2011年08月25日

われ日本海の橋とならん 中国で最も有名な日本人 加藤嘉一さんの本

われ日本海の橋とならんわれ日本海の橋とならん
著者:加藤 嘉一
ダイヤモンド社(2011-07-23)
販売元:Amazon.co.jp
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以前紹介した一新塾のメンバーの友人から紹介されて読んでみた。

明治時代、新渡戸稲造は、アメリカ留学に際して「われ太平洋の橋とならん」と語ったという。

それにならって、”中国で一番有名な日本人”の加藤嘉一(よしかず)さんが、中国政府の官費留学生として北京大学に学び、大学院まで卒業した自らの経験を紹介し、日本の若者に対し、日本人が海外に出て行くことは”ローリスク・ハイリターン”なのだと、海外への雄飛を呼びかける。

楽天の三木谷さんもツイッターでこの本を紹介していた

「友人に頂き読みましたが。本当に共感するところが多い本でした。このような若者がどんどんとでてこないと!」

書店に並んでいる本には、次のような帯がついている。

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著者の加藤嘉一さんは、1984年静岡県の伊豆地方の生まれ。現在27歳の若者だ。

山梨学院大学附属高校から提携校の北京大学に中国政府の官費留学生として学部4年間と大学院の2年間学ぶ。(ちなみに学生は全員寮生活で、宿舎費は年間1万3千円、食費は一日15元=200円程度だという)


言葉は世界へのパスポート

箱根駅伝で有名な山梨学院大学の附属高校という校名でピンとくるように、中学時代から陸上競技に打ち込む一方、いずれは世界に出るべく英語勉強にも精を出す。

加藤さんの英語勉強法は、1.毎日辞書を読み覚える。2.自転車通学途上で「一人芝居」で英語会話をする。3.英語新聞を毎日読む。というものだ。中・高時代は、国連職員になるというのが目標だったという。

加藤さんは2003年から北京大学に留学する。ちょうどSARS問題で半年間休講だったので、その間毎日、色々な人と世間話9時間、単語の読み書き2時間、人民日報を音読して暗記、ラジオで中国語放送を聞くという中国語漬けの生活を送って、半年でネイティブなみの中国を話すようになる。

言葉は「世界」へのパスポートであり、その国の人々から受け入れられ、心の永住権を得るためのグリーンカードなのだと。

筆者も全く同感である。筆者は会社に入って3年目でアルゼンチンの研修生として2年間ブエノスアイレスで暮らした。その後米国ピッツバーグには2回にわたり合計9年間駐在した。

「芸は身を助ける」ならぬ「言葉は身を助ける」が筆者の持論だ。


北京大学での学生生活

北京大学の公用語は英語で、英語力とパワーポイントなどを使ってのプレゼン能力は、若者フォーラムで交流のある東大生も舌を巻くほどで、比較にならないという。加藤さん自身も「世界には、こんなにすごいやつがいるのか!」と衝撃を受けたという。

学内のコピー料金は安く、分厚い専門書も200円もあればコピーできてしまうので、学生は英語の専門書や「タイム」や「ニューズウィーク」など海外の雑誌もまわし読みかコピーで必ず目を通すという。


中国のテレビのインタビューで一躍有名人に

中国語がかなりできるようになった2005年4月に、反日デモで日本大使館が投石されたり、日本料理屋が壊されたりした最中に、香港のテレビ局のインタビューを受ける。

インタビューで日中どちらに非があるかを問われ、簡単に現状分析を語り、「外交的な案件であるかぎり、どちらに非があるというようなものではない」と切り返し、「問題解決には相互理解に基づく建設的な議論が必要である」と語った。

その時の受け答えが見事で、中国語が完璧だったことから、中国メディアの取材が殺到し、現在はテレビ局のコメンテーターや中国語版ファイナンシャルタイムズに自分のコラム「第3の目」を持ってコラムニストとしても活躍している。

年間300本以上の取材を受け、100回以上の講演を行い、毎年2〜3冊のペースで出版し、胡錦涛主席とも会見し、胡錦涛主席は加藤さんのブログの読者だという。加藤さんは中国共産党の指導部と個人的にコンタクトできる間柄だという。

中国のメディアは「加藤現象」と呼び、「中国でもっとも有名な日本人」と呼ばれているという。

まさに「言葉は身を助ける」の典型だ。


加藤さんのストライクゾーン

加藤さん自身は次の4つの観点から自分の発言をコントロールしているという。

1.自分は日本人であること。2.ここは中国であること。3.政府・インテリ層にとって価値ある提言であること。4.大衆に伝わる言葉であること。この4つの接点が加藤さんのストラークゾーンなのだと。


中国についての7つのよくある質問

加藤さんは、次の7つのよくある質問から始めている。

1.中国に自由はあるのか? 
民主主義国の日本でも目に見えないタブーがある。中国には天安門事件という最大のタブーがあるが、それ以外は比較的自由だ。

2.共産党の一党独裁は絶対なのか?
中国共産党は7800万人もの党員を抱える世界最大の政党である。民主主義的選挙はないが、政治は国内世論を後ろ盾とする健全な権力闘争が存在し、成果主義が根付いている。

3.人々は民主化を求めているか?
天安門事件で最も流血を見たのは北京大学生だった。人々は現実主義者となり、民主主義信奉者は少ない。共産主義も民主主義も手段なのだと考えている。

4.ジャーナリズムは存在するのか?
一部の官製メディアを除き、地方メディアは独立採算、これにインターネットメディアが加わる。天安門事件という最大のタブーはあるがそれ以外は誰にもコントロールはできない状態だ。

ちなみに中国にはGoogleもFacebookもYouTubeもないが、中国版のGoogle, Facebook,YouTubeの様なサイトがあるので、ほぼ同じサービス・情報が得られるのだと。

5.本当に覇権主義国家なのか?
中国の人口は13億人。13億人をまとめるのは大変な仕事であり、中国の指導者が最も恐れているのは国内の分裂だ。インターネットにより情報統制は不可能となったので、国民の世論が爆発しそうな国家主権と領土保全問題には、強い態度を取らざるをえない。これが中国が「核心的利益」を追求する背景だ。

6.途上国なのか超大国なのか?
経済規模はアメリカに次ぐ規模だが、いまなお「戦略的途上国」の立場を取るという「ダブルスタンダード」がある。加藤さんは「戦略的途上国」を卒業せよと訴えているという。

先日読んだ「2011〜2015年の中国経済」という東大の田中修教授の本の最後にも”中国は「大国」か”という文があった。

2011~2015年の中国経済―第12次5カ年計画を読む2011~2015年の中国経済―第12次5カ年計画を読む
著者:田中 修
蒼蒼社(2011-07)
販売元:Amazon.co.jp
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田中教授は「心・技・体」が揃わない中国はまだ大国とはいえないと、加藤さんと若干異なる観点から同様の結論を出していた。

7.反日感情はどの程度なのか?
中国は第2次世界大戦の戦勝国であり、日本軍国主義と戦って勝利し、戦禍と貧困にあえぐ中国人民を解放し、新生中国を建設したのは共産党だという「建国神話」がある。(筆者注:これが「神話」である理由は、日本を倒したのは米国とその圧倒的な武器・物資支援であって、共産党は山の中に閉じこもっていただけという見方があるためだ)

そのため「親日国」ではないが、日本製品の評価は高く、親日的な人もいる。


日中関係について

加藤さんは、尖閣列島沖中国漁船拿捕事件の時に、中国政府がレアアースの輸出停止を打ち出したのは、中国政府が事前にシミュレーションを行って、先手を打ってきたものだと語る。

中国は天安門事件の反省から、1990年代から「愛国教育」を行ってきた。その結果、「反日は正義」と考える若者が「日本の横暴を許すのか!」と爆発してしまう新しいリスクが生じてきている。

中国政府にとって、日本と敵対するメリットはなにもないが、反日は「建国神話」ともつながり、厳しい態度を取らざるを得ないのだ。

だから小泉首相の靖国問題が一段落すると、当時の谷内外務次官と戴秉国(たいへいこく)外交部常務副部長との間で、「日中総合政策対話」を始め、その成果として「戦略的互恵関係」を打ち出した。

これは以前紹介した、宮本前駐北京日本大使の「これから中国とどう付き合うか」に詳しい。

これから、中国とどう付き合うかこれから、中国とどう付き合うか
著者:宮本 雄二
日本経済新聞出版社(2011-01-06)
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その象徴的なできごとが、東日本大震災に際し、中国が日本に初めて救援物資を送り、救援隊を送ったことだ。

中国は3000万元(3.8億円)の救援物資と15名の救助隊を派遣し。約20億円のガソリン、ディーゼルオイル、ミネラルウォーターなどを日本に初めて送った。


「暇人」という政治勢力

加藤さんは若者と並び、失うものを持たない政治勢力があるという。それを仮に「暇人」と呼んでいる。仕事はしないが、不動産はあるので最低限の生活はできる人たちだと。

この「暇人」=政治パワー論は初めて聞いた。まさに北京で学生・民衆と一緒になって生活していないと分からない指摘なのだと思う。


日本の政治不在に警鐘

加藤さんは日本の政治不在にも警鐘を鳴らしている。

中国の四川省大地震の時に、温家宝首相はその日のうちに被災地入りし、胡錦涛主席が5日目に現地入りした。

トップダウンで取り組む姿勢が明らかだし、わかりやすい。

さらに四川大地震の復興には、自治体レベルの復興支援が機能した。たとえば北京市がA市、上海市がB市、天津市がC市という具合だ。

一方日本の菅直人首相が現地入りしたのは23日後、それ以前はヘリコプターで上空から視察しだたけだった。

中国と対比するとリーダーシップ不在の日本の現状が浮かび上がる。中国は3.11以降、トップダウンですべての原発計画を白紙に戻している。


見方がちょっと外人化?

加藤さんは3.11地震の翌週の月曜日にいつも通り通勤する東京のサラリーマンを見て驚いたという。

「今日くらいは家族と一緒に過ごしたらどうなんだ?ここで有給休暇を使わずしていつ使うのか?」。日本人は忍耐心や我慢心が強すぎるのではないかと。

加藤さんに指摘されるまで、そんな考えは思いもつかなかった。筆者自身も家では本棚の本が倒れたり、ランプや飾り皿などが破損するという被害があったが、会社を休むという発想は全くなかった。

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あの時は日本人誰もが、大地震・津波から一刻も早く"Business as usual"、いつもの状態に戻ろうとしていたのだと思う。その意味で加藤さんの「休みを取る」という発想には違和感を感じる。

やはり日本に住んでいないと、良い意味でも悪い意味でも一般的な日本人のセンスとはズレる部分があるようだ。


若者よ海外に出でよ

最後に加藤さんは、日本の若者に海外に出ようと呼びかける。

具体的にはすべての大学生に2年間の猶予を与え、1年間は海外留学、1年間は社会で介護事業などでインターンとして働くことを提案している。1年間の留学費を後半の1年間の労働でまかなうのだと。

筆者も24歳でアルゼンチンに赴任した。加藤さんのアイデアの実現性はともかく、是非日本人には”ローリスク・ハイリターン”の海外を目指して欲しい。


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Posted by yaori at 00:14│Comments(0)TrackBack(0) 中国 | 政治・外交

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