2011年07月14日

1兆円を稼いだ男の仕事術 元ドコモ・夏野剛さんの仕事・人脈術

1兆円を稼いだ男の仕事術1兆円を稼いだ男の仕事術
著者:夏野 剛
講談社(2009-07-02)
販売元:Amazon.co.jp
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元ドコモのiモードやおサイフケータイ推進者。現在、慶應大学湘南特別招聘教授で、ドワンゴ、SBIホールディングス、ぴあなどの取締役を兼任する夏野剛(なつのたけし)さんの本。ぴあといえば、7月21日号で終了すると発表されたばかりだ

この本の題名は、ドコモ時代の夏野さんの上司で、iモードを広げた仕掛け人の榎啓一さん(現ドコモエンジニアリング社長)が、「夏野がドコモにもたらした利益は、1兆円をくだらない」という言葉から取ったという。

このブログでは夏野さんの「グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業」「ケータイの未来」を紹介している。

夏野さんのドコモでの事業取り組みとドコモ入社までの経歴は「ケータイの未来」で紹介したので、参照して欲しい。

ケータイの未来ケータイの未来
著者:夏野 剛
ダイヤモンド社(2006-11-17)
販売元:Amazon.co.jp
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先日夏野さんの講演を最前列で聞く機会があったが、なかなかカッコいい、おしゃれな人だ。ビッグサイトでの講演だったが、車で来ていると言っていた。

よく町中で、フェラーリなどに乗っているいかにもベンチャー企業経営者風の人を見かけるが、あるいは夏野さんもそんな高級車に乗っているのかもしれない。実際に夏野さんの車の車種が何か知らないが、そんな印象を受けた。

夏野さんの講演の要旨は、いままでは携帯電話業界の進化はキャリアや端末メーカーが主導してきたが、これからはネット業界=シリコンバレー主導になるというものだ。

これを象徴するのが、台湾のHTCの時価総額がノキアを上回ったとか、アップルのi-Phoneの端末販売数量がノキアを上回ったとかいう現象だ。

マスコミはアップルとグーグルはiPhone OSとアンドロイドOSで激しく競合しているようにあおっているが、両者は狙っている戦略が違うので、競合してないのだと。

アップルは"Customer Retention Max"で、一人のユーザーにアップルの様々な機器やサービスを購入してもらうのが戦略だ。これに対しグーグルは"Ad Revenue Max"で、世界のネット広告市場が大きくなれば、その分グーグルのビジネスも増えるというものだ。

その証拠に、日本のi-モードが世界を席巻していれば、Android端末などは開発する必要がなかったとグーグルの人に言われたことがあるという。

いわゆるガラケーとスマートフォンの差は、ケータイが進化したのがガラケーで、PCの延長がスマホだと。つまりPC技術でケータイが作れる時代になったのだ。

閑話休題。

この本では、夏野さんの仕事に対する考え方を、次の5章に整理している。

第1章 今できることだけを全部やりきる

第2章 「個人の信念」だけが商品価値を決める

第3章 ビジネスは「仁義と任侠」だけで進める

第4章 「仕事」x「情熱」=「社会の発展」を目指す

第5章 会社は目的達成のための「道具」である


それぞれの章の最後に、いわゆるナットシェル=まとめが付いている。

特に参考になった第4章「仕事」x「情熱」=「社会の発展」のナットシェルは次のようになっている。

・社会への貢献を目指せば、自ずと利益は生まれる

・最優先すべきは「快適な社会」の実現

・変化を恐れる保守的な思考の人間とは徹底的に戦う

・「最大のピンチ=最大のチャンス」のプラス思考を持つ

・「勝てるケンカ」=「社会貢献}+「信念」+「データ」


という具合だ。

この本を読むと、夏野さんがいかにキーパーソンを見つけ出して仕事をやり遂げてきたかがよくわかる。夏野さんの仕事術は人脈術と言っても良いと思う。それをあらわすのが第3章の「仁義と任侠」だ。

ビジネスは「義理と人情」ではダメだという。「仁義と任侠」なのだと。「義理と人情」は合理的ではないが、「仁義と任侠」は、合理的でないと成立しない。

「仁義と任侠」はいわば兄弟の契りみないなもので、「自分がこの人間と組むことは、この人間のためにもなるし、自分のためにもなる」というWIN−WINの関係だ。

一番の例がドコモのiモードだ。

当時のドコモの社長は大星公二さんで、携帯電話が急速に普及して業績絶好調のドコモで、唯一ピンチだと感じていた。携帯電話所有者はそのうち飽和するので、新しい価値を付加する必要を感じていたという。

大星さんが法人営業部長だった榎啓一さんに、法人営業部の内部プロジェクトとしてゲートウェイビジネス部を立ち上げさせた。

榎さんが元リクルートのトラバーユ編集長の松永真理さんを引っ張ってきた。

そして松永真理さんが、リクルートで学生アルバイトとして働いた経歴がある夏野さんを引っ張ってきた。

松永さんは夏野さんのことを「インフラオタク」と呼んでいたという。プラットフォームビジネスをつくり、社会に貢献するのが何よりも好きなのだ。


iモードトリオ対マッキンゼー

もともとiモードはマッキンゼーがドコモにデータ通信ビジネスを始めることを提案したものだ。それをドコモが採用した。だから当初はiモードビジネスの主導権を持っていたのはマッキンゼーだった。

マッキンゼーとiモードトリオ(榎・松永・夏野)は、利益の上げ方で衝突したという。マッキンゼーはコンテンツプロバイダーからカネを取るモデル。これならドコモにリスクはない。

iモードトリオは、コンテンツプロバイダーの料金回収代行で収益を上げるモデル。コンテンツプロバイダーとWIN−WINの関係を築くモデルだ。これだとコンテンツプロバイダーのリスクは小さくなり、新規参入がしやすくなる。

この論争を打破するために、夏野さんはハイパーネット時代の人脈を使って、当時の住友銀行の元日本橋支店長の国重さん(当時住友キャピタル証券副社長。現楽天証券会長)をくどく。

国重さんはiモードのビジネスモデルは筋がよいと評価し、母体の住友銀行がコンテンツプロバイダーの第一号になった。住友銀行がコンテンツプロバイダーとして参加したことで、他の銀行や企業が相次いでiモードに参加したのだ。

ちなみに当時のマッキンゼーのiモードチームの責任者が、最近夫の看病に専念するとしてDeNA社長を退任した南場智子さんだ

南場さんは「マッキンゼーがリアルビジネスを理解していなかった」という夏野さんの意見を「経営者になった今なら100%理解できる」と言っているという。

ドコモがクレジットカードビジネス参入を検討した時に、クレジットカード業界からは「村社会」の掟を乱すものとして相手にされなかった。「たとえドコモでも許さない。」と。そこで当時の三井住友ファイナンシャルグループ社長の西川善文さんにアプローチした。

西川さんは即決し、ドコモが三井住友カードの1/3の株を取得ることになったという。

人脈をつくるには、「リーダー」でなく、「チャンピオン=真の実力者」を探せと夏野さんは言う。

2004年に導入したおサイフケータイにソニーのFeliCaチップを導入したのは、このブログで「Suicaが世界を変える」を紹介しているJR東日本の椎橋章夫さんが熱心に勧めてくれたからだという。おサイフケータイで夏野さんは「もしかすると、ビル・ゲイツに勝てるかもしれない」と思ったという。

現在は冒頭に述べたようにPC業界にケータイ業界は蹂躙されている。グーグルがNFC技術を使おうとしているので、日本のおサイフケータイ、FeliCa技術もガラパゴス化する恐れも出てきている。ケータイの世界は変化が早い。

この本の中で、夏野さんが2008年6月にドコモを辞めた理由と思われることが書いてある。公式には「ドコモでやるべきことは、すべてやり尽くした」と感じたからだと。しかし、直接の原因となったことは、総務省からの「お達し」でドコモはそれまでのインセンティブ制度を見直し、携帯電話の急速な普及に貢献した端末料金無料などの販売戦略を見直さざるをえなかったことのようだ。

これにより携帯電話の買い換えサイクルは長期化し、携帯電話業界の活気が失われた。ゼロ円端末もなくなり、消費者のメリットも失われた。


「マグロ」と「タケナカ大臣」

夏野さんは「マグロ」と呼ばれていたという。マグロのように休むことなく働き続け、次々と新しいサービスを追い求めたからだ。

ドコモ在籍中は「タケナカ大臣」というニックネームを頂戴したという。竹中平蔵大臣のように思ったことを包み隠さずポンポン言う姿がだぶったからだと。

夏野さんのケンカする条件とは次の3つだ。

1.自分が成功を確信できていること

2.論理的に筋道、理屈が通っていること

3.社会・会社のためになること


夏野さんの考え方がわかる面白い本である。


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Posted by yaori at 12:48│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 夏野剛

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