2010年12月10日

米国発ブログ革命 新聞よさようならマイクロメディアよこんにちは

米国発ブログ革命 ルポ (集英社新書)米国発ブログ革命 ルポ (集英社新書)
著者:池尾 伸一
販売元:集英社
発売日:2009-06-17
おすすめ度:4.0
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中日新聞の記者でコロンビア大学東アジア研究所所員やニューヨーク駐在員を経験した池尾伸一さんの本。

新聞・TVなどの既存メディアが弱体化し、地方新聞は廃刊する一方、記者達は自分たちが情報発信するブログなどで高品質のニュースを配信して生き抜こうとしている米国の現状をレポートする。

2008年の大統領選挙の際に、オバマ大統領のネット献金による資金調達が話題になった。選挙期間を通じて集めた資金は5億ドル、My.BarakObama.comの登録者は1300万人にものぼった。大統領に当選した後は、Organizing for Americaという組織に衣替えした。


多様な意見を流すネットメディア

ネットの選挙への影響力は資金集めだけではない、ネットメディアも新聞・TVなどのマスコミに代わって、アメリカの良さである多様性を反映する意見を一般大衆に流している。

この本ではそれらの代表例を紹介している。


dailykos

まずは中南米系移民家庭に育った元会社員マルコスの始めたdailykos。野党もまともな報道機関もなくなったと嘆くマルコスは自分のサイトでリベラルな意見を発表している。そのサイトdailykosは2009年には月間の訪問者が2千万人を超え、支持者が拡大している。

誰でも自分の意見を書くことが出来るダイアリーというコーナーを設けていることがこのサイトが人気を博している理由の一つだ。

2007年8月のオフ会にはバラク・オバマ、ヒラリー・クリントンなど民主党の大統領候補が勢揃いしたという。

「誰もがトーマス・ペインになれる」と、"What Would Google Do?"の著者でニューヨーク大学準教授のジェフ・ジャービスは語る。
What Would Google Do?What Would Google Do?
著者:Jeff Jarvis
HarperBusiness(2009-02-01)
販売元:Amazon.co.jp
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トーマス・ペインはアメリカ独立戦争の時、建国の精神的支えとなった「コモンセンス」の著者だ。

コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)
著者:トーマス ペイン
岩波書店(2005-03-16)
販売元:Amazon.co.jp
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マルコスは最近"American Taliban"という、共和党右派をタリバンと同じと糾弾する本を出したばかりだ。

American Taliban: How War, Sex, Sin, and Power Bind Jihadists and the Radical RightAmerican Taliban: How War, Sex, Sin, and Power Bind Jihadists and the Radical Right
著者:Markos Moulitsas
Polipoint Press(2010-09)
販売元:Amazon.co.jp
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talkingpointsmemo

政治関係の調査報道ではブログ形式のインターネットニュースサイトtalkingpointsmemo.com=TPMを紹介している。TPMは月間訪問者75万人、ゴンザレス司法長官を辞任に追い込むスクープ記事を載せたことで有名だ。

ブログ読者から自分の地域の検事が解任されているという情報が重なり、捜査つぶしの権力の横暴が起こっている疑いがあるとTMPの記者が気づいたからだ。

司法省が600ページにものぼる報告書を出してきたときは、TPMは全体を10のパートに分け、常連の読者に分析を頼むというWikipediaの手法を取っている。

TPMはフリーランスジャーナリスト、マーシャルの始めたブログが原型で、次第に読者が増えたので、規模を拡大した。広告収入では賄えないので、読者に資金協力を頼むという方法で運営している。


huffingtonpost

huffingtonpost.comはリベラル系インターネット新聞で、月間400万人がアクセスするという。ニューヨーク大学ジャーナリスト講座とのジョイントベンチャーが"off the bus"で、大統領選挙中は大統領の遊説バスに同行する既存メディア(=on the bus)の向こうを張って市民メディアをつくろうというものだ。

「ペンシルベニアの田舎町の人々は失業に苦しみ、社会を恨み、銃や宗教におぼれている」という大統領選挙中のオバマのペンシルベニア州での失言も、主婦の視聴者が投稿してはじめて明らかになったものだ。


中国関係のフリープレスサイト

今年のノーベル平和賞をめぐって中国の報道規制があからさまになり、各国のメディアから非難を浴びている。中国の抱える矛盾と腐敗のニュースを英語と中国語で流しているのが博訊(ボシュン)boxum.us/news/publishだ。

中国出身のソフトウェアエンジニアのワトソン・メンが2000年から運営しているという。

中国の真実の姿を国民や外国に伝えたいとワトソンは言うが、数万人ともいわれるサイバーポリスを擁する中国政府との戦いは熾烈だ。

これまで記事を送ってきた市民は数千人、訪問者は毎日20万人を超すという。

このサイトでは多くの警察の横暴や腐敗事件などを報道している。貴州省の中学生レイプ殺人事件で警察が動かなかったので、中学生が暴動を起こしている事件や、四川省大地震の救援物資が被災者に届かず、官僚が地元商人に横流ししている腐敗事件などだ。

中国政府は数万人のサイバーポリスを使って、DoS攻撃や、中国にいる報道記者の逮捕など様々な妨害をしているという。南京の女性ブロガーも軟禁されているという。

中国のYahoo!はYahoo!メールを使った人権運動家の個人情報を当局に流し、人権運動家が逮捕されることに繋がったという。

筆者も9月に上海に出張したが、中国ではTwitterもFacebookも使えないことにびっくりした。中国当局がSNSサイトをブロックしているのだ。

日本にいるとわからないが、中国には自由主義諸国のような報道の自由はない。たとえば対日デモに参加している学生なども、中国政府の一方的な報道に踊らされている一面がある。


特徴あるサイトが紹介されている

http://newhavenindependent.orgは、ハイバーローカルメディアだという。元々は人口12万人のコネチカットの町NewHavenでNew Haven Advocateという新聞の記者をやっていたポール・バスが立ち上げたローカルメディアサイトだ。

記者は4人、決まったオフィスもない。地元記事中心だ。米国のメディア業界はコンログマリット化が進んでいる。収益を上げ、株価を上げるために、メディアの買収と統合、合理化が相次ぎ、経費のかかる取材部門は切りつめが進んでいる。

New Haven Advocateもトリビューン社に買収され、取材費や人員が大幅にカットされ、まともな取材ができなくなっていたという。

結局NPO形式で税額控除できる寄付を得てNew Haven Independentサイトを立ち上げた。

http://aliveinbaghdad.org/はイラクの一般人が記者となってニュースを投稿するというサイトだ。イラクの治安は悪いので、CNNや大手放送局の記者たちは米軍キャンプを離れられない状況だ。

プロの記者に代わってイラク人5人を雇って、ビデオカメラを持たせて、イラクから報道させている。イラク人の給料は月4-6万円程度だという。イラク人が撮影する映像は生々しいものが多く、一人のイラク人記者はマシンガンで惨殺されたという。

ウィスコンシン州のマディソンにあるhttp://storybridge.tvはローカルテレビ局でキャスターをやっていたケイティが独立してカメラマンと2人でやっているインターネットテレビ局だ。

ローカルテレビ局も新聞同様コスト削減のため制作費が削られており、それに不満をもったケイティが飛び出して設立した会社だ。YouTubeにも専用チャンネルを持っている。

個人発のニュースや投稿は良いことばかりではない。だましやニセ情報も投稿される場合があるので、情報の真偽のほどの確認が難しいという問題がある。


米国の新聞社の苦境

米国の新聞社の苦境もひどい。著者の池尾さんは「のたうつ恐竜」と評している。

「LAタイムズ」はトリビューン社に買収され、1200人いた記者を800人にして、18ある海外支局を半減する方針を打ち出し、記者の反発を招いている。新しい経営陣に反対した編集長はクビになり、残る記者達はバッチをつけて無言の抵抗をしているという。

トリビューン社は結局LAタイムズをシカゴの不動産王サミュエル・ゼルに売却し、記者のさらなる削減に繋がった。

米国の新聞発行部数は1990年の6300万部から、2006年は5300万部まで落ち込み、広告収入は2000年の467億ドルから2007年には422億ドルになった。

「ウォールストリートジャーナル」はメディア王マードック氏に売却された。2008年9月のリーマンショックは新聞業界にも影響を与え、伝統あるクリスチャン・サイエンス・モニターはオンライン配信に変え、紙は週末のみとした。

1970年は23万人いた会員が、5万5千人にまで減った。キリスト教団体の支援も限界があるので、記者や支局の数は減らさないで、ウェブ版のみにしてコストを下げ、クオリティを維持する方針だという。

廃刊に追い込まれたローカル紙は続出している。フィラデルフィアのフィラデルフィアインカラー、デンバーのロッキーマウンテン・ニューズなど。

ニューヨークタイムズはウェブ版と紙版の編集部を統合し、ウェブ広告の拡大で事業継続を目ざしている。

最後に米国メディアの「ネットワークト・ジャーナリズム」というコンセプトを紹介している。ネットワークトという意味はプロの記者と一般読者、フリージャーナリストなど、報道機関で働く者全部と視聴者との共同作業でメディアをつくろうという考えだ。

これからも個人メディアでインフルエンサーが増えてくると、プロのライターとの役割分担という手法もたしかに出てくると思う。

具体例が多く、いずれ日本の新聞・TV業界も同じような動きになると思うので、その意味で参考になった。


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Posted by yaori at 22:18│Comments(0) ビジネス | インターネット