2011年02月25日

宇宙は何でできているのか 東大数物連携宇宙研究機構 村山機構長のベストセラー

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)
著者:村山 斉
幻冬舎(2010-09-28)
販売元:Amazon.co.jp
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東大数物連携宇宙研究機構(IPMU)長の村山斉さんのベストセラー。中央公論の2011年の新書大賞にも選ばれている。

中央公論新書大賞





東大数物連携宇宙研究機構(IPMU)は文部科学省が国際レベルの研究機関として2007年末に設立した研究機関で、東大の柏キャンパスにある。

機構長の村山さんはUCバークレー教授からスカウトされたが、アメリカの大学は優秀な教授は常勤でなくとも契約を継続しているようで、村山さんはUCバークレーにもまだ籍があるようだ。

世の中には研究者として一流であっても、授業は面白くない教授もいる。しかしこの本を読んで、村山さんは研究者としても教育者としても一流であることがよくわかる。

「宇宙はどう始まったのか」、「宇宙は何でできているのか」、「私たちはなぜ存在するのか」、「宇宙はこれからどうなるのか」という誰もが持つ疑問に、素粒子研究の最新の成果で答えようとしており、本来難しい最先端科学の話を、しろうとにもわかりやすく説明している。


ウロポロスの蛇

ガリレオは「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」と語ったという。IPMUも数学の力を借りて、宇宙を研究するために設立された。

宇宙の大きさは、10の27乗、素粒子は10のマイナス35乗だ。いずれも理解をはるかに超えたサイズだが、「ビッグバン」理論では、最初は素粒子並みのサイズだった宇宙が膨張を続けているという。

この現象を表現するために、村山さんはウロボロスの蛇という図を使っている。

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出典:本書21ページ

宇宙を研究すると宇宙線の中にクオークなどの素粒子が見つかる。最小の素粒子を研究すると最大の宇宙の起源がわかるという不思議な循環になるのだ。


「やさしい本」

筆者なりに、この本を一言で評すと「やさしい本」である。

「やさしい」といっても、素粒子物理学の最新の研究成果を解説しているため、「本当の時空は10次元まである?」とか“ストレンジ・クオーク”、“反チャーム・クオーク”、“反粒子”などという言葉が並んでいるので、決して「易しい」わけではない。村山さんの読者・同僚・家族に対する細心の気配りを「優しく」感じるのだ。

この本の帯にある「宇宙研究の世界的トップランナーによる情熱教室」というキャッチコピーが表す通り、この本は中高生でもわかるように書かれている。本文のところどころにある(笑)など、いままでの素粒子物理学の入門書にはなかった気さくなスタイルで、科学者を目指す学生にはバイブルのように読まれることだろう。

村山さんはノーベル賞受賞者を輩出している世界の素粒子物理学のメッカUCバークレーの教授に36歳で就任、2007年に文部科学省が設立した東大数物連携宇宙研究機構長に、東大総長を上回る待遇でスカウトされたと聞く。

まさに脂の乗り切った研究者であると同時に、総勢100名強、外国人研究者比率6割という世界トップレベルの研究者を集めた機構の管理職でもある。

村山さんは毎月必ず子供や一般市民向けに講演をこなしているそうだが、この本でも難しい理論をできるだけわかりやすく話そうという気持ちがこもっている。


なぜ素粒子物理学で宇宙を解明できるのか?

宇宙はビッグバンによって誕生したことが証明されている。

ビッグバン前の宇宙は粒子がまだ原子を構成していない火の玉だった。それがビッグバン後1分で水素、ヘリウム、リチウムができ、核融合が始まって他の元素ができ、星が生成された。ビッグバン直後の宇宙は小さくて熱い状態であった証拠がCOBEという人工衛星を使って見つけられ、発見者にノーベル賞が授与された。

宇宙にあるのは、星は0.5%、物質は4%のみで、23%はダークマター(暗黒物質)、73%はダークエネルギー(暗黒エネルギー)だということが2003年にわかった。しかしダークマター、ダークエネルギーは理論上これがないと説明がつかないという仮説から生み出されたもので、まだだれも観測していない。

ニュートリノを検出し、太陽の核融合反応の証拠をつかんだスーパーカミオカンデを使って日本チームがダークマターの検出に一番乗りを目指している。

ビッグバンでは物質と反物質が同じだけできたが、ニュートリノが10億分の2という微量の反物質を物質に変えた。これがノーベル賞を受賞した小林・益川理論が解明した「CP対称性の破れ」だ。このお釣りの様な物質が星となり、ひいてはわれわれ人類の体、生物となったのだ。

この本ではIPMUの研究成果として、暗黒物質が物質や星を生み出した過程を明らかにしたコンピューターシミュレーションを紹介している。

ノーベル賞を受賞した南部さんは素粒子はひものようなものであるという「超ひも理論」を唱えた。超ひも理論は、自然界に存在する、強い力、電磁気力、弱い力、重力の4つの力を統一的に説明できることが期待されているという。


ここ10年の物理学の進歩はめざましい

この10年で物理学は飛躍的に進歩したと言われる。たしかに10年前に読んだ「物理学・こんなことがまだわからない」というブルーバックスでは、米国のスーパーコライダー計画に予算がつかなかったので、物理学はこれ以上進歩が見込めない状態になったとの閉塞感を語っている。

物理・こんなことがまだわからない―宇宙から身のまわりのハテナまで (ブルーバックス)物理・こんなことがまだわからない―宇宙から身のまわりのハテナまで (ブルーバックス)
著者:大槻 義彦
講談社(1998-08)
販売元:Amazon.co.jp
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立花隆さんは、巨大な装置の集合体である加速器を「現代の戦艦大和」と呼んでいるが、まさに軍拡競争ならぬ加速器巨大化競争で、スイスのCERNのLHCや日本のKEKBなどの巨大加速器が、素粒子発見に果たした功績は大きい。



アインシュタインの理論さえほころびが出てきている

10年までは、アインシュタインの重力式に基づき宇宙の膨張速度は次第に落ちると考えられてきた。ところが観測結果では空間が広がっているのに、エネルギーは薄まっていないことが超新星の観測からわかった。それゆえ宇宙にはダークエネルギーが詰まっているという理論が生まれている。

小林・益川さんはクオークは3世代以上、6個以上あると予言し、予言が正しいことが検証され、「CP対称性の破れ」でノーベル賞受賞につながった。

物理学では予言した人も予言が正しいと検証した人もノーベル賞をもらえる。湯川秀樹教授の中間子を発見したのは、大気の影響の少ないアンデス山脈の頂上に登って宇宙線を研究した科学者だという。


この本の印税をIPMUの活動資金に寄付

村山さんはこの本の印税をIPMUの活動資金として寄付している。

この本を一冊買えば、定価の1割程度の印税がIPMUに寄付されるのだ。IPMUを「縮減」と位置付けた第一次仕分けに対する抗議も含んでいるのだろうが、それにしても同僚にも優しい指導者である。


家族に対してもやさしい

村山さんはいわゆる「逆単身赴任」だ。この本をアメリカに残している家族にささげるとともに、アメリカでも人気のポケモンのピカチュウの例を使って説明している。そんなところにも家族に対する愛情が感じられる。


研究者としての活動、機構長の管理職としての活動、子供・一般市民への講演活動と、村山さんは超多忙な生活を送っていると思う。

単身赴任はどうしても食生活が不規則になりがちで、ストレスもたまりやすい。いくら功績があってもノーベル賞は生きている人にしか授与されない。ぜひ体に気をつけて次のノーベル物理学賞を日本にもたらしてほしいものである。


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Posted by yaori at 12:47│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 自然科学

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