2010年07月02日

決定的瞬間 アメリカの第1次世界大戦参戦を決定づけたドイツ外相の電報

決定的瞬間―暗号が世界を変えた (ちくま学芸文庫)決定的瞬間―暗号が世界を変えた (ちくま学芸文庫)
著者:バーバラ・W. タックマン
販売元:筑摩書房
発売日:2008-07-09
おすすめ度:4.0
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1963年にピューリッツアー賞を受賞したジャーナリスト、バーバラ・タックマンの第1次世界大戦開戦前後を描いた「8月の砲声」の姉妹作。会社の友人に勧められて読んでみた。

八月の砲声 上 (ちくま学芸文庫)八月の砲声 上 (ちくま学芸文庫)
著者:バーバラ・W・タックマン
販売元:筑摩書房
発売日:2004-07-08
おすすめ度:4.0
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「八月の砲声」では、セルビア人がオーストリア皇太子を暗殺したサラエボ事件をきっかけに、当時のイギリス、ドイツ、ロシアなどヨーロッパ各国の王室は姻戚関係にあったにもかかわらず、自国のエゴで第1次世界大戦に巻き込まれていった過程を詳しく描いている。

高校の世界史では第一次世界大戦については、ほとんど勉強しなかったので、いままでサラエボ事件がなぜドイツとロシア+フランス/イギリス連合軍の戦争に繋がるのか理解しないままでいたが、「八月の砲声」で理解できたので、別途あらすじを紹介する。

第一次世界大戦は始まってすぐにドイツ軍がバリ郊外まで侵攻しながら、マルスの戦い以降、四年間も続く塹壕戦となったという奇妙な戦争だ。

「決定的瞬間」では、膠着する第一次世界大戦の趨勢を決めたアメリカの参戦を決定づけたドイツ外相ツィンメルマンの電報が題材として取り上げられている。

第一次大戦当時からドイツの外交電報がイギリスによって解読されていたことは、長い間秘密にされ、第一次世界大戦開戦から90年以上経った2005年に、やっとイギリス公文書館が史料を公開された。このツィンメルマン電報もイギリスによって解読されていたことが明らかになった。

ドイツのエニグマ暗号をイギリスが解読したことが、第二次世界大戦の終わりを2−3年早めたと言われているが、イギリスは既に第一次世界大戦の時からドイツの暗号を解読していたのだ。

日本の暗号もイギリスやアメリカに解読されていたことは、今や周知の事実だが、イギリスのインテリジェンスに対する力の入れようが、この本を読んでもよく分かる。

それにしても第一次大戦中の1917年1月に、ドイツの外相がメキシコ駐在ドイツ大使に対して、メキシコ大統領に対米戦争の参加を呼びかけ、なおかつ日本にも対米戦争に参加するように口をきいてくれと依頼せよと電報を出したとは信じられない事実である。

ツィンメルマン電報の内容は次の通りだ。

「2月1日からドイツは無差別潜水艦攻撃を開始する。

アメリカが中立を保つようにドイツは努力するが、もしアメリカが参戦してきた場合には、ドイツはメキシコと同盟を結んでアメリカと戦いたい。

メキシコの対米参戦の代償は、テキサス、ニューメキシコ、アリゾナの領土回復である。

またメキシコ大統領から日本に対しても、アメリカに参戦するように仲介して欲しい。

無差別潜水艦攻撃を開始すれば、イギリスは数ヶ月で和平に応じるだろう。」


この電報はイギリスの海軍諜報部で解読されたが、すぐにはアメリカには渡されなかった。

ドイツが1917年2月から無差別潜水艦攻撃を開始すると宣言していたので、アメリカが憤って参戦すれば、そのままツィンメルマン電報は日の目を見ない運命だった。

しかしアメリカは参戦決定しなかったので、イギリスはツィンメルマン電報のコピーをスパイが入手して、それをアメリカ大使に渡した。

こうすればイギリスがドイツの電報を解読していたことは隠しておけるからだ。

アメリカ大統領ウィルソンは電報内容に憤慨し、通信社に情報を流し、1917年3月1日の世界の主要新聞にツィンメルマン電報が公表される。

当初アメリカのメディアはこの情報の信憑性を疑問視していたが、本人のツィンメルマンが3月3日に電報は本物であるとあっさり認める大失態を犯した。

ドイツがメキシコと日本をそそのかして、米国に戦争をしかけようと画策していたことにアメリカの世論は衝撃を受けた。

ウィルソン大統領は中立を撤回して、1917年4月の歴史的議会演説とともに、ドイツを「自由に対する天敵」と呼んで、議会の承認を得て第一次世界大戦に参戦したのだ。

実は日本は第一次世界大戦では、連合国のなかでは開戦後、最もすばやく動いた国だ。

開戦後三ヶ月の1914年11月までにドイツの青島租借地、ヤップ、トラック、マーシャル、カロリナなどのドイツ領の島々などを占領していた。

まさに帝国主義的領土拡大に積極的に動き、1915年1月には対華21ヶ条の要求を突きつけている。

このブログでも紹介した関榮次さんの「日英同盟」にも書かれている通り、日本は一九一七年に地中海に艦隊を派遣し、ドイツ・オーストリア帝国の潜水艦と闘って、駆逐艦大破という被害も被っている。

日英同盟―日本外交の栄光と凋落日英同盟―日本外交の栄光と凋落
著者:関 栄次
販売元:学習研究社
発売日:2003-03
おすすめ度:4.0
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連合国側でドイツ領土を占領していた日本に、対米参戦してくれとメキシコ大統領に仲介を呼びかけるというのは、ドイツ外相のセンスを疑う一面もある。

しかしアメリカ、特にカリフォルニア州は日本人移民をターゲットに学童差別や土地所有の禁止などで日系人を排斥しており、それの不満が日本側にあることに目を付けた行動でもある。

事実日本はメキシコと艦隊の親善派遣や軍事交流などで親密化していたという。

このツィンメルマン電報が公表されて以来、日本に対する警戒感がアメリカ人の心に深く刻み込まれたのかもしれない。

日本は1918年の第一次世界大戦のパリ講和会議で、世界ではじめて人種差別撤廃を訴え、16票中11票の賛成を獲得し、そのまま成立すると思われていた。

しかしアメリカ大統領ウィルソンが猛反対し、それまで多数決で決められていた議決を、重要事項は全会一致が必要とルールを変えて否決したのだ。

アメリカの人種差別が南部を中心に1960年代まで残っていたことを思えば、ウィルソンの反対は当然かもしれない。

テレビドラマ「コンバット」などでは、アメリカ軍の白人兵と黒人兵が一緒に戦っているシーンが出てくるが、あれは作り話で、実際には黒人兵は黒人兵だけで部隊編成されていた。



これも会社の友人の勧めで読んだディヴィット・ハルバースタムの「ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争」でも、朝鮮戦争の時も同様に人種別編成だったことが紹介されていた。

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上
著者:ディヴィッド・ハルバースタム
販売元:文藝春秋
発売日:2009-10-14
おすすめ度:4.0
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閑話休題。

1924年には排日移民法も成立し、アメリカは日本との対立を深めていく。

日本に対する不信感をアメリカ人に植え付けたツィンメルマン電報が、1941年の日米開戦の遠因となったとも言えなくもないかもしれない。

「八月の砲声」といい、「決定的瞬間」といい、あまり知られていない第一次世界大戦の時の事実がわかり、大変興味深い。

第二次世界大戦の戦史や歴史なら読んだ人が多いと思うが、第一次世界大戦の歴史も知っておくと、第一次世界大戦が次の大戦にどのように影響したのかが理解できて面白い。

特に歴史好きの人にはおすすめの二冊である。


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Posted by yaori at 12:45│Comments(0)TrackBack(0) 戦史 | 歴史

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