でアメリカンフットボールのピッツバーグスティーラーズの元スタープレーヤーも居た。もっと早くトルコのことを知っておくべきだったと反省することしきりである。


小国や発展途上国も輝いている超国家

初めてのEU大統領には、ベルギーの元首相ヘルマン・ファン・ロンパウが就任した。大前さんの予想は、イギリスのトニー・ブレアかドイツのメルケルだったが、予想は外れている。

ベルギーもどちらかというと小国だ。小国が輝いている超国家、それがEUだ。

ブルガリア、ルーマニアという賃金の低い国を加盟させることによって、生産コストの面でも中国に負けない工業生産が可能となった。EUは一つの超国家なので、物流も一元化でき、貿易は既に65%がEuro取引となっているので、為替リスクもない。

中東欧賃金比較




出典:本書188ページ

バルト3国、スロベニア(人口2百万人)やルクセンブルク(人口46万人)の例もある通り、EU加盟は小国の繁栄を後押しする。昔のような「一定の大きさがないと独自の通貨や軍隊が持てず。国として成り立たない」という観念はEU誕生により消滅した。EUがセーフティネットを提供するので、通貨も大きな軍隊もない小国でも列国に伍することができるのだ。


地域国家論

大前さんは以前から英語で論文を書き、「地域国家論」、「ボーダレス・ワールド」を提唱しているが、現在のEUは大前さんの地域国家論が現実化した存在だ。

地域国家論―新しい繁栄を求めて地域国家論―新しい繁栄を求めて
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:1995-03
おすすめ度:4.5
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ボーダレス・ワールド (新潮文庫)
著者:大前 研一
販売元:新潮社
発売日:1994-04
おすすめ度:5.0
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大前さんは、この地域国家論がEUで実現したことに気をよくして、AU(イスラエルとパレスチナまで含めたアラブユニオン)、中国・台湾と周辺諸国の中華ユニオン、インド・パキスタン・バングラデシュ・スリランカのインドユニオンもアイデアとして提唱している。

インドの本当の敵は国内の階級対立で、国内をまとめるために仮想敵国のパキスタンが必要なのだという。パキスタンも同様の事情がある。

このように他の地域でも横展開の可能性があり、その意味でもEUには是非成功して欲しいと思っていると大前さんは語る。


通貨ユーロの強さ

ユーロは加盟国が財政赤字はGDPの3%以下とかの厳しい財政規律を守っているから、ドル・円・ポンドなどに対して今後強くなっていくだろう。

実際、政治が関係する外貨準備はまだドルが6割、ユーロが26%だが、私企業である主要国の銀行の海外資産残高では既にユーロがドルと並んで40%を占めている。

さらに国際債券の発行高ではユーロが48%、ドルが36%を既にユーロがドルを上回っている。長期投資家は通貨安定を好むので、財政規律の厳しいユーロが人気がある。

ユーロ採用は「行きはよいよい、帰りはこわい」だ。

たとえばイタリアなどがリラに戻ろうとしても、今は通貨の独自発行権がないので、事実上戻れない。加えてユーロから離脱するような弱い通貨は、投機資金の食い物にされるおそれがある。

イギリスはユーロを採用していないが、大前さんはイギリスにとってユーロ不加盟は自国の産業の競争力を弱め、長期的にはマイナスになると見ている。

日銀の福井前総裁の最大の功績は、アメリカべったりの小泉政権時代にもかかわらず日本の外貨準備を誰にも知られないままにユーロ30%に押し上げていたこと。誰もユーロシフトを考える前に日本がやっていたのだ。

ユーロ創設にあたっては西ドイツが犠牲を引き受けた。ドイツ国民の納めたユーロ税が、ギリシャやポルトガルなどの経済発展が遅れていた国への補助金として交付され、経済発展が進んだ。

いわば「ノブリス・オブリージュ」をドイツが引き受けたのだ。アジアにしろどこにしろ共通通貨を創る時には、必ず中心の国が犠牲を強いられる。日本はその覚悟があるのかと?


EUの国際化

EUの共通語は英語で、EUの工業規格や国際会計基準(IFRS)が世界ルールになってくる。

ロイヤル・ダッチ・シェルの会長はノキア会長のヨルマ・オリラが兼務していたり、BPの会長はスウェーデンのエリクソンの元会長というように、人材も急速にオールEU化している。


日本企業の成功例

日本企業の成功例としては、50年以上も前にインドに進出していたことでも判るとおり、国際化が進んでいる旭硝子、世界敵なしのYKK、ワイヤーハーネスの矢崎総業、ディーゼルエンジンの微粒子除去炭化珪素フィルターでヨーロッパの圧倒的シェアを持つイビデン、有害物質不使用のエアコンでヨーロッパのスプリットエアコンの6割のシェアーを持つダイキンなどの日本メーカーが挙げられてる。

日本企業は今までの国別の支社制度をやめ、全EUという"United States of Euroland"という見方が必要で、全EUの中で生産コストが安いなど、メリットのある国に生産拠点を移すべきだと。


ウクライナの魅力

強い円でウクライナなどの資源を買えと大前さんは檄を飛ばす。ウクライナの鉄鋼メーカーは老朽した設備を動かしているが、ミッタルのように既に進出している外資もある。鉄鉱石埋蔵量は世界NO.1なので、日本企業がテコ入れすれば、見違えるように良くなるはずだと。ウクライナにはJT、いすゞ自動車、矢崎総業など進出日本企業は数えるほどしかない。

もちろん肥沃な土地を使った農業生産は大きなポテンシャルがある。

先日のNHKスペシャルの「世界農地争奪戦」でも取り上げられていた通りだ。最近は韓国が各国で農地買収を拡大しているのが印象的な番組だった。

世界農地争奪戦








情報産業もエンジニアのレベルが高く、IT系のエンジニアでも賃金は7−8万円と安い。


日本ができない「したたかな外交」

2008年にウクライナへの投資引き上げが起こり、通貨グルブナが50%以上も暴落した時にIMFが1,800億円の融資を行ってウクライナの経済危機を救った。

しかしこの資金の財源は日本の拠出した10兆円だ。

韓国の通貨危機の時のも同じ事が起こった。IMFを経由せず、日本が直接韓国やウクライナに援助を行っていたら、日本の国際的地位も全然違っただろう。

人のふんどしでもなんでも使うというより、同じ金を出すなら最大の効果を目指すという「したたかな外交」の姿勢が欠落している。

日本外交の最大の失敗は湾岸戦争の時の130億ドルの援助が全くクウェートなどに評価されなかったことだ。

これを題材にした手嶋龍一さんの小説もある。

外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)
著者:手嶋 龍一
販売元:新潮社
発売日:2006-06
おすすめ度:4.0
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EUのリスク

EUのアキレス腱はエネルギー供給をロシアに頼っていること。ただお互いもちつもたれつなので、ロシアもムチャはできない。エネルギーではアラブよりはロシアの方が信頼できるというのがヨーロッパ人の本音だという。

ちなみにロシアの天然ガス販売価格は4段階あるという。

最安値はCIS諸国向け、次がウクライナとベラルーシ向け、その次がバルト3国向け、そして西欧向け=国際市場価格だ。ロシアの意向で価格は決定されており、バルト3国の様にEU入りすると、国際価格とほぼ同等の価格まで引き上げられる。


日本でも戦略的な税制を

ヨーロッパの法人税は20%が標準となっており、税率の高い北欧諸国もホールディングカンパニーは無税というような抜け道を用意している。

ロシアのフラットタックスは有名だし、他の国でもフラットタックスを導入する国は増えている。

相続税の廃止は世界的な傾向だが、日本だけが逆行している。既にイタリア、カナダ、オーストラリアは相続税が廃止され、アメリカ、イギリス、フランスなどでも廃止の方向で検討が進んでいる。

日本も相続税を廃止し、相続税を支払うために金持ちが相続した土地を売ったり、消費を削るというような経済を縮小させる税制ではなく、金持ちが大手を振って金を消費に回すということが、経済発展のためには効果的だろう。

日本と世界各国のGDPは差がどんどん開いている。

主要地域のGDP予想





出典:本書295ページ


日本人がEUより学ぶべきもの

エピローグで、大前さんは日本がEUにまず学ぶべきものは、ライフスタイルだという。

イタリアでは夏休みは2ヶ月で、ドイツでも1ヶ月が普通だ。教育分野でもフィンランドなどは、答えを覚えるやり方でなく、答えを見つける方法を工夫する21世紀型教育に脱皮している。

たしかにEUからはまだまだ学ぶものがあると思う。BRICsのみに目を向けるのではなく、EUにも注目すべきであることがよくわかる。


いつもながら大変示唆に富み。参考になる本である。是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 23:54│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 大前研一

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