2011年05月09日

フェイスブック 若き天才の野望 いわばフェイスブックの公認記録

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
著者:デビッド・カークパトリック
日経BP社(2011-01-13)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

読書家の上司から借りて映画「ソーシャル・ネットワーク」で話題のフェイスブックについての本を読んでみた。

ソーシャル・ネットワーク 【デラックス・コレクターズ・エディション】(2枚組) [Blu-ray]ソーシャル・ネットワーク 【デラックス・コレクターズ・エディション】(2枚組) [Blu-ray]
出演:ジェシー・アイゼンバーグ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(2011-05-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る



著者のデイビッド・カーパトリック氏はフォーチュン誌のインターネット・テクノロジー担当のライターだったが、訳者あとがきによると、この本を書くために独立してフリーのライターになったそうだ。

CEOのマーク・ザッカーバーグと社用機でダボス会議に参加したり、いわばフェイスブック公認のお抱えライターとなっている様だ。

この本はザッカーバーグはじめ多くの関係者に直接インタビューして書いているので、フェイスブックの歴史について大変詳しく紹介している。きっちりした仕事ぶりは、このブログで紹介した「フラット化する世界」の著者でピューリッツアー賞を3回受賞しているジャーナリスト、トム・フリードマン氏の作風を思わせる。

この本に書かれているフェイスブックの歴史を一々紹介するとあらすじが長くなりすぎるので、創業当時の感じがわかるように、この本の冒頭に載っている写真を紹介しておく。

この写真に写っているのが、クリス・ヒューズを除くフェイスブックの主要創業メンバーで、彼らがハーバード大学のカークランド学生寮で2004年2月に始めたソーシャル・ネットワークがフェイスブックだ。こんな若い連中が学生寮でネットワーキングビジネスを始めたら、めちゃくちゃなノリになることは容易に想像できると思う。

scanner041














あまり読む気にならなかった本

正直この本はあまり読む気にならなかった。

以前紹介したキャリアコンサルタントの海老原嗣生さんの「課長になったらクビにはならない」に、リクルート創業者の江副さんの「10代、20代で名を残す名アーティスト、名選手は多い。しかし、10代、20代で名を馳せた経営者はいない」という言葉が紹介されている。

課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣
著者:海老原 嗣生
朝日新聞出版(2010-05-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

筆者は江副さんの言葉は正しいと思う。フェイスブックの26歳のCEO・マーク・ザッカーバーグは、お山の大将、あるいはタイラント(専制君主)としてなんだか好きになれないでいた。

あんなチャラチャラしたヤツについての本を500ページも読むのかと思うと、とても読む気がしなかったが、食わず嫌いは筆者の主義に反するので、ともかく読んでみたところ、フェイスブックの本当の価値がわかった。まさに目からウロコだ。

この本の最初の350ページくらいは、フェイスブックの始まりや、綱渡りで大学を一つ一つつなげていった苦労話、創立メンバーがみんな辞め、あるものはザッカーバーグをアイデア盗用として訴え、結局マーク・ザッカーバーグ一人と2008年にグーグルから雇い入れたCFOシェリル・サンドバーグだけになった経緯などについての話だ。

結果的に成功したが元々ザッカーバーグのリーダーシップや着想が際立っていたというストーリーではない。その意味でこの本のタイトルの「若き天才」というのには違和感がある。

特にベンチャーキャピタルの老舗で最高峰のセコイア・キャピタルとのミーティングにTシャツにパジャマ姿でわざと遅刻して登場し、「投資してはいけない理由トップ10」のプレゼンを行ったというふざけた話のところでは、もう読むのはやめようかとまで思った。


フェイスブックの爆発的拡大と若きCEOマーク・ザッカーバーグ

フェイスブックはハーバードの学生名簿(フェイスブック)として2004年2月にスタートし、すぐにアイビーリーグの大学に広まった。ある大学でサービスをスタートすると、数日のうちにほとんどの学生が登録し、その後も80%以上の学生が毎日使い続けるというStickyな(やみつきになる)ネットワークだった。

後述するように出会い系サイト的な要素もあったが、特に好評だった機能は、ユーザーが講義をクリックすると、その講義を受けているほかの受講者名が表示されるものだった。誰がどういう講義を受けているかは、勉強会づくりや学生の講義選択に大変役立ち、そのためにフェイスブックは講義選択のタイミングにサービス開始を合わせて2004年2月にスタートした。

2004年6月からマーク・ザッカーバーグ他の創業メンバーはサンフランシスコ郊外のパロアルトに移り、それ以降シリコンバレーのベンチャーキャピタルの支援を受けて、順調に事業を拡大し、当初大学関係者のみ(メアドは.eduのみ)だったのを、高校生、そして一般まで拡大した。

サービススタート10ヶ月めで百万人、7年目の現在では世界で5億人のユーザーを誇る世界最大のソーシャル・ネットワークに成長した。

CEOのマーク・ザッカーバーグは、ハーバード大学のコンピューター科学専攻のコンピューターオタク(Geek)で、両親は歯科医と精神科医でマンハッタンのベッドタウン、ニューヨーク州ウェストチェスター郡の裕福な家庭の出身だ。

余談となるが、この本を読むまでコンピューターオタクで"Geek"と"Nerd"の違いがわからなかった。ザッカーバーグは"Geek"とされているので、明るいオタク、"Nerd"は内向的なオタクという差があるようだ。


この本の本当の価値は第13章(金を稼ぐ)にある

マーク・ザッカーバーグは依然として好きになれないが、第13章を読めばフェイスブックの本当の価値はなにかがわかる。最初から読むことが我慢できない場合には、13章から読み始めることをお薦めする。

フェイスブックの最大の特長は実名登録で、これが先行するMySpaceとの最大の違いだ。個人のアイデンティティは一つに限られるので、フェイスブックの会員となり、相手の名前さえ知っていれば、メアドや連絡先を知らなくともコンタクトができるのだ。

万が一同姓同名だったとしても生年月日、出身大学、出身高校、勤務先などでソーティングできる。

全世界で5億人を超えるユーザーが登録しているので、昔の仕事仲間とか、知人とか連絡先が分からない人でも探し出すことができる。

実際筆者も米国駐在時代の知人からフェースブック経由で連絡を貰って、共通の友人(フェイスブックで検索してみたが、この人は登録されていなかった)が4年前に亡くなったことを教えて貰った。


広告としてのフェイスブックの価値はグーグルとは大きく異なる

グーグルの検索連動型広告の場合、本人が「デジカメ」と入力しないとデジカメの広告は表示されないが、フェイスブックなら、「カリフォルニア州在住+小さな子どもがいる+これまで一度も写真をアップロードしていない+既婚男性」という具合に絞り込んで、ターゲット向けにデジカメの広告が打てるのだ。

グーグルがあれだけ成功していても、その事業のほぼすべてが、広告業界では比較的小さな領域で展開されている。世界の広告宣伝費6,000億ドル/年のうち、最大でも20%しか「すでに何が欲しいかわかっている人たち向けの広告」に費やされていない。

広告費の残りの80%がユーザーに欲しいという欲求をよびおこす「要求生成型」広告に使われており、フェイスブックのユーザーの滞在時間の長さと、正確なユーザー情報に基づいてターゲティング広告を打つ能力は、フェイスブックを広告のナンバーワンにするポテンシャルがあるのだ。

フェイスブックのCFOのシェリル・サンドバーグは「われわれはどこよりも質の高い情報を持っている。性別も年齢も場所も知っている。しかもこれは本物のデータであって、誰かが推論したものではない」と語っている。

広告調査会社のACニールセンの代表は、「フェイスブックはグーグルが望んでも得られないチャンスを持っている。超一流ブランド広告主に信頼できる企画を提案する能力だ」と語っている。

「今では、スティーブ・バルマーの150億ドルという評価額がそれほどバカバカしくは見えない。私は将来フェイスブックが根本的にマーケティングを変える怪物企業になると信じている」

これは筆者の思いつきだが、たとえばレクサスのハイブリッド車を売ろうと思ったら、ベンツやBMW,アメリカであればキャディラックに乗っている環境コンシャスな発言をしている人に試乗券を贈るというようなマーケティングをしたら、かなりの確率で売れるのではないかと思う。

同様な発想は、ファッションや宝飾品などの一流ブランドの売り込みに活用できるだろう。

他にはライバル会社から人を引き抜こうとしている会社は、指定した日に指定した都市の、某社の社員だけに広告を表示させることができるという例を挙げている。


フェイスブックの「エンゲージメント広告」

フェイスブックの主要な収入源は「エンゲージメント広告」だ。たとえばマツダは、2018年型モデルのデザインに協力してくれるように呼びかけたところ、全世界のデザーナー志望の学生からアイデアが集まった。ベン・アンド・ジェリーズは次回のアイスクリームのフレーバーは何がいいか会社に提案できるようにした。

この広告に応じて誰かがアイスクリームのフレーバーを提案すると、それが友達のニュースフィードに表示され、さらに友達の輪が広がっていく。ベン・アンド・ジェリーズのファンは6週間で30万人から100万人に増えたという。

高機能版エンゲージメント広告だと、たとえばオムツについて語っている人+あるアーティストの曲を聴いている人、というようなターゲティングもできる。

著者のカーパトリックさんはベビーブーマーで、好きなミュージシャンをたくさんのプロフィールに載せているので、USB接続の古いレコードをデジタル録音するレコードプレーヤーの広告がよく表示されるという。

フェイスブックに載せたエンゲージメント広告のファンがどういう音楽を聴いているのか、広告をクリックした人の性別・年齢別の正確なデータも提供されるので、市場調査にも役立てられる。


フェイスブックの最大の課題はプライバシーの保護

もちろんこれだけの個人情報や趣味・趣向情報を持っているフェイスブックの最大の課題は個人情報・プライバシーの保護だ。ソニーのプレステサイトの個人情報漏えいの合計約1億件というのも過去最大規模だが、保有する個人情報の種類が限られているので、電話番号とクレジットカード情報以外は、漏えいしてもあまり本人にはダメージがないだろう。

しかしフェイスブックは持っている個人情報の種類が他とは全く異なる。クレジットカード情報はあまり多く持っていないと思うが、プライバシーにあたる情報の蓄積が大きい。

2009年のアメリカの経営者への調査では、35%の会社がソーシャル・ネットワークで見つけた情報を理由に休職者を不採用にしているという。オバマ大統領はバージニア州の高校生達に向かって、「フェイスブックに何かを載せる時には注意して貰いたい」と注意したという。

写真にタグも付けられるので、友達と一緒に撮った写真に友達の名前をいれておくと、その人の名前で検索した場合、別の人が撮った写真まで表示される。

これがトラブルの元になった例がある。アングロ・アイリシュ銀行の社員が会社をズル休みして、パーティに出たら、会社の上司を含むオフィスの全員にウソがバレてしまったというのだ。

筆者も最近驚いたことがある。フェイスブックに登録はしているが、あまり使いこんでいなかったので、プロフィールを追加しようとして、「恋愛対象」欄を、自分の「性別」欄だと思って「男性」にしていたのだ。

友人から指摘を受けて、あわてて修正したが、もし恋愛対象を「同性」としている情報が間違って公開され続けていたら、変なカミングアウト攻勢にさらされるところだった。ちなみにその友人も同じく間違って「同性」にしていたが、変なことにはならなかったとのことだった。

このあたりの情報はフェイスブックの生い立ちによるところが大きい。フェイスブックは当初大学キャンパスの出会いサイトとして利用されたので、恋愛対象で男性・女性を選べるのだ(この本では”若い男女の性的関心をめぐるもの”という言い方をしているが、要は出会いサイトだと思う)。創立メンバーの一人のクリス・ヒューズがゲイだったことも、この「恋愛対象」欄があることに関係あるのかもしれない。

当初は「特定の相手とつきあっている/いない」という選択肢のほかに、「求めている出会いの種類」という項目もあり、「デート相手」、「深い関係」、「行きずりのプレイ」、「そのいずれでもよい」から選択するようになっており、「行きずりプレイ」が最も選択されたという。


フェイスブックの国際化

この本で紹介されている2009年末頃の各国でのフェイスブック普及率は次の通りだ。いずれも国民の何パーセントがフェイスブックの会員になっているかの数字だ。

アイスランド 53%
ノルウェー  46%
カナダ    42%
香港     40.5%
英国     40%
チリ     35%
イスラエル  32.5%
カタール   32%
バハマ    30.5%

2010年初めの時点で、フェイスブックは75の言語に対応していた。フェイスブックの国際化は、2008年に提供を開始した「クラウド翻訳」という翻訳ツールによるところが大きい。

このやり方は、まずフェイスブックのソフトウェアがユーザーに向けて翻訳すべき単語のリストを提示して、ユーザーが自発的に翻訳に取り組む。フェイスブックはその結果を集計して、その言語を話す人に一番適した訳語に投票するように依頼して辞書を作っていくのだ。

この方法でまず2008年1月に1,500人のユーザーが4週間掛けてスペイン語版フェイスブックが生まれた。ドイツ語版は2,000人で2週間、フランス語版は4,000人で2日というように、フェイスブックの費用負担なしに各国版が誕生した。

フェイスブック特有の言葉である"poke"も各国語に訳された。


フェイスブックのこれから

過去Yahoo!やグーグルがフェイスブック買収に興味を示した。2007年末にマイクロソフトが会社評価額150億ドルとして、1.6%を2億4千万ドルで取得、フェイスブックの広告販売権を獲得した。同じタイミングで香港の李嘉誠は0.4%に対して6千万ドル出資した。

ザッカーバーグが株式の24%を保有しており、10%はベンチャーキャピタルのアクセル、ロシアのデジタル・スカイ・テクノロジーズが2009年に5%を取得した。残りは創業者たちや社員、ほかのベンチャーキャピタルが保有している。

フェイスブックはいずれ株式公開し、その時は過去最大規模のIPOとなるだろう。

取締役会の定員は5名で、ザッカーバーグは自分のほかに2名の取締役を指名する権利を持っており、フェイスブックの経営権を握っている。2009年からはワシントンポストのドン・グレアムとインターネットブラウザーの元祖MOSAICの発明者でありネットスケープ共同創業者のマーク・アンドリーセンが取締役会に加わった。

ザッカーバーグは、「こんなことを言うと心配するかもしれないが、僕は仕事を通じて学んでいるのだ」と社員に語ったという。ザッカーバーグはまだ26歳、ワシントンポストCEOのドン・グレアム、マーク・アンドリーセン、最近ではアップルのスティーブ・ジョッブスを崇拝しているという。

上記に紹介したリクルート創業者の江副さんの言葉通り「10代、20代で名を残す名アーティスト、名選手は多い。しかし、10代、20代で名を馳せた経営者はいない」。CEOのマーク・ザッカーバーグも、フェイスブックが5億人あるいはそれ以上のネットワークになると確信して経営をしてきたわけではなく、広告のビジネスモデルも将来を予見してつくりあげたものではない。

しかしそうは言っても創業から2年目の2006年にYahoo!が10億ドルの買収提案を出してきたときに、提案を蹴ったのはザッカーバーグであり、その翌年マイクロソフトが会社を総額150億ドルで評価して、ザッカーバーグの先見性が証明される結果となった。

株式公開による資金調達をせずに5億人の会員を集められたのは、すごいことである。

この本ではフェイスブックの将来のビジネスモデルについて具体的には何も示唆していないが、筆者の勝手な想像では多分アマゾンと提携するか、あるいは他の専門サイトと提携して購買情報まで進出していくのではないかと思う。

フェイスブックの持つ個人情報と属性・趣向情報と、アマゾンの持つ購買情報が合体すれば、最強のデータベースマーケティングができるだろう。

世界で最高のCRM、データベースマーケティングは、英国の半分の家庭に普及しているClub Cardを持つ英国のスーパーマーケットのTESCOと言われている。同じ英国のスーパーマーケットチェーンのSainsburyが加盟するNectarも、TESCOと同様の最先端のデータベースマーケティングを行っている。

これらはスーパーのPOS購買情報と会員カードの顧客個人情報を一緒に管理することで、誰が何を買ったかという過去のデータを元に、個人の購買パターンにあわせた商品を提案している。

そういった過去のデータ分析に加えて、もしフェイスブックでの言動やツイッターのつぶやきをデータとして取り込み、近未来の購買予測を元にリコメンドできたら、最強の販促手段ができると思う。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグがそんなことを考えているかどうかわからないが、この本の第13章で説明されているように、せっかく広告の80%を占める「要求生成型」広告ビジネスに属しているのであれば、ぜひ高度なCRMを実現して欲しいと思う。

内容もさることながら、翻訳も良い。頭にスッと入る翻訳である。500ページの大作ではあるが、得るところの多い本だった。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




Posted by yaori at 00:38│Comments(0)TrackBack(0) インターネット | ビジネス

この記事へのトラックバックURL