2011年05月24日

謎の1セント硬貨 宇宙飛行士向井千秋さんのダンナ 向井万起男さんのショート集

謎の1セント硬貨 真実は細部に宿るinUSA謎の1セント硬貨 真実は細部に宿るinUSA
著者:向井 万起男
講談社(2009-02-20)
販売元:Amazon.co.jp
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多読人中島考志さんの本で紹介されていたので読んでみた。

中島孝志さんが紹介している本をいくつか読んでみたが、たとえばこの本のように非常に面白い本と、このブログに紹介するレベルに達していない本の両方がある。結局他人には頼れず、自分で読んでみるしかないということを実感した。

この本は向井万起男さんがアメリカで経験した出来事を、日本に帰ってからメールであちこち問い合わせ、その結果をまとめて非常に面白いショートストーリー集としている。

2009年の講談社エッセイ賞の受賞作だ。

向井万起男さんは日本人初の女性宇宙飛行士向井千秋さんのダンナで、千秋さんと同じ慶應大学医学部出身。現在は慶應大学医学部准教授で、病理診断部部長を務めているお医者さんだ。

向井千秋さんは、元上院議員ジョン・グレンと一緒にスペースシャトルに乗り込んでいる。

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出典:Wikipedia

この本にクリントン元大統領とのツーショット写真が載っている。スペースシャトル打ち上げの日に、宇宙飛行士の家族の待合室をクリントン元大統領夫妻が訪問した時の写真だ。

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出典:本書33ページ

このおかっぱ頭の特徴的な風貌の人が向井万起男さんだ。

向井さん夫婦はお互い「チアキちゃん」、「マキオちゃん」と呼び合っているという。普段はヒューストンと日本と別居生活しているので、新婚時代そのままの関係を持続しているようだ。

マキオさんは離陸時刻の6時間前には空港に到着して、行き交う人を観察しているという。「マキオちゃんみたいな人って世の中には他に誰もいないと思うけどなあ」というのが奥さんのチアキさんの言葉だ。マキオさんは変わっているなあと思うところが多い。


この本ではアメリカ生活合計9年の筆者も知らなかったアメリカについての話題を取り上げており、大変興味深く読めた。なか見!検索に対応していないので、目次を紹介しておく。


プロローグ (1943年製造のスチール・ペニーの話)

第1章 14という奇妙な数字

第2章 巨大な星条旗

第3章 空を見上げたポパイ

第4章 い〜い湯だなin USA

第5章 黒い革ジャンの少年たち

第6章 100万匹わんちゃん

第7章 制服を着ている人々

第8章 シンデレラの暗号

第9章 キルロイ伝説

第10章 マクドナルド万歳

第11章 勝手にしやがれ

第12章 ヒューストン市警の対応

第13章 オザーク高原のイエス・キリスト

第14章 ニューヨーク市への忠告

第15章 修道士からの手紙

エピローグ


1943年製造のスチール・ペニーというのは、戦争中1943年だけ製造された鉄を亜鉛メッキした1セント硬貨のことだ。

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出典:Wikipedia

たまたまクリスマスイブのフライトに乗っていたら、最も古い1セント硬貨を持っている人にシャンパンをプレゼントするという機内放送があった。その時の経験から1943年のスチール・ペニーというものがあることに気づき、いろいろなホームページなどにメールで聞いて仕入れた話を紹介している。

戦争中は、日本は寺の鐘や家庭のナベ・カマさえ供出したほど金属不足だったが、アメリカも銅が不足して1943年だけ鉄で1セント硬貨を作ったという。

筆者は1986年から1991年までと、1997年から2000年までの2期にわたって合計9年間ピッツバーグに駐在したが、このスチール・ペニーの話は聞いたことがなかった。このような知る人ぞ知るのとっておきの話が集められている。

あまり詳しく説明すると本を読んだときに興ざめなので、特に面白かった話を簡単に紹介しておく。

第7章の制服を着ている人々は、サウス・ウェスト航空の話が中心だ。サウス・ウェスト航空は飛行機をバスの様に運航している。スチュワーデスやグラウンドスタッフもみんな短パンやラフな姿だが、パイロットだけは制服を着ているという。プロとしてのイメージが重要だという。

第9章のキルロイ伝説が面白い。筆者は見たことがないが、アメリカの公共トイレなどでは"Kilroy was here"という落書きが多いという。この落書きは第2次世界大戦中のヨーロッパで米兵があちこちに書き残して有名になった。

マキオさんがこの落書きに興味を持って、あちこち調べ上げた結果を書いていて面白い。最後にはマキオさんは、キルロイ伝説を自分で作って、キルロイのホームページに載せて貰ったという。

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出典:本書168ページ

第11章はアメリカの標準時間と夏時間(Daylight saving time)についてだ。アメリカには9つのタイムゾーンがあり、町によって夏時間を採用しているところと、採用していないところがあることを紹介している。

筆者もこの標準時間には痛い目にあった。トリニダッド・トバゴに出張したときに、プエルトリコのサンファンが東海岸より1時間早いということを知らなかったので、乗り継ぎ便をミスってしまったのだ。

ちなみにアメリカの標準時間とは(以下は向井さんの訳)、大西洋標準時間、東部標準時間、中部標準時間、山岳部標準時間、太平洋標準時間、アラスカ標準時間、ハワイーアリューシャン標準時間、サモア標準時間、チャモロ標準時間の9つだ。

インディアナ州は郡によって時間システムが異なり、92の郡が次のようなグループとなっている。

77の郡:東部標準時間で夏時間は採用していない。
10の郡:中部標準時間で夏時間も採用。
5の郡 :東部標準時間で夏時間も採用。

筆者もインディアナ州には時々出張に行った(アメリカの比較的新しい大型製鉄所は五大湖畔のインディアナ州に集中している)。途中で時間が違っているのに面食らったものだ。

しかも西に行くほど中部標準時間の郡が増えるというわけではないことが、非常にトリッキーだったという記憶がある。この話題でマキオさんはいろいろなところにメールを入れて調べまくっていて面白い。

第13章はヒューイ・ロングという第2次世界大戦前のルイジアナ州の知事・上院議員とその仲間の話だ。ロングはルーズベルトの対抗馬だったが、1935年に暗殺される。独裁的な政治家だったらしい。

ルイジアナ州の州都はニューオリンズの北にあるバトン・ルージュで、筆者は何度もバトン・ルージュに行ったことがある。

アメリカに鉄鋼原料を輸入する場合、ニューオリンズで外航船からバージ(1,200トン単位のはしけ)に積み替えて、ミシシッピ川を使って全米各地に輸送する。そのバージへの積み替え場所がバーンサイドという場所で、ニューオリンズとバトン・ルージュの間なのだ。

アメリカから穀物を輸出する時は、その反対の物流となる。バージで各地から穀物を集荷して、ニューオリンズ近辺のサイロで集積し、外航船に積む。

ヒューイ・ロングについては「アメリカン・ファシズム」という本に詳しいそうなので、今度読んでみる。

アメリカン・ファシズム―ロングとローズヴェルト (講談社選書メチエ)アメリカン・ファシズム―ロングとローズヴェルト (講談社選書メチエ)
著者:三宅 昭良
講談社(1997-10)
販売元:Amazon.co.jp
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そのロングの仲間の反ユダヤ主義者・ジェラルド・スミスがアーカンソー州のユーレカスプリングス巨大なイエス・キリスト像を建てた話だ。

09-02-06--ChristofOzarks










出典:Wikipedia

第14章のニューヨーク市への忠告は、自由の女神のあるリバティ島と、移民博物館のあるエリス島の領有権をめぐるニューヨーク州とニュージャージー州の争いの話。

リバティ島はニューヨーク領ということで合意しているが、埋め立てを繰り返して大きくなったエリス島は連邦最高裁判所にまで行った訴訟の結果、19世紀当時の3.3エーカーはニューヨーク領、その後埋め立てた24.2エーカーはニュージャージー領ということになったという。

以上簡単に紹介したが、大変楽しい読み物である。特にアメリカに行ったことのある人には是非一読をおすすめする。


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Posted by yaori at 12:54│Comments(0) エッセー