2011年03月06日

世界は分けてもわからない 福岡教授の科学ミステリー第2弾

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)世界は分けてもわからない (講談社現代新書)
著者:福岡 伸一
講談社(2009-07-17)
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ベストセラーの前作「生物と無生物のあいだ」に次ぐ福岡伸一青山学院大学教授の科学ミステリー風の新作。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
著者:福岡 伸一
講談社(2007-05-18)
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前作同様文学的なタイトルが並ぶ。

プロローグ バドヴァ       2002年6月

第1章   ランゲルハンス島   1869年2月

第2章   ヴェネツィア     2002年6月

第3章   相模原        2008年6月

第4章   ES細胞とガン細胞

第5章   トランス・プランテーション

第6章   細胞の中の墓場

第7章   脳のなかの古い水路

第8章   ニューヨーク州イサカ 1980年1月

第9章   細胞の指紋を求めて

第10章  スペクターの神業

第11章  天空の城に建築学のルールはいらない

第12章  治すすべのない病

エピローグ かすみゆく星座


パドヴァは北東イタリアのヴェネト州にあり、ヴェネツィアロミオとジュリエットの悲恋の舞台のヴェローナの間にある古都だ。ガリレオ・ガリレイはパドヴァ大学で教鞭を執っている。

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出典: Wikipedia

筆者はパドヴァの隣のヴェローナの鉄鋼メーカーを訪問したことがある。その後、工場長が自分のBMW7シリーズを運転してヴェローナから北イタリアのコモ湖の近くの別の工場に連れて行ってくれたが、途中およそ生きた心地がしなかった。

ヴェネツィアからミラノあたりまでの高速道路は整備されており、たしか片側4−5車線あったと思う。それをドイツのアウトバーン以上の最高200キロくらいでぶっ飛ばすのだ。

高速からおりて普通の道でも100キロ以上で飛ばし、どんどん無理な追い越しを続けるので、正直イタリア人のスピード狂にはまいった思い出がある。

閑話休題。


不治の病=インクラビリ

福岡さんがパドヴァに行ったのは、「国際トリプトファン研究会」に参加するためだ。

学会を抜け出してヴェネツィアに行き、「インクラビリ」と名付けられた水路を訪れる。英語では"incurable"つまり不治の病という意味だ。梅毒にかかった高級娼婦(コルティジャーネ)などを収容する場所だったという。

「インクラビリ」が、この本を貫く一つの糸になっている。

15世紀末のイタリア画家ヴィトーレ・カルパッチョ(料理のカルパッチョは彼の名前にちなんだ)の2つの作品は実は一つの絵を二つに切断したもので、一つはカリフォルニアのゲティ美術館にあり、もう一つの「コルティジャーネ」はイタリアにある。

コルティジャーネは下の部分だ。

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出展: Wikipedia

二つをつなぎ合わせた絵はつぎのようになる。

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出典:本書口絵


ランゲルハンス島

ランゲルハンス島とはすい臓にあるインシュリンを分泌する島のように見える細胞の集合体で、これが損傷を受けると糖尿病を発症する。

この本ではランゲルハンス島の写真を彩色した写真を載せており、あたかも緑の島の用に見える。

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出典:本書口絵

すい臓はちょうどみぞおちの辺りにあり、インシュリンを含む消化酵素をつくって小腸に供給している。消化酵素は多種類あり、タンパク質を個々のアミノ酸に分解する。

ひとたびすい臓に異常が生じると、背中に痛みを感じるという。すい臓の分泌する消化酵素が小腸でなく、間違った方向に分泌されると、血液に漏れだしたり、自分自身の細胞を消化してしまう。

これがすい炎で、激しい痛みを引き起こす。


不治の病・すい臓ガン

すい臓ガンは最も治療困難なガンの一つだという。すい臓にメスを淹れる事自体が、すい臓細胞を破壊し、自己消化を起こす原因となるからだ。

病気療養中のアップルのスティーブン・ジョッブスが最近iPad2の発表に出演したが、彼もすい臓病だ。



2005年のスタンフォード大学の卒業式スピーチで、当初余命3−6ヶ月と言われたが、彼の場合は手術できるタイプの珍しいすい臓ガンだったことがわかり、医者は涙を流して喜んだという話を告白している。

次の日本語字幕版第2部の1分めのところだ。



日本語字幕版の残りの部分は「スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ」というタイトルで3部構成でYouTubeにアップされているが画像が悪いので、英語版も紹介しておく。日本語字幕版はYouTubeで検索して欲しい。

英語字幕版では次の第2部の3分めのところだ。Pancreas(パンクレアス)とはすい臓のことだ。



順序が逆になるが、英語字幕版第1部は次の通りだ。



実は筆者の親友の奥さん・本城展子さんが1年半の闘病の末、すい臓ガンで先日亡くなった。彼女の闘病生活が激しい痛みに耐えたものだったことを思うと、涙が浮かぶ。

本城君には悲しみを乗り越えて、展子さんの分も生きて欲しいと心から思う。


食品の保存料・ソルビン酸

「相模原 2008年6月」というのは、福岡教授が教鞭を執る青山学院大学の相模原キャンパスでの保存料のソルビン酸についての講義だ。

コンビニのサンドイッチには保存料が使われている。

空気中には微生物がたくさん居て、微生物はサンドイッチなどの食べ物のなかで加速級数的に増える。もし保存料がないと、すぐに食物は腐って食中毒が続発する。

コンビニの消費期限表示は、安全を見て限度の72時間の半分の36時間にしているので、コンビニの食品は消費期限を少しぐらい超えても腐らない。

保存料が細菌が繁殖するのを抑えているためだ。保存料は細菌には毒だが、微量なので人体には害はないというわけだ。

ソルビン酸は、いつでもどこでも安価なサンドイッチが食べられるという便利さと引き換えに、最低限度の必要悪として使用されている。


データねつ造スキャンダル

第8章のニューヨーク州イサカ 1980年1月が、この本のもう一つの主題だ。

イサカはアイビーリーグの名門校コーネル大学がある場所だ。ニューヨーク州の北、シラキュースの近くにある。

筆者はシラキュースに取引先があったので、時々訪問した。航空機エンジンやタービンに使われる超合金メーカーで、30年ほど前に新日鉄が買収に乗り出したが、米国防総省の反対で買収は成立しなかった。

その後しばらくしてフランスの会社が買収したときは、すんなり認められて、アメリカの日本への警戒心に驚かされた記憶がある。

シラキュースの近くのフィンガーレイク地方のオーバーン(フットボールが強くて有名なアラバマ州のオーバーンではない。電気イス死刑が初めて執行された町)には関連会社があり、何度もこの地区を訪問したので親しみがある。

そのイサカにあるコーネル大学生物科学部エフレイム・ラッカー教授の研究室で起こった研究データねつ造スキャンダルを取り上げている。

食物は消化されブドウ糖に分解されて細胞に取り込まれる。ブドウ糖は酸素を使って燃やされ、熱エネルギーを放出するとともに、一部はATPとして蓄えられる。ATPはATP分解酵素というタンパク質により、ADPとリン酸に分解され、この時にエネルギーが放出される。

ラッカー教授はガンはATP分解酵素の異常が原因という仮説を立てた。証明できれば、間違いなくノーベル賞ものだ。

50人からのポスドクを動員しても実験は進まなかったが、ある時大学院に入りたての新入生が2か月で意味のある研究成果を出し学会誌に発表した。研究者の名前はマーク・スペクター。大学院1年生なのに、一躍教授のお気に入りになった。

しかしラッカー教授の共同研究者がたまたま訪問したスペクターの実験室にガイガーカウンターがあることを不審に思い、調べてみると実験成果はねつ造であることがわかった。

スペクターは詰問されて姿を消し、ラッカー教授は失意の内に亡くなった。

ラッカー教授はスペクターのことを「直すすべのない病」="incurable"と呼んだという。これが全編を貫く"incurable"の完成だ。


前作より説明が多く内容がややむずかしいが、分子生物学研究の影の部分のねつ造スキャンダルをミステリー仕立てに構成しており楽しく読める。

この本に刺激されて「アメリカ版 大学生物学の教科書」という全3巻のブルーバックスを読み始めた。こちらも読んだらあらすじを紹介する。

カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学 (ブルーバックス)カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学 (ブルーバックス)
著者:クレイグ・H・ヘラー
講談社(2010-02-19)
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前作同様楽しく読める作品だった。


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Posted by yaori at 00:27│Comments(0)TrackBack(0) 自然科学 | 福岡伸一

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