2011年08月04日

アインシュタイン その生涯と宇宙 翻訳不備 続報

2011年8月4・5日追記

いよいよ大新聞が取り上げ始めた。ヨミウリオンラインに記事が出ている。なんと初版本はコレクターアイテムとなり、2万円で売りに出されているという。

アインシュタイン校正不備5






日経新聞も8月5日付けの夕刊で取り上げている。

アインシュタイン校正不備





出版社をたたくのではなく、出版業界でぜひ再発防止策をきちんと打ち出してほしいものだ。


2011年8月3日追記

7月17日にブログで知らせた「アインシュタインその世界と宇宙」下巻の翻訳不備が、とうとうマスコミの知るところとなった。

アインシュタイン校正不備2






このニュースサイトのみならず、他のニュースサイトにも報道されている。

ネットで検索すると、プロの翻訳者向けのサイトというBuckeye the Translator でも報告されているのを発見。Buckeyeということなので、オハイオ州にいたことのある人のサイトと思う。

アインシュタイン校正不備3






さらにこのサイトでは一番ひどい誤訳の部分の原文を入手して、いろいろな機械翻訳に掛けた結果、Exite翻訳エンジンだと同様の結果が出ることをつきとめた人がいると報じている。アインシュタイン校正不備4






問題の「旗の包茎」の原文は"flag-draped car"だったことがわかった。"drape"という言葉は、カーテンなどを指すときに"drapery"という言葉がよく用いられる。

元タイム誌の編集長が書いた本なので、英語も格調高いのではないかと見込んでいたが、さすがに難しい英語の言い回しをしている。

"Flag-draped"とは「旗を横断幕あるいは垂れ幕にした」という意味だと思う。つまりアインシュタインを歓迎して、200台もの横断幕を飾った車に乗った興奮した民衆が熱烈に歓迎したというような意味だろう。

アマゾンによると下巻の発売日が8月24日に決まったようだ。たぶん日本の出版史でも最悪で前代未聞の翻訳不備・校正不備の不祥事だと思う。その意味ではこの事件を出版界の戒めとして風化させないという意味で、あえてリコールには応ぜずそのままキープしようかと思い始めている。

ちなみにアマゾンで一番に書いていたウィットに富んだカスタマーレビューは、削除されたようだが、翻訳者のコメントや他のコメントが寄せられていて、翻訳者と編集者の力関係とか考えさせられる指摘があるので、参照して欲しい。


2011年7月17日初掲:

アインシュタイン その生涯と宇宙 下アインシュタイン その生涯と宇宙 下
著者:ウォルター アイザックソン
武田ランダムハウスジャパン(2011-06-23)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

現在「アインシュタイン その生涯と宇宙」上下 約800ページの大作を読んでいる。

元タイムの編集長で、アスペン研究所とCNNのCEOを勤めるWalter Isaacsonさんの作品だ。

Einstein: His Life and UniverseEinstein: His Life and Universe
著者:Walter Isaacson
Simon & Schuster(2008-05-13)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

知識のない物理や数学の話題も出てくるので、先週から必死に読んでいる。読み終えたらいずれあらすじを紹介するが、読んでいるうちに驚くべき事態を発見したので、このブログの読者だけに紹介しておく。

まずは、ここをクリックしてアマゾンの「カスタマーレビュー」を読んで欲しい。

いち早く読んだ読者の7月4日の「ボルンの妻のヘートヴィヒに最大限にしてください。」(!?), というウィットに富んだカスタマーレビューが秀逸である。

そして7月15日に今度は訳者の一人の松田卓也神戸大学名誉教授が弁明と実情報告をカスタマーレビューに載せている。

小泉元首相の言葉ではないが、最初のカスタマーレビューで引用されている「笑っちゃう」本書の第13章、60−61ページは次の通りだ。

アインシュタイン校正不備2






出典:本書60−61ページ

第13章「さまよえるシオニスト」はアインシュタインが1921年に米国を初めて訪問する旅と、1922年にノーベル賞授賞式を欠席して日本を訪問した時のことを取り上げている章で、日本人であれば最も読みたい章なのだ。

実は上記の60−61ページは、あまりにひどい翻訳で頭に来たので、筆者が出版社に送ろうとスキャンしたものだ。

出版社の連絡先を調べてみると、出版社の武田ランダムハウスジャパンのホームページ、「お詫びとお知らせ」というのが出ていることを発見した。

もしやと思って、クリックしてみると案の定、下巻だけ回収するという。

アインシュタイン校正不備





アマゾンのカスタマーレビューでも極めつけとして紹介されているのはこの部分だ。

「極めつけはp.61.。 

 「驚異的な場面だったが,それはクリーブランドで超えられていた。数数千が,訪問代表団と会合するためにユニオン列車車庫に群がった,そして,パレードは二〇〇台の酔っぱらっていて旗の包茎(ママ)の車を含んでいた。

なにか,ダリとかシュールレアリズムの絵画のような情景であるが・・・。 」


この部分を思い出すとつい「笑っちゃう」。

誤解のないように記しておくが、筆者はこの出版社、編集者、監訳者、訳者たちをつるし上げるつもりは全くない。

そのつもりならツイッターに書く。

本の愛好家として、今回のケースを同様の事故防止のため出版界として再発防止策を是非検討して欲しいのだ。

というのは今回の出版事故は根が深いと思うからだ。

訳者の松田さんは機械翻訳と説明しているが、上記で引用した61ページの該当部分は機械翻訳なのかよくわからない。

「包茎」に当たる英語の”phimosis”という単語は、米国駐在合計9年の筆者でも見たことも聞いたこともない単語だ。

原著にこの単語が使ってあれば、機械翻訳で「包茎」という言葉が出てくるのもわかるが、英語の原著にこのような単語があるとは到底思えない。


ちなみにあなたは"circumcision"という言葉をご存じだろうか?

この"circumcision"は、米国で息子が生まれたときは絶対に知っておかなければならない言葉だ。

意味は「割礼」だ。

米国の病院では男の子が生まれた時に、医者や看護婦が"circumcision"をするかと聞く。筆者の場合には2,3度聞かれた。

筆者の場合は初め何のことかわからなかったので、とっさに"No"と断った。

あまりしつこく聞くので、辞書で調べて、その意味を知って驚いた。

筆者をユダヤ人と間違えた訳ではないと思うので、たぶん米国の病院では男の子が生まれると医者が必ず聞くのだろう。

単語の意味を知らずに"Yes"とか答えていたら、ピッツバーグ生まれの長男はゴルゴ13のように割礼してしまうところだった。

閑話休題。


次に日本語の誤変換だが、「はたのほうけいのくるま」とひらがなで書いてみると、日本語のタイプミスに起因する誤変換とも思えない。

つまりこの「旗の包茎」という単語がなぜここに登場するのかさっぱり原因がわからないのだ。

さらに、本は通常次のチェック過程があるはずだ。

1.訳者が原稿をチェック。

2.監訳者が原稿をチェック。

3.編集者が原稿をチェック。

4.ゲラ刷りの「デザイン原稿」を訳者、監訳者、編集者がチェック。

5.最終原稿を訳者、監訳者、編集者、校正者がチェック。

6.印刷された本を訳者、監訳者、編集者、出版社の他の担当者が読む。

それでいて、なぜ今回のような致命的ミスが見過ごされたのか?その理由がわからない。


筆者は勝間和代さんのような「フォトリーディング」などはできない。

もっぱら通勤時間を利用して年間300冊くらい本を読むが、1ページ、1ページを丹念に読んでいるのだ。

この「アインシュタイン その生涯と世界」も、アインシュタインの伝記の決定版として非常に期待して読んでいる(現在下巻の250ページ)。

サッカー日本代表の長谷部誠選手が、推薦する本に「アインシュタインは語る」を挙げていたことは以前紹介した。

アインシュタインは語るアインシュタインは語る
大月書店(2006-08)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

アインシュタインの最新の伝記であるこの本に期待していた読者は、筆者だけではないと思う。

この本の上巻から変換ミスや誤植がやや目立つなと感じていたが、全体として翻訳のクオリティは悪くない。

翻訳本のなかには、原著で読んだ方がよっぽど理解しやすいものもあるが、この本は上巻までは原著で読む必要を感じていなかった。


トヨタは「なぜを5回繰り返せ」と現場に徹底しているという。

せっかくの貴重な文献を台無しにして、訳者・監訳者の信用を失墜させ、愛読者の期待を裏切り、しかも恥を日本全国の図書館や書店にさらす今回の事態を、是非「なぜなぜ5回」で根本原因を追及し、二度とこのような事態が発生しないように再発防止策を徹底して欲しいものだ。

頼むぜ 武田ランダムハウスジャパン!


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Posted by yaori at 12:37│Comments(0) 自叙伝・人物伝 | 自然科学