2011年08月16日

頑張れ! 武田ランダムハウスジャパン 第2弾 最後の授業

このブログでも書いた「アインシュタイン その生涯と宇宙」の翻訳不備が、新聞やテレビでも取り上げられて一騒動起こった。出版社の武田ランダムハウスジャパンの損害は数千万円になると思うが、是非再発防止策を出版業界全体で考えて欲しいものだ。

武田ランダムハウスジャパンは良い本を多く出している。前回はアカデミー賞受賞の「スラムドッグ$ミリオネア」の原作の「ぼくと1ルピーの神様」を紹介したが、同じく武田ランダムハウスジャパンのホームページで気が付いて読んだ本をもう一冊紹介する。

それは膵臓ガンに冒され、余命数ヶ月となった2007年9月にカーネギー・メロン大学で最後の講義を行ったバーチャル・リアリティの権威ランディ・パウシュ教授の「最後の授業」だ。

最後の授業 ぼくの命があるうちに DVD付き版最後の授業 ぼくの命があるうちに DVD付き版
著者:ランディ パウシュ
武田ランダムハウスジャパン(2008-06-19)
販売元:Amazon.co.jp
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この本の紹介ビデオはYouTubeにも載っている。



全部で1時間強の「最後の講義」は9部に分けてYouTubeに載っている。ここでは最初の第1部と最後の第9部を紹介しておく。





講義は1時間だけだが、本ではランディが自分の生い立ちや学生生活を振り返り、自分の夢を実現するには何を心掛ければ良いのかを語る。

ランディはブラウン大学を卒業した後、ピッツバーグのカーネギー・メロン大学の大学院の博士課程に進む。

筆者はピッツバーグに合計9年間駐在していたので、カーネギー・メロン大学はこのブログで紹介したロボテックスの金出先生はじめ、親しみがある大学だ。特にカーネギー・メロン大学のAIやロボットの研究は世界トップクラスで、日本からも多くの留学生が学んでいる。

カーネギー・メロン大学は日本ではあまり知名度が高くないかもしれないが、世界の大学ランキング2010の20位にランクインしている。日本では東大の26位が最高位だ。

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出典:「米国の一流大学は本当にすごいのか?」14ページ

ランディの大学院進学の際は、一旦はカーネギー・メロン大学から不合格通知を受けたが、ブラウン大学の恩師アンディ・ファン・ダムとカーネギー・メロン大学の学部長がオランダ人同士で親しかったこともあり、無理矢理頼んで入学した。

この本の中でもしばしば出てくる「レンガの壁」を乗り越えるには、決して諦めてはいけない、助けてくれる人があれば力を借りればよい。そして壁を乗り越えた後は、他の人のために自分の経験を話すのだと。

この本の前半は自分の生い立ちや経験についてで、後半の第4章からが夢を叶えるための講義だ。

この本は「なか見!検索」に対応していないし、本の目次には章題しか示していないので、「なんちゃってなか見!検索」で第4章、第5章の節題まで含めた目次を紹介しておく。この本の伝えたいメッセージがわかると思う。

第4章 夢をかなえようとしているきみたちへ
・時間を管理する
・仲間の意見に耳を傾ける
・幸運は、準備と機会がめぐりあったときに起こる
・きみはもっとできる
・人の夢をかなえるプロジェクト

第5章 人生をどう生きるか
・自分に夢を見る自由を与える
・格好よくあるよりまじめであれ
・ときには降参する
・不満を口にしない
・他人の考えを気にしすぎない
・チームワークの大切さを知る
・人のいちばんいいところを見つける
・何を言ったのでなく、何をやったかに注目する
・決まり文句に学ぶ
・「最初のペンギン」になる
・相手の視点に立って発想する
・「ありがとう」を伝える
・忠誠心は双方向
・ひたむきに取り組む
・人にしてもらったことを人にしてあげる
・お願いごとにはひと工夫
・準備を怠らない
・謝るときは心から
・誠実であれ
・子供のころの夢を想い出す
・思いやりを示す
・自分に値しない仕事はない
・自分の常識にとらわれない
・決してあきらめない
・責任を引き受ける
・とにかく頼んでみる
・すべての瞬間を楽しむ
・楽観的になる
・たくさんのインプット(講義を見た人からのメッセージ)

ランディはカーネギーの本についてはふれていていないが、「相手の視点に立って発想する」などは、まさにカーネギーの教え通りで、この本を読んでいてカーネギーとの共通点が多いと感じた。

ランディの8歳の時の夢は次の通りだという。

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出典:本書38ページ

この本の前半ではこの夢をかなえるためにランディがしてきたことを語っている。「NFLでプレーする」は最後の授業の後、ピッツバーグスティーラーズの練習に参加することで、かなえられたという。

また「カーク船長になる」とは、スター・トレックのカーク船長のことだが、カーク船長役のウィリアム・シャトナーはカーネギー・メロン大学のバーチャル・リアリティ研究室を訪ねてきたことがあるという。

ランディが末期ガンになったと聞き、カーク船長は写真にメッセージを書いて送ってきた。それは有名な"I don't believe in No-Win Scenario"、つまり「勝つシナリオが必ずある」(これは筆者の意訳。元々は「勝ち目のないシナリオなんかない」となっていた)という言葉だ。

Star Trek












出典:本書65ページ

ランディはバーチャル・リアリティクラスをたちあげ、演劇学教授のドン・マリネリと共同でエンターテインメント・テクノロジー・センター(ETC)を創設した。

ETCはオーストラリアと日本の大阪に研究拠点を持ち、韓国とシンガポールにも拠点があるという。

カーネギー・メロン大学の開発した簡単にアニメーションをつくれるアリスというソフトウェアが紹介されている。今度一度試してみる。

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ちなみにカーネギー・メロン大学は神戸市に日本校があり、大学の研究機関CyLabの教育部門である情報ネットワーキング研究所(INI)の過程を通してアメリカの修士号を取得できるという。

いくつか印象に残った部分を紹介しておく。

★「自分に言い寄ってくる男性がいたら、気をつけることは簡単。彼の言うことはすべて無視して、彼のすることだけに注意すればいいの」
この本はランディの3人の子供(一番上が5歳)にも向けられた内容なので、一番下の娘のクロエ(1歳半)には、ランディの女性同僚から聞いた言葉を贈っている。
なるほど。

★「最初のペンギン」になる
これは最初に海に飛び込んだペンギンは勇気があるということから、ランディのバーチャル・リアリティのクラスでは、リスクを冒して新しい技術に取り組んだが、目標を達成できなかったグループに「最初のペンギン」賞を与えているという。

経験とは、求めていたものを手に入れられなかったときに(つまり失敗した時に)、手に入るものだと。

★相手の視点に立って発想する
ランディは、バージニア大学でユーザー・インターフェイスの授業を教えていた時に、ビデオカセットデッキを教室に持って行って、ハンマーで壊したという。

昔の日米貿易摩擦の時に、アメリカの国会議員がトヨタの車をハンマーで壊したり、東芝のカセットデッキをハンマーで壊したことを想い出させる逸話だ。

「使いにくいものをつくれば、人は怒る。あまりに頭に来て、それを壊したくなる。人々が壊したくなるものをつくりたくはないでしょう」

いらいらした大衆が簡潔さを切望していることを忘れずにいてほしいと。

★「ありがとう」を伝える
これは手書きの礼状のすすめだ。カーネギー・メロン大学のETCの志望者を不合格にしようと思ったが、彼女が書いた手書きの礼状(事務受付係宛で合否判定とは関係ない係)を見て、採用を決めたという。

今はディズニーのイマジニア(ディズニーランドのクリエイター集団ウォルト・ディズニー・イマジニアリング社社員)になっているという。

手書きの手紙は魔法を起こすという。

夢を形にする発想術夢を形にする発想術
著者:イマジニア
ディスカヴァー・トゥエンティワン(2007-02-05)
販売元:Amazon.co.jp
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★自分に値しない仕事はない
ランディは就職前の学生にこう助言するという。

「郵便を仕分ける仕事に決まっても、心から喜ぶべきだ。仕分け室に行ったら、やるべきことはひとつ。郵便の仕分けの達人になることだ」

同趣旨のことを楽天の三木谷さんも言っている。

三木谷さんが日本興業銀行に入行して、ルーティン業務の外国為替部門に配属されたときも、めげずに外為処理の生産性を上げる努力をした。それが認められてハーバードビジネススクール留学が決まったという。

「一生懸命」は元々は「一所懸命」で、持ち場で努力するということだ。


ランディは2007年9月18日の「最後の授業」の後、1年近く生きて2008年7月25日に亡くなっている。

墓碑に何と書いて欲しいかと聞かれ、「末期ガンの宣告を受けても30年間生き続けた男」と書いて欲しいと言ったという。30年ではないが、たぶん「末期ガンの宣告を受けて3年間生き続けた男」にはなると思う。3年でも驚くべき長さである。

YouTubeのビデオでもわかるが、「最後の授業」の時のランディは、軽々と腕立て伏せをしたり、腕立て伏せをしながら拍手をしたり、とてもガンに冒されている人とは見えない。1年も経たずに亡くなったことが信じられない。

実は筆者の友人の奥さんが今年初めに膵臓ガンで亡くなった。膵臓ガンは進行が早く、直すことが難しいので致死率も高い。昨年の夏の段階で友人からは奥さんが膵臓ガンになったことを聞いていた。彼女の場合たぶん発見から1年あまりの余命だったのだろう。

時価総額が世界最大となったアップルのスティーブ・ジョッブスも膵臓ガンの宣告を受けたが、手術のできる珍しいタイプだったので、いままで生きながらえていることを、2005年スタンフォード卒業式の伝説のスピーチで語っている。


本も良いが、YouTubeのビデオも日本語字幕付きなので、是非見て欲しい。必ずや何か感じ取るものがあるはずだ。


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Posted by yaori at 00:54│Comments(0)TrackBack(0) 自叙伝・人物伝 | エッセー

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