2010年09月30日

プーチンと柔道の心 プーチン首相が書いた柔道の手引き

プーチンと柔道の心プーチンと柔道の心
著者:V・プーチン
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-05-07
おすすめ度:4.0
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ロシアのプーチン首相が友人2人と書いた柔道の手引き書。

山下泰裕さんと元NHKモスクワ支局長の小林和男さんが編集している。

山下さんの本の中でもプーチンとの交流はたびたび紹介されている。この本では、他の本では断片的に紹介されている山下さんのプーチンとの交流を、「『柔』の人、プーチン」という一文にまとめている。


ロシア大統領公邸の柔道場

プーチンの大統領公邸にある柔道場の写真も興味深い。

山下さんの本を読んで知っていたが、プーチンは柔道の創始者嘉納治五郎の座像を道場に置いている。この像は、ロシアの彫刻家の作品だという。

柔道場の更衣室には温水プールがあり、プーチンは毎日1000メートルは泳ぐようにしているのだという。

プーチン2






出典:本書70ページ


柔道着で講道館訪問

次はプーチンが大統領時代に訪日して講道館を訪れたときの写真だ。超多忙なスケジュールの合間に柔道着姿に着替えて講道館を訪問したプーチンに当時の森首相他は驚かされたという。

巴投げの模範練習まで見せている。

プーチン1












出典:本書13ページ


小林さんの制作したNHKの番組の中で、プーチンはこう言っている。

「柔道は私にとって単なるスポーツではない。哲学である。最初は、柔道で使う言葉も分からなかったし、相手の力を利用するという考え方も分からなかった。だが、懸命に稽古に励むうちに、日本語が理解できるようになり、相手の力を利用するということも、よく理解できるようになった。

柔道を通して学んだことは今の私の政治にも生きている。柔道を通じて、自分は今、日本文化というものに非常に関心を持っている」

山下さんが驚かされたのは、上記の写真の2000年に森喜朗首相との首脳会議のために来日した時の講道館でのスピーチだったという。

「講道館に来ると、まるでわが家に帰ったような安らぎを覚えるのは、きっと私だけではないでしょう。世界中の柔道家にとって、講道館は第二の故郷だからです。

私は今日、ゲストという形になっていますが、実はゲストではない。私と皆さんとは、同じ柔道の仲間です。だが、今、私の隣に座っている森さんはラグビーがお好きらしい。ということは、森さんこそが我々のゲストです。

日本の柔道が世界の柔道へと発展していくのはたいへん素晴らしいことですが、われわれにはもっと注目すべきことがあります。それは、日本人の心や考え方、そして文化が柔道を通じて世界に広まっていくことです」

日本の柔道家が言うならともかく、ロシアの大統領がここまで柔道の果たすべき役割を深く理解していることに山下さんは感銘を受けたと。


六段の赤白帯を辞退

プーチンは嘉納講道館長から贈られた六段の赤白帯を辞退する。日本人が一瞬何で?と思った瞬間、プーチンは次のように語った。

「私も柔道家です。この六段の重みはよく分かっています。私はまだこの帯を締められる立場にありません。ロシアに帰って、さらに稽古に励み、一日も早くこの帯を締められるようになりたい」

この瞬間、柔道関係者から拍手が巻き起こったという。

やはり政治家として大成する人はすごい。言葉を通じて、相手の心をつかむ術を知っていると、山下さんは舌を巻いたという。


テロで傷ついた北オセチアの中学生を日本に招待

2004年に日本で中学生国際柔道大会を開催したとき、山下さんはロシアからはサンクトペテルブルクと、テロ被害があった北オセチアのベスランから子どもを招待した。翌年プーチンが来日したときに、「ベスランからの子ども達を励ましてくれてありがとう」とお礼を言ったという。

山下さんはプーチンが、そんな小さな事まで知っていることに驚かされたという。


プーチンの柔道ビデオ

2005年にプーチンは山下さんを招き、サンクトペテルブルクで柔道教室を開催してビデオを撮った。これには当時の日本チャンピオンの井上康生も参加している。そのビデオがこれだ。



北方領土問題以外に日ロ間で問題はない

その時にプーチンが言っていた言葉を山下さんは忘れることはできないと。

「日本とロシアのあいだには、前々から難しい問題があります。でも、これ以外には問題はありません。これ以外の問題をつくろうという気持ちも全くありません。だから何も心配しないでください。安心してください。両国が知恵をしぼってこの問題が解決できたら、日ロのあいだには問題が何も存在しなくなります。さあ、乾杯しましょう」

その後、2008年に山下さんは幻のモスクワオリンピックの日本代表チームメンバーでロシアを訪問し、柔道の指導者講習会を開催した。プーチンは首相になったばかりにもかかわらず、その時も首相迎賓館で食事会を開いた。

このときの様子は山下さんの柔道教育ソリダリティというサイトで公開されている。

柔道教育ソリダリティ





プーチンは山下さんが、2016年東京オリンピック招致大使ということを知って、「ロシアも応援しますから頑張ってください。われわれはノウハウを持っているので、協力できることがあったら協力しますよ」と言ってくれたという。


プーチンの権力掌握術

元NHKモスクワ支局長の小林さんの一文は「謎に包まれたプーチン」という題だ。プーチンは1999年エリツィンに首相に突然抜擢された。年末にはエリツィンの辞任で大統領代行となり、翌年正式に大統領となった。KGB出身の47歳の大統領の誕生だ。

プーチンは代行就任早々、「エリツィン前大統領とその家族は生涯にわたって安全が保障される」という大統領令にサインした。まずエリツィンの安全は保障しておいて、エリツィン一家と組んだとりまきの利権財閥を次々に摘発していった。ベレゾフスキーグシンスキーホドルコフスキーなどが次々に海外に逃亡した。


プーチンと柔道

プーチンは1952年サンクトペテルブルク生まれ。小さい頃はいわば不良で、ほとんど通りでたむろしていたという。小柄だったから、ケンカに強くなりたくてボクシングやレスリングをしたり、12歳からサンボを習い、1964年からオリンピック種目になっていた柔道に転科した。

この本でもインタビューが取り上げられているセンセイのアナトリー・ラフリンの教えで、柔道の精神を身につけ、名門のサンクトペテルブルク大学法学部に進学する。

プーチンは、柔道のない人生は今は考えられないと語る。

1976年にサンクトペテルブルクの大会で優勝する。すでにKGBの将校となっていたので、その後ドイツなどの海外駐在も経験し、それ以降は柔道では目立った成績を挙げることはなかった。

しかしサンクトペテルブルク副市長の時に、日本の総領事の斡旋で1994年頃に日本を10日間訪問し、姉妹都市の大阪や京都、東京を訪問し、このときに初めて講道館を訪れ、稽古を上から見学した。

その時子どもたちの稽古に70歳くらいの老人2人が加わり、一緒に乱取りで稽古を付けていたことを見て驚いたという。その時、柔道は一生続けることができるし、また続けなければならないと思ったという。


「プーチンと学ぶ柔道」

「プーチンと学ぶ柔道」は2002年に出版された柔道の手引き書で、最初に柔道の歴史の解説がある。柔術の起源から、嘉納治五郎の柔道の創設まで興味深い読み物になっている。

元々手引き書なので、この本にはイラスト入りで柔道の様々な技が紹介され、技を掛ける時のコツも紹介されている。トレーニング法も専門的で、この本を読んだ東海大学のトレーニングの専門家はロシアのトレーニングの秘密をここまで公開していいのかと思ったと語っている。

イラスト入りの技の説明で特徴的なのは、技を細切れにせず、連続技として解説していることだ。これには山下さんが感心している。

山下さんは技が決まった段階で動きを止めて、逆に返し技で一本を取られてしまった井上康生、鈴木桂治らの日本選手の油断に警鐘を鳴らしてきた。

武術では投げられることも関節技をはずす等の防御の一つであり、投げられたら、投げられた相手の力を利用して投げ返すというのが本来の武術である。

だから山下さんは投げたら固め技につなげていったという。その基本の流れ技がこの本には取り上げられている。

柔道の心得がない人にも面白く読めるプーチン版柔道入門書である。


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Posted by yaori at 00:40│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | スポーツ

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