2010年12月22日

デフレの正体 人口動態変化が日本経済デフレの原因

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp
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日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介さんの本。

2010年12月19日の朝日新聞日曜版の書評審査員お薦め「今年の3点」で、植田和男東大教授のイチ押しに挙げられていた。

「いよいよ現実のものとなった日本の人口減少が、いかに内需不振の主因であるかを、簡潔なグラフ中心にわかりやすく示した好著。薄々感じていた不安に直接手で触れたような読後感。対策として高齢者から若者への所得移転、女性就労、外国人観光客の増加を推奨」が推薦の言葉だ。

まえがきのところで、藻谷さん自身も、自分が書いた本ながら「これは読んだ方がいい」と誰にでも薦められるという。

誰が読んでも客観的とわかるような事実を並べているが、類書にない、オンリーワンの内容だからだと。

最初からちょっと大風呂敷だと思ったが、読んでみるとなるほどと思わせる内容だ。但し、この本には藻谷さん自身も書いている通り、タネ本があることは後述する。

藻谷さんは日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役で、2000年から各地で数多くの地域振興の講演を行っており、全国3,200市町村の99.9%を訪問した経験を持つという。

アマゾンでも2010年12月20日現在売り上げ47位と、よく売れているようだ。

この本の目次

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして、目次を見て欲しい。次のような章が並んでいる。

第1講 思いこみの殻にヒビを入れよう

第2講 国際経済競争の勝者・日本

第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振

第4講 首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味

第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」

第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀

第7講 「人口減少は生産性向上で補える」という思いこみが対処を遅らせる

第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち

第9講 ではどうすればいいのか1.高齢富裕層から若者への所得移転を

第10講 ではどうすればいいのか2.女性の就労と経営参加を当たり前に

第11講 ではどうすればいいのか3.労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受入を

補講  高齢者の激増に対処するための「船中八策」


内需不振の本当の原因

「世界同時不況の影響で地域間格差が拡大したことが内需不振の原因」などというのは、藻谷さんは、SY(数字を読まない)、GM(現場を見ない)、KY(空気しか読まない)人たちが確認もしていないウソを拡大再生産しているのだと。

SYの例が中国と日本の貿易バランスで、中国一国だけだと日本の赤字だが、香港を入れると日本の大幅黒字である。

そういえば中国との輸出入は香港も入れて考えるというのが、昔は常識だったが、筆者もすっかり忘れていた。

日本の国際収支














出典:本書41ページ

日本の大得意はハイテク生産国の台湾、韓国だ。中国にも日本ブランド製品は売れ続けている。日本は国際競争の勝者なのだ。

一般的に言われている「リーマン破綻以降の世界同時不況の影響で、輸出が激減し日本経済は停滞している」という説明、「景気さえ良くなれば大丈夫」という「妄想」が日本をダメにしたのだ。

その証拠として次のグラフを挙げている。

日本の基礎代謝







出典:本書57ページ

上のグラフの左側が増え続ける日本の実質GDPと減り続ける小売販売額と雑誌書籍販売部数。

右側が同じく、増え続ける日本の実質GDPと減り続ける新車販売台数、貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量、酒類販売量のグラフだ。

このグラフからわかることは:

・小売販売額は1996年度をピークに12年連続で減少が続いている

・雑誌書籍販売部数は1997年度をピークに11年連続で減少が続いている

・国内貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量もそれぞれ2000年、2002年から減少続き

・酒類販売量は2002年度から減少続き(ビールだけだと1997年度から減少続き)

・グラフにはないが、日本の水道使用量は1997年から減少続き


2000年に一度の生産年齢人口減少

「若者の車離れ」、「景気変動」、「出版不況はインターネットの普及のせい」、「地域間格差」など、内需の減少の原因としてあげられる理由はすべて間違いだ。本当の内需減少の原因は、生産年齢人口の減少である。

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出典:総務省統計局人口推計

藻谷さんは、日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役という得意分野を生かして、青森県、首都圏、東京23区、(リーマン不況まで景気が良かった)愛知県、関西圏、沖縄県の1990年からの小売指標と個人所得の推移を比較している。

青森県と関西圏を除いて個人所得は増加しているにもかかわらず、どこも小売販売額は1998年頃がピークで、毎年減少している。

唯一の例外が沖縄県で、個人所得も小売販売額も増加している。しかし、その他はすべて小売販売額が減少している。

これこそ「2000年に一度」の生産年齢人口減少と「高齢者の激増」の影響なのだ。


所得はあっても消費しない高齢者

所得はあっても消費をしない高齢者が日本全国で激増している。特に首都圏では2000-2005年の間に65歳以上の老齢者が118万人増えている。高齢者は将来の不安があり、買いたい物もあまりないので消費をせず貯蓄する。

次が日本の人口ピラミッドだ。

人口ピラミッド








出典:総務省統計局人口推計

日本で一番人口の多い団塊世代が60歳を超えて続々と退職している。年金だけでは所得が減少するので、将来の不安から消費を抑え、貯蓄する。


団塊の世代が起こしたバブルとバブル崩壊

この団塊の世代の影響で起こったのが住宅バブルとバブル崩壊だ。

最初は団塊世代の実需で住宅・土地市場が活性化した。ところが日本人のほとんどが、住宅市場の活況の要因を「人口の波」と考えずに、「景気の波」と勘違いした。

だから住宅供給を適当なところで止めることができず、供給過剰=バブル崩壊が生じたのだ。

この説は元マッキンゼー東京支社長で、現東大EMP企画・推進責任者の横山禎徳さんが「成長創出革命」という本で指摘していることだと、藻谷さんはタネ本を開かしている。

成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(1994-02)
販売元:Amazon.co.jp
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この「成長創出革命」は現在絶版で、アマゾンでは中古本が約7千円とプレミアム付きで売られている。図書館にリクエストして他の図書館から借りて貰うので、入手したらあらすじを紹介する。

団塊世代のライフステージに応じて様々なものが売れ、そして売れなくなっていくという単純なストーリーで説明・予測できる物事は多い。たとえば:

・バブルがなぜ首都圏と大阪圏に集中していたのか

・スキーや電子ゲームが流行り、その後急速に衰退していったのか

・ゲーム市場の拡大は高齢者にも売れる任天堂Wiiまで待たなければならなかったのか

生産年齢人口の減少は今後も続き、「好況下での内需縮小」は延々と続くことになる。


藻谷さんの解決策

★高齢者から若者への所得移転

現在は高齢者から高齢者への相続で貯蓄は死蔵され続けている。

高齢化社会における安心・安全の確保は生活保護の充実で行い、年金から生年別共済に変更するというのが解決策だ。

これまで日本は生産性を上げて人口減少に対処しようとしている。そのための施策が、経済成長率至上主義、インフレ誘導、リフレ論、出生率向上、外国人労働者受入、エコ分野の技術で世界をリードすることで日本の活路を見いだす等々だが、いずれも内需拡大には繋がらない。

そこで、解決策としては「生産年齢人口が3割減になるなら、彼らの一人当たり所得を1.4倍に増やせば良い」というものだ。つまり団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そうというものだ。この解決策は、藻谷さんが若手官僚から聞いたものだという。

ちなみに中国でも生産年齢人口の減少は20年後くらいから急激に起こる。中国が同じ悩みを抱えるのも時間の問題なのだ。


★女性就労拡大

藻谷さんの解決策の一つは女性就労拡大だ。女性は高齢になっても消費意欲は衰えないので、女性の所得が上がれば、内需拡大にもなり、税収も上がる。

日本の女性の就労率は45%で世界的に低いので、まだまだ上がる余地はある。


★外国人観光客を誘致して観光収入をアップ


横山禎徳さんのタネ本

藻谷さんは「成長創出革命」しか紹介していないが、実はこれらの解決策は、上記の元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんの2003年の本「『豊かなる衰退』と日本の戦略」で提唱されている「3つのシステム・デザイン」という提案とかなりかぶっている。

「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(2003-03)
販売元:Amazon.co.jp
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横山さんの3つの提案(+α)とは:

1.一人二役(兼業・兼職も認める。セカンドハウスを持つ。週休三日とする)

2.二次市場の創造(住宅など中古市場の充実)

3.観光立国(外国人旅行者大量受入システム)

+女性への期待(主婦への期待)


生産性向上とは付加価値を増やすこと

マイケル・ポーター教授の日本公演の時に、聴衆から質問があり、それに答えて生産性向上の例として出したのはカリフォルニアワインだったという。

人手を掛けて品質を向上させることによって、ブランド力を上げることに成功し、値上げができた。

カリフォルニアワインがブランド力を上げる要因となったできごとは「パリスの審判」に詳しいので、興味がある人は参照して欲しい。

生産性とは付加価値を増やすことだが、日本では労働者を減らすことが生産向上と誤解されているために、このときの講演後のQ&Aではポーターの説明が伝わらなかったという。


残念な誤植

大変説得力ある本だが、致命的な誤植がある。相続税を支払う人が相続人の4%まで減り、納税額も12兆円というところは、1.2兆円の誤りだ。

税収が40兆円程度しかないなかで、もし相続税収入が12兆円もあれば4割を占める大変なパーセンテージだ。SY(数字を読まない)でない限り、普通なら誰でも気付く誤植と思う。

せっかく納得性のある議論をしているだけに、こんなポカミスは残念ながら藻谷さんの全体の議論の信憑性を疑わせる恐れがある。

筆者も他山の石としなければならないミスである。


ともあれ斬新な見地からの議論で、大変参考になる本だった。


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Posted by yaori at 12:51│Comments(1)TrackBack(0) 経済 | ビジネス

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ブログ「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門」
http://abc60w.blog16.fc2.com/
カテゴリ:藻谷浩介も参照していただけると、ありがたいです。よろしくお願いいたします。
Posted by 菅原晃 at 2011年01月26日 21:44