2011年09月16日

分析力を駆使する企業 分析力を武器とする企業

2011年9月15日再掲:

分析力を駆使する企業 発展の五段階分析力を駆使する企業 発展の五段階
著者:トーマス・H・ダベンポート
日経BP社(2011-05-26)
販売元:Amazon.co.jp
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「分析力を武器とする企業」の続編で、2011年5月に出たばかりの同じ著者による「分析力を駆使する企業」を読んでみた。

あらすじは詳しくは書かない。本は当たりはずれがあるという典型のような本だ。

ほとんど印象に残る具体例がない。

わすかに俳優のウィル・スミスが、統計学者といってもよいくらい毎週月曜日には興業成績をチェックし、ヒットした作品の共通点を研究し(すべて特殊効果を使い、ラブストーリーだった)出演作を選んでいるという。

アメリカだけでなく世界各国の売れ行きも重要なので、ウィル・スミスは世界各国にまめに足を運ぶという。



たしかに2008年の「7つの贈り物」のプロモーションで日本にも来日している。



この映画はアメリカではパッとしなかったものの、全世界では1億7千万ドルの興行成績を挙げた。ウィル・スミスのおかげといえるだろうと。この本についてはウィル・スミスの例だけ追記しておく。



2011年7月5日初掲:

分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学
著者:トーマス・H・ダベンポート
販売元:日経BP社
発売日:2008-07-24
おすすめ度:4.0
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いまや"Big Data"としてIBMなど世界の一流IT企業が、顧客データ分析に着目している。この分野の教科書ともいえる「分析力を武器とする企業」("Competing on Analytics")を再度読んでみた。

この本は米国のバブソン大学教授のダベンポート氏と、コンサル会社アクセンチュアのビジネス・インテリジェンスのチームリーダーのジェーン・ハリス氏の共著だ。

同じコンビの「分析力を駆使する企業」という本も出版されたばかりだ。こちらも近々読んであらすじを紹介する。

分析力を駆使する企業 発展の五段階分析力を駆使する企業 発展の五段階
著者:トーマス・H・ダベンポート
日経BP社(2011-05-26)
販売元:Amazon.co.jp
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この分野は筆者が特に興味を持っている分野なので、いままで「CRMの実際」という日経文庫や、流通業界では世界最高峰の英国TESCOのCRMを取り上げた「TESCOの顧客ロイヤリティ分析」などを読んで研究してきた。

CRMの実際 (日経文庫)CRMの実際 (日経文庫)
著者:古林 宏
販売元:日本経済新聞社
発売日:2003-04
おすすめ度:3.5
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Tesco顧客ロイヤルティ戦略Tesco顧客ロイヤルティ戦略
著者:C. ハンビィ
販売元:海文堂出版
発売日:2007-09
おすすめ度:2.5
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日経文庫の「CRMの実際」は2003年の本だが基本を抑えるのには適している。

TESCOの本は、ポイントカードを使ったCRMはどうあるべきかという実例を詳しく紹介しており大変参考になった。このブログでも原著の第2版のあらすじを詳しく紹介している。

ポイントカードを使った顧客管理を突っ込んで研究したい人は、2004年に出た第1版の翻訳である日本語版の「TESCO顧客ロイヤルティ戦略」よりは、英語ではあるがテスコクラブカード戦略の見直しまで取り上げている2008年に出た原著第2版「Scoring Points」の方をおすすめする。

Scoring Points: How Tesco Continues to Win Customer LoyaltyScoring Points: How Tesco Continues to Win Customer Loyalty
著者:Clive Humby
販売元:Kogan Page Ltd
発売日:2008-09
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筆者が読んだ時は、"Scoring Points"はハードカバーしかなかったが、現在はペーパーバック版が出ているので、アマゾンで2,900円で買える。

話が横道にずれたが、「分析力を武器とする企業」は、基本を抑え、各社の実例を広く浅く紹介している。その意味で顧客管理(CRM)の教科書といえると思う。

アマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、ここをクリックして目次をみてほしい。
次の表のような顧客分析を生かす企業の実例が取り上げられている。

分析志向の企業リスト













出典:本書23ページ

分析力を武器にする企業は次の4つの特徴を持つという。

1.分析力が戦略的優位性のベースになっている。

2.分析に組織を挙げて取り組んでいる。

3.経営幹部が分析力の活用に熱心である。アマゾンのジェフ・ベゾスが良い例だ。

4.分析力に社運を賭け戦略の中心に置いている。

参考になった具体例をいくつか紹介しておく。


★ネットフレックス

オンラインDVDレンタル。日本のツタヤDISCUSやDMM.COMのようなサービスだ。

DVDの送料は無料、貸出期限は無制限、延滞料は一切無し。借りたDVDを返せば、次のDVDが借りられるというシステムだ。

ネットフレックスは「シネマッチ」というアルゴリズムを組み込んだ映画リコメンドエンジンを持っている。顧客の好みを分析して、映画を推薦するのだ。

ネットフレックスは100万ドルの賞金を出して、社内外の力を借りて「シネマッチ」のアルゴリズムを10%以上改善したという。

ネットフレックスの最優先顧客はめったに借りない会員だという。月額料金は固定なので、めったに借りない人の方が利益率が高いので、この種類のお客をつなぎ止めておくことが重要だ。

いずれはDVDレンタルはオンラインダウンロードに変わるだろうが、ネットフレックスは自社の分析力さえあれば、バーチャルに移行しても利益は上がると自信を持っているという。


★ボストンレッドソックス

データ分析をプロ野球に利用して成功したオークランド・アスレティックスの例は「マネーボール」という本に詳しい。この本も近々読んでみる。

マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)
著者:マイケル・ルイス
販売元:ランダムハウス講談社
発売日:2006-03-02
おすすめ度:4.5
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まだ松坂大輔が加入する前、ボストンレッドソックスは2002年に野球のデータ分析の専門家を雇って、成果を上げ、2003年にはアメリカンリーグのチャンピオンシップシリーズに進出する。

しかしヤンキーズとのチャンピオンシップシリーズでは、監督のグレディ・リトルはデータ分析の専門家の意見を退け、優勝がかかる第5戦先発のペドロ・マルティネスをデータ分析による限界の105球を超えて8回にも登板させた。

データ分析ではペドロ・マルティネスは、105球までなら相手チームの打率は2割3分だが、106から120球だと打率は3割7分に上がっていた。それにもかかわらずリトル監督は自らのガットフーリング(直感)を信じたわけだ。

筆者は今でも覚えているが、たしかこの第5戦の大逆転劇で、松井が同点のホームを踏んで、躍り上がって喜んでいたことを思い出す。2003年でリトル監督はクビ。翌年は分析力と戦力補強が役立ち、86年間の「ベーブ・ルースの呪い」を破って念願のワールドシリーズを制覇したのだ。


★ロッキー・マウンテン・スチール

昔鉄鋼原料を取り扱っていた筆者には懐かしい名前だ。ロッキー・マウンテン・スチールはオレゴンスチールの子会社でシームレス鋼管を製造していたが、不況で生産中止していた。

筆者の記憶が正しければ、この会社は昔のUSスチールのPueblo, Utah工場ではないかと思う。戦争中に万が一敵が西海岸に侵攻してきても、ロッキー山脈のあたりにあれば、爆撃にも平気だということで建設した工場ではなかったかと思う。

鋼管市況が高騰したので、社内外の生産再開を求める声に対し、副社長のロブ・サイモンは"profit insight"というソフトウェアで再開時期を分析し、製品販売での逸失利益を出すことなく工場再開を決めたのだという。

ロッキー・マウンテン・スチールは今はEvrazという会社の一部門になっているようだ。


★マス広告の問題点

マス広告の問題点は、デパートの先駆者のジョン・ワナメーカーが嘆いたように「広告費の半分は無駄に失われている。だが、それがどの半分かがわからない」点だ。

それを科学的に分析するのが、現代の広告業界が力を入れている分野だという。DDB Worldwide社の子会社のDDBマトリクス社が有名だ。

ちなみにDDB Worldwide社のホームページには"Fun Theory"という、人は面白ければ動くという一連の広告活動が紹介されている。

階段をピアノの鍵盤のように改造して、音が出るようにしたら、エスカレーターより階段を使う人が増えたという。フォルクスワーゲンの広告で、興味深い実験が紹介されている。


★キャピタル・ワン(クレジットカード)

1980年代に「情報ベース戦略」により、最もありがたい顧客を突き止めた。クレジットカードの最上のお得意は、高額の商品を買って長期にわたって返済するお客だった。

この結果、リボルビングクレジットカードを発明し、これがアメリカのクレジットカードのスタンダードになった。


★プログレッシブ(損害保険)

クレジットカード業界の信用レーティングでデファクトとなっているFICOスコアを保険ビジネスに生かした。

FICOスコアが高い人は自動車事故を起こす確率が低いことをつきとめ、優良顧客に安い料率を適用して集客に成功した

FICO(フェア・アイザック社」)スコアについては、以前紹介した消費生活評論家の岩田昭男先生の「信用格差社会」に詳しいので、参照してほしい。

「信用力」格差社会―カードでわかるあなたの“経済偏差値”「信用力」格差社会―カードでわかるあなたの“経済偏差値”
著者:岩田 昭男
東洋経済新報社(2008-11)
販売元:Amazon.co.jp
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ちなみにFICOスコアはアメリカでは採用時のスクリーニングに使われているという。ミズーリ大学のマーク・オレソン教授のコメントを紹介している。

「お金の問題を抱えている人で、ほかに何も問題がないという人は滅多にいない。だいたいは欠勤をしたり、能率が悪かったりする。あるいは、家庭に問題を抱えていることも多い、つまりクレジット・スコアが低い人は、生活の他の面でも要注意なのだ。

したがって、大量の応募者があるような場合には、企業は最初のスクリーニングにクレジット・スコアを活用して人数を絞ることができるだろう」



★ハラーズ・エンターテインメント(カジノ)

大金をスッたお客に一息入れる20ドルのバークーポンを送ったり、人気コンサートの売れ残りチケットを紹介したりして、顧客との関係を最適化。


★ニューイングランド・ペイトリオッツ(フットボール)

選手のセレクション、選手の年俸決定、試合中の戦術の選択に統計的手法を導入。パトリオッツは2001年から2004年までのシーズンで3回スーパーボウル(ゼンベイチャンピオンシップ)で優勝した。

筆者はピッツバーグ駐在経験者なので、当然ピッツバーグ・スティーラーズのファンだが、以前は弱かったペイトリオッツがなぜ強くなったのか疑問に思っていた。これで理由の一端がわかった。


★ウォルマート(スーパーマーケット)

ウォルマートの保有データは2006年4月時点で583テラバイトだったという。この膨大な顧客データをSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)に生かしている。

生データをサプライヤーにレテール・リンク(Retail Link)を通じて提供し、その店にあった商品の品ぞろえ、在庫補給を任せている。また天気予報などの情報を取り入れ、ハリケーンが近づくとケロッグのストロベリー・ポップ・タルトなどの非常用食品を大量に仕入れるという。


★セメックス(メキシコのセメント会社)

ミキサー全車にGPSを備え付け、予測モデルを使って生コンクリートの配送時間を管理し、急な注文への対応を従来の3時間から20分に短縮して顧客満足度を上げ、ミキサー車の生産性を35%向上させた。

印象に残った例を紹介したが、このほかにも多くの事例を紹介している。


★データ分析のウソ

英国の名宰相ベンジャミン・ディズレーリは「嘘には3種類ある。嘘、大嘘、統計だ」と語ったという。恣意的な統計は人を欺くこともできる。


「紙オムツとビール」は都市伝説

データ分析では、以前から紙オムツを買う人はビールも買うという都市伝説があった。その根拠とされるオスコというドラッグストアチェーンに問い合わせたところ、根も葉もないうわさだったという。

しかし、この「紙オムツとビール」伝説には、データ分析するためには多数の専門アナリストが必要だということと、トップが分析を信じてアクションを取ることが重要だということが教訓として潜んでいるという。

このように様々な業界の、データ分析・活用例を紹介し、そのデータ分析を経営に活かすためにはどうしたらよいかを具体的に説明している。


第2部の「分析力を組織力にする」は実戦的

この本の著者の一人はアクセンチュアのコンサルタントなので、第2部の「分析力を組織力にする」は非常に実戦的だ。次のような章構成で、具体的な導入方法について解説している。

第6章 分析力活用のためのロードマップと組織戦略

第7章 分析力を支える人材

第8章 分析力を支える技術

第9章 分析競争の未来


そしてこの本の最後の分析力を武器とする企業の未来像は、次のようにまとめられている。データ分析を生かす企業は何を目標としなければならないかが、よくわかる。

「分析力を武器とする企業は、これからも後発企業から頭一つも二つも抜け出た存在であり続けるにちがいない。効果的・効率的なキャンペーンを打ち、プロモーションを仕掛けて、最高の顧客をつかむ。

顧客が喜んで払ってくれるような、値頃で妥当な価格を設定する。かゆいところに手が届くようなサービスを提供し、高い顧客忠誠度を誇る。

超効率的なサプライ・チェーンを展開し、在庫がだぶつくこともなければ、在庫が切れることもない。

最高の人材を呼び込み、適切に評価し、報いる。

独自の視点から業績評価指数を設定し、将来を的確に予想し、問題が深刻化しないうちに突き止めて対処する。そのすべてにデータ分析が生かされている。

彼らは多くの問題を解決し、競争で優位に立つだろう。未来のビジネスをリードするのは、分析力を武器にする企業だと私たちは確信している。」



データ分析の教科書としてよくまとまっており、参考になる本だった。


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Posted by yaori at 00:04│Comments(0) ビジネス | 企業経営