2010年10月03日

ビジネスリーダーにITがマネジメントできるのか IT担当役員小説

ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか -あるITリーダーの冒険ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか -あるITリーダーの冒険
著者:Robert D. Austin
販売元:日経BP出版センター
発売日:2010-03-18
おすすめ度:5.0
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この本はハーバード・ビジネススクールのロバート・オースティン教授、リチャード・ノーラン名誉教授他の書いたハーバード・ビジネススクールなどで使われる教科書兼小説である。

オースティン教授はハーバード・ビジネススクールの教授になる前は、某国際企業でITマネージャーをした経験があるという。

500ページ強の本だが、内容は比較的簡単だ。

ある中堅のファイナンシャルサービス企業IVK社は急成長を遂げていたが、この数年は成長が止まっている。その立て直しのために外部から雇われた新しいCEOカール・ウィリアムがいままでローン部門の責任者だった30代の主人公バートンをCIOに起用する。

バートンは今までIT部門には余計な投資をするなと釘を刺し、実際にいくつかのIT投資を断念させた経緯があり、この異動に驚くとともに、自分が適任なのか真剣に悩む。

幸い彼のガールフレンドのマギーは経営コンサルタントの仕事をしているので、彼女のアドバイスも受けながら、バートンは慣れないCIOの仕事に乗り出す。

彼の前任のデイビスは既に解雇されていたので、前任者からの引き継ぎはなかった。デイビスは当初バートンは1年も持たないだろうと冷たくあしらったが、次第にバートンの熱意にほだされ、友達ベースでアドバイスをするようになる。

バートンはバーで正体不明のITオタクのキッドと知り合い「あなたが知らないことがなにかをあなたは知っている」という不思議な言葉を投げかけられる。

バートンの部下はバートンより20歳も年上のテクニカル・サポートグループのルーベン、それから顧客サポートと回収システムのラジ・ジュパニ、ローンオペレーションのタイラ・ゴードン、インフラのポール・フェントンという布陣だ。

最初にバートンはITマネージャーは最新の技術をすべて知り尽くしている訳ではなく、部下の専門家に頼っている実情を知る。たとえばセキュリティは変わり者のジョン・チョーに聞くしかないという具合だ。

バートンはすぐにIT部門は自分の予算を持っておらず、費用は他の部門に付け替える形で運営されていることを知る。責任があいまいなので、プロジェクトがスコープ・クリープ(プロジェクトの範囲が当初のものからずるずると変化すること)を起こし、どのプロジェクトも予定通り完成していないのだ。

バートンは大学時代の授業で使ったプロジェクトマネージメントの本を引っ張り出し、ガントチャート、リソーススケジューリングなどを使って全プロジェクトを見直す。その段階で、バートンはIVK社は、自社ソフトを開発するのではなく、できあいのソフトをカスタマイズして使っているのがほとんどだと知る。

バートンは全体を見直した上で、IVK社の資産がウィンドウズ系なのに、オープンシステムを押しつけようとしている既存のコントラクターを切り、3社の評価の異なるベンダーから最適ベンダーを選定し直す。

バートンは次第に力量を発揮し、社外取締役のカッラーロから見込まれるようになる。そうするとCEOのウィリアムは彼らの結びつきを警戒するようになる。バートンが次期COO候補になっているので、ウィリアムは自らの対抗馬となりうることを警戒しているのだ。

そうこうしているうちに突如システムがダウンし、DoS攻撃による侵入が疑われる事態が発生する。事態を発表するものと全員が考えていると、CEOのウィリアムは独断で発表はしないことを決断する。これはCEOが決めることだとして、反対する法務担当役員とローン担当役員をその場でクビ切る。

結局侵入はあったのかなかったのか不明なままに終わった。ウィリアムの判断が結果的には正しかったのだ。

その他、社員の自分のブログによる内部情報リークなども、WEB2.0時代のリスクとして紹介されている。

最後はいかにもアメリカ風の終わり方だが、小説のあらすじは詳しく紹介しない主義なので、あえて触れないでおこう。


筆者は文系ながら、某インターネット企業のシステム責任者=CIOのポジションにいたので、自らの体験を追体験したような気がする。

この本で取り上げられている話は、現実にあることばかりだ。

文系出身者がシステム責任者になると、元からいるエンジニア達は、ジャーゴンや専門用語をことさら使って、話を難しくしてケムにまく傾向がある。

そこで「なにくそっ」と発奮して自分でもIT技術を学び、話が理解できるレベルにまで自分で努力しないと、文系CIOは単にハンコを押すだけの置物になる。

そして部下のシステム部長などのいいなりになって、結果的に過剰な設備投資をしてしまうのがオチだ。

この本のバートンの努力がよくわかる。筆者も発奮して勉強したので、理系大学生や高専卒レベルの初級シスアド資格が取れるまでになった。

一時は会社の会員DBを、自分でSQLをたたいてCRM分析していたものだ。

この本のようにシステムダウンもあったし、外部アタックのリスクは常にあり、ハード面、ソフト面でのセキュリティ対策は欠かせない。システム発注とエンジニアのマネージメントは本当に難しいと今でも感じている。


小説なので楽しく実際のCIOの仕事内容が理解できる。システム関係の仕事に興味がある人にはおすすめの本である。


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Posted by yaori at 04:03│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | インターネット

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