2010年12月08日

フレンチ・パラドックス なぜ「大きな政府」なのにあの国はうまくいっているのか

フレンチ・パラドックスフレンチ・パラドックス
著者:榊原 英資
販売元:文藝春秋
発売日:2010-06-11
おすすめ度:4.5
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かつて「ミスター円」と呼ばれた元大蔵省財務官で、現在は青山学院大学教授の榊原英資(えいすけ)さんの最新刊。

フレンチ・パラドックス表紙












表紙の帯には榊原さんの写真とキャッチコピーが載っている。”なぜ「大きな政府」なのに、あの国は、うまくいっているのか?”

榊原さんの著書はこのブログでも紹介している。民主党の政策検討のブレーン的な役割を果たしてきた。

英国ではサッチャー首相、米国ではレーガン大統領、日本では小泉政権が「小さい政府」を標榜し、民営化政策を進めてきた。しかし最近は北欧型の大きな政府にすべきと主張するグループも台頭してきている。


フレンチ・パラドックス

榊原さんも北欧型の「大きな政府」派だが、手本にすべきはフランスだと主張する。

フレンチ・パラドックスとは、一般的にはフランス人はバターや肉などをたくさん食べるのに心臓病が少ないというパラドックスのことを言い、フランス人がよく飲む赤ワインのポリフェノールがコレステロールを下げる働きをしていることが原因と言われている。


日本はすでに小さい政府

榊原さんは、日本は既に諸外国に比べると「小さい政府」だと指摘する。

国民負担率












出典:本書17ページ

2001年4月に成立した小泉政権は「聖域なき構造改革」を標榜し、郵貯民営化など、様々な民営化を推進するとともに、従来禁止されていた製造業への労働者派遣を解禁した。

雇用が正規雇用と非正規雇用に二分化し、格差が拡大、アジア諸国へアウトソーシングされ、先進国では雇用が減少している。グローバリゼーションの流れは止まらず、デフレも続くだろう。


フランスの少子化対策

フランスの少子化対策は100年の歴史がある。

フランスの人口は18世紀末にはイギリスの3倍だったが、1900年にはフランス3800万人、ドイツ5600万人、イギリス3200万人と、イギリスに近づかれ、ドイツに大きな差を付けられた。1916年には出生率は1.23まで低下した。

このため1932年に家族手当を制度化し、教育支援や女性の労働環境を整備する等の様々な政策を打ち出した。

現在は専業主婦比率は2割を切っており、ほとんどが共稼ぎ家庭だ。子ども手当は14歳以上は年齢加算もある。産休(16週間)、育児休暇制度、補足手当、出生手当、3歳未満の子ども加算などがある。

もちろん託児システムの完備も見逃せない。3ヶ月から3歳までの子どもを預かる公共の託児所がある他、私立の託児所もある。

3歳から5歳までは無料の公立幼稚園があり、空きがあれば2歳から預けることは可能だ。給食も支給され、延長保育もある。幼稚園が休みの時や不定期に預かって欲しい時は、臨時託児所も完備している。

フランスで子ども二人を育てる家族は、成人するまで3万9千ユーロ(500万円)の家族手当の支給が受けられるという。

フランスの特徴は婚外子が多いことだ。フランスの場合、事実婚が多く、2008年には婚外子が52%だ(日本は婚外子は2%)。しかしフランスでは嫡出子と非嫡出子との法的な差別はない。


大学まで教育は無料

幼稚園を終えると義務教育が始まり、6歳から16歳までが義務教育だ。授業料は無料で、私立の場合でも国からの補助があるので、年間10万円程度に抑えられている。学童保育施設もあり、放課後に子どもを預かってくれる。収入が少なければ無料だ。

義務教育は6歳が準備学級、7歳から4年間小学校、中学校が4年、2年間が高校、その後は職業訓練を受ける人と、バカロレアという大学入学資格試験を受験して大学に進学する人と分かれる。

大学は9割が国立で、授業料は無料だ。グラン・ゼコールという高等教育機関は国家公務員待遇となり、給与が支給される。


フランス型を目ざす政策

榊原さんが提唱するフランス型社会を目ざす政策は次の3つだ。

1.格差を縮小し、出生率を増やすための、現役世代向けの社会保障政策
2.日本の国際競争力を高めていくための教育政策
3.次の成長分野を日本が先導していくための産業政策

そしてその財源は国債発行を充てるという。

日本政府の財政赤字はGDPの9.3%、赤字の累積額はGDPの約2倍と先進国の中ではダントツで悪いが、日本国債の94%が国内で保有されている。

ムーディーズも日本国債の格付けをAa3からAa2も引き上げており、発行利回りが先進国の国債の中でも最低レベルの1.3%なのに売れ残ることはない。

地方を入れて、国公債発行残高が900兆円とすると、国民の資産が1、400兆円あるので、まだ500兆円ほどの資産増加であり、国債の発行余地はあるという。

ちなみに今度紹介する経営共創基盤CEOの冨山さんはまったく違うことを言っている。

榊原さんは国民資産はまだ国債発行の余裕があると語り、冨山さんは100兆円の蓄えしかないという。最大の違いは冨山さんは国民負債(300兆円)を国民金融資産(1400兆円)から減じていることだ。
カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書
著者:冨山 和彦
朝日新聞出版(2010-08-20)
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冨山さんの指摘は斬新だったので、筆者も平成20年度国民経済計算統計を調べてみた。

一般に言われる国民の金融資産1,400兆円は、負債を引いていないグロスの資産で、ネットの試算だと1、000兆円であることがわかった。

一方政府の負債は970兆円だが、資産を差し引くとネットの負債は500兆円だ。

だから結論としては榊原さんの議論は正しいことになる。つまりネット同士の比較だと、政府のネット負債は500兆円、民間のネット資産は1、000兆円。榊原さんの言うように理論的には国内で500兆円の国債引き受け余地はある。

もっとも国民が資産500兆円をすべて国債に使うとは思えないので、あくまで机上の議論ではあるが、政府がどんどん国債依存高を高めているのは、こういった背景があるからだ。

日本の資産総括表負債残高総括エクセル表のリンクを入れておくので、一度自分でもチェックすることをおすすめする。

閑話休題。


政府は何をなすべきか

榊原さんは政府がなすべき政策として次のようなものを挙げている。

1.景気刺激策
  マニフェスト通り、ガソリン暫定税率を撤廃。

2.マネのできない技術力の高い製品をつくること。

3.医療・観光・教育サービスを充実

4.英語を公用語に
  日本の最大の弱みは語学力である。日本マーケットはそこそこ大きいので、翻訳マーケットも見込める。

ちなみに前出の冨山さんは、英語についても全国民のレベルを上げるのではなく、一流大学を中心にトップレベルの英語力を上げるべきだと主張する。

5.道州制は非現実的なので、廃県置藩で地方分権を


たぶん批評家から言わせれば、「フランスでは」という榊原さんは「出羽の守(ではの守)」なのだろうが、フランスの教育や育児支援制度は日本でも参考になると思う。

具体的な政策提言はやや弱い気もするが、少子化対策の先進国、フランスに着目して日本のことを考えるのも有益と思う。

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Posted by yaori at 13:18│Comments(0) 榊原英資 | 経済