2010年11月05日

世界を知る力 寺島実郎さんの「アメリカを通してしか世界を見ない」日本批判

メドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問したことが、日本の右派を中心とした世論に火を付けている。

一方中国とは尖閣列島問題が尾を引き、シンガポールでの日中首脳会談もキャンセルになるほど関係はぎくしゃくしている。タカ派の前原さんが外務大臣になってからは、中国はなおさら日本とは距離を置く外交姿勢に転換しているのではないかと思う。

外交や経済・株価・円高などについての八方ふさがりな状況から、菅内閣の支持率は低下の一方だ。

アメリカの同盟国という位置づけは変えないが、戦略的に中国に対抗するために、日本はロシアやCISなどとの関係を深める選択肢しか、21世紀に影響力を保つ方策はないのではないかと筆者は思っている。

アメリカ一辺倒、「アメリカを通してしか世界を見ない日本」の姿勢を批判している寺島実郎さんの近著のあらすじを紹介する。

世界を知る力 (PHP新書)世界を知る力 (PHP新書)
著者:寺島 実郎
販売元:PHP研究所
発売日:2009-12-16
おすすめ度:4.5
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三井物産出身で、三井物産戦略研究所会長、日本総研会長、多摩大学学長を勤める寺島実郎さんの近著。

寺島さんは最近はTBSの関口宏のサンデーモーニングにコメンテーターの一人としてレギュラー出演しているので、知っている人も多いと思う。

寺島さんは日本人の「アメリカを通してしか世界を見ない」傾向は、特殊な世界認識の鋳型であり、世界認識を改める必要があると語る。そのため、いままで知らなかった次のような事実が紹介されていて興味深い。


ロシアの日本語学校は1705年創立

ロシアのプーチン首相の出身校、サンクトペテルブルク大学の日本語学校は1705年に設立された。ピョートル大帝のサンクトペテルブルク建設のわずか2年後に日本語学校がロシアにできていたのだ。ペリー来航の150年も前のことだ。ロシアは日本に1792年に遣日使節を送っており、幕府は丁重にもてなしたという。

日本が函館を開港した1859年の翌年、ロシアはウラジオストック建設に着手している。極東ロシアと北海道はほとんど相似形ともいえるほど非常に似た歩みで開発されていく。日露関係は日米関係よりも、もっと歴史的に深く長くかかわりを持っていたのだ。

ちなみに白系ロシア人というのは、色が白いという意味ではなく、赤=共産党に対する白だ。東京のウクライナ大使館の大使の部屋には、大鵬(お父さんが白系ロシア人)の等身大の写真が飾ってあるという。

地図の上下を逆さまにみると、日本がいかにユーラシア大陸に近接しているかよくわかると寺島さんは語る。

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たしかにこうしてみると、日本海は内海で、日本は大陸の一部であることがわかる。


その他参考になった事例

この本で参考になった事例をいくつか紹介しておく。

★世界を変えた5人のユダヤ人。それはモーゼキリストマルクスフロイトアインシュタインで、ユダヤのジョークに5人が議論するジョークがあるという。

★電力網は仕組みがインターネットに似ている。アメリカの電力網効率化計画のスマートグリッドには、Googleがグーグルパワーメーターという電力最適化商品をひっさげて参入している。

筆者は1980年代後半と1990年代後半の2回アメリカに駐在しているが、最初の1980年代後半の時に既にアメリカでは送電網をコンピューターを使って最適化しようというソフトウェアがあった。

当時の上司のピッツバーグ支店長が、アメリカの電力業界(電力会社が石炭の炭坑や船積み設備を持っていた)のコネを使って、この送電網最適化ソフトを開発していた、ベンチャー企業を発掘しようとしていた。

だからスマートグリッドというのは、発電と送電が別個に自由化されて、3,000以上も電力会社があるアメリカでは決して新しい考え方ではないのだ。

★「小泉構造改革」は2001年の米国政府の構造改革対日提案に沿うように日本を市場主義の原理によって改革することを意味していた。小泉政権は、日本をアメリカのような国に変えなければと思い詰め、アメリカの要求に則って、規制緩和や民営化を進めていった。

★小泉政権が「郵政民営化こそが構造改革の本丸」という珍妙な論理で実行されたのは、とにかく改革しなければという強迫観念にも似た幻想にすぎなかったからだ。

★「日米関係は米中関係である」これは国際ジャーナリストとして活躍し、日本憲法の原案作りにも加わった松本重治さんの言葉だ。寺島さんは至言と言っているが、筆者もまさにその通りだと思う。米中関係というもう一つの尺度をもたないと日中関係も上手くいかない。
 
★20世紀の米中日関係に深い影響を与えた人と言われれば、寺島さんはタイム・ワーナー創始者のヘンリー・ルースを挙げるという。チャイナ・ロビーの活動を通して蒋介石を支援していた。その中国側窓口が宋子文だった。孫文夫人宋慶齢、蒋介石夫人宋美齢の兄弟である。戦争期を通じてアメリカが中国に行った支援の累積額は今の金で200億ドルを超すという。

★1949年に中国の内戦が終わり、蒋介石が台湾に逃れてから、1972年のニクソン訪中まで米中関係は混乱していた。その間で日本は復興・経済発展を遂げた。

★「アメリカのアジア政策は常に日本を基軸とする」という幻想にとりつかれていたので、「日米の力で、新たな脅威=中国に対抗しよう」というような議論があるが、これは「日米関係は米中関係」という基本の視点を欠いた議論である。

★そもそも、独立国に外国の軍隊が駐留し続けていることが、いかに不自然な事態であるか、我々日本人は知るべきである」と。ドイツは冷戦終了後、在独基地の縮小と地位協定の改訂を実施した。

★イラン革命が起き、三井物産がイラン・ジャパン石油化学で四苦八苦していた時に、イスラエルのモサドはイラン革命を予想していたという。

寺島さんはこれに驚き、テルアビブ大学の研究所(現ダヤンセンター)を訪問し、「情報」の持つ本当の意味を実感したという。モサドは当時ホメイニ師が毎日瓜とヨーグルトを食べていることまで掴んでいたという。

このブログで紹介した佐藤優さんの「国家の罠」で、佐藤さんが起訴される理由の一つとなった、信頼できるロシア情報をイスラエル経由で入手するために、外務省の公金でイスラエルの著名な大学教授などを日本に招待したことが思い出される。

ロシア情報をイスラエル経由取得するのは、世界の常識では当たり前と考えていたことがよくわかる。

他にも参考になる情報が満載だ。

池上解説ほどジャーナリスティックで、わかりやすいわけではないが、200ページの新書で簡単に読めるので、「アメリカを通してしか世界をみない日本」という問題意識に共鳴する人は、是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 01:30│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 政治・外交

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