2011年11月21日

命の限り蝉しぐれ 中曽根康弘元総理と竹村健一氏の対談

命の限り蝉しぐれ―日本政治に戦略的展開を命の限り蝉しぐれ―日本政治に戦略的展開を
著者:中曽根 康弘
徳間書店(2003-12)
販売元:Amazon.co.jp
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小泉総理(当時)に衆議院議員出馬を止められて政界現役を引退した中曽根康弘元総理と評論家竹村健一氏との対談。2003年12月の出版で、この年の10月に中曽根さんは自民党北関東比例代表区の公認候補を外された。


小泉元首相の「政治的テロ」

小泉首相からの中曽根さんと宮沢喜一さんに対する議員退職の通告に対し、宮沢さんも中曽根さんも反発し、中曽根さんはいたずらに時間を引き延ばされ、結局"NO”と一方的に通告してきたのは「政治的テロ」だと言って強く非難したことは記憶している。

もともと自民党北関東比例代表区の終身1位となるかわりに、小選挙区からは出馬をしないという約束が橋本首相の時代にあり、党の記録にも残っているという。宮沢さんも同様の約束があった。

しかし小泉首相は中曽根さんの抗弁には黙りこくり、中曽根さんの「断じて承服できない」という言葉には無言で帰り、後から安倍晋三幹事長を使いとして決定方針だけ伝えてきたという。

いかにも小泉首相のひ弱さがわかるストーリーだ。

中曽根さんは小泉首相や管直人さんなどのいまのリーダーはタレント的政治家だと断じる。国会全体がクラゲのような「背骨のない軟体動物」のようになっており、国家観がないという。

「私から見ると、今の若い政治家たちは”銀のスプーンをくわえて生まれ育ってきた”から苦難を知らない。従って、非常時という概念もない。われわれは昭和の時代から何回も非常時を経験して、非常時にはふだんやらないことをやらなければ障害を突破できないということを心得ている」

と中曽根さんは語っている。



「体の中に国家を持っている」

竹村さんによると、石原慎太郎都知事は「中曽根さんが素晴らしいのは、体の中に国家を持っていることだ」と言っていたという。戦争の修羅場を潜り抜けた人だけが持つ言葉の重みを感じさせる最後の政治家だろう。

中曽根さんは総理大臣になる前は、その時の政界の主流派と行動を共にするために主張を変え変節することがあり、そのことをマスコミは「風見鶏」とレッテルを貼って非難していた。

しかし、民主党が政権を取って、見かけ上の2大政党制が成立した今、本当の連立政権には「政策の融合」が不可欠ではないかと思える。このことは、大前研一さんも「『リーダーの条件』が変わった」で次のように書いている。

「イギリスも連立だが、日本の連立は足し算した連立であって、一つの見解でまとまった政権ではない。だから吹けば飛ぶような社民党や国民新党の意見に左右される民主党政府は何の改革もできないし、国民からそっぽを向かれる。」


2大政党制

中曽根さんは日本に2大政党制時代は到来するかと聞かれ、イギリスやアメリカの2大政党制は社会的基盤があるが、日本にはない。だから本当の自民党支持者、民主党支持者はあまりおらず、無党派層を中心に揺れ動いているのが現状だと分析する。

日本は「フランス型」の社会基盤であり、フランスのように情勢変化に応じて各党の勢力図が変わったり、新たに政党ができたりするのだという。その意味で第3党の可能性もあると語る。

「みんなの党」が力をもちつつある現状を2003年に言い当てている。なんという先見性なのだろう。

今度紹介する中曽根さんの「わたしがリーダーシップについて語るなら」で、中曽根さんはリーダーの資質として「目測力」、「説得力」、「結合力」、「国際性」、「人間的魅力」を挙げている。

「目測力」とは面白い表現だが、中曽根さんならではの先見性のある意見が参考になる。


憲法改正と教育基本法改正

中曽根さんは政治家になった時からの目標である憲法改正と、教育基本法の改正をやり遂げられなかったことに挙げている。しかし、中曽根さんは議員はやめるけれども、政界は引退しない。自由な立場から言論、執筆活動を続ける。生涯現役で、政治家として現役で死んでいくのだと。


いくつか参考になった点を紹介しておく。

★中曽根外交はコミュニケーション外交。
中曽根さんは当時のレーガン大統領との「ロン・ヤス」関係をはじめ、相手の首脳と一所懸命になってコミュニケーションしようとした。

中曽根さんは自称「心臓英語」に「心臓フランス語」でレーガン大統領のみならず、サッチャー首相、ミッテラン大統領とも直接話し合った。

首相としてはじめて訪れた韓国では、全体の1/3は韓国語でスピーチし、迎賓館の歓迎二次会では「黄色いシャツ」という韓国語の歌を歌った。



そのお返しに当時の全斗煥大統領が日本語で「知床旅情」を歌った。こんな付き合いを各国の首脳とできるリーダーが今の日本にいるだろうか?

★間接税(=消費税)の導入
国家ビジョンを持って、中曽根さんは政治を行っている。たとえば売上税にしても、中曽根さんが提唱し、在任中は実現できなかったが、中曽根さんの路線を継いだ竹下内閣で実現した。

内閣法制局はマッカーサーの肝いりで作られた部署(?)
内閣法制局は内閣の姿勢が憲法から逸脱していないかを目を光らせる部署だ。日本は自国を守る権利はあるが、集団的自衛権はないという解釈を一介の役人の内閣法制局が打ち出して、それを総理大臣が唯々諾々としているのは情けないと。

★中曽根さんの憲法改正の主要論点
・前文は全面改定。まず日本語になっていないし、日本の歴史とか国家・伝統に触れていない。
・第一章の天皇の項は煩瑣過ぎ。天皇の国事行為を列挙しているが、これは抽象的な表現でよい。
・第9条は第1項は残すとして、国の交戦権を認めない第2項は現状に改め、第3項として集団的自衛権を入れる。
・第4章の国会は参議院の機能を独自のものに改める。
・第5章の内閣は、中曽根さんの議員になった時からの主張である首相公選制を討議する。
・第8章の地方自治は道州制を取り入れ、地方分権を推進する。
・第9章の改正は改正案が国会の過半数で通過したときは、国民投票。2/3なら国民投票不要というふうにより改正しやすくする。

★教育基本法は「蒸留水」
中曽根さんが教育基本法を問題視するのは、本来憲法と教育法は対の関係であるべきだからだ。明治憲法には教育勅語があった。現在の教育基本法は日本の伝統や文化・歴史が全く考慮されておらず、権利や個性とか人格とかは書いてあるが義務や責任は一切書かれていない。その意味で教育基本法は「蒸留水」であり、日本の水の味がせず、どの国にいっても適用できるという。

★FTAの大潮流に乗り遅れるな
中曽根さんは「FTAの大潮流に乗り遅れるな」と檄を飛ばす。農業問題は政治家の決断次第でどうにでもなると語る。

田中角栄さんが通商産業大臣だったときに、それ以前の宮沢さん・大平さんが行き詰まっていた日米繊維交渉を、日本の繊維工場に近代化資金と補償金を与えて簡単にまとめてしまった例を挙げている

★無利子国債で機動的な財政運営
中曽根さんは、無利子国債を10兆円でも出して、そのかわりその分は相続財産から除外できるという扱いをすることを提案している。そのお金を機動的に使って、仕事を作ればよいという。巨人軍の内紛で話題になっているナベツネなどと年中話していることだという。


日本全体のリーダーシップが欠如している現状では、中曽根さんのような先見性のある政治家が本当に必要である。

もともとは子供向けに書いた「わたしがリーダーシップについて語るなら」のあらすじは次に紹介する。是非読んでほしい本の一つである。


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Posted by yaori at 12:51│Comments(0)TrackBack(0) 自叙伝・人物伝 | 政治・外交

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