
著者:つんく♂
サンマーク出版(2008-08-05)
販売元:Amazon.co.jp
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シャ乱Qのボーカリストで、モーニング娘。などのプロデューサーとしても有名なつんく♂の本。
多読人中島考隆志さんの本で紹介されていたので読んでみた。
有名人の本は有名人からの取材をベースにライターが書く場合が多いと思うが、この本はたぶんつんく♂自身が書いているのだと思う。手作り感と読者に対する愛情にあふれている。
この本ではつんく♂がどんな本を読んでいるのかは書いていないが、多くの成功哲学の本にある成功の秘訣ををつんく♂自身の言葉で書いている。
トイレの格言
この本はつんく♂の会社(TNX株式会社)のトイレの壁に貼りだしてある手書きの「トイレの格言」をまとめたものだという。
たまたまオフィスに打合せのために来ていた編集者の発案で、このような本を出すことになった。

出典:本書191ページ
アマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして目次を見て欲しいが、つぎのような構成となっている。
第1章 妄想力の強い人になれ!
第2章 好きなことに没頭するひとになれ!
第3章 売れる理由を考え抜く人になれ!
第4章 損して徳とる人になれ!
第5章 勝負パンツを毎日はく人になれ!
第6章 川の流れに沿って生きる人になれ!
エピローグ
どの章題もユニークであり、読んでいて面白い。
中学生の時に一番になる方法を考えた
つんく♂は中学生の時に「一番になる人」と自分の違いを研究し、自分が一番になる方法を考えたという。
それから10年たちシャ乱Qでプロデビューして2年後、CDは全く売れず、引退の危機にさらされていた時にも、一番になる方法を考え、ワンルームのアパートの部屋を見回して、ある詞が浮かんだ。
それが「シングルベット」だ。それまでプロの作詞家に並びたいという意識が強すぎて、メルヘンチックのカッコいい詞ばかり書いていたが、あるとき「俺がいま居る狭い部屋、これを書こう」と気づいて書いた詞だった。
才能がないから地道な営業努力をする
「有線放送で一番になる」、そんな妄想を抱いて、全国の有線放送会社にシャ乱Qのメンバーがレコード会社の社員役とバンド役、二人一組で電話を掛けまくった。
「オレオレ詐欺」と手口は似ている。ヒマだったから時間はたくさんあったので、朝11時頃から毎日7時間ぶっ続けで営業マンのように電話を掛けまくったという。
だんだん有線放送でながれるようになり、結果的には100万枚以上のCDが売れていた。
それから何度も「一番になる」ことができたが、才能があったからではなく、才能がなかったからこそ、「一番になる」ことが出来たのだと。
才能がなかったから、有線放送会社に電話営業する労を惜しむことがなかった。凡人だからこそ、売れるための方法を研究することに力を注げた。
このつんく♂の言葉には普遍的な真実が含まれている。ミュージシャンの場合、ある程度の音楽の才能がある人はそれこそゴマンといるわけで、売れないミュージシャンはそれこそ掃いて捨てるほどいる。
その売れないミュージシャンの集団から抜け出すには、「ある日突然向こうから声がかかってくる」奇跡を待つのではなく、売れるための地道な努力が必要なのだ。
一番になるためのパスワード集
つんく♂は誰もが一番になれると語る。この本にそのための「パスワード」を盛り込んだのだと。つんく♂の語るパスワードをいくつか紹介する。
妄想は未来を切り開くパスワード
つんく♂の家は塩干・乾物屋だったので、店を手伝う話が随所に出てくる。子どものころに家のたまの休みに白浜にお父さんが連れて行ってくれるという話があり、つんくは釣りの場面をシミュレーションして楽しんでいたという。
彼女と話すシーンや、バンドをつくってライブで歌うシーン、失敗したシーンなど、さまざまなシーンのシミュレーションも思い浮かべていたという。
「妄想」は恋愛にも似ているという、相手の事を思い、相手の気持ちを想像し、相手がどう反応するかを考えることで、いい印象を持ってもらいたいと願うことに似ている。
つまりカーネギーのいう「相手の立場になって考える」のと同じことだ。
「妄想」のやり方ひとつで、人生はいかようにも変化させることができる。
「妄想」あるいは事前シミュレーションが成功の第1のパスワードなのだ。
何通りかの受け答えを想定して全部覚える
つんく♂は「仕事で人前に立つときには、必ず自分がしゃべるセリフを全部メモに書いておけ」とアドバイスするという。
プロである以上、トークで人を楽しませなければならない。そのためにテレビ番組に出る時にも相手の質問を予測してシミュレーションをしておくのだ。
タモリの番組をビデオで研究してみると、タモリは「最近売れてるねえ」、「忙しいんじゃないの」、「いろんなところで顔見るよね」という具合に、具体的な質問はしないことに気が付いた。
相手が答えやすいような質問をして、相手に好きなことをしゃべらせているのだと。
逆にタモリが、「売れたね」、「雰囲気変えた?」、「親戚増えたでしょ」、「出身はどこなの」という具合に流れる時は、ゲストが何も用意していないので、タモリが相当気を遣っている様子がわかる、
短い時間に自分のいいたいことを言うためには、十分にシミュレーションして臨むのだ。モーニング娘。にも、こんな質問が来たら、こんなことを答えるようにとメンバー1人1人にアドバイスしていたという。
たとえばディズニーランドに行って、「どうでしたか」と言われて、「おもしろかったです」とか「たのしかったです」と数人のメンバーから同じ答だったら、視聴者はつまらなく思うはず。
だから彼女たちには「ミッキーがつまづいたんですよ」とかいった話をするように指導してきたという。
アドリブで常に勝負するのは大変で、おもしろいネタが適切なタイミングで出てくるとは限らない。だから事前に何度も練っておくのだ。
とことん考え抜く
シャ乱Qがヒットを飛ばすまで手取り6万円の「地獄の2年」だったという。しかし、このときに学んだものは大きかった。お金はなかったが、時間はたっぷりあったので、とことん考えたという。
まず自分たちには才能がないことに気がついた。その上で「売れる凡人」になるにはどうしたらよいか考え抜いた。
つんく♂のおばあさんは、「いま売れてないもんでも、頭使えば売れるんや」と言っていたという。
売れるまでやめない
つんく♂は、天才と呼ばれる人、「売れる音楽」を徹底的に研究した。凡人は、天才のノウハウを研究してコツコツやっていくしか道はない。何かがヒットする、そこには必ず「売れる理由」があるのだ。
天才は3回でできることを、凡才は100回も200回も練習する。天才には追いつけないが、練習していくうちに「コツ」がつかめるようになる。
「好きなこと」で、一位になるまで準備し続けるのだ。人生というものは、たくさんの人が一本の鉄棒にぶら下がっているようなものだと。あと10秒、あと10秒と最後まで我慢してぶら下がるのだ。
歌詞は一枚のスナップ写真
つんく♂は「歌詞は一枚のスナップ写真であるべきだ」と語る。「津軽海峡冬景色」などのヒット曲は一枚の写真から出来ているという。
素人が作詞をすると、だんだんに時間や場所がずれてしまう。
歌い方にもリズムがある。誰も教えてくれなかったが、歌には基本的に一定の速度でリズムが流れている。たいてい120〜140BPM(一分当たりの脈拍数)のリズムで流れていると。
ビートルズの曲は英語の曲なのになぜ耳に残るのだろう。サザンの曲は歌詞としては聞きにくいのに、なぜ耳に心地よいのだろう。逆に声はいいのに、なぜか心に訴えかけてこない歌手がいるのはなぜなのだろう。
こんなことを考え、歌い方のリズムが違うということに思い立ったという。
たとえば小林克也の英語はネイティブに近いと言われるが、その要素の一つは英語のリズムでしゃべるからだという。
これに気づいて、「シングルベッド」のサビは、「シイインンングウウルベエエエッドで」と細かく16ビートを感じるように割ってリズムを取っているのだ。
モーニング娘。も素人だった女の子達をこのリズム感で鍛えた。あのはじけるリズム感は訓練で身につけたものなのだと。
つんく♂はエネルギー業者
つんく♂は、言葉を組み合わせて詞をつくり、音楽に乗せて一つ一つの語句の持つエネルギーを何百倍、何千倍もの爆発的なパワーに変えていく。
だから音楽というエネルギーを取り扱う業者なのだと。人はみんなエネルギー業者といえるので、自分もどうやれば世の中にプラスのエネルギーを供給できるかと考えているという。
人生で大事なことはすべてわが家で学んだ
最近は似たようなタイトルの本がいくつも出ているが、人生で大事なことの基本は、すべてわが家の手伝いを通じて学んだのではないかとつんく♂は語る。
それは「サービス精神」だ。「損して徳とる」、「得」ではなく「徳」をとる、つまり、相手の期待を常に上回るサービスを提供する。それをじいちゃんとばあちゃんからたたき込まれたという。
「人が遊んでいるうちに働けよ」
「『なにくそ!』と思う性根」が大事や。
「頭下げるのはタダや」
「丁稚というのは3年はやってみんと意味がない」
「3年を一日でも超えたら立派やけど、2年と364日では意味がない」
みんなじいちゃん、ばあちゃんの言葉だ。
「一番になる人」は自然と頭を下げ、いつでも笑顔をこころがけているのではないだろうか。
実家の乾物屋で手伝いして、3−4人の客を同時に相手にして間違いのないように接客するということをこなしていたという。だからモーニング娘。はじめいくつものグループを立ち上げたときも、あのころの忙しさに比べるとまだ余裕があるのだ。
アメーバのように生きる(面倒な仕事も進んで受ける)
つんく♂は、たとえ自分より知識や経験がない人でも、人の意見には必ず耳を傾けるという。相手と自分の考えをシェイクして、吸収し、自分のものにする。アメーバのように何かを吸収することによって、どんどんかたちを変えていくのだ。
自分が成功したパターンに固執しすぎると、次のステージに進んで成長出来なくなるのだ。タレントで言うとSMAPはお笑いでも何でもやろうとする心意気がある。彼らが長く人気を保っている理由の一つはそれではないか。
「面倒くさい仕事にこそ、大きな宝物が隠されている。人が面倒くさがる仕事がいちばんやりがいがあって、楽しく、報酬もでかい。得られる信用も絶大である。」と社員には言っていると語る。
モーニング娘。も元々は乗り気ではない仕事だったが、「はいわかりました」と受け、全身全霊で打ち込んだ。
「ああ、俺って、教えるの、こんなに好きやったんや」と気づかされたという。無我夢中で取り組んだモーニング娘。はシャ乱Qの成功を遙かに上回る成功を収めた。
とにかくかたちにする人
つんく♂は、「今日は曲を書く日」と決めたら絶対にその日に書くということを鉄則にしているという。
もう一日、もう一日と締め切りを延ばす人がいるが、こだわればこだわるほど良い作品ができるわけではない。
僕たち凡人が最初からミラクルを夢見て納期を守らずに仕事をするのは、あまりにもリスクが高いと語る。
自己満足は自分一人の世界でやるべきことで、少なくともビジネスの場でやるべきではない。自分の満足は大衆の満足ではない。そこを勘違いしたために、どれだけ多くの優秀な人たちが自滅していったことだろう。
ヒマな人間ほど締め切りを守れないのではないかと思えるという。
自分が満足できるフレーズが浮かばなくとも、とにかく曲に仕上げる。とにかくかたちにする。それがエネルギー業者としての流儀だと。
つんく♂は最近大震災被災者への応援歌"Love is here"を作っている。
つんく♂はたぶん芸能界でも最も忙しいプロデューサーの一人だと思うが、そのつんく♂でも締め切りはちゃんと守っている。
このつんく♂の言葉に筆者は反省するところしきりである。筆者も最終的に間に合えばよいだろうと自分勝手に考えて、締め切りを守れないことがしばしばある。
筆者も悔い改めて、つんく♂の様にやる日を決めたら必ずその日に仕上げることを心がける。
ちなみにモーニング娘。の「LOVEマシーン」は、1999年9月9日にCDを売り出すと決めていたという。
締め切りをギリギリセーフという形だったが、逆に締め切りを守ったからこそ、あれほどのヒット作品が生まれたのだと。締め切りは人間の能力を最大限に引き出す装置
つんく♂のファミリー
最後につんく♂はプライベートなことを書いている。つんく♂は奥さんと36歳の時に見合いで知り合って、結婚をきめ、西本願寺で仏前結婚式を挙げた。奥さんは先祖が導いてくれた「運命の人」だと。
結婚して、家庭を営み、子どもを授かり、育てていく。
「ああ、なんてぜいたくなことなんだ」。
最後に男の子と女の子の双子が生まれ、父親になったことを報告している。「こんなに小さな命が、僕という人間を必要としている」そう思えるだけで、とても満たされた気持ちになれたという。
つんくには3月18日に第3子の女の子が誕生している。
実にほのぼのとした読後感のある本である。しかも成功哲学の基本(成功するまでやる)をきっちり抑えている。芸能界の売れっ子プロデューサーというチャラチャラしたイメージとは異なる、しっかり自分の考えを持って生きている人がそこにいる。
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