2011年11月09日

「リーダーの条件」が変わった 大前研一さんの最新作

「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)「リーダーの条件」が変わった (小学館101新書)
著者:大前 研一
小学館(2011-09-20)
販売元:Amazon.co.jp
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2011年9月に発売されたばかりの大前健一さんの最新作。「SAPIO」と「週刊ポスト」の連載コラムの記事を加筆修正して再構成したものだ。いつもながら大前さんのネタの新鮮さには驚かされる。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃんてなか見!検索」で目次を紹介しておく。大体の内容がわかると思う。


はじめに ー 能力なきリーダーしかいない日本の不幸


第1章 東日本大震災でわかった「危機に克つリーダー」の条件

★スピード 一週間でできない「緊急対策」は、一年かけてもできない

★危機管理力 組織のダメージを最小限にする工夫と判断が必要だ

★行動力と交渉力 次世代の国家リーダーに求められる「3つの条件」


第2章 組織を元気にするリーダーシップの育て方

★ビジョナリー・リーダー 世界で勝つ企業は人材育成に毎年1000億円かけている

★中間管理職”再生術” 組織を動かすには「”揺らぎ”のシステム」を使いこなせ

★新・人材教育カリキュラム リーダーシップは”天与”のものではない


第3章 日本が学ぶべき世界のリーダーシップ

★イギリス・キャメロン首相1. 弱冠43歳にしてトップに立ったリーダーはどこが凄いのか?

★イギリス・キャメロン首相2. 「グレート・ソサエティ」構想で活かすべき「民の力」

★ロシア・メドベージェフ大統領 「結果を出す指導者」の驚くべき決断力と行動力

★日本VS中国リーダー比較 国民の差ではなくリーダーの差が国家の関係を規定する


第4章 私が「リーダー」だったら日本の諸課題をこう乗り越える

★震災復興 「緊急度の掌握」ができなければ非常時のリーダー失格だ

★電力インフラの再構築 原発と送電網は国有化、電力会社は分割して市場開放せよ

★食糧価格の高騰 世界の農地に日本の農業技術、ノウハウを売り込め

★水資源争奪戦 水道事業を民営化して「水メジャー」並の競争力をつけよ

★エコカー開発競争 劇的な低価格を実現し、世界市場で優位に立つ「新EV革命」

★財政危機 所得税・法人税ゼロの「日本タックスヘイブン化」で経済は甦る


おわりに ー 「強いリーダー」は強い反対意見の中から生まれる



もし大前さんが日本の首相だったら

もし大前さんが日本の首相だったら、次のように行動するという。

まず第1案として「脱原発」の方針を示す。総電力量に占める原子力発電の比率は約30%だが、原発の稼働率は3割に落ちているので、日本全体の電力消費量を15−20%削減すれば原発なしでも電力は足りる。

そこで1.電力消費を前年比2割削減、違反者には料金5割アップのペナルティ、2.家電製品の電力消費を5年以内に3割カット、3.電力危機警報システムを導入し、電力使用率が90%を超えると警報を出す、というような対策をとる。

その上で第2案として「原発維持」を提案する。日本には原発は54基あり、ウェスティングハウスを買収した東芝はじめ日本企業は世界最先端の原子力技術を持っている。日本の技術に期待している国もあるので、今回の事故の教訓を生かして、より安全な原発をつくる。21世紀の日本の基幹産業となりうる原発を維持することを国民に提案する。災い転じて福となすを国民に提案するのだ。


台湾の馬英九総統を日本の首相に!

馬総統は大陸出身で日本に弱いと言われていたが、東日本大震災で台湾は世界で最も多い200億円の義捐金を送り、馬総統は義捐金受付のコールセンターに最初の四時間は自分で応対するというリーダーシップを見せた。

馬総統は大前さんの話に興味を示し、次の大前さんの来台では閣僚と軍の上層部全員呼んで大前さんの話を聞かせたという。

中国との三通(通商、通信、通航)ではいまや週558便、中国37都市に直行便があるという。直行便が認められていなかった前任者の陳水扁氏の時代とは大違いなのだ。


次世代の日本のリーダーに求められる3要件

日本の国と公機関の借金は2011年内には1,000兆円を上回る勢いだ。このままいくと日本国債のデフォルト風評が出る恐れがある。

次のリーダーに絶対必要な第一の能力は、イギリスに見られるように大幅な歳出カットと増税をやり抜き、国民に納得させられるコミュニケーション能力だ。

第二の能力は新しい世界情勢に対応した新しい外交の座標軸を決めることだ。鳩山元首相の思いつきの「日米中正三角形」ではなく、BRICSも含めた「多面体」外交だと大前さんは提唱する。

第三の能力は人材を強化することだ。アジアでも韓国、中国、シンガポール、インドネシアなどの若者はグローバルで活躍する意欲にあふれ、能力も高い。

インドに至っては、フォーチュン500の300社以上にインド人の副社長以上が居る。日本人の副社長以上はゼロである。アメリカの医者の五人に一人、イギリスの医者の五人に二人はインド人だ。シリコンバレーで起業して、上場まで持っていた外国人経営者のトップはインド、二位イスラエル、三位が台湾だ。こちらも日本人はゼロである。

この人材格差を埋めないと日本はジリ貧になるばかりだ。平均レベルの人材を大量生産する工業社会時代の教育から、傑出した少数精鋭を育成するIT社会時代の教育に転換しなければならない。


リーダーの最も重要な要素はビジョンとコミュニケーション能力

リーダーの最も重要な要素はビジョンとコミュニケーション能力である。リーダーシップは教育によってはぐくむことができる。

代表に選ばれる前から自民・公明との大連立を標榜していた野田佳彦氏などリーダーシップの片鱗もないと酷評している。イギリスも連立だが、日本の連立は足し算した連立であって、一つの見解でまとまった政権ではない。だから吹けば飛ぶような社民党や国民新党の意見に左右される民主党政府は何の改革もできないし、国民からそっぽを向かれる。

イギリスのキャメロン首相は、銀行の休眠口座に放置されている資金を元にして「ビッグ・ソサエティ・バンク」を創設する構想を明らかにした。サッチャー以来の伝統である「スモール・ガバメント」は維持しながら、社会政策を充実するために「ビッグ・ソサエティ」という民の力の活用だ。

日本には国家公務員、地方公務員、郵便局や大学など公務員に準ずる人が700万人いて、総人件費は60兆円かかっていると言われている。公務員をギリシャ並に1/3削減すれば20兆円は削減できるのだ。

その公務員が減った分を、民間のボランティアなどで補うという構想だ。ボランティアなど何らかの貢献があった人には、ポイント制を導入してポイントを与えても良い。そして郵貯の休眠口座もイギリスと同様に洗い出して、日本国債の償還に充てる。


メドベージェフ大統領の「大ウスリー島方式」

メドベージェフ大統領は中国との国境線確定で導入した面積を二等分する「大ウスリー島方式」で、ノルウェーとの長年の国境紛争を解決した。2009年にプーチン首相が来日した時に、「大ウスリー島方式」で3.5島返還論が出てきたが、外務省からリークされて世論の反対で潰れた。

この方式を一ひねりして国家主権は日本だが、択捉島だけは「共通の家」とするような方式で決着すべきだと大前さんは提案している。

民主党政権は対ロシア外交でも失敗している。また尖閣列島問題でも小平以来「棚上げ」してきた過去の経緯を無視した民主党の幼稚な外交の結果だと切り捨てている。

寝た子を起こした結果となった背景には中国大使に民間出身の丹羽さんを起用した民主党政権への外務省のサボタージュもあるという。


ヘビににらまれたカエル

温家宝首相を”待ち伏せ”した屈辱的な菅外交として、菅前首相の外交でのていたらくを非難している。下を向いてひたすたメモを見て、胡錦涛首相の目を見ない菅首相には、筆者もおよそリーダー失格という評価をしていた。大前さんも全く同じことを言っている。

一国のリーダーたる矜持は微塵も感じられず、ヘビににらまれたカエルのようだったと。


原発問題

原発については、東電はGE崇拝で、大前さんが新設計の原子炉の設計図を持って行っても、GEのお墨付きのない原子炉などいらないということで、門前払いをくらったという。だから大前さんは日立を二年間で辞めたのだと。せっかく日本独自の原子炉をつくるために勉強してきたのに、GEの技術指導を強いられたのでは、原子炉を設計している意味がないからだ。

今回の福島第一原発の事故ではGEの設計者はよく考えていることがわかったという。

地震で炉心が緊急停止すると、1.外部電源、2.非常用ディーゼル発電、3.原子炉自身の蒸気をつかってタービンを回して自動的に冷却するというしつこいシステム(これが何かの理由で機能しなかった)、4.蓄電池、5.外部の電源車という五重の安全対策システムがついていた。

さすがGEと感心するくらいシステム防御策が念入りに考えられていたという。今回の事故は設計よりも”現場の知恵”が不足していたことに問題があるという。たとえば外部電源の取り入れ口が水没すると分かっていれば、機密性を高めたり、440Vという外部電源はおかしいと気づいたはずである。

2002年に起こった圧力容器にヒビ割れがあるというGEの下請けのエンジニアの告発による「原発トラブル隠し」が大問題となって東電の原子力畑の人はことごとく粛正された。原子力に三割依存しているのに、だれも経営陣が原発の構造を知らないという会社となっていたのだ。


資産課税と付加価値税導入

税金についての大前さんの提案は資産課税と付加価値税だ。資産は生産財控除などを認めた上で、1%にすると35兆円程度が見込める。付加価値税は5%とすると、25兆円が見込める。合計で60兆円は現在の税収の1.5倍である。

付加価値税は、日本ではなじみがないが、海外では通称VAT(Value Added Tax)と呼ばれ、多くの国で日本の消費税と同じように導入されている。計算は販売金額から仕入れ金額を引いた付加価値の部分に課税するやり方だ。

日本のGDPが500兆円なので、5%課税とすると大体25兆円の税収が見込める。


その他の具体的施策

★稼働・停止が比較的容易な小型ガスタービン発電(30万KW程度)をいくつもつくり、発電量の確保に備える。

★原子力発電所はすべて国が買い取って国営とする。送電網は国有化して、電力会社は発電会社と配電会社に分ける。発電会社ー送電会社(国)ー配電会社の3層構造にする。50HZと60HZという日本国有の問題も技術的に解消する。

★消費税を期間限定で上げる。被災地支援のために国民が一致すれば、前向きの駆動力を生みだし、経済の活性化にも繋がる。財務省ではこのような案もあったが、民主党でグシャグシャにされているという。船長のいない幽霊船のような状態になっているからだと。

★道州制を導入し、”変人知事”や”変人市長”のパワーを利用して地方分権を推進し、中央に陳情するのではなく、世界に営業する自治体をつくる。5つの道州をつくり、大阪と京都で「本京都」、名古屋で中京都、新潟州、福岡都、神奈川都をつくる。福岡都と神奈川都は県内に政令指定都市が複数あって非効率だからだ。

マスコミ操縦術に長けているが、世界から富を呼び込むという発想のない”変人知事”の実力もわかるだろう。田中角栄以来の「均衡ある発展」は捨て去り、地域同士の競争を盛んにするのだ。

★食糧安保問題では、農林水産省が打ち出した「食料自給率」を「ためにする議論」として切り捨てている。たとえば牛肉の自給率は43%だが、飼料は輸入に頼っている。

この辺の議論は以前紹介した「日本は世界第5位の農業大国」のあらすじで詳しく紹介しているので、参照して欲しい。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
講談社(2010-02-19)
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農水省は種の海外持ち出しを規制しているが、種も技術も人材もウクライナやアルゼンチンなどの世界の農業最適地に持って行って、日本のひもつきの生産をすべきだと語る。それが日本にとってベストの食糧安保戦略だと。

★水事業については、日本では上下水道の設計・建設ノウハウは民間企業、運営・維持ノウハウは自治体が独占している。事業主体は東京都以外は市町村単位となっており、グローバル展開は遅れている。

日本の水は全体の65%が農業用水、15%が工業用水、20%が水道用水として使われているが、最も上流のおいしい水が農業用水として使われており、水道水は下流で取水している。基本的に水利権は江戸時代の(士)農工商の身分制度そのままなのだ。

たとえば東京都の水道水は主に利根川の支流の江戸川から取水しているが、利根川の上流で取水すれば、JR東日本がミネラルウォーターとして販売している旧「大清水」(上越新幹線の大清水トンネル開削工事の沖に湧き出た水が原料)と同じおいしい水が水道で味わえる。

★EVの電池はカセット式を普及させる。アメリカのベタープレイスという会社も推進しているが、充電に時間がかかる電池をカセット式にしてガソリンスタンドに充電済みのカセットを置くようにすれば、自動車の値段もカセット電池分安くできる。

充電インフラと充電時間の問題を克服できる上、EVの価格が一気に安くなって普及に拍車がかかり、経営が苦しいガソリンスタンドも潰れないですむという一石三鳥の解決策なのだと。

★EVの新技術のインホイールモーターは、30年にわたってEVを研究してきた慶応大学環境政策学部の清水浩教授が社長になって設立した産学連携ベンチャーのシムドライブ社が推進している技術で、ガソリン車の1/4のエネルギーで走行でき、一回の充電で600キロ走ることができる。

現在はどこの国のどの企業も一社2000万円の参加料を払えば参加でき、開発した技術はオープンソースとして供与し、量産段階では1−3億円の権利金を払えば製造の技術・ノウハウ・コンサルティングも提供するというビジネスモデルとなっている。しかし、このような「お人よし」契約はやめるべきで、インホイールモーターを含めたコントロールユニットをブラックボックス化して先行者利益を確保するべきだと大前さんは推奨する。

すでにベタープレイス社は中国南方電網と提携してカセット電池パックを使ったEVを普及させる計画があり、日本は電池技術でアドバンテージがあるうちに、インホイールモーターと組み合わせたEVを開発・普及させるべきであると。

車の排ガスによる環境汚染に苦しんでいるのは中国だけではなく、インド、ブラジル、ロシアの大都市も同じなので巨大な需要が見込める。


日本の税金を倍にして、予算を半減させないと、このまま国債発行がふえていけば、ある日突然国債が暴落して、預貯金や保険が吹き飛ぶ。そしてハイバーインフレが来て、タンス預金は紙くずになり、年金生活者も困窮する。1990年代のロシアの状況が再現されるのだ。

日本のリーダー不在が続くと、いずれIMF駐留軍に経済を握られることになると大前さんは警鐘を鳴らす。前回野田佳彦首相の「民主の敵」のあらすじを紹介したが、そのビジョンのなさにはあきれた。

野田首相でも民主党は変わらないだろう。たけしの予言したとおりである

リーダー不在が続く日本で、むなしく響く大前さんのリーダーに向けた提言だが、自分の考え方を整理するには適切な本である。


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Posted by yaori at 08:40│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 大前研一

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