2011年03月18日

中国最大の敵 日本を攻撃せよ 中国軍現役大佐のトンデモ戦争論

中国最大の敵・日本を攻撃せよ中国最大の敵・日本を攻撃せよ
著者:戴旭
徳間書店(2010-12-17)
販売元:Amazon.co.jp
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中国空軍現役の戴旭(ダイシュイ)大佐の世界軍事情勢分析と対日米戦争論。戴旭大佐は中国の有名な軍事専門家ということで、著作も多く北京大学の中国戦略研究センター研究員も兼任している。

このブログで田母神元航空幕僚長の「座して平和は守れず」などを紹介しているが、戴旭大佐は中国で30万部も売れているというトンデモ本を出版して何のおとがめもないのが大きな違いだ。

決して中国の支配層を代表する意見とは思わないが、こういう見方もあるということを知っておくことは、日米両国には役立つと思う。

この本はアマゾンのなか見!検索に対応していないので、サブタイトルまで含めた目次を紹介しておく。この本の内容が大体推測できると思う。

第1章 日米のC型包囲網を突破せよ
 1  中国の出口を閉ざす「海上包囲網」
 2  鉄格子を撃ち込まれた「陸上包囲網」
 3  アメリカの標的は、イスラム世界、ロシア、中国に絞られた
 4  中国はまもなく戦争に突入する
 5  中国は三たび分割の危機に直面する
 6  中国をむしばむ国内のガン
 7  今こそ中国は勇敢に戦争を肯定せよ

第2章 中国は日本との戦争が避けられない
 1  日本という猛獣が凶器を手にする日
 2  右傾化しはじめた日本は何を狙っているのか
 3  中国は日本の「戦争」にいかに対処するか
 4  日本はその正体を決して見せない
 5  300年にわたる「抗日戦争」はまだ続くのか
 6  琉球は日本のものではない
 7  迎撃ミサイルは、アメリカによる日本への新しい首輪

第3章 中国空軍はこうして戦う
 1  ラプターを狩れ!
 2  中国が目指す次世代戦闘機開発
 3  「J−8精神」で自主イノベーションを起こせ
 4  「攻防一体」を担う戦闘機の開発を急げ
 5  ステルス機には長距離弾道ミサイルで対抗する
 6  2015年にステルス機を完成させる日本の魂胆
 7  中国はいかに攻め、いかに守るか
コラム 金融危機はアメリカが仕掛けた戦争だった

第4章 中国軍は陸海でこう戦う
 1  時代遅れの陸軍をすぐに改革せよ
 2  日本とロシアを捕捉せよ
 3  中国海軍は自国領海内の存在感を高めよ
 4  南沙進出が中国の未来を決める鍵
 5  国家利益を守るため一流の海軍を建設せよ
 6  中国は空母を所有し、占領された島々を奪還せよ
コラム アメリカの「反テロ」の本当の標的はロシアだ

第5章 強大な中国が世界を救う
 1  中国は世界の覇権など狙っていない
 2  中国が目指すのはアジアの大国
 3  中国を侵略する勢力に対する攻撃
 4  中国が強大になれば世界は平和になる
 5  正義の戦争は中国発展のチャンス


読んでいてバカらしく思えるような過激なタイトルが並ぶ。


中国は日本との戦争が避けられない?

この本が生まれた遠因には、レーガン政権で国防長官を7年間勤めたキャスパー・ワインバーガー氏が書いた「ネクスト・ウォー」という本がある。

ネクスト・ウォー―次なる戦争ネクスト・ウォー―次なる戦争
著者:キャスパー ワインバーガー
二見書房(1997-05)
販売元:Amazon.co.jp
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今度この本も読んでみるが、こちらの本では2007年に日本戦艦が中国領海内に侵入し、強力なコンピューターウィルスをまき散らすロジック爆弾を中国と台湾に発射し、すべての運輸・航空管制・社会基盤システムを破壊する。中国軍が機能停止している間に日本軍は中国、台湾に飛行機による爆撃と巡航ミサイルを雨のように振らせ、そのうち中国はやむなく講和を受け入れるというシナリオだという。

しかし空軍力で圧倒した後は、歩兵が侵攻しなければならないわけで、ワインバーガー氏が描く先制攻撃など、中国にとっては即時講和を望むほどのダメージにはならないだろう。

日本は侵略戦争の準備はほとんどなく、とりわけ兵力を敵地に送り込む”パワープロジェクション能力”がゼロであることは、以前紹介した故江畑謙介さんの「日本に足りない軍事力」の通りだ。

今回の東北関東大震災でも、自衛隊の災害支援トラックを米軍の揚陸艦が運んでいるところをテレビが報道していた。道路が渋滞でマヒしている今回のような災害出動の場合、米軍の力を借りないと日本国内でさえ自衛隊は大規模輸送ができないというのが現実だ。

パワープロジェクション能力のない自衛隊が中国侵略に大軍を繰り出せるとは思えないし、空爆や巡航ミサイルで圧倒できるほど中国は小さい国ではないことは第2次世界大戦が証明している。

たぶん「中国も空軍力を増強すべき」という結論を誘導したいのだろう、戴旭大佐はこのような仮想攻撃がトム・クランシーの"Clear and Present Danger"(いま、そこにある危機)のように、すぐにも現実化する脅威だと喧伝したいようだ。

いま、そこにある危機〈上〉 (文春文庫)いま、そこにある危機〈上〉 (文春文庫)
著者:トム クランシー
文藝春秋(1992-06)
販売元:Amazon.co.jp
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”日本は新型軍用大型機の開発で中国からリードを奪おうともくろんでおり”、ヘリ空母を持ち、国産のC−X輸送機P−X哨戒機を開発し、国内に数千発の原子爆弾がつくれるプルトニウムを貯蔵していると戴旭大佐は語る。


ステルス戦闘機の脅威と中国の対抗策

この本ではF−22ステルス戦闘機を、大きな脅威と位置づけており、日本がF−3導入計画でステルス能力のある国産戦闘機を製造するようになると、さらに大きな脅威になると警告している。

F−22

F-22






出典: Wikipedia

そしてF−22に対抗する手段は、ステルス機の航続距離≪2,000キロ)の外から長距離弾道ミサイルで基地や空母を叩くことだと語る。

たとえば精密装備を持たないコストの安い無人機を10万機くらい持ち、衛星測位システムにより誘導して爆弾を持たせて敵を攻撃するという「人海戦術」ならぬ「機海戦術」もあると語っている。

中国が最近「殲ー20」というF−22そっくりのステルス戦闘機のテストフライトに成功したことが報じられたが、中国も自前ステルス戦闘機開発に拍車を掛けているようだ。



この本の第5章のサブタイトルのひとつのように「中国は世界の覇権など狙っていない」なら、なぜ自前のステルス戦闘機が必要なのか理解に苦しむところだ。


南沙地域が中国の生命線

「満蒙は大日本帝国の生命線」というのは、戦前の日本のスローガンだったが、戴旭大佐は「南沙進出が中国の未来を決める鍵」と語っており、非常に違和感を覚えるところだ。

南沙列島は中国がフィリピン、マレーシアなどと領有権を争っている地域だ。

この本によると、この南沙地域には数百億トンの石油と天然ガス資源があるという。そして既に石油と天然ガスの生産は、中国の近海石油・ガス生産量の数倍の規模だという。

南沙諸島にそれだけの天然資源があると推測している根拠は、「権威ある部門の推計による」と書いているが、参考までに世界で最も「権威ある」BPの世界のエネルギー資源の統計を紹介しておく。

次のグラフはすべてBPがホームページで公開している資料だ

世界の国別石油埋蔵量

oil_reserve_2010











世界の国別石油生産量

oilproductionstatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











世界の国別天然ガス確定埋蔵量

gasreservestatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











世界の国別天然ガス生産量

gasproductionstatistical_review_of_world_energy_full_report_2010











少なくとも今の確定埋蔵量や生産量では、南沙周辺や尖閣列島周辺に戦争をしてまで争うほどの大規模な化石燃料資源があるとは思えない。


中国のGDPは年8−9%で成長しており、軍事費も10%以上の伸びを示している。

本のタイトルが刺激的が、現役の中国軍人が日本やアメリカをどう見ているのかがわかって参考になる貴重な資料だと思う。


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Posted by yaori at 13:10│Comments(0)TrackBack(0) 中国 | 自衛隊・安全保障

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