2011年11月28日

サッカー代理人 中村俊輔、長谷部誠らの代理人の本

サッカー代理人 (日文新書)サッカー代理人 (日文新書)
著者:ロベルト 佃
日本文芸社(2011-05-25)
販売元:Amazon.co.jp
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中村俊輔、長谷部誠、長友佑都、岡崎慎司、阿部勇樹などの代理人をつとめるFIFA公認代理人であり、6か国語を話すというロベルト佃さんの本。

ロベルトさんはアルゼンチン生まれで、アルゼンチンで同時通訳などをやっていて、1995年に横浜マリノスの当時のアルゼンチン人監督のホルヘ・ソラリ監督と3人のアルゼンチン人コーチの通訳として雇われた。

当時マリノスにはラモン・ディアス、メディナベージョ、ビスコンティ、サパタのアルゼンチン代表、元代表がいて、あわせて8人のアルゼンチン人がチームにいた。選手の通訳はうまくなくてもよいが、監督の通訳は正確性が求められる。そのため当時のマリノスの森孝慈GMがロベルトさんにオファーを出したのだ。

中村俊輔は1997年にマリノスに入った時からの知り合いだ。またロベルトさんの会社の共同経営者の西塚さんとは、マリノスのフロントで知り合った仲だ。

この本では日本選手を海外チームに売り込む場合の交渉術、日本人プレーヤーにあった国、ヨーロッパの国の民族性の差、年俸戦略などが紹介されており興味深い。


年俸は必ずしも高い方が良いわけではない

非常に参考になったことは、年俸は必ずしも高い方が良いわけではないということだ。

たとえば現在の年俸が2,000万円であれば、交渉で5,000万円とするよりも、3,000万円にとどめておいたほうが良い場合もある。

クラブの経営状態が悪くなると、高い年俸の選手からリストラの対象となるので、たまたま次のシーズンに結果がでないと5,000万円の選手はリストラされてしまう恐れがあるからだ。Jリーグの選手の年俸は500万円/年きざみで上がっているのが現状だという。

プロ野球の選手の高額年俸がメディアで報道されるのを見て勘違いし、年俸をあまりに吊り上げるようなことは自分自身の首を絞める。80年の歴史のあるプロ野球チームと20年の歴史のJリーグクラブとの財政状態は大きな差があることを忘れてはならないとロベルトさんは語る。


契約年数は代理人の腕の見せどころ

複数年契約もトリッキーだ。複数年契約は、2年目は1年目の年俸を下まわらない額、3年目は2年目を下まわらない額という風に決めることが多い。その場合には大体500万円ずつのアップになる場合が多い。

ところが単年度契約なら、活躍できる選手にはクラブ側は残ってほしいので、最初の年は1,000万円でも交渉によっては2年目は2,000〜2,500万円と年俸を上げることができる。

もっとも海外移籍を目指す選手の場合には、安易に単年度契約をしてしまうと、2年目は条件が白紙になったということで、海外からオファーが来た時に、クラブ側が移籍金を吊り上げることが可能となる。そうなると高い移籍金を払える移籍先は限られてしまい、簡単には海外移籍ができなくなってしまう。だから海外移籍を考える選手は複数年契約にしたほうがよいという。


国によって違う交渉

ドイツや英国のクラブはしっかりしていて、約束も守る。オランダはお金に細かい。北イタリアは比較的北ヨーロッパに近いが、南イタリアはルーズで、フランス、スペイン、ポルトガルは約束の時間を守らず、トルコ、ギリシャは論外だという。

ヨーロッパの国の多くでソブリンリスクが発生しており、ギリシャはもちろん、スペインでも経済が停滞し、クラブが次々と経営破たんしている。

スペインのクラブはソシオという会員組織で成り立っており、サッカー以外にも多くのスポーツをやっている。景気が悪くなると会員収益が減り、とたんに経営が苦しくなるのだ。スペインの中小クラブでは選手の給料や移籍金の未払いも日常茶飯事で、有名クラブのバレンシアでさえ財政難からバレンシア市の援助を受ける事態にまで陥ったという。

日本のサッカー選手はスペインサッカーの質の高さに魅了されているが、給料を滞納しているクラブもあることを注意すべきだと語る。イタリアもクラブ経営が厳しいのはスペインと同じだが、イタリアでは私財を投じてクラブ経営を行っているオーナー経営者が多く、スペインよりは安定しているという。


代理人として海外移籍第一号の中村俊輔

ロベルトさんが仲介した海外移籍第一号は中村俊輔だった。

中村俊輔のセリエA移籍はレッジーナ側が積極的で、最初から買い取り前提のレンタル移籍だった。レンタル期間は6か月という好条件で、マリノス社長の条件もクリアーできた。

中村俊輔がセリエAをまず目指した理由は、フィジカルが強いセリエAで通用すれば、フィジカル面での欠点を補える能力があることの証明になるためだった。

中村俊輔の技術力はイタリアでも高く評価されており、「手でボールを扱っているようだ。あそこまでコントロールできる選手は見たことがない」とイタリアのプロも評価していたという。

セリエAで3年間やった後で、スコットランドのセルティックの監督が中村にほれ込み、2005年にセルティックに移籍した。ヨーロッパのビッグ20に入り、チャンピオンズリーグの常連の名門クラブで活躍した日本人選手は俊輔だけだった。

中村俊輔はマリノス入団当時からサッカーノートをつけていた。自分のプレイのみならず、相手の良いプレイでも書き留めていたという。このメモが課題克服に役に立ち、日ごろの自己分析を自分の成長につなげた典型例だ。

中村俊輔はサッカーが好きで、イタリアでもサッカー漬けの生活をしていた。夜7時に夕食、8時からはテレビゲームでリラックス、9時からは風呂、ストレッチで、11時前には寝る。朝は7時に起きて、いいイメージをつくるために、自分が出場した試合のビデオを見るという生活だったという。


海外で活躍する有力選手

長友佑都は3つぐらいの単語を知っていただけで、1時間もイタリア語で談笑できる、だれとでもすぐ仲良くできる「ラテン系日本人」だという。心肺能力も抜群のものがあり、走力はずば抜けている。

岡崎慎司は技術面ではもっとうまい選手がいるが、チームのために限界まで頑張れるタイプの選手だという。メンタル面とフィジカル面での強さを兼ね備えた選手である。

ヴォルフスブルクの長谷部誠は、攻撃面では得点にからむ決定的な仕事をし、守備面でも豊富な運動量に裏付けられた献身的なプレーで高い評価を得ている。

長谷部はドイツ語を流暢に話し、ドイツの文化、クラブにも溶け込んでいる。イギリスやイタリアからの誘いもあったが、ドイツへの移籍は長谷部が希望して実現した。非常に頭がよく、読書家であり、人のことを第一に考えるタイプの人間なので、そういった人間性がドイツの国民性・サッカーに合致して、まわりの信頼を得ている。

礼儀正しく律儀で、ロベルトさんの事務所に顔を出すときも、必ずみやげを持ってくるという。自分でできることは自分でやる。チケットの予約も自分でやるというぐあいだ。


南米の選手はなぜ異国で活躍できるのか

ブラジルやアルゼンチンの選手がなぜヨーロッパなどで活躍できるのかについては、ロベルトさんは技術の高さもあるが、次の要因を挙げている。

1.家系にスペイン人、イタリア人、ポルトガル人の親族がおり、ヨーロッパで活躍すれば、数年でEUのパスポートが取れることが大きなモチベーションとなっている。

2.サポーターの厳しい目があり、手を抜いたプレーをするとヤジが飛ぶ。そんな日常的なプレッシャーの中でプレーしている彼らはプレッシャーを感じない強靭な精神構造がつくられる。

3.南米社会の底辺は貧しく、家族を養うために生活費を稼ぐハングリーさを持ち合わせている。

4.ブラジル人選手は「サッカー界の中国人」と呼ばれ、数も多く、どこの国にいっても存在感は大きい。しかし、ブラジル人は多いが、失敗する選手も多い。

逆にアルゼンチン人選手はブラジル人に比べれば数は少ないが、海外で成功する確率は高い。これはアルゼンチンの競争心をはぐくむ教育方針が関係しているとロベルトさんは語る。アルゼンチン人は、仕事は成功させなければならないものという意識が高く、失敗して故郷に帰るくらいアルゼンチン人にとって恥ずかしいことはないのだと。

長谷部も「心を整える。」の最後でアルゼンチンのボカジュニアーズとレッズ時代に対戦した時に、ボカの選手の試合にかける意気込みとハングリーさはレッズの選手と全く異なっていたと書いている。

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
著者:長谷部誠
幻冬舎(2011-03-17)
販売元:Amazon.co.jp
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マラドーナもブエノスアイレスの貧民街出身だ。天性のサッカーセンスもあるが、そのハングリー精神はすごいものだ。だからあれだけの選手となったのだ。


Jリーグ年俸制の問題点

Jリーグの新人選手の年俸は大学・高校生は”C契約”で上限は480万円だ。アマチュア時代に国際Aマッチ、オリンピックやアジア大会などの予選・本戦の出場時間が450分以上となると”A契約”が可能だが、それでもA契約の上限は700万円と設定されている。

ロベルトさんはこれではいかにも低すぎ、プロの世界といっても夢が感じられないだろうと語る。サッカーでなくほかのスポーツを選ぶ可能性も出てくる。野球のほうが選手生命は長く、高額な契約金もある。スポーツのできる子がサッカー界を目指さなくなるのではないかと。


スポーツ選手の代理人というと、口八丁手八丁の辣腕弁護士のようなイメージがあるが、ロベルトさんはその辺を感じさせない。トリッキーなところがなく、選手から信頼されて各国のクラブオーナーやGMと誠実な交渉をしていることがうかがえる。

ロベルトさんが代理人をとつめるサッカー選手の人柄や、サッカー選手年俸・移籍に関する交渉の内実がわかって参考になる本である。


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Posted by yaori at 22:47│Comments(0) ビジネス | スポーツ