2011年05月26日

日本一元気な30人の総合商社 商社の基本形がここにある

日本一元気な30人の総合商社日本一元気な30人の総合商社
著者:寺井 良治
小学館(2010-06-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

旧日商岩井で社内ベンチャーとして設立されたイービストレード社長の寺井良治さんの自社紹介。アマゾンでは本の帯の写真が写っていないが、本の帯を加えると次のような表紙になっている。

scanner057












イービストレードは神保町に本社があり、従業員は30名。2000年に誕生した旧日商岩井の社内ベンチャーが独立して、大手総合商社が取り上げないニッチ商品やニッチ市場に注力している総合商社だ。

イービストレードの業績は順調に拡大している。黒字転換したのは2004年3月期で、次の2004年度には1億円の利益が出ている。最近になって勢いが出てきた感じだ。
        
         売上高    経常利益
2006年度  16億円   マイナス3千万円
2008年度  84億円   プラス1億7千万円
2012年度  100億円  プラス4億円(目標)

寺井さんは旧日商岩井で入社以来化学品の営業をやっていた。2000年8月に全社横断組織としてEC事業室が設立された時に、化学品から移ってイービストレードの担当となり、2001年1月にイービストレード立て直しのために社長として送り込まれた。

旧日商岩井は、1998年にバブルの損失処理のために1,500億円の特別損失を出し、赤字に転落した。1998年がここ十年で最高のボーナスだったのに対して、翌1999年のボーナスは、スズメの涙ほどの金額になったという。

イービストレードが発足した当時のネットバブルの風潮から、マスコミには「ネット総合商社誕生」ともてはやされたという。

日商岩井の社内の雰囲気は沈滞していたので、若手がぶちあげた事業構想に経営陣も期待して、構想から2ヶ月後の2000年3月には会社が設立された。

しかし2000年3月のITバブルの崩壊とともに事業モデルそのものが崩れた。寺井さんが社長として送り込まれた時には、日商岩井の安武社長から「何をやってもいいので、イービスを残してくれ」と言われたという。

筆者はITバブルの時に米国に駐在していたので、有望なインターネット企業を見つけて関係強化のために投資事業部に依頼し、1999年12月に一株47ドルでIPO株を取得した。その直後その株がすぐに300ドルを超えた。IPO株で譲渡制限がなかったので、取得後三ヶ月で平均200ドル強で半分売った。

その半年後には買値を下回り、2000年末には10ドル台まで下がった。

半分売って元手の倍以上回収していたので、残り半分が買値を割ってもトータルでは利益が出たが、そのまま全部持っていたらドツボにはまるところだった。

ITバブルとはそういう時代だった。


社内の雰囲気は前日の深夜残業を理由に11時過ぎに出社する人もいるほど、たるんでおり、なにができるんだと聞くと「財務のプロ」、「人事のプロ」、「情報通信のプロ」などと答えたという。寺井さんは「たかが28−29歳で何がプロだ!プロとはどういう意味なんだ」と一喝したという。

イービストレードはeビジネス、いいビジネス、大阪の商売の神様の戎(えびす)様を掛け合わせた名前だという。

旧日商岩井は2004年4月に旧ニチメンと合併して双日となっている。


大手総合商社との差は管理費

イービストレードと大手総合商社との差は、間接費も入れたコスト競争力だ。大手総合商社は営業マン一人で、本社部門の割りかけ経費も入れたコストは年間7千万円以上と言われているという。それに対してイービストレードは、管理部門が小さいので営業マン一人当たり2−3千万円ですむ。イービストレードの給料は大手商社並みの水準なので、この差は管理部門の差だという。

大手総合商社が手がけないようなニッチビジネスを取り上げて、それで十分利益を上げるのがイービストレードのビジネスモデルだ。寺井さんは「めざせ鈴木商店」と語っている。

この本ではイービストレードの次のビジネスラインの商売ができた背景やビジネスの現状をそれぞれの担当責任者が書いていて面白い。


★長崎県のマリン技研の湖沼などの水浄化設備ジェット・ストリーマー

長崎県の漁師出身の社長が起こしたベンチャーの水浄化機ビジネス。攪拌を起こして水の自浄効果を誘発する技術を日本や世界に総代理店として販売している。世界25カ国で特許が成立し、長崎県の大村湾や三重県の長良川河口堰、ダム、平等院鳳凰堂の池などで導入され、アメリカ、メキシコ、韓国にも広まっているという。

東京都が「東京水」というコマーシャルを打って、水道水のきれいさをPRし始めたのも、この設備を導入したことがきっかけという。「未来創造堂」というテレビ番組でも取り上げられたという。


★日本のガス会社が開発した液体物検査装置とイタリアCEIA製金属探知器

日本のガス会社が開発した液体物検査装置はスポーツ会場に持ち込まれる飲料などの検査に世界的に使われている。北京オリンピックを契機に中国向けに数百台売れたという。

イタリアCEIA製金属探知器は世界の空港で使われており、日本ではパチンコ屋向け金属探知器用途に売り込んでいるという。不正の玉の持ち込みを防止するのだ。


★シベリアとのビジネス

ロシアでも大手商社と競合するモスクワは捨て、シベリアに特化したビジネス開拓をやっている。ドラッグストアのセイジョーと組んでシベリア展開を模索したり、日本製中古車を輸出しているという。


★ガソリンスタンド向けの情報サービスの「満タンねっと」やおまけDVD、CDのビジネス

ガソリンスタンド向けのネット販売サイトの「満タンねっと」を運営したり、雑誌などのおまけのDVD、CDのビジネス。

年間1億枚といわれている付録CD,DVD市場のほぼ半分を握っているという。台湾・中国などで製造し、品質と納期をきちんと守って納入する。


会社と社員が元気になるための「処方箋」

最後に寺井さんは会社と社員が元気になるための「処方箋」として、8つの法則を紹介している。それぞれ参考になるが、「社長の仕事は、会社を潰さないこと」という法則3がなるほどと思う。

法則1 経験の浅い人間ほど外に出たがる(辞めたがる)

現在はイービストレードは情報機器専門商社ミツイワが筆頭株主となり支援を受けている。創業者の岩崎宏達会長と会った時に「鈴木商店の復活とかいっているバカはお前たちか?いま時、そんなことをいっているやつが居るとは思わなかった。オレはそんなバカが好きだ」と言われたという。

法則2 身の丈を知ってビジネスを展開する

法則3 社長の仕事は、会社を潰さないこと

筆者はネット企業の副社長経験者だが、「会社を潰さないこと」という使命感、意気込みには欠けていたと反省している。よく「何をやらないかを決めるのも重要だ」といわれるが、まさに会社を潰すリスクを極力排除するのが、経営者の仕事であり、その意味で「社長の仕事は、会社を潰さないこと」という発想は大事だと思う。

法則4 まずは「問題児」を探す

対象を「スター」、「キャッシュカウ」、「問題児」、「負け犬」の4象限に分類した後、「問題児」を探すのだと。大リストラ時代のビジネスマンの処世術だという。

法則5 とにかく他人の仕草や顔色を見る

法則6 人脈は一度会えば十分

法則7 「路地裏」に新規事業は潜んでいる

法則8 迷ったときこそ「美点凝視」

いい点のみに注目し、欠点には目をつぶる。良い点を伸ばすことに注力すべきだと寺井さんは語る。


この本を商社業界に携わらない一般の人が読んだら、新規事業に取り組んでいて元気のある会社だと思うだろう。しかし総合商社に勤めている筆者は、事情がわかっているだけに悲哀を感じてしまう。

先日講演を聞いた三菱商事の小島会長の話だと、三菱商事はトレード収益は全体の3割で、残りの7割は資源開発やその他の事業収益だ。現在の総合商社は総合事業会社であり、個々の取引で収益を上げることも大事ではあるが、収益を生み出す「しくみ」を作り出すことが何より重要なのだ。

寺井さんが書いている通り、イービストレードが手掛けているビジネスを大手総合商社が取り上げることはないだろう。その意味ではニッチビジネスを追いかけるイービストレードの活躍の場はまだあると思う。

筆者は元々鉄鋼原料のトレーダーなので、米国では日本製品のみならず、中国、ノルウェー、ブラジル、南アフリカ、インドなどの原料を米国鉄鋼業界向けに販売していた。しかし利益率は低かったので、今はこんなビジネスは到底認められないだろう。

寺井さんの気持ちもよくわかる。読んでみて複雑な気持ちになる本だった。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。




Posted by yaori at 13:05│Comments(0) ビジネス | 自叙伝・人物伝