2011年04月18日

日銀エリートの「挫折と転落」 木村剛「天、我に味方せず」

日銀エリートの「挫折と転落」−−木村剛「天、我に味方せず」日銀エリートの「挫折と転落」−−木村剛「天、我に味方せず」
著者:有森 隆
講談社(2010-11-30)
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竹中平蔵慶応大学教授の右腕といわれた元日銀マンの木村剛(たけし)さんが創設の旗振りとなった日本振興銀行の破たんを中心に一連の不祥事を描いた本。

著者の有森隆さんは、インターネットバブルで一躍注目されたベンチャー企業創業者についての本や、オリックスの宮内さんの「政商」ぶりを書いた作品をいくつも出している。

強欲起業家 (静山社文庫)強欲起業家 (静山社文庫)
著者:有森 隆
静山社(2010-09-07)
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「規制改革」を利権にした男 宮内義彦-「かんぽの宿」で露見した「政商の手口」 (講談社プラスアルファ文庫)「規制改革」を利権にした男 宮内義彦-「かんぽの宿」で露見した「政商の手口」 (講談社プラスアルファ文庫)
著者:有森 隆
講談社(2009-04-20)
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この本では木村剛さんが中小企業への無担保融資を拡大するという高い理想を持って創設した日本振興銀行が、結局は違法高金利ローンのロンダリング銀行となり、銀行法・出資法違法行為を繰り返して破たんし、日本初のペイオフが実施された顛末を描いている。

木村さんは小泉元首相の参謀役として小泉改革を先頭になって推し進めた竹中平蔵慶応大学教授の右腕と言われた存在だった。

この本は木村さんの最大の支援者だった竹中平蔵さんについても、真偽のほどが不明な情報をいくつも載せている。


竹中平蔵批判オンパレード

★政界を引退した竹中さんが立ち上げたのが経済政策専門家集団「チーム・ポリシーウォッチ」で、木村さんも主力メンバーンの一人だった。しかし木村さんが逮捕されるとすぐに木村さんの名前を削除したという。

竹中さんは「木村容疑者と個人的なつきあいはない」とコメントしたと新聞で報道されている。すぐに木村さんと距離を置いたのだ。木村さんの雑誌「フィナンシャル ジャパン」にも登場し、木村さんを子分同様に支援してきた竹中さんなので、手のひらを返したような変わり身には驚かされる。

★竹中さんは小泉内閣の大臣職を歴任したが、民間出身の大臣は国民の信任を得ていないとして政治家に軽く見られたことに反発して、2004年に参議院議員に当選している。

しかし小泉首相が退任したら、竹中さんも任期を4年残してさっさと参議院議員を辞任して、ほどなく慶應大学教授に復帰した。

★竹中さんに目の敵にされたのがUFJグループだ。金融庁の特別検査チームがUFJに乗り込み、不良債権比率の高いことが明るみにでて、東京三菱銀行に吸収合併され、三菱UFJ銀行となった。

★竹中さんが「大銀行でも破たんはありうる」と言っていながら、りそなを逆転救済したので、外資系ファンドは莫大な利益を上げたという説がネット上で流布している。

「竹中金融相ら政策決定者が機密情報を流した」と指摘した植草一秀さんは、痴漢容疑で逮捕され、「ミラーマン」と揶揄され、事実上社会から葬られた。ちなみに植草さんは、「日本の独立」という「米・官・業・政・電」利権複合体の陰謀説についての本を昨年出版している。大体内容が推測できるが、今度読んでみる。

日本の独立日本の独立
著者:植草一秀
飛鳥新社(2010-11-20)
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★竹中さんは、ゴールドマン・サックスが三井住友銀行の5,000億円の増資に応じる前に、来日したゴールドマンの会長で、後のブッシュJR政権財務長官のヘンリー・ポールソンと会談している。

竹中さんがゴールドマンに三井住友銀行は国有化しないと明言したことから、三井住友銀行の西川頭取を救い、それから西川さんと竹中さんの仲が急速に緊密化したのではないかと有森さんは、推測している。

これはまさに植草一秀さんが「植草一秀の『知られざる真実』」というブログに「日本振興銀行をめぐる黒い霧」というタイトルで書いている通りだ。

竹中平蔵さんが「外資の走狗」という非難を浴びるのは、小泉内閣の閣僚でありながら、メガバンクの外資への売却を吹聴してまわったことから来ていると有森さんは語る。

先日読んだ「エコノミストを格付けする」という本でも、竹中さんは「これほどあけすけに、アメリカの金融界との間に立つ「フィクサー」として振る舞っていながら、多くの読者の支持を得ていることが不思議で仕方がない」として、2009年版では25名の著名エコノミストランキングの最下位グループ(格付け”B3”=投資不適格)と酷評されている。

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出典:「エコノミストを格付けする」213ページ

このブログでも「竹中式マトリクス勉強法」「経済古典は役に立つ」などの竹中さんの本を紹介している。書いていることはまともだと思うが、「外資に日本を売り渡した」という評価をしている人が多いようだ。


日本振興銀行の設立

日本振興銀行は、木村剛さんがアイデアを出して、消費者金融に資金を提供していたノンバンク「オレガ」の創業者の落合伸治さんが、2003年4月にJC(青年会議所)メンバー他から20億円の出資を確保して銀行免許を申請し、わずか4ヶ月で金融庁に銀行設立予備免許を取得した。

木村剛ー竹中平蔵ー伊藤達也(竹中平蔵の後の金融相)ー五味廣文金融庁長官という人脈の効果だという。

日本振興銀行の「担保に貸すな!人物に貸せ!」というのは、安田銀行創設者安田善次郎の「一にも人物、二にも人物、その首脳となる人物如何」という言葉を借りたものだという。

安田財閥の始祖、安田善次郎については、北康利さんが「陰徳を積む」という本を書いているので、今度あらすじを紹介する。安田銀行の直系の銀行である富士銀行出身の北康利さんが書いているので、富士銀行内でのエピソードも紹介しており、大変参考になる本である。

陰徳を積む―銀行王・安田善次郎伝陰徳を積む―銀行王・安田善次郎伝
著者:北 康利
新潮社(2010-07)
販売元:Amazon.co.jp
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閑話休題。

しかし創業社長の落合伸治さんは、とかく悪い噂のある人なので、結局日本振興銀行が正式に事業を開始してから、すぐに木村さんは落合さんを追い出す。

木村さんが第三者割り当てを次々と引き受けて持ち株比率をアップして、経営権をにぎったのだが、それができたのは日本振興銀行から木村さんのファミリー企業に迂回融資させた金を使っているのではないかという噂が流れたという。

木村さんは落合さんとの権力闘争に勝ったら、資金を回収するためにファミリー企業の持つ株を売ると思われたが、どこにも売れず、やむなく自ら社長として乗り込むこととなった。


日本振興銀行の乱脈経営

★元々中小企業に無担保融資をするために設立された日本振興銀行だが、中小企業向けのファイナンス取引が伸びないので、途中で高利で貸し付けている町金、ノンバンクの債権の買い取りを主なビジネスとした。

★関西のホリエモンといわれたBBネット社長の田中英司さんがつくったBBネットファイナンスという金融子会社との提携を強化し、木村さんは「新規の融資は全件BBネットを通しなさい」と行内で指示していたという。しかしBBネットファイナンスは銀行代理業務免許を受けておらず、銀行法違反の疑いがあった。

2007年夏に「コンプライアンス経営」を掲げて、執行役七人がクーデターを起こしたが、木村さんの巻き返しにあって腰砕けにおわった。

★日本振興銀行の経営が火を噴いたのは、商工ローン大手SFCGが2009年に民事再生法の適用を申請してからだ。SFCGはローン債権を二重譲渡して日本振興銀行は600億円だまし取られたという。

SFCGは高利で不当に得た過払い利息が2100億円に上る見込みだったので、グレーゾン金利撤廃で、過払い利息を払い戻すくらいなら、会社を潰した方がよいと思ったのではないか?潰す前にカネになるものは、何でも売れということで日本振興銀行にローン債権を二重売りしたのだ。

SFCGの社長大島健伸さんは「ナニワ金融道」を地でいく強欲金貸しだったという。

ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)
著者:青木 雄二
講談社(1999-03-12)
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他の役員報酬は30万円/月にしていたにもかかわらず、SFCG破綻前に自分の報酬を月額1億円に上げたという。これが本当だとしたら、まさに会社を私物化する行為であり、モラルもなんにもない人物だったということがわかる。

大島さんは1998年のフォーブス長者番付で174位の総額2520億円とランキングされたこともあ、渡部昇一さんとの共著で「億万長者の教科書」という本も出している。

異端の成功者が伝える億万長者(ビリオネア)の教科書異端の成功者が伝える億万長者(ビリオネア)の教科書
著者:渡部 昇一
ビジネス社(2004-11)
販売元:Amazon.co.jp
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金融のエリートといわれてきた木村剛さんが、海千山千の大島健伸さんにババを掴まされたのだが、その木村さんもSFCGの足元を見透かして年率40%の金利を取っていたという。

★日本振興銀行グループは、「中小企業○○機構」という、いかにも政府系金融機関のように見える名前をグループ企業につけている。

中小企業振興ネットワークの直系企業は次の5社だ。これらグループ企業間で、迂回融資、見せかけ融資、飛ばしが行われていたという。このうちNISグループはグレーゾーン金利の消費者金融から撤退し、自ら日本振興銀行グループ入りした。


・中小企業管理機構
・中小企業信用機構
・中小企業保証機構
・中小企業投資機構
・NISグループ

木村さん逮捕と日本振興銀行の実態は、NHKのニュースでも詳しく説明している。



結局日本振興銀行の預金は、2010年9月10日、日本初のペイオフが実施された。5,820億円の預金のうち、1,000万円を超えてペイオフの対象とならないのは1.9%の110億円だったという。

日本振興銀行は定期預金しか扱っておらず、ペイオフになれば約定の年1.9%という高金利が保証される。しかし途中解約してしまうと、利息は大幅に減る。ペイオフで元利は保証されているので、預金者も満期まで預けたままの方がメリットがあるので、預金の払い戻しの混乱も起きなかった。



日本初のペイオフに金融界からは驚きの声が上がったが、日本振興銀行は特殊ケースでもあり、普通の銀行が破綻すれば、金融庁は今まで通り、ペイオフを実施しないケースもありうると有森さんは語る。

最後に有森さんは、小泉純一郎元首相には構造改革という「時代精神」が宿っていたが、構造改革の切り込み隊長の竹中平蔵さんも小隊長の木村剛さんも「壊し屋」で終わり、「あだ花」だったと結論づけている。

結局木村さんは政策立案のプランナーであって、自分を過信して「けもの道」に入ったのがそもそもの間違いで、日本振興銀行の経営者としてやってきたことは、モラルなきルール違反の連続だったという。

この本で有森さんが書いていることが正しいのかどうか、いずれ木村さんの裁判の判決が出るので、その時に明らかにされると思うが、それにしてもいいかげんな銀行があったものである。

石原さんが4期目の都知事になったので、新銀行東京はまだ長らえ、そのうちどこかの銀行が吸収合併というようなことになるのではないかと、筆者は予想している。

石原慎太郎都知事は日本振興銀行破綻直後に、木村剛さんの中小企業支援の理念は評価しているとのコメントを発表している。



新銀行東京でも、中小企業向けローンを獲得するために、日本振興銀行と同じような乱脈経営になっていないことを願う。


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Posted by yaori at 12:53│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 自叙伝・人物伝

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