2011年09月02日

中国の言い分 サーチナ編集主幹の鈴木秀明さんの本

中国の言い分 〜なぜそこまで強気になるのか?〜 (廣済堂新書)中国の言い分 〜なぜそこまで強気になるのか?〜 (廣済堂新書)
著者:鈴木 秀明
廣済堂出版(2011-01-18)
販売元:Amazon.co.jp
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「サーチナ」編集主幹・鈴木秀明さんによる中国人の本音紹介。

前回の加藤嘉一さんの「われ日本海の橋とならん」を紹介した後で、中国シリーズが続くが、大変参考になる本だったので紹介しておく。

ちょうど2010年の中国のレアアース輸出制限の影響で、エアコンが5〜15%値上げされるというニュースが報道されているので、レアアース問題の背景も解説したこの本が参考になる。

サーチナは2000年代初めに中国株投資熱が注目されてきた頃から、急速に存在感を増した中国情報のポータルで、中国株投資をする場合には必須の情報サイトだ。

著者の鈴木さんはサーチナの編集主幹で、レアアース問題、靖国問題、ノーベル平和賞劉暁波氏に対する人権問題、北朝鮮問題など、ともすれば中国人と日本人のマスコミや世論が異なる問題を12件取り上げ、それぞれに中国人の本音、見方をわかりやすく解説してる。

サーチナが中国情報サイトだからといって、決して中国寄りの見方を紹介しているわけではない。たとえば尖閣諸島問題では、1884年から魚釣島に移住して開拓を進めた日本人の貸与願いを受け、清国の支配が及んでいる形跡がないことを10年間かけて確認の上、1895年に国際法上の「無主物先占」原則を適用して日本領に編入したという客観的事実を説明している。

尖閣問題は中国の資源ねらいという見方があるが、実は資源はたいしたことはなく、愛国教育を叩き込まれた若者の政府への不満を爆発させないために日本を強く批判しているのだというのが鈴木さんの見立てだ。

もっとも参考になったのは日本人と中国人は見かけは同じだが、価値観やものの見方はまったく異なるという、当たり前ではあるが、つい忘れてしまう指摘だ。

これを象徴するのが、同じ漢字を使っていてもニュアンスが異なり、誤解のもとになる事例だ。

例えば「原則」という言葉は、いわゆる「和製漢語」の一つだが、日本では例外もありうるというニュアンスがあるが、中国では絶対に譲歩できない議論の前提である。小泉内閣の時に田中真紀子外務大臣が、国会で「中国はこのことを原則と主張しており」と発言すると、「単なる原則だろ!」というヤジが飛んだという。こんなところにも誤解を招く落とし穴がある。

中国は被害者意識が強く、加害者になる恐ろしさをしらないという。非常に参考になる本だが、最後に鈴木さんは差別的発想はしないでくれとくぎを刺している。


★レアアース問題

尖閣列島での漁船衝突問題とレアアース輸出制限が重なったのは報復ではない。たまたま時期が重なっただけ。

中国は世界で流通するレアアースの9割を生産しており、小平はかつて「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」と語った。

レアアースは世界中に賦存しており、米国やオーストラリア、ブラジルなどにも資源はある。しかしレアアースの採掘の際にトリウムという放射性物質が混入し、環境汚染を引き起こすので、トリウム除去のためにレアアース採掘コストが上がる。

レアアースの価格は中国との競争が激しく長く低迷していたため、中国を除くほかの国はレアアース生産から撤退してしまった。

中国では環境保護規制がなかったため、最大の生産地の内モンゴル自治区の包頭市では工場排水が飲料水に流入するという大問題が起こった。計画採掘が行われていないので、最も条件の良い鉱床から濫掘され、今では中国のレアアース埋蔵量は世界の30%にまで落ち込んだ。

このままではいずれ中国のレアアースは枯渇し、将来は中国は外国から高いレアアースを輸入しなければならなくなる恐れもあるということで、輸出制限を発動したのだ。


チベット問題

チベットは元の時代から中国の領土であり、外国からとやかく言われる筋合いはない。

中国によるチベットの併合は、ダライ・ラマ以下の貴族に搾取されていたチベット人民の解放である。

中国が少数民族を迫害しているという事実はない。むしろ一人っ子政策を適用しないとか、大学の入学にはゲタを履かせるとかで少数民族を優遇する米国のアファーマティブアクションのような政策を実施している。


★劉暁波氏のノーベル平和賞受賞

劉暁波氏は1989年の天安門事件で「国家政権転覆扇動罪」で裁かれて服役中の犯罪者であり、その犯罪者にノーベル平和賞を授与することは、1999年のダライ・ラマのノーベル平和賞受賞と同じ、西側の政治的な意図の表れである。


★中国の経済格差問題と蟻族

小平は社会主義市場経済を推し進めることにより「格差の出現も一時的にはやむを得ない」と言った。その後の経済発展により経済格差は拡大した。江沢民政権は2000年になって西部大開発を打ち出し、沿岸部と内陸部の経済格差是正に着手した。

しかし格差問題は、「都市部と周辺農村部」、「勝ち組と負け組」、「企業経営者と労働者」といった複雑な様相を見せてきて、江沢民政権は格差解消にはさじを投げた。

都市と農村部の格差は拡大しており、農村部では一日100円以下の貧しい生活をしている住民が大勢いる。都市部でも地方から出稼ぎに来ている農民工は、病気になってもまともな治療が受けられないほど貧しい。黒診所という無許可の診療所に行き、満足な医療が受けられず死亡するケースも出てきている。

都市部のもう一つの問題は、大学を卒業してもホワイトカラーの就職口が少ないので、まともな職業に就けないため大勢で狭い部屋に暮らす蟻族と呼ばれる若者が急増している。

蟻族はインターネットを使い慣れているので、何かあるとインターネットで「炎上」するような騒ぎを起こしがちだ。

政府は経済格差で国民の不満が爆発することを最も恐れており、蟻族は政府がもっとも警戒している対象である。国民の不満が中国政府に向けられないように、時にはパフォーマンスも必要となる。尖閣列島の中国漁船衝突事件の時のように、日本を強硬に非難し、真夜中に丹羽中国大使を呼びつけるなどのパフォーマンスを行っているのはそのあらわれと見られる。


★人民元問題

アメリカが人民元の切り上げを迫ってきているが、日本がプラザ合意以降の円高で競争力を失い、日本経済が停滞に陥った例も見ているので、中国は日本の轍は踏まない。

当時の日本のように中国はアメリカ国債を大量に保有しているので、切り上げれば損失が発生する。投機マネーに狙われることになるので、一気の切り上げは危険だ。切り上げで中国経済が冷え込むと、各国の対中輸出に影響が出るという問題もある。

中国は2007年にそれまでの1ドル=8.28元という固定相場をやめ、通貨バスケット制に移行した。その後だんだんに人民元を切り上げ、現在は1ドル=6.5元となっている。

日本円は1971年に1ドル=360円から、308円に切り上げられ、変動相場制に移行直後の1973年に260円となり、1995年の79.75円まで円高が進行した。日本が変動相場制で急激な円高に苦しんだ歴史を見ているだけに、中国は為替レートを一気に切り上げるのには慎重なのだ。

一方中国はドルが基軸通貨である体制にも疑問を持っており、ロシアのプーチン首相と二国間の決済はそれぞれの通貨で行うことを発表し、ドル離れに一歩踏み出している。


★環境問題

中国は環境問題を深刻に受け止めている、しかしそもそも先進国の企業が中国に進出して工場をつくって製品を作りまくったから環境問題が発生したのだ。一人当たりの温室効果ガスの排出量は中国よりもアメリカのほうがはるかに多い。


中国では水道水は汚染されていて飲めないとか、土壌も汚染されているので野菜なども安全性に問題が生じ、野菜が洗える洗濯機まで売り出されている。

生活にゆとりのある中国人は、外国のミネラルウォーターを飲み、外国産の米や野菜を食べる。日本の有機野菜などは値段が高くとも中国で人気があるという。

日本は衛生面で中国に信頼されているので、日本製の粉ミルクなどはよく売れる。日本は自らの努力で環境汚染問題を克服し、経済成長も両立させたという高い評価がある。

米国のネットメディア・ハフィントン・ポストは2010年9月に世界で汚染が進んだ9つの地域のナンバーワンとして山西省の臨汾市を挙げ、汚染が最悪で洗濯物を干すと、夕方には黒くなっていると指摘している。まるで筆者の住んでいた米国の鉄の町ピッツバーグの1940〜1950年代頃の姿の様だ。

中国では旧式の石炭火力発電所が各地にあり、日本の発電所では100%装備されている脱硫・脱NOX設備を備えていない。急増する自動車からの排気ガスもあり、大気汚染がひどいのだ。

比較のために、中国と日本のエネルギー構成のグラフを紹介しておく。中国の石炭依存度の高さが際だっていることがわかる。

energy balance China






energy balance Japan







★中国には共産党以外にも8つの政党が存在するが、それらは全部ひっくるめて民主党派と呼ばれ、原則として共産党の友党で、すべて共産党と協調して政治を動かそうという立場である。

習近平

次期主席と目される習近平氏は1953年北京生まれ。清華大学化学工学部を卒業した後は、政治家秘書として活動。浙江省、上海市の行政トップを歴任し、江沢民に引き立てられた。

習近平の父親の習仲勲は共産党政治局常務委員までなった人物だが、1966年の文化大革命で失脚し、習近平自身も辺鄙な農村の人民公社で農作業に従事した。

いわゆる太子党と呼ばれる有力者の子弟だが、父親の権力を利用せず、地方政府に職を得て、下働きから始めたということでおおむね国民から好印象を持たれているという。

習近平の奥さんは有名な歌手の彭麗媛(ほうれいえん)だ。人民解放軍の少将で、総政治部歌舞団団長というポストだ。習近平が廈門市長だった1986年に結婚した。

胡錦涛などの共産主義青年団(共青団)出身者の「共青団派」と江沢民をトップとする「上海閥」は権力闘争を繰り広げているが、今のところ「上海閥」の習近平が胡錦涛の後継者となる路線に影響はないようだ。


★靖国問題

中国への侵略戦争を実行した戦犯を祀る靖国神社へ日本政府要人が参拝するのは、侵略戦争を正当化するのに等しい行為。特に小泉元首相が靖国参拝をしたのは絶対に許せない。中国側の配慮を無視した裏切り行為だった。

あの侵略戦争は日本の一部の軍国主義者がやったことで、日本国民はだまされた被害者だ。そこまで譲歩した理屈をつくってあげているのだから、軍国主義者を祀る神社への参拝は辞めて貰いたい。


中国では1980年代から「愛国教育」と称して小中学生の教科書にかなり大きく「南京大虐殺」を取り上げている。中国人にアンケートを取ると、日本で思い浮かぶことのトップが「南京大虐殺」の65%という結果が出ている。

戦後日本は中国に対して20回以上も謝罪や侵略戦争に対する反省を公にしているが、中国人の多くは「日本人は口では謝罪していても心の中では反省をしていない」と思っている。

先日図書館で借りて「靖国」という映画を見た。台湾人監督が隠しカメラで盗み撮りしたような映画で、何かの記念日で旧軍人が軍服で行進する場面もあり、日本人はいまだに軍国主義者ばかりだと思わせるような内容だった。

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胡耀邦総書記は靖国問題が原因で失脚したと言われている。胡耀邦総書記は中曽根首相と仲が良かったが、その中曽根首相が終戦記念日に靖国神社を参拝したので、窮地に立たされた。

胡耀邦総書記は日本の戦犯に対しても「愛国主義者だったが、あまりにも狭い考え方で国を誤った。つまり『誤国主義』に陥り、多くの人に災いをもたらした」として、日中両方の若者に愛国心と国際的な広い視野の両方を身につけるように求めた。

しかしこの考えは中国人には到底受け入れられる考えではなかった。靖国問題が契機となり、胡耀邦総書記失脚したので、中国の政府中枢にいる政治家は、「日本に甘い顔をするとひどいめに会う」との思いを強めたという。

ちなみに天安門事件の契機は改革派の胡耀邦総書記が死去したことを悼む学生が天安門の前に集まったことだ。

胡錦涛も胡耀邦に引き立てられた人物なので、過度の愛国心には警戒感を持ち、歴史問題は蒸し返さないという立場だった。しかし小泉首相が靖国神社を繰り返し訪問したことで、江沢民前主席らが胡錦涛を攻撃し、「軟弱姿勢を示したせいで、日本は対中外交の原則を踏みにじった」と非難され窮地に立たされた。

首相が靖国神社を訪問しただけで、どうしてそんなに中国が大騒ぎするのか日本人には理解出来ない部分もある。これは中国共産党の正当性の最大の根拠が「日本の侵略から中国を守った。共産党にしかできなかった偉業だ」ということだからだ。

つまり日本との関係回復と、戦争責任問題のジレンマを解決する論理が、「すべての責任は日本の軍国主義者にあった。日本の人民は中国の人民と同様に、戦争の被害者だった」というものなのだ。

日本と国交を樹立し、友好関係を築くにあたっての中国側の論理は、「日本に軍国主義者はいない。過去の戦争については反省している。だから対等の立場でつきあえる」というものなのだ。だから日本の首相が靖国神社を参拝すると国内的にも説明できなくなってしまうので、日本を厳しく非難するのだ。

中国の政治指導者は立場上「戦争責任はすべて”軍国主義者”に負って貰うことにした。そのシンボルはA級戦犯だ。日本の立場を考え、互いにうまくいくようにしたじゃないか」とは言えない。

心の底では「日本の政治かはどうして、こんなことを問題にしてしまうのか。避けようと思えば、避けられるではないか。政治センスのかけらもない」と舌打ちしているのだろうと。

中国には悪いことが起きると、問題を発生させた本人にすべて責任を押しつけることが一般的で、4人組が良い例だという。文化大革命では4人組以外の多くの人が加わったのだが、罰せられたのは4人組を中心とした一部の人だけだった。

つまり「悪いのはすべて4人組」は免罪符の機能があり、日中関係でも「悪いのはすべて軍国主義者」が免罪符となるのだ。

「死者を鞭打たない」という考え方は中国にはない。むしろ死者の墓を暴くことが歴史上頻繁に行われている。伝統的な発想の違いも問題がこじれる大きな原因となっている。


★北朝鮮問題

中国と北朝鮮には朝鮮戦争以来の血の友誼(ゆうぎ)があるといわれている。これは朝鮮戦争の時に中国が人民志願軍を送って共に戦ったことから生まれた意識だが、実際にはイデオロギー的な連帯感はない。

中国は北朝鮮を何かと守ってきた。しかし北朝鮮は中国の言うことを聞かずに、核実験やヨンビョン島を砲撃したりして暴走している。これには手を焼いている。

それでも北朝鮮に崩壊して貰っては困る。そうなると米軍の駐留する韓国と国境を接することになる。それだけは避けたいので、北朝鮮に生きながらえて欲しいというのが本音だ。


中国には根強い反韓感情があるという。韓国が中国文化を横取りして世界遺産に登録しようとしていると警戒する中国人が多いという。サーチナが行ったアンケートでも、「韓国も北朝鮮も両方とも嫌い」が最も多く32%を占め、残りは「北朝鮮が好き」、「両方好き」、「韓国が好き」がほぼ同数の15%ずつだった(残りは無回答)。

つまり両方好きを入れても、北朝鮮を好きな中国人は30%しかおらず、北朝鮮を嫌いな人はほぼ50%に上るのだ。

中国政府はかつて1990年代に中国東北地方を活性化させるために、「環日本海経済圏」構想をぶちあげ、ロシア、中国、北朝鮮、日本、韓国で経済圏をつくるべく大プロジェクトを推進しようとした。しかしロシア・北朝鮮が関心を示さなくなり、構想が宙に浮いたという苦い経験がある。


★中国人の意識

この本のまとめとも言えるのがこの部分だ。次にこの本の中国人の言い分を紹介しておく。

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出典:本書205ページ

「被害妄想」、「上に政策中国は国際ルールを長年無視してきたが、最近は著作権などのルールを守る様になってきたという印象がある。中国人の根底には、欧米や日本に長らくいじめられてきたという被害者意識があるという。

4000年も続く歴史を持ち、かつては世界一の大国だったというプライドがあるので、清朝の末期に列強や日本が侵略行為を繰り返したのは許し難いことだという意識がある。

特に日本には日清戦争で負けて領土を取られ、日露戦争では戦争に参加していないにもかかわらず主戦場とされ、日中戦争では攻め入られたという意識がある。第2次世界大戦後も共産主義が世界から非難されたこともあり、国際法には不信感を持っているという。

さらに中国人には「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉があり、良くも悪くもルールを疑ってかかり、方の抜け道を考え出すことに長けている国民性がある。

「事情変更の原則」といったところだ。

さらに鈴木さんは中国人を「交渉上手の宣伝下手」という。宣伝下手というのは、国際的なルールやエチケットを知らないことから誤解を招く行動が多いということだろう。

もっとも、これは今の中国には当てはまるが、たぶん戦前の中華民国の政治家には当てはまらないだろう。筆者は常に感じているが、戦前の日本に蒋介石宋子文のような国際感覚あふれる政治家がいたら世界は変わっていたのではないかと思う。

中華民国の政治家は堕落していたが、金は持っていたので宣伝は上手だったと思う。

しかしそれでも米英のふところには入れず、トルーマンから見放され、蒋介石の率いる中華民国が台湾に退去する結果となったことは、歴史の事実である。

中国共産党の方が、ソ連の支援を受けて日本の関東軍の残した飛行機や戦車、大砲、機関銃などをすべて受け取って軍事力を増強する一方で、汚職のない統治で民衆の支持を得るという政策が功を奏して、1949年10月に中華人民共和国が成立したわけだ。


さすが中国情報サイトナンバーワンのサーチナの編集主幹の本だけあって、中国人の本音がよくわかる参考になる本だった。筆者が読んでから買った数少ない本の一つである。


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Posted by yaori at 13:10│Comments(0)TrackBack(0) 中国 | 政治・外交

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