2011年10月15日

原発はほんとうに危険か? フランスの元文部科学大臣の対談

フランスからの提言 原発はほんとうに危険か?フランスからの提言 原発はほんとうに危険か?
著者:クロード・アレグレ
原書房(2011-07-07)
販売元:Amazon.co.jp
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フランスの元文部科学大臣がジャーナリストとの対談を通して原子力政策について語る本。どの雑誌だったか忘れたが、立花隆さんの書いたものに紹介されていたので読んでみた。

書店に置いてある本には次のような帯がかかっている。

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しかしこの本をくまなく読んでみたが、「技術は二流、人は三流」という発言はない。フランスの原子力技術は日本やドイツなどより上だというような発言はあるが、このような刺激的な発言ばない。

元々日本の政府や東電を批判する目的の本ではなく、フランスの原子力政策を肯定する本なので、「日本のあるべき姿をさし示す」という帯のセールス・キャッチは、「売らんかな」という編集者の創作だと思う。

このブログでは広瀬隆さんの本京都大学の小出助教の反原発本を紹介してきた。

広瀬さんや小出さんの本は、いままでは中小の出版社から出版されていた。しかし福島第一原発の事故以降、反原発本が一流出版社から出版され、原発推進派の本はこの本の原書房のように中小出版社から出版されるという風に完全に逆転した。

この本もアマゾンの売り上げ順位で85,000位と、あまり売れていない様だ。

今や菅前総理はじめ多くの人が、日本国民の福島原発事故以来の原子力アレルギーを考えて反原発という姿勢を表明している。本当にそれで良いのかと冷静に考える必要があると思う。

その意味では、この本と大前健一さんの最近作で今度あらすじを紹介する「『リーダーの条件』が変わった」が参考になる。

「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)
著者:大前 研一
小学館(2011-09-20)
販売元:Amazon.co.jp
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筆者のクロード・アレグレさんのメッセージ

「日本語版によせて」に著者のクロード・アレグレさんのメッセージが載っている。

最初に福島原発事故の被災者にお見舞いを表明するとともに、福島第一原発は旧式だったために、大災害に対する対策が不十分で、事故後の当局の対応を後手にまわったと結論づけている。

そして日本の将来的なエネルギー政策を再考するにあたって、西ヨーロッパ諸国にない自然災害というリスクを考えると脱原発という選択肢もあるが、それだとおそらく電気料金は2倍となり、温室効果ガスの排出量も増える。

だから原子力政策を維持・発展することも選択肢の一つだと訴える。

この場合には、日本の固有事情も考慮しながら、すべての原発を安全対策を強化した近代的コンセプトの原発に交換する。

具体的には冷却水パイプラインなどを敷設することにより海岸から離れた立地、完全密閉型の石棺の内部に小型の原子炉を格納、海底に原子炉を開発などの方策を提案している。

また政治やビジネスから影響を受けない独立の国家原子力委員会の必要性を説いている。日本は「原子力村」による政策から決別すべきだと。

原子力発電のリスクはいままで制御されてきており、これからも制御されなければならない。科学技術大国である日本はそれが十分可能な選択だアレグレさんは語っている。


ゴチャ混ぜ思考に警鐘

アレグレさんはまず「ゴチャ混ぜ思考」に警鐘を鳴らす。民生用原発のリスクは軍事用原子力、核廃棄物の脅威や核分裂物質の闇市場の脅威に比べればはるかに低く、「脅威」ではなく「リスク」であると語る。

天然のウラン鉱石中の核分裂を起こすウラン235含有量は0.73%、原発に使うウランはウラン235含有量4%、そして原爆に使う濃縮ウランはウラン235含有量80〜95%と濃縮度が全然違う。

だから万が一原発が爆発しても原爆にはならないのだとアレグレさんは繰り返し述べている。

フランスには地震も津波もないため、日本の原発とは全く事情が異なる。原子力技術も日本よりはるかに進歩しており、原発はきちんと管理され、直接・間接的に20万人の雇用を生んでいる。

フランスのメディアは在日フランス人や、日本から避難してくるフランス人の話ばかり報道していたが、メディアはフランスの切り札である原子力産業を弱体化させ、失業者を増やしたいのかと切り返している。


原子力エネルギー発祥の地はフランス

アレグレさんは、原子力エネルギー発祥の地はフランスで、アンリ・ベクレルがドイツ人レントゲンの発見したX線と呼ばれる謎の電磁波をウラン鉱石が放出していることを1896年に発見したのが最初だ。

ベクレルの研究にピエールとマリー・キュリー夫妻が加わり、ウラン以外にも放射性物質はあることが突き止められ、1903年3人は揃ってノーベル物理学賞を受賞した。

キュリー夫人は夫とベクレルの死後も研究を続け、1911年にはラジウムの発見でノーベル化学賞を受賞する。

原子爆弾の開発につながる原子核分裂は1938年12月22日のドイツのオットー・ハーンとストラスマンが発見した。

これにはイタリアのエンリコ・フェルミ、キュリ−夫人の娘イレーヌ・ジョリオと夫フレデリック、ナチから逃れたユダヤ人のリーゼ・マイトナー、オットー・フリッシュなども直接間接に関わっている。

アインシュタインがルーズベルトに原爆開発を薦める手紙が有名だが、実際にはアインシュタインの手紙はアメリカ軍部は夢物語としてまともに取り合わなかった。

マンハッタン計画を実現したのは、中性子を発見したイギリスのジェームズ・チャドウィックが1941年にチャーチルを説得し、チャーチルがルーズベルトを説得したからで、アメリカが原爆の開発・製造に踏み切り、イギリスも参加した。


原発の危険性

原発の燃料は核分裂を起こすウラン235の割合が4%程度なので、原子爆弾のように一挙に核分裂を起こすことはない。

核分裂で発生する中性子を次の核分裂につなげるためには、20回ほど水の分子とぶつけて減速する必要がある。そのために大量の水が使われており、その水がウランと接触して高濃度の放射性物質を含んでいるのだ。

福島原発の原子炉建屋の爆発は、原子炉の電源が断たれたので、圧力容器内の核反応が暴走し温度が上昇して原子炉内の水が蒸発した。そして建屋内に充満した水蒸気が分解されて水素と酸素に分かれ、水素爆発を起こして建屋を破壊し、放射能を含んだ水素や水蒸気が大気中に放出され、地域が汚染されたのだ。

フランスの原発には生成された水素は、すぐに酸素と結合させて水にする触媒装置が備わっているが、日本の原発には「水素再結合装置」がなかったという。

大気中に放出された水蒸気の他にも、原子炉建屋附近で残留している大量の汚染された水の処理がこれからの問題である。同じことを大前さんの「『リーダーの条件』が変わった」でも指摘している。

福島の原発はBWR沸騰水型炉だったので、水の循環系は一系統だけだった。しかしフランスに多いPWR加圧水型炉は、核燃料と接触する一次冷却系とタービンをまわる二次冷却系の二つがあるので、一次冷却系が破壊されなければ、外部が放射能で汚染される恐れはない。

沸騰水型原子炉

BoilingWaterReactor





加圧水型原子炉

PressurizedWaterReactor





フランスの加圧水式原子炉は、一次冷却系は300度Cの水が流れており、155気圧に維持されているという。この熱が熱交換機を通じて二次冷却系の水を温め、発電タービンを回すのだ。

地震のないフランスはともかく、筆者の感覚では地震のある日本では、155気圧という超高圧システムが必要な加圧水型原子炉の方が、かえってリスクがあるように思えるが、アレグレさんはその辺はコメントしていない。


その他、参考になった点を紹介しておく。

★いままで軍事核実験により17万人が犠牲になっており、被曝量のめやすは被曝した人を長年にわたって追跡調査して割り出した数字だ。

普通に暮らしていて年間に受ける放射線量は2.4ミリシーベルト、250ミリシーベルトを超えるあたりから警戒が必要で、1,000ミリシーベルトを超えると白血球が変化する。2,400ミリシーベルトを超えると発ガンする確率が高まる。そして5,000ミリシーベルトを超えると致死量だ。

★放射性同位元素は、体内に入ると体内被曝を起こす。たとえば放射性ヨウ素は甲状腺に貯まりやすく、甲状腺から内部被曝を起こす。それで前もって安定同位体元素のヨウ素を飲んでおけば、放射性ヨウ素が集積するのを防げるのだ。

このブログで紹介した大前健一さんの「日本復興計画」では、大前さんのアメリカ人妻にもアメリカ大使館からヨウ素カリが配られたという。ヨウ素カリを飲んで、被曝する前に甲状腺をブロックしようという考えだ。

★フランスは高速増殖炉のスーパーフェニックスは停止させ、同じ原理のフェニックスは再稼働させた。同じ技術でも大規模のものは制御ができなかったからだ。日本の高速増殖炉「もんじゅ」にも同じナトリウム漏洩問題が発生した。

高速増殖炉の魅力は、天然ウランを利用した核燃料ができることだ。天然ウランの99%は、ウラン238で、これを中性子をぶつけてウラン239にして、それからネプツニウム239を経てプルトニウム239を作るのだ。

ただし二次冷却材の材質に問題がある。水は中性子を減速してしまうので使えないため、液体ナトリウムを使ったが、非常に危険でうまく制御できなかった。フェニックスの規模なら制御できたが、スーパーフェニックスの規模では制御不能だったという。

★トリウム炉はウランの埋蔵量の4倍のトリウムからウラン233を作り出して燃焼させる。現在は実験炉の段階だが、トリウム炉は廃棄物がほとんど排出されない点がメリットだ。

この本では風力発電、太陽光発電、水力発電、バイオ燃料などについても手短にまとめている。

★シェールガスは既にアメリカのエネルギー消費の20%を占めている。水平に掘削し、水圧破砕法でシェールガスを回収するが、大量の水が必要なので、環境汚染の問題が起こる恐れがある。ヨーロッパにもアメリカと同じくらいの莫大なシェールガス埋蔵量があるだろうが、環境問題から開発は進んでいない。


監修者の言葉は正しいのか

監修者の岡山大学教授は、彼が最も衝撃を受けたのは、原発周辺には津波によって瓦礫に埋もれて助けを求めていた人がいたにもかかわらず、彼らを見殺しにしたことだと告発している。これは戦後の日本の歴史の痛恨の汚点であると。

本来であれば国民の命や財産を守るはずの法律を盾にして政府並びに関係者は人命を見捨てたのだと。

この情報は知らなかったが、ありうべしだと思う。


今や反原発が主流で、原発促進波が少数派のようになってしまったが、果たしてそれで良いのか。考えさせられる本である。


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Posted by yaori at 01:20│Comments(0)TrackBack(0) 自衛隊・安全保障 | 政治・外交

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