2010年11月08日

オシムの言葉 川渕Jリーグ元チェアマンが感動した本

オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見えるオシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える
著者:木村 元彦
販売元:集英社インターナショナル
発売日:2005-12-05
おすすめ度:4.5
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元日本代表監督、イビツァ・オシムのボスニア内戦を中心とした伝記。以前紹介した明石さんの本や、「戦争広告代理店」と一緒にボスニア紛争を知るために読んでみた。

ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)
著者:高木 徹
講談社(2005-06-15)
販売元:Amazon.co.jp
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元Jリーグチェアマンの川渕三郎さんがこの本を読んでオシムに惚れ込み、オシムを日本代表監督に推薦したことが思い出される。

この本は旧ユーゴに関する本を何冊も書いているジャーナリスト木村元彦さんによるもの。

終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ (集英社新書)終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ (集英社新書)
著者:木村 元彦
集英社(2005-06-17)
販売元:Amazon.co.jp
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オシム自身が書いたものではない。オシム自身の本は、「恐れるな」、とか「考えよ」とかがある。

恐れるな!  なぜ日本はベスト16で終わったのか? (角川oneテーマ21 A 126)恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか? (角川oneテーマ21 A 126)
著者:イビチャ・オシム
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2010-10-09
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最初に現名古屋グランパス監督">ドラガン・ストイコビッチの推薦文が載せられている。「イビツァ・オシムは、私のキャリアの中でも最高の指導者のひとりだった」。

オシムは南アフリカワールドカップに向けた日本代表監督在任中に脳梗塞で倒れ、生死の境をさまよい、それがため日本代表監督には復帰できず、岡田武史監督に代わった。先日のザッケローニ監督の初戦でアルゼンチンに勝利したこともあり、もはやオシムは過去の人という感じもあるが、新聞のコラムなどに書いている日本代表の試合についてのコメントは、するどいものがある。


オシムのエピソード

この本ではオシムの性格がわかるエピソードを多く紹介している。

★ジェフ市原の監督に就任したときに、クラブハウスを最初に訪れたときに就任スピーチなどはいらないと拒否して、選手一人一人のテーブルをコツコツと2回叩いて回った。なぜこれをしたのかは後述する。

★いきなり練習量を増やし、午前と午後2時間ずつの練習。休日は事前には知らされず、前日になって知らされる。フルコートで3対3のミニゲーム、しかもワンタッチでボールを出さないとオシムは激怒した。

★オシムがまっさきにキャプテンに指名したのは、21歳の阿部勇樹だった。


オシムの生い立ち

オシムは1941年サラエボ生まれ。サラエボはセルビア人、クロアチア人、ムスリムの3民族の融和する町だった。13歳でプロチームのジェレズニチャルに参加する。

チームから奨学金を貰ってサラエボ大学では数学を学び、大学から教職員として大学院進学を勧められるが、経済的な理由で断る。

オシムの現役時代は長身(191センチ)のフォワードだった。ドリブルをさせると、ボールを持ちすぎる傾向があったという。


日本との出会い

1964年の東京オリンピックの時に来日し、日本との試合で2ゴールを決めている。このときにカラーテレビを見て驚き、外国人をもてなしてくれるホスピタリティに感動し、日本びいきになったという。

オシムは1970年にフランスのストラスブールに移籍し、8年間フランスリーグのいくつかのチームでプレーして、最後はストラスブールで1978年に引退し、ユーゴに帰国する。


監督としてのキャリア

古巣のジェレズニチャルの監督になり、ユーゴ代表のコーチにも招かれる。1984年のロスアンジェルスオリンピックでは3位になり銅メダルを獲得する。

その時に見いだしたのが">ドラガン・ストイコビッチだ。選手に対する心理的マネージメントと相手チームの分析能力はチームの大きな武器になったという。

1986年にはユーゴ代表監督に就任する。その後ユーゴは分割されるので、最後のユーゴ代表監督となった。この時代のユーゴには世界的なタレントが揃っていた。

多民族国家なので、各民族から一定数を代表に入れ、開催地出身の選手中心にセレクションを行うという不文律があったのを、オシムは無視する。1990年のイタリアワールドカップに向けてオシムは急ピッチで世代交代を図っていた。

チームはスコットランド、フランス、ノルウェー、キプロスという強豪揃いの組のワールドカップ予選を無敗で突破する。

1990年のワールドカップ本戦は、初戦でドイツに1:4で負ける。誰を使えという外圧にその通りやるとどうなるかを見せるためにわざと負けた感がある負け方だ。

その後コロンビア、UAEに勝ち、決勝トーナメント進出。緒戦のスペイン戦では、ストイコビッチの活躍で勝ち、マラドーナ率いるアルゼンチンと対戦して引き分け、PK戦で敗退する。ストイコビッチが外し、マラドーナが止められた歴史に残るPK戦はオシムは見ていないという。監督としての仕事は終わったとして、ロッカールームに引き上げていたからだ。

ワールドカップ後、パルチザン・ベオグラードの監督に就任する。ユーゴ代表監督も兼任するが、このときユーゴ連邦が崩壊し、世界最強チームが戦う前にバラバラになるという経験をする。1990年から1991年の間に国際試合はほとんど勝つが、国はどんどん崩壊していった。


サラエボ包囲戦勃発

1992年3月のオランダ代表との0:2で負けた試合がオシム最後の試合となった。直後にボスニアで内戦が始まったからだ。

1992年4月にサラエボの自宅からオシムと次男がベオグラードに行った直後に、サラエボはセルビア人勢力に包囲され、爆撃が始まった。セルビア軍の戦車260両、迫撃砲120門が町を取り囲んでいた。

これが1395日にわたって続けられるサラエボ包囲戦の始まりだった。

オシムはユーゴ代表のユーロ参加には同行せず、ギリシャのパナシナイコスの監督に就任した。ちなみにユーゴ代表はスウェーデンから強制帰国させられ、ユーロ1992には参加できなかった。

サラエボに残る妻のアンナとはアマチュア無線の交信で連絡を取り合う日々が続き、パラシナイコスのオーナーがギリシャ軍のヘリコプターでアンナを脱出させることを提案するが、アンナは自分だけが特別待遇を受けるわけにはいかないと拒否する。

オシムは一年でパナシナイコスをギリシャカップで優勝させた。翌年はオーストリアのシュトルム・グラーツの監督に就任する。

旧ユーゴ、サラエボと連絡が取りやすいからというのがグラーツを選んだ理由だ。ちなみにグラーツはアーノルド・シュワルツネッガーの出身地でもあり、スタジアムは彼の名前が冠してあるという。

レアルバイエルンなどのビッグクラブからのオファーもあったが、オシム自身ビッグクラブ向けの人間ではないとして断る。ビッグクラブは人気のある選手を外すと、監督のクビが飛ぶ。監督としての仕事ができないからだと。

だからレアルはスペインでもヨーロッパでもチャンピオンになれないだろうとオシムは言う。それは当たっているが、監督も選手以上に人気がある今年のモウリーニョ監督の場合はどうなるのか見ものだ。

オシムは弱小クラブのグラーツを3年でオーストリアリーグ優勝にまで持って行く。
後にグランパスに入団するイビツァ・ヴァスティッチがオシムを慕ってグラーツに入団する。

やがて毎日8人ずつ脱出できるリストにアンナが載り、包囲から2年半後にオシムと再会する。


ジェフ千葉監督就任

オシムはオーストリアで8年間監督した後、イタリアワールドカップで顔見知りになった祖母井(うばがい)GMの、代理人を通さない直接の交渉で心を動かされ、ジェフの監督就任を承諾する。

祖母井さんが訪ねた時、すでにジェフの全選手の名前と顔はインプットされていたという。「余計な挨拶はいらない。選手にはケガをしないよう、祖国に伝わる厄よけのノックをしてやろう」ということで、冒頭の場面となる。

この本の著者の木村さんは内戦の終わったサラエボを訪問して、依然として残る民族間の反感や、サラエボオリンピックの時のスタジアムが今や墓地となっている場所の写真を載せている。

オシム






出典:本書133ページ


オシムがジェフの監督になって、2004年にリアルとの親善試合が組まれた。リアルは銀河系軍団のオッファーを袖にした監督が作り上げたチームを見たいという理由でマッチメイクされたものだ。

この本では現役生活を海外で過ごしたサッカー選手だったオシムのセルボ・クロアチア語の通訳の話や、オシムが監督となって躍進したジェフの戦歴が紹介されている。

もちろん日本代表監督就任前だから、日本代表の話はない。2005年ナビスコカップでのジェフの優勝で終わっている。


ボスニア紛争関係の本として読んだが、オシムの人柄がわかり面白い本だった。川渕元Jリーグチェアマンが読んで、オシムに惚れ込み、日本代表監督に推薦したという理由が理解できる。

オシム自身の本も上記の「恐れるな」とか、「考えよ」とかがあるので、今後読んでみる。

考えよ! ――なぜ日本人はリスクを冒さないのか? (角川oneテーマ21 A 114)考えよ! ――なぜ日本人はリスクを冒さないのか? (角川oneテーマ21 A 114)
著者:イビチャ・オシム
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2010-04-10
おすすめ度:4.0
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Posted by yaori at 01:38│Comments(0)TrackBack(0) 自叙伝・人物伝 | スポーツ

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