2010年08月03日

課長になったらクビにはならない 30代からは「一所懸命」が原則

+++今回のあらすじは長いです+++

課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2010-05-20
おすすめ度:3.5
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リクルートエージェントの転職誌「HRmics」編集長で、HRコンサル会社ニッチモ社長の海老原嗣生(つぐお)さんの最新作。

海老原さんは、マンガ「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人海老沢康生のモデルだ。

エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)
著者:三田 紀房
販売元:講談社
発売日:2008-01-23
おすすめ度:3.5
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以前紹介した海老原さんの前作「学歴の耐えられない軽さ」が良かったので、最新作を読んでみた。

「学歴の耐えられない軽さ」は”売らんかな”のタイトルが内容を表していない欠点はあるが、統計資料を駆使して大学進学率が50%を超えた事による大学のレベルの低下と、新卒/第二新卒の就職状況についてのわかりやすい説明は大変参考になった。

学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-18
おすすめ度:4.0
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課長の壁

「学歴の耐えられない軽さ」が10代ー20代向けだったのに対して、この本は30代以降向けにどうするかを書いたという。結論としては、「目の前の仕事を頑張るだけで良いんじゃないですか」というものだ。つまり「一所懸命」のススメだ。

世の中には「課長の壁」というものがあり、日本でも35歳が転職の限界年齢だ。OECDの年代別転職率の統計を使って、熟年期に転職収束は世界共通の現象であることを説明している。

35歳以降に転職する人は、スペシャリストとして転職を繰り返し、一つの企業には定着しない傾向にある。会社としてもスペシャリストとして採用した人材は転用が効かず使いづらいのだ。

この結果、よく言うと特定分野のスペシャリスト、悪く言うとジョブホッパーになってしまうのだ。


IBM本社の人材開発部長の話

海老原さんがIBM本社の人材開発担当部長に聞いた話を紹介している。IBMでは30代のSE(システムエンジニア)に、技術やコンサルティング能力をつけさせるために社員教育に力を注いでいる。

それでは人材流出に繋がるのではないかと海老原さんが質問すると、IBMの最高の機材、設備を使い、IBM流に教育することが、最大の転職防止策になっているのだとIBMの部長は答えたという。

IBM流にローカラーズされた環境で学んだスキルや仕事のやり方が身に付くと、マッキンゼーやHPが好条件で迎えてくれるといっても、違った環境にあわすのがおっくうになるのだと。

つまりポータブルなスキルではなく、「企業内特殊熟練」の結果だ。これは自由闊達なリクルートグループでも当てはまると海老原さんは言う。

しかし天才はそれでもIBMを出て行くが、そういった天才は出て行ってIBM流を他でも広め、やがては業界標準になるので、むしろ好ましいのだという。


課長になったらクビにはならない

この本のタイトルの「課長になったらクビにはならない」というのは、「課長になったらリストラはされない。だから今の会社に居続ければ良い」という意味だ。ただし、つぶれそうな会社でないことと、最低査定でないことが必要条件だ。

世間一般で言われているリストラは、実は主に非正規雇用者をまず対象にしている。

正社員を対象にしている場合でも、本社から子会社への出向が含まれており、正社員をリストラする場合には、早期退職制度で手厚い退職金を支払う。

指名解雇によるリストラのようなことを正社員に実施するわけではなく、かえって優秀な社員が早期退職優遇制度で辞めていってしまうケースが多く出てくるという。


リストラは組織再生が目的

優秀な社員が辞めてしまうリスクがあっても、企業がリストラを行う最大の理由は、組織再生だ。

社員1万人を超す大手企業では、転職ゼロの社員の割合が8割ちかくいる。結果として能力を発揮できていない「しがみつきタイプのロー・パフォーマー」、「ぶら下がり社員」を多く抱えているという。

これが日本型雇用の最大の問題点であり、組織再生のために1割程度のローパフォーマーを主対象にリストラを実施するのだと。


人肌あわせ採用の減少

日本の採用は。かつてはOB訪問、リクルーターとの面談を経て、会社説明会からの採用ステップが始まる「人肌あわせ」型採用だった。

しかし、ネットによる大量エントリー時代になると「人肌あわせ」がなくなり、就職上位200社総なめ応募といった「モンスターアプリカント」が出現しているという。

昔は指定校制度というのがあった。一流企業ではMARCHあたりが多かったと思う。一万人も志望者がいて、指定校制度がなければ、はじめは機械的に落とすしかないだろう。


アメリカ型キャリアが良いですか?

海老原さんはアメリカ型キャリア礼賛を切って捨てている。アメリカ型だと次の質問のようになる。

★あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?
★あなたは、一つの仕事が肌にあわないと、辞めるしかない国がいいですか?
★あなたは、社内の4人に一人が、退職準備をしている国がいいですか?
★あなたは、社長や役員を外から採用する国でいいですか?
★あなたは、名門校のMBAがないと社内でのし上がれない国がいいですか?

アメリカ礼賛という「箱モノ」=職務主義と、今の日本の社員キャリアディベロプメント制度をよく比較して欲しいという。

最初の質問の「あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?」にまつわる話は、筆者にも経験がある。

最初にアメリカに駐在した時に、会社がパフォーマンスレビュー制度を導入することになった。そのときの部下面接のマニュアルで、経理部の部下が「MBA取ったのでマネージャーにして欲しい」と言ってきた時にどう対処するかという模擬設問もあった。

そのときの答えは、たしか「やっている仕事が同じならば、待遇は変わらない」と拒絶する。

ただ「今やっている仕事でMBA資格を生かして、能力を発揮すれば評価は上がり、昇進の道も開けるよ」とフォローするという様なものだったと思う。

統計を使ったアメリカの大学生の就職活動についての話も参考になる。アメリカも日本も大学生の就職についてはあまり変わらないのだと。


福島社民党党首の話

「アンチ箱モノ行政の社民党福島党首が箱モノ雇用論に終始する矛盾」というのも面白い。

海老原さんは14年ほど前に弁護士時代の福島さんにインタビューした経験があるが、男女別姓議論のなかで「お墓はどうするのか」といった現実論を聞いたら、「ディテールを今考えるのはおかしい」と言われて失望したという。

その福島さんが社民党党首として次をスローガンで掲げている。

★年収200万円以下のワーキングプアーが1022万人もいる!
★全国一律自給1000円以上に最低賃金法を改正すべき!
★同一価値労働同一賃金を徹底し、派遣労働者にも正社員並待遇を!

海老原さんは、このような耳障りだけ良いが、中身は空虚なものを「箱モノ雇用」と呼んでいるという。その理由は次の通りだ。

ワーキングプアーの正体は働く主婦(と高校生・大学生のバイト、年金をもらいながら働いている老齢者、個人事業者の家族専従者)だという。

ワーキングプアは641万人という厚生労働省発表があったので、紹介しておく。

最低賃金法改正は弱者切り捨てだ。最低賃金も払えない企業は、廃業するしか他に道がなくなるからだ。

同一価値労働同一賃金も、司法判断で正社員は監督責任があることと、転勤を拒否できないので、2割程度の差は容認されている。実際には企業は正社員と非正規雇用者とは仕事の内容を分けて、こういった議論が起きないようにしているという。


「手に職をつける」は誤解

「手に職をつけるための自己啓発が有効」という一般常識にも警鐘を鳴らす。むしろ「資格や語学を身につけても、キャリアにとってはそれほどプラスになることはない。逆にマイナスになることも少なくない」と語る。

たとえばSE(システムエンジニア)やウェブデザイナーだ。20代後半以降であれば、企業はたとえ学校に行って資格を取ってきても、未経験者は採用しない。SEやウェブデザイナー不足の現在でもこれは変わらない。

SEやウェブデザイナーは重労働で忍耐力が必要で、嫌な仕事も引き受け、クライアントの罵声にも耐え、同僚が脱落してもその穴を埋めるチームワーク良く働けることが必要だからだ。

資格や専門知識より経験が生きるのだ。

資格専門知識VS実務能力







出典:本書124ページ

IT企業の現場を経験した筆者には、この話はなるほどと納得できる。筆者はシステム関係の責任者だったことがあり、この時会社生活で初めて完徹(完全徹夜)をしたことがある。

ちょうど新システムスタート直前で、人手が足らずに、初級シスアド資格がある筆者も、商品データをひたすらインプットする作業を手伝ったのだ。

新システムスタート日は決まっており、まさに時間との闘いで、システムとマーケティング関係者の多くが完徹し、「人柱」状態だったが、このようなことがシステム開発ではありうるのだ。

SEやウェブデザイナーの資格を取ったら、面接では今までの仕事で、完徹のようながんばりを見せたことを強調すると面接で良い結果が出ると思う。これは筆者の私見だ。


英語で食っていくとしたらTOECI900点以上が必要

英語力も、外資系アドミはTOEIC900点以上、通関士は定型業務なので派遣で採用することが多いという。ちょっとぐらい英語ができるだけではダメなのだ。

英語で、丁々発止、外国人と交渉できるくらいの英語力がないと英語が出来るとはいえない。


成果主義の本当の意義

成果主義という箱モノの最大の効果は、給与は上がるものというそれまでの考えを、給与は上がったり下がったりするものと変えたことだという。これが人事制度変更の本当の意味だ。

これも正しい指摘だと思う。たしかに昔はボーナスは別として、給料は上がることしか考えられなかったが、今は業績次第で上がり下がりがあるという考え方が定着している。


キャリアは才能なんかじゃ決まらない

最後の「キャリアは才能なんかじゃ決まらない」も面白い。

人材育成の専門家の立場から、リーダーシップ論の変遷を論じている。

1950年代まで : 個性、能力、人格、知能などの個人の持って生まれたものを研究対象としていた。

1950年代 : 「グレートマンズ・セオリーの破綻」=持って生まれたものでなく、行動や価値観、マネージメントスタイルに注目し、特に「達成動機の高い人」を選抜すればグレートマンが多く誕生するという考えが広まる。

「達成動機の高い人」の見分け方の一例が、ロールシャッハテストだという。あのわけのわからないテストの目的が、「達成動機」だったとは初めて知った。

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出典:Wikipedia(以下同じ)

しかし「達成動機の高い人」を大量に採用しても、多くは脱落していったという。

そして、2000年前後に登場した説が、リーダーに種はない、特性が共通しているのではなく、経験が共通しているのだというマッコールが「ハイ・フライヤー」で主張した説だ。

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法
著者:モーガン マッコール
販売元:プレジデント社
発売日:2002-01
おすすめ度:4.0
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「ハイ・フライヤー」も読んだので、今度あらすじを紹介する。


江副さんの名言

海老原さんはリクルートの江副さんの言葉として次を紹介している。

「10代、20代で名を残す名アーティスト、名選手は多い。しかし、10代、20代で名を馳せた経営者はいない」

当たり前のことではあるが、この言葉の意味は深い。

マッコールは「マトリョーシカモデルの崩壊」と呼んでいる。つまりマトリョーシカの様に、リーダーは初めからリーダーとしての素質を持っているのではなく、リーダーは経験を通して育つものなのだ。だから誰でもリーダーになれる。

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海老原さんが直接取材した時に、マッコールはリーダーシップを獲得する条件として次を説明していたという。

1.経験に飛び込んでいく勇気がある人は、成長が早い。
2.経験から物事を学ぶ姿勢が出来ている人は、成長が早い。

それだけでは、当たり前ではないかと海老原さんが食い下がると、マッコールは次を個人的信条として付け加えたという。

3.失敗や間違いを認められる謙虚な姿勢が必要。


ビジネスパーソン勝利の法則

たとえば営業に配属され、内向的な性格のせいで最初のうちは同期に差を付けられても、やがてはその内向性を生かした分析力を生かした提案型営業として成功する可能性がある。

だから弱気、人見知り、くよくよ気にするという性格でも、反省・熟慮・進歩を経て、情報収集・分析・企画力を生かして実績をつくれば、提案型営業ができる。

内向きな性格を、経験と工夫でカバーして、営業のエースになれるのだ。

コンピテンシーと適性の違い






出典:本書153ページ

昔のイチローのニッサンのコマーシャルではないが、「変わらなきゃ」が出来る人は、どんどん自分を変えていけるのだ。


課長になればリストラされない

中間管理職は転職はできないが、課長になればリストラされることは多分ない。

海老原さんの結論は、「30歳を過ぎているあなたは、目の前の階段をゆっくり上っていくだけで、いいんです。むやみに横道にそれるのは、百害あって一利なしです。とりわけ、日本はその傾向が強いですよ。」ということだ。

そして年代別に次の能力を身につけていくのだ。

キャリアを考える上で大切なこと





出典:本書160ページ

最後に筆者も好きなアップルのスティーブ・ジョッブスのスタンフォードでの卒業式スピーチを引用して、夢を求め続けること、そして目の前のことを真剣に毎日やることを勧めている。



ジョッブスのスピーチの日本語訳と日本語字幕のビデオが載っているブログを見つけたので、日本語版は参照してほしい。

結論は「目の前の仕事を真剣に取り組め」、つまり「一所懸命」という当たり前なことだ。

たとえば三木谷さんも「成功のコンセプト」で同じ事を言っている。

成功のコンセプト (幻冬舎文庫)成功のコンセプト (幻冬舎文庫)
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2009-12
おすすめ度:4.5
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三木谷さんは、興銀(現みずほコーポレート銀行)に入社し、最初は外国為替部というルーティンワークの典型のような職場に配属された。しかしクサらず、一所懸命仕事をこなし、効率を上げる努力をしたことが評価され、MBA留学生に選ばれ、ハーバードで学んだ。


奇抜なタイトルだし、書きっぷりも軽妙だが、内容は濃い。

なぜ今の仕事に真剣に取り組むことが社内での昇進に繋がるのか、なぜ社内調整役割が日本の会社でのキャリアーディベロプメントで重要なのかよくわかる。

30代といわず、20代の社員にも自分の会社でのキャリアディベロプメントの道筋を客観的に見るという意味で、お薦めしたい本だ。


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Posted by yaori at 00:02│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 成功哲学

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