2011年01月24日

理科系冷遇社会 科学技術立国を阻む理系離れへの警鐘

理科系冷遇社会―沈没する日本の科学技術 (中公新書ラクレ)理科系冷遇社会―沈没する日本の科学技術 (中公新書ラクレ)
著者:林 幸秀
中央公論新社(2010-10)
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元文部科学省審議官で、JAXA副理事長だった林幸秀さんの本。

林さんは東大先端科学技術研究センターの特任教授で、独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターの上席フェローだ。

大学院を卒業して博士号を持つ人材がなかなか定職につけない「ポスドク問題」をかかえる日本を、林さんは「理科系冷遇社会」と呼ぶ。

ノーベル賞受賞者が相次ぎ、日本の科学技術は世界トップレベルにあるような印象を受けるが、実は日本の科学技術はジリ貧状態に陥っており、このまま何の手も打たなければ、日本の科学技術は国際競争から取り残されると警鐘を鳴らす。

基礎研究面では欧米との距離が広がっており、急激な成長を遂げている中国にも追い越されようとしているという。

民主党の事業仕分けで蓮舫の「何故、スーパーコンピューターで世界1になる必要があるのでしょうか?2位ではダメなんでしょうか?」という発言が有名になったが、実は日本のスパコンは2位にもなれない現状だ。

スパコン保有台数では米国が282台で首位、2位は英国で38台、日本は18台で世界6位、24台の中国の下を行っている。

スパコンの性能比較ではさらに差が広がる。

世界1はクレイ社のCray XT5だが、2位は中国の「星雲」だ。ベスト10に中国が2台ランクインし、日本最高の日本原子力研究開発機構の持つ富士通スパコンは世界では22位という現状だ。ちなみに2010年には「天河一号A」が世界一位になっている。

エレクトロニクス製品の世界シェアの急落を示す小川紘一東大教授がつくった表が、ここでも紹介されている。

日本製品シェア推移







出典:2009年「科学技術白書」

経産省がiPodとiPadのコスト構成に於ける日本メーカーのシェアの減少をパイチャートにして示している。これも衝撃的だ。

iPodコストに占める日本製品シェア
















出典:本書22ページ


理科系人材の冷遇

理科系人材の冷遇という第2章は、次のような構成だ。

第1節 見劣りのする研究者数

第2節 児童・生徒の理科離れ

第3節 進学者数が減少する理科系学部

第4節 定職に就けない博士号取得者

第5節 育たない若手研究者

第6節 活躍できない女性研究者

第7節 少ない外国人研究者・技術者

表題だけ見てもこの本の指摘する問題点がわかると思う。


理系出身者の出世

生涯賃金では1998年の調査では理系が5,000万円少ないというデータがあるが、2010年の京都大学の西村和雄特任教授の調査では理系学部卒業者の平均年収は文系より100万円高く、年齢が上がるに連れ差は拡大するという結果が出ている。

全く逆の結果が出ているが、林さんは理系が文系の年収を下回っているという実感を持っているという。

例として日本の理系出身者の企業トップの比率は28%で、フランスや英国・ドイツでは55%前後であることが挙げられている。また中国の共産党政治局常務委員9名のうち、8名が理系だという。

外国人研究者の育成については、今度あらすじを紹介する「宇宙は何でできているか?」の著者村山斉さんがトップを務める東大数物連携宇宙研究機構(IPMU)の例を紹介している。

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)
著者:村山 斉
幻冬舎(2010-09-28)
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IPMUでは、外国人研究者が半数を超え、機構長の村山さんも総長以上の報酬でUCバークレーから迎えた人材だ。

2009年の「科学技術白書」の「目に見える世界トップレベルの研究拠点に向けて」というコラムで、村山さんは外国人研究者獲得競争で、海外レベルにあった給与、インターナショナルスクールの費用の半額負担、貸家の斡旋、配偶者の就職先の紹介、テニュア(終身在職権)が与えられないなど多くの問題があったことを指摘している。

ここをクリックしてぜひ「目に見える世界トップレベルの研究拠点に向けて」というコラムを見ておいて欲しい。


他国の取り組み事例

他国の取り組みの紹介も参考になる。

米国では安全保障面を支えている科学技術開発には金に糸目を付けない。米国政府の科学技術予算の半分はペンタゴンが獲得している。

米国が科学技術で遅れを取り、大問題になった2つの事件が紹介されている。

一つは言わずと知れたスプートニクによるソ連の宇宙開発で、もう一つは2002年のNECの地球シュミレーターが世界最速の演算記録を達成した時だという。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のノーベル賞受賞にも大きく貢献した地球シュミレーターが世界最速になったことで、米国は危機感を感じ短時間に追いついた。

スパコンは核実験のシミュレーションも可能なので、安全保障上重要だという認識があるのだという。

インターネット、カーナビは軍事技術の民間転用だ。

ロックフェラー財団カーネギー財団、フォード財団、ゲイツ財団など、民間財団の科学技術への貢献も見逃せない。

オバマ政権も2009年に「米国・イノベーション戦略:持続可能な成長と質の高い雇用を目ざして」というレポートを発表し、イノベーションへの民間と政府の研究開発費をGDPの3%以上(現在は2.8%)にすることを目標に掲げている。

欧州でもアリアン・ロケットなどを欧州各国が分業して取り組んでおり、2000年には「リスボン戦略」として2010年までに欧州の研究開発投資をGDPの3%に引き上げることに合意している。

中国では2000年には70万人だった研究者数を2007年には142万人にまで拡大している。日本は70万人なので、すでに日本の倍の研究者がいるわけだ。大学卒業者数も450万人と日本の75万人の6倍で、自然科学系PhD取得者はすでに米国とほぼ同数の2万人以上いる。(日本は7,000人)

「海帰政策」で海外で勉強した技術者に帰国を促す制度もある。

韓国の人口は5千万人で、日本の1億3千万人の半分以下だが、大学生の数では同等、大学院生の数では日本を上回っている。小学3年生から週1-2回の英語の授業を実施済みで、小学校全学年に英語教育を行うことが検討されている。

李明博大統領は研究開発費総額をGDPの5%に拡大することを公約に掲げていたこともあり、研究開発に熱心に取り組んでいる。

日本の科学技術の現状という第7章では、世界の主要雑誌に発表した国別の論文数推移や、大学のランキング、ノーベル賞の受賞者数などの統計をまとめている。

さらに先端技術の国際比較では、1,基礎研究力、2,応用開発力、3.産業技術力の3つの尺度で、次のような分野の競争力を分析している。

・電子情報通信分野全般

・ナノテクノロジーー材料全般 日本が健闘

・ライフサイエンス全般

・臨床医学全般

・環境技術全般 ー 日本は欧州と並んで強い

・先端計測技術全般


第8章 科学技術で世界に挑戦

最後の「第8章 科学技術で世界に挑戦・貢献を」は、次の構成となっている。

第1節 科学技術の重要性の再確認

第2節 研究開発費の増額

第3節 選択と集中の徹底

第4節 理科系人材冷遇社会の打破

第5節 人材を活かすシステム改革

第6節 国際標準戦略の策定

第7節 臨床研究の強化

第8節 東アジア科学技術協力構想


筆者自身も高校入学時には理系志望だったが、高校一年の時の数学の成績が悪かったので、結果的に文系となった。たぶん数学ができなかったので文系にしたが、理系には憧れをもっているという人は多いと思う。


日本の科学技術立国・知財立国のためにも、理系人材の育成についての林さんの提言は重要と思う。理系人材育成の現状がわかるよくまとまった本である。


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Posted by yaori at 12:59│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 教育論

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