
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
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大前さんがビジネスブレークスルー大学院大学で東日本大震災と、その後の福島原子力発電所事故について解説した番組を加筆して緊急出版したもの。
このブログでも紹介している通り、大前さんは東日本大震災が起こり福島の原発事故が発生した直後の3月13日から毎週、ビジネスブレークスルー大学院大学で原発事故について講義をしていた。これらはYouTubeにも収録されている。
大前さんは当初からこれで日本原子力産業は終わったと言っていた。
大前さんの復興計画の根幹をなすのは次の2点だ。
1.道州制
2.個人の意識改革
道州制については、大前さんが「平成維新の会」を立ち上げる前から主張しているものだ。
今回の提案は、被災地に最初に道州制を導入するという先行導入案だ。県単位でバラバラに復興計画が出されて、全体最適が損なわれる事態を、道州制を導入して全体で整合性のある復興計画にしようというものだ。
たとえば昔の「ここより下には家をつくるな」の石碑などの例にならい、住居は高台につくり、漁師などは海辺に車で通勤するとかの提案が含まれている。
最近では道州制賛同者も増え、公的な会議の議題にも道州制が上る様になってきた。先日前経団連の御手洗さんの講演を聞く機会があった。御手洗さんも道州制を復興計画の柱として提案されていた。
2.の個人の意識改革というのは、大前さんが「大前流心理経済学」などで、繰り返し提案しているものだ。

著者:大前 研一
講談社(2007-11-09)
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次の表の通り、日本は20年間所得が減り続けている世界唯一の先進国だという。これを克服するには日本人のメンタリティを変えなければならない。住宅、車、教育の3大熱病は早く治すべきだと語る。

出典:本書109ページ
筆者の場合、すべての「熱病」を抱えており、いまさらどうにもならないが、たしかに賃貸物件もいいものがあるので、若い人がこれからマンションとかを買うのは考えた方が良いかもしれない。
特筆すべき発言
テレビ放送を本にしたものなので、オフレコ的な発言も収録されている。
★たとえば4島返還でなくてもよいから日露平和条約を早期に締結して、シベリアの無人地域に核廃棄物の埋設場所を確保させてもらうことを提案している。
放射性廃棄物の問題は日本の国難であり、北方4島と次元が異なる問題だからだという。
合理的な提案かもしれないが、ロシアと日本の国民感情を考えれば、到底受け入れられる提案とは思えない様に筆者には思える。
今後紹介する「大前研一 洞察力の原点」で、世間話ができないことを「大前研一敗戦記」で書いていることが紹介されている。
世間話ができない
「日本全体のこととか、世界経済だとか、東京全体の問題とかは、一生懸命考えてきたけれど、下町の風景のなかでおじいちゃん、おばあちゃんと世間話ができない。
日本改造から自分はスタートしたが、まずは自分の改造が崎だということに気がついたのだった。」
原出典;「大前研一敗戦記」
「シベリアで核廃棄物埋設場建設」というのも、この傾向が出ていると思う。つまり大前さんの欠点の一つは、庶民感覚がないのだ。
★大前さんの奥さんはアメリカ人なので、アメリカ大使館から連絡があってヨウ素カリを大使館指定の薬局でもらってきたという。アメリカの本気度と日本に対する信頼のなさが読み取れるという。
表の顔、裏の顔を使い分けて万全を期すのがアメリカのやり方だ。いかにもありそうな話だと思う。
★日本には「ウラの国策」があり、プルトニウムをためていけば90日で原爆が造れるという。日本は唯一の被爆国として非核三原則を掲げているが、それに抵触しないで核武装の能力だけは備えておく、つまり90日で原爆を作る能力のある「ニュークリア・レディ」国なのだ。
だから使用済み核燃料を国内にずっとため込んでいるのだと。
この「ニュークリア・レディ」の話を読んで、大前さんもヤキがまわったと思っていた。
以前「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したとおり、プルトニウム原爆の起爆装置は非常に複雑で、実験もできずノウハウもない日本が90日で原爆ができるとは到底思えない。

出典:Wikipedia

著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
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ましてや運搬手段のミサイルも爆撃機もない日本で、原爆弾頭だけつくっても、何の役にも立たない。そもそも原爆保有を大多数の国民が許すとは到底思えず、中国や北朝鮮から攻められるとかいう事態があっても、国民のコンセンサスは得られないのではないか?
ところが、最近読んだ京都大学原子炉実験所小出裕章助教の「隠される原子力・核の真実」という本を読んで、日本はせっせとプルトニウムをため込んでおり、すでに長崎原爆を4,000個つくれるだけのプルトニウムを保有していることがわかった。

出典:「隠される原子力・核の真実」46ページ

著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
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大前さんはヤキがまわったのではなく、元原子力関係者として一般人が知らない真実をチラッと明かしただけなのかもしれない。そんな気がした。
大前さんはこの本の印税をすべて寄付するという。震災・原発直後の復興提案としては提案スピードといい、提案内容といい、優れたものだと思う。
本を読むか、あるいは上記のYouTubeの2番目の映像の公開講義を見ることを、ぜひおすすめする。
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