2010年11月15日

ゲーム理論で不幸な未来が変わる! 的中率90%という未来予測モデル

ゲーム理論で不幸な未来が変わる!―21世紀のノストラダムスがついに明かした破綻脱出プログラムゲーム理論で不幸な未来が変わる!―21世紀のノストラダムスがついに明かした破綻脱出プログラム
著者:ブルース・ブエノ・デ メスキータ
販売元:徳間書店
発売日:2010-05
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昔の同僚のMonotaRO瀬戸社長からのすすめで読んでみた。

Monotaro





著者のブルース・ブエノ・デメスキータには3つの肩書きがある。

一つはニューヨーク大学政治学部教授で、アレクサンダー・ハミルトン政治経済センター長、学生に論理と証拠による問題解決方法を教えている、

2つ目はスタンフォード大学フーバー研究所の上級研究員で、この肩書きでコラムや本を書いている。そういえばミラーマンで知られる植草一秀さんが、フーバー研究所の客員フェローだった。

横道にそれるが、植草さんは、自身のブログで”「ウィキペディア植草一秀」に含まれる重大虚偽情報”という題で最近書き込んでいる。痴漢行為はあくまで冤罪だと主張している。

そして3つ目がメスキータ・アンド・ラウンデルというコンサルタント会社のパートナーで、ゲーム理論を使って国家安全保障関係の機関や民間企業にアドバイスをしている。

この本ではゲーム理論についての数式や、難しい説明はなく、デメスキータ教授が作り出したシミュレーションモデルを使った予測の例が紹介されており、しろうとでもわかりやすく興味深い。


2つのゲーム理論

デメスキータ教授はゲーム理論には2種類あるという。まずは協力ゲーム理論で、ジョン・フォン・ノイマンオスカー・モーゲンシュテルンによる「ゲームの理論と経済行動」(文庫で全5巻という大作)で理論化された。

ゲームの理論と経済行動〈1〉 (ちくま学芸文庫)ゲームの理論と経済行動〈1〉 (ちくま学芸文庫)
著者:J.フォン ノイマン
販売元:筑摩書房
発売日:2009-05-11
おすすめ度:5.0
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この説の前提は、約束は必ず守られるということで、それゆえ協力ゲーム理論と呼ばれる。

もう一つは、このブログでも紹介した映画「ビューティフル・マインド」で取り上げられた1994年ノーベル経済学賞を受賞した数学者のジョン・ナッシュが作り上げた非協力ゲーム理論だ。こちらは人間は私利を追求する非情な生き物という前提である。



非協力ゲーム理論の最も有名な例は、囚人のジレンマだ。重罪を犯した2人の囚人が軽微な罪で捕まり、別々に尋問される。両方が黙秘すれば、軽微な罪の最低の刑期で済む。しかし片方が自白し、片方が黙秘を続ければ、片方は釈放、片方は終身刑となる。

この場合囚人は両方が黙秘すれば最低の刑期で済むものを、片方がバラして自分が終身刑というリスクを冒せないので、両方とも罪を認めて自白してしまうのだ。黙秘を通せば軽い罪で済むものを、重罪を自白して重い刑を課せられてしまう。これが囚人のジレンマだ。

ジョン・ナッシュは「ナッシュ均衡」という非協力的ゲーム理論の解を見つける方法を考え出した。「囚人のジレンマ」のケースだと、他のどんな行動を取っても自分の利益が高くならないときがナッシュ均衡で、この場合には「どちらも自白する」だ。


人間は利得で動くというゲーム理論

ゲーム理論では常にシニカルな見方をして、人間は利得で動かされると考える。たとえばイラクでの爆弾テロリストなどは、天国での永遠の安らかな生活を目ざしている殉教者に見えても、実際には残された家族への現金支払いや債務免除という金銭目的で動いているかもしれない。

現にアメリカ軍は一日10ドル(イラクの平均収入は一日6ドル)の手当を支給することで、元テロリストたちを自警団にしたてることができたという。

これは筆者の意見だが、一面では利得・金銭で動く民衆もいると思うが、「元アルカイダのテロリストが10ドルで自警団になった」というのはデメスキータ教授の誇張だと思う。

アメリカ人には、イラク人は全員元アルカイダに思えるのだろうとコメントしておく。


ゲーム理論で車を底値で買う方法

この本ではゲーム理論を実生活に適用する例として、車を底値で買う方法を紹介している。一言で言うと、絶対にショールームは訪れず、すべて電話で交渉し、自分のためのオークションを開くことだ。

セールスマンには次のように言うのだ。

「今日の5時にこれこれの車を買います。今、自宅から半径50キロ以内のすべてのディーラーに電話しているところで、他のディーラーにも同じ話をします。すべて込みの値段を出して欲しい。最低価格を提示したディーラーの所に5時に行って車を買います。」

ディーラーはなんとか自分の店に来させようとするだろうが、その手に乗ってはいけない。「これまで何回もこの方法で車を買ってきた」と言うのだ。

販売店に足を踏み入れることは「コストリー・シグナル」になり、セールスマンが有利になる。車を買いたいというシグナルを送っているからだ。

この方法でデメスキータ教授は、トヨタ・ホンダ・VWを何台も買ってきたという。ディーラー間の値差は驚くほどだったという。


意中の人を後継者に選ぶ方法

この本では意中の後継者をCEO選考委員会に選ばせるために、「アジェンダ・コントロール」する事例を紹介している。

15名のCEO選考委員が3人づつの意見グループに分かれているとする。それぞれの好みの順序は次の通りだ。

1グループ マット>ジェフ>ラリー>カーリー>モー
2グループ マット>モー>カーリー>ラリー>ジェフ
3グループ モー>マット>カーリー>ラリー>ジェフ
4グループ ジェフ>モー>カーリー>ラリー>マット
5グループ ラリー>ジェフ>カーリー>モー>マット

全員の単純投票だと、あなたが絶対後継にしたくないマットが2つのグループから一位指名を受けているので6票獲得し、モー、ジェフ、ラリーがそれぞれ3票で、カーリーは0票。マットが次のCEOになる。

しかし、トーナメント方式で決めようとCEO選考委員会に提案し、まず最有力候補二人から始めようとマットとモーの一騎打ちから始める。

そうすると1,2グループはマットを選ぶが、3,4,5グループではモーがマットよる上なので、モーは9票獲得し、モーが勝ち抜く。勝者はジェフと一騎打ち、その勝者がラリーと一騎打ち、その勝者がカーリーと勝負する。

そうするとなんと全員投票では一位指名ゼロだったカーリーがCEO指名を勝ち取るのだ。

つまり

第1戦 マット<モー
第2戦 モー<ジェフ
第3戦 ジェフ<ラリー
第4戦 ラリー<カーリー

という結果になるのだ。


ゲーム理論で北朝鮮の核開発問題を解決する

北朝鮮問題でまず事実を整理する。

1.大きな利害関係があって、結果に影響を及ぼそうとするグループをすべて特定する。
2.入手出来る情報から特定したプレーヤーそれぞれの本音をできるだけ正確に推測する
3.各プレーヤーにとってこれがどれほど大きな問題か、重要度を推定する。
4.各プレーヤーが他のプレーヤーに対して持つ影響力。どれだけ他人を説得できるかを推定する。

デメスキータ教授の調査によると、金正日は抜け目ない政治家で、核兵器作りの最大の目的は権力の座に居座るためのライフラインとしてそれを利用するためだ。金正日の権力構造はそれほど盤石ではなく、考えられているよりも妥協に応じる傾向が過去にもあったし、現在もあると。

外国に対する金正日の真の要求は「侵略を絶対にせず、私の安全を保障しろ」だ。

最も現実的なのは、中国が正式にかつ明確に北朝鮮を守ることを保障し、アメリカが北朝鮮を攻撃しないことを約束するということだろう。


ゲーム理論が出した中東和平への道

ゲーム理論で導いた提案は「イスラエル政府とパレスチナ自治区が観光から発生する税収の一部を分け合う」というものだ。

観光客が訪れるためには、安全が確保されていなければならない。パレスチナ自治区にとって観光収入は大きい。


アーサーアンダーセンに頼まれた不正予測理論

デメスキータ教授は2000年にアーサーアンダーセンから顧客が不正会計を働く可能性を予測するゲーム理論の構築を依頼され、実際に不正がありうるという過去をあばくデータを提出した。しかしアーサーアンダーセンには受け入れられなかったという。

最もリスクが高いと判定されたエンロン、ボストンサイエンティフィック、ウェイストマネジメントなどでは実際に不正会計が行われていた。

アーサーアンダーセンは最高裁で無罪が確定したが、その前に会社がなくなってしまっていたので、何千人もの失業者を生んだ事例となった。

その他この本では次のようなケースを取り上げている。

★ヒラリー・クリントンの医療保険改革は成功するか

★第1次世界大戦は回避できたか

★パキスタンへの援助で武装勢力を封じ込める

★イラン・イラクとの協調関係は

★温室効果ガスの行方


ゲーム理論で現実の出来事を分析し、予測するという発想は新鮮で、実効性もあるようだ。

MonotaROの瀬戸社長のおすすめ本でもあり、面白く参考になる本だった。


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Posted by yaori at 23:54│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 

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