2011年07月10日

チャイナインパクト 在中国日本大使館経済部アタシェの現場レポート

チャイナ・インパクトチャイナ・インパクト
著者:柴田 聡
中央公論新社(2010-10)
販売元:Amazon.co.jp
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大前研一氏にも2002年発売の同タイトルの本があるが、こちらは財務省から北京の中国大使館に出向している柴田聡さんによる中国経済の分析レポート。柴田さんは1996年にはスタンフォードでMBAを取っており、2008年6月から北京に赴任している。

柴田さんのお母さんは1944年中国河北省生まれ。祖父がシベリアに抑留されたので、祖母が中国人に助けられて、生まれたばかりのお母さんを連れて命からがら日本に引き揚げたという。中国には縁のある一家だ。


GDPでは中国は世界第2位

2010年に中国はGDP総額では日本を抜き世界第2位となった。

日本と中国のGDPの比較がこの本に載っているので紹介しておく。中国の経済規模が日本の半分になったのは、わずか5年前のことだ。しかし日本がマイナス成長を繰り返している間に、中国は10%以上の成長を遂げ、遂に日本を追い抜いたのだ。

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出典:本書25ページ


4兆元(60兆円)の緊急経済対策

リーマンショック後、いち早くV字回復し、世界トップクラスの経済成長率を維持している中国経済の強みは「政経一体システム」にある。4兆元(60兆円)という内需拡大策のほとんどはインフラ投資だ。同時に個人消費拡大のための自動車取得税減税と農村への家電普及補助金を導入し、これらも大成功を収めた。

4兆元はGDPの13%に当たる金額で、日本や米国の緊急対策がGDPの1−2%に留まっていたことを考えると、規模の大きさは際だっていた。

この4兆元の経済対策は次の10項目だ。

1.低所得者向け住宅等の建設

2.農村インフラ建設 ー 全体の9%

3.重要インフラ(鉄道、道路、空港等)の整備 ー全体の45%

4.医療、教育等の民生事業の強化 ー全体の1%

5.環境対策の強化(汚水、ゴミ処理、省エネ、CO2排出量削減)

6.産業構造改革の加速(技術革新、リストラクチャリング)ー 全体の4%

7.四川省地震地区の災害復興の加速 ー 全体の25%

8.都市農村住民の収入向上(農産物最低買い上げ価格の引き上げ等)

9.減税措置(増加値税改革の全国実施等)

10.経済成長のための金融による下支え強化(商業銀行の与信貸出制限撤廃等)

これを発表したのが最強の経済官庁・「国家発展改革委員会」のトップの張平主任だ。

自動車は2003年の100世帯当たり1.4台から2009年には10.4台に急増。カラーテレビは農村部100世帯当たり、1990年の5台から、2009年には109台となり、一世帯に一台以上になってきた。それでもGDPに占める消費の比率は36%(日本は60%)に過ぎず、まだまだ伸びる余地がある。


中国政府は「巨大不動産デベロッパー」

中国政府が思い切った内需拡大策を実施出来る理由の一つは諸外国と比べて格段に低い債務比率である。さらに土地は国有だが、利用権を売買するという形で、地方政府自体が「巨大デベロッパー」として、日本でいう第三セクター方式(地方融資プラットフォーム)で土地利用権を使っての錬金術ができることだ。

内陸部への開発が進めば進むほど、地方政府は土地の使用料を高く売れ、それゆえ巨大開発を促進できるというエンジンとなっている。


中国経済のリスクは多い

中国経済のリスクは、不動産バブル、地方政府の債務償還能力の低さ、土地依存財政、労働コストの大幅上昇(北京市の最低賃金は2割引き上げられ、1万3千円/月となった)、大規模ストライキ、投機資金の流入などが生じている。


しかし、長年の課題となっていた不良債権問題は、主要金融機関に巨額の資本注入を行って、不良債権比率を2002年の26%から1%にまで低下させて解決した。日本のバブル後の不良債権比率が8.4%だったことを考えると26%は非常に高い数字だが、これを今や1%に抑え込んだ。

その結果4大銀行の中国政府持ち株比率は次の通りだ。

中国銀行   68%
中国工商銀行 35%
中国建設銀行 57%
中国農業銀行 50%

その上で外貨準備を使って2007年9月に2,000億ドルの中国版SWF(政府系投資ファンド)のCICを設立し、ブラックストーン、モルガンスタンレーに出資するとともに、金融機関への出資金を引き継いだ。

中国のSWFともいえる国家投資の関係図は次の通りだ。

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出典:本書229ページ

2007年にブラックストーンとモルガンスタンレーに投資しているが、これはリーマンショックで高値づかみとなり、2008年はマイナス2%と赤字だったが、2009年の投資利回りは11.7%と回復している。


日本のバブル処理を徹底研究

このように日本のバブル処理を研究した中国政府の経済運営手腕は見事なものがある。

「経済刺激策で最も避けるべきは、途中で投げ出すことであり、元日本銀行総裁の速水優氏のように落とし穴に陥ることである」と経済誌は解説し、日本のバブル崩壊後の経済政策を研究しつくして、歴史の教訓としていたという。

「日本はアメリカの圧力を受けて大幅な円高を受け入れた結果バブルがはじけて経済がダメになった」と、中国の経済学者からよく聞かされるという。

しかしこれは途中の金融緩和による過剰流動性がバブルを起こし、その後の不良債権の大量発生につながったというプロセスが省略されている。

中国の輸出がGDPに占める比率は33%と極めて高く、日本の倍だ。人民元を切り上げれば、輸出競争力にモロに影響する。従って人民元問題は国際問題であるとともに、雇用・社会安定に直結する国内問題なのだ。


消費エンジン拡大が今後の成長のカギ

2010年は輸出主導の規模拡大路線の限界に来ており、消費を成長エンジンに転換する時期だと柴田さんは語る。中国の個人消費のGDP比率は2009年で36%で、アメリカの7割超はもとより、ブラジルの60%、インドの54%と比べても低い。

まだまだ消費を伸ばす余地はあるのだ。その一つがサービス業の発展である。北京や上海等の一部大都市を除けば、近代的な流通業は普及しておらず、コンビニもスーパーマーケットもない都市がまだまだ多い。


中国の問題点

グローバルに通用する一流企業がほとんどない。中国移動通信、中国石油など、資産規模や株価総額で世界トップクラスの企業はあるが、華為(ファーウェイ)を除くとほとんどグローバル企業がない。

他にも地域経済格差、農村部の貧困と高齢化、裁判官の独立性がないなどの問題点は多い。

中国はGDPの総額では世界NO.2となったが、ひとりあたりGDPでは100位にも入っていない。中国はその意味ではまだまだ発展途上国なのである。


日本の生きる道

2010年に中国に抜かれた日本経済の先行きを悲観する人もいるが、柴田さんはむしろ日本のすぐ近くにある中国という巨大市場を利用して、中国の台頭という歴史的好機を逃がさず、中国の成長によってもたらされる冨を吸収していくことが大事だと語る。

日本も中国も歴史問題や尖閣列島問題など様々な隣国であるがゆえの感情問題はあるが、経済大国同志で冷静な判断のもとに互恵関係を保ち、米国、EUに匹敵するアジアという大経済圏の構築を目指すべきだと柴田さんは提言している。


読みやすくよくまとまっている中国経済レポートである。


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Posted by yaori at 01:16│Comments(0)TrackBack(0) 中国 | 政治・外交

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