2012年02月22日

武器としての決断思考 京大の大人気講座が本になった

武器としての決断思考 (星海社新書)武器としての決断思考 (星海社新書)
著者:瀧本 哲史
講談社(2011-09-22)
販売元:Amazon.co.jp
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エンジェル投資家(海のものとも山のものともわからない会社に起業資金を提供する投資家)で京都大学客員准教授の瀧本哲史さんの本。瀧本さんは東大法学部を卒業後、すぐに助手となったが、法学研究の世界に飽き足らず、マッキンゼーに転職。3年で独立して、エンジェル投資家となったという経歴の持ち主だ。

こんなバックグラウンドの人を客員とはいえ准教授で採用し、独自の講座「意志決定の授業」を任せるとは、京都大学も大したものだと思う。

瀧本さんの「僕は君たちに武器を配りたい」も読んだので、近々紹介する。「僕は君たちに武器を配りたい」と「武器としての決断思考」は同じタイミングで出ている。京都大学で大人気講座というだけある。学生が社会人の先輩から聞きたい情報が満載で、現役学生は必読ではないかと思う。

僕は君たちに武器を配りたい僕は君たちに武器を配りたい
著者:瀧本 哲史
講談社(2011-09-22)
販売元:Amazon.co.jp
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エクスパートでなくプロフェッショナルになれ!

瀧本さんはマッキンゼー時代に「エクスパートでなくプロフェッショナルにならなくてはダメだ」とよく言われていたという。

IT,英語、FT(Financial Technology)が、ビジネスマンの3種の神器だとよく言われる。しかし、それだけではエクスパートにしかなれない。これからの時代はエクスパートの価値は下落していく。

プロフェッショナルを瀧本さんは次のように定義する。

1.専門的な知識・経験に加えて、横断的な知識・経験を持っている
2.それらをもとに、相手のニーズに合ったものを提供できる

マッキンゼーが「われわれはトップマネジメントコンサルタントである」と標榜していたことは、まさに上記の2.のことを言っている。

物流、購買、人事、その他すべての企業活動に対する横断的な知識・経験をもとに、トップが決断するための手助けをする。経営者の立場に立って、経営者の代わりに考えるのだ。

面白い例が挙げられている。電動ドリルが売れている状況を見て、「もっと高性能のドリルを売ろう」と考えるのがエクスパートで、もっと根本的なことまで考えて、「お客さんが欲しいのはドリルではなくて穴である」と考えるのがプロフェッショナルなのだと。


仏教の「自燈明」

仏教には「自燈明」という言葉があるという。お釈迦様が亡くなる時に、弟子たちがこれからは何を頼って生きていけばよいのかと聞かれて、「わしが死んだあとは、自分で考えて自分で決めろ。大事なことはすべて教えた。」と言われたという。

自ら明かりを燈(とも)せ。つまり自分の指針を持たなければいけない。

これからは変化に対応できないことが最大のリスクとなる。だから、意思決定の方法を学んで、自分で道を切り開くことが、最大のリスクヘッジとなるのだ。この本は実社会を生きていくゲリラのような若者に、「武器」となる意思決定の方法を教えるものだ。

スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」で、中国のことわざとして紹介されている「人に魚を与えれば、1日食べられる。人に魚の釣り方を教えたら、一生食べられる」(筆者訳)と同じ考えだ。

7つの習慣―成功には原則があった!7つの習慣―成功には原則があった!
著者:スティーブン・R. コヴィー
キングベアー出版(1996-12)
販売元:Amazon.co.jp
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世の中には「正解」などない。意思決定の方法を学んで世の中の生き方を身につけるのだ。


ディベート思考

この本で瀧本さんが教える意思決定の方法は、議論を通じて「いまの最善解」を導きだす「ディベート思考」だ。議論によって意識的に違う視点、複数の視点を持ち込み、ぶつけ合うことで「いまの最善解」を出すことができる。

瀧本さんは日本の会社で多い、結論の出ない会議はディベートとは言わない。ディベートで重要な点は次の通りだ。

★準備が8割
★誰が言ったかではなく、何を言ったか
★結論の内容以上に、結論に至る筋道が重要。前提が変われば、結論を変えればよい
★ブレないことに価値はない。ブレない生き方は、思考停止の生き方
★先送りというのは、「決断しないという大きな決断」
★ディベートはメリットとデメリットを比較して決める
★反論は「深く考える」ために必要なもの
★ディベートは、複数人でも一人でもできる

ディベートで明らかになってくる正しい主張は次の3条件を満たすものだ。
1.主張に根拠がある
2.根拠が反論にさらされている
3.根拠が反論に耐えた


ディベート思考のコツ

ディベート思考のコツは、事象をいくつかの要素に細分化して、具体的な問題にする下調べを行うことだ。たとえば、「結婚はいつしたらいいのか?」では議論にならない。「20代に結婚すべきか」のように具体的な問題まで落とし込むのだ。

この本では「サッカーの日本代表がワールドカップで活躍するには何をすべきか?」という練習問題を使って、ディベート思考を紹介している。

まずは思いつくまま要素を挙げていく。たとえば監督、選手、選手の選出方法、育成方法、ファン、マスコミ、競技施設、協会の運営など。そしてこのうちから重要と思われるものをいくつかピックアップして、優先順位をつける。

この例では瀧本さんは、サンプルとして「監督の強化」、「選手の育成方法」、「協会の運営方法」を選んでディベートしているが、もちろん他の論点でもよい。

「ドーハの悲劇」は、ある選手のロスタイム直前での攻め上がりが原因で生まれたが、なぜ時間稼ぎが必要なシーンで、わざわざ攻めたのか?選手は何を考え、監督は何を指導していたのか?日本のマスコミは「悲劇」をあおるだけで、問題の本質にメスをいれるような報道はほとんどなかったという。たしかに当時の映像を見ると、中東勢のように、終盤近くなると露骨に時間稼ぎをするという当たり前の戦法が、当時の全日本には全く見られないことがわかる。




練習問題も参考になる

「X社に内定したA君は就職活動を続けるべきか?」という練習問題など、いくつかの練習問題が紹介されている。京都大学の授業でも、このように進めているのだと思う。次がこの練習問題の意思決定のフローシートだ。

意思決定フローシート_ページ_1






出典:本書222−223ページ


意思決定のツールとしての「ホントのようなウソ」の見分け方

この本ではいくつかの意思決定のツールを紹介している。「ホントのようなウソ」の見分け方として、次のような練習問題を紹介していて興味深い。()カッコ内は反証の例。

★【練習問題】新卒で大企業に入れば、人生は安心か?
★【練習問題】私の友人の関西人はみんな早口でよくしゃべる。よって、関西人は早口だ。
★【練習問題】アメリカの死刑廃止州では、重大犯罪が少ない。よって、重大犯罪を減らすには、死刑を廃止するのが良い。
(重大犯罪が少ないから、死刑を廃止しているのかもしれない)
★【練習問題】女は地図が読めない。
★【練習問題】オタクだからモテない。
★【練習問題】英語ができる人ほど年収が高くなる。
(学歴が高いから、英語の成績もいいし、大手企業に就職できて年収も高くなるのかもしれない)
★【練習問題】営業成績の良い人は、仕事に対するモチベーションが高い。
(仕事に対するモチベーションが高いから、営業成績が良くなるのかもしれない)
★【練習問題】これを飲むだけで痩せるダイエット食品。
(被験者は痩せたらギャラがもらえるので、ダイエット食品を食べる以外にもいろいろと痩せる努力をしている)
★【練習問題】政権交代が起こると景気が良くなる。
(負けるわけにいかない前政権が景気対策を行うが、選挙には間に合わず敗北する。新政権が誕生してすこし経ったときに、前政権の景気対策が効果が出てきて景気が良くなる。新政権は自分たちが政権を取ったから、景気がよくなったと喧伝する。)


意思決定のツールとしての「情報収集術」

ディベートで自分の主張を証明、補強するための証拠収集術のポイントは次の通りだ。

★マスメディア、ネットの情報を鵜呑みにしない。マスメディアの報道とは逆の意見を集める。
★日経新聞のニュースで投資すると、まず間違いなく損をする。みんなが知っていることにあわせて行動をとっていたのではダメ。

瀧本さんは、あるゲーム会社の人気ソフトにバグがあったというニュースを聞き、株価が暴落した会社のコールセンターに電話して、バグの発生率が非常に低いことを確かめて投資したという。

★インタビューを行う時のポイントは次の3つ。
1.すべての人は「ポジショントーク」(家を持っている人は、持家をすすめる)
2.結論ではなく、理由(根拠)を聞く
3.一般論ではなく、「例外」を聞く

★「海外はこうだから、日本もそうすべきだ」論者などへの反論の仕方
1.資料の拡大解釈
2.想定状況のズレ
3.出典の不備
4.無根拠な資料(専門家の言う「私の経験上…」)


大学以降の人生では、情報に接したら、それが本当かどうかをまず疑ってくださいと瀧本さんは語る。本についても「読書は格闘技。」筆者の言っていることを咀嚼しながら読んでいくのだと。

瀧本さんの結論は「自分の人生は、自分で考えて、自分で決めていく」だ。今度紹介する「僕は君たちに武器を配りたい」も良い。若い人に限らず、どんな年代の人が読んでも大変参考になる本である。


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Posted by yaori at 13:03│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 瀧本哲史

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