2012年03月26日

皇軍兵士とインドネシア独立戦争 残留日本人の生涯

皇軍兵士とインドネシア独立戦争: ある残留日本人の生涯皇軍兵士とインドネシア独立戦争: ある残留日本人の生涯
著者:林 英一
吉川弘文館(2011-12-15)
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図書館の新刊書コーナーに置いてあったので読んでみた。

以前このブログでも紹介した通り、筆者の亡父は昭和18年に徴兵され、当時としては珍しく運転免許を持っていたので、輸送部隊のトラック兵としてインドネシアに赴任し終戦を迎えた。

「ビルマ地獄、ジャワ天国」という言葉があるそうだが、亡父はほとんど戦闘を経験しなかったと言っていた。たしかオーストラリア軍?の戦闘機と日本軍の戦闘機の空中戦を目撃し、飛行機が河に落ちるのを見たと言っていた。

当時インドネシアはオランダの植民地だったが、オランダ本国はドイツに占領され、オランダ王室と政府はイギリスに逃れていた。

そんな状況なので、インドネシアにおけるオランダ軍も弱体化しており、太平洋戦争緒戦の落下傘部隊によるパレンバン占領以外は、日本軍とほとんど戦闘はしていない。



当時のオランダ軍と、イギリス、アメリカ、オーストラリアの援軍は現地人兵士も入れて10万人の兵力で、インドネシアに侵攻した今村均中将の第16軍の5万5千人に比べて、数的優位にはあったが、航空兵力に勝る日本軍がわずか10日間でジャワ島を占領した。

連合軍がインドネシアを戦略目標としなかった結果、インドネシアの日本軍は、日本からの輸送船がことごとく沈められて、増援物資は得られなかったものの、戦闘がなかったおかげで兵力を保ったまま終戦を迎えた。

亡父は戦争が終わってからも武装解除せず、むしろインドネシア人を怖がっているオランダ軍の警備をしていたと言っていた。

この本で取り上げられた残留日本兵の藤山秀雄さんも同じように戦争が終わって、オランダ軍の補助憲兵として1945年9月19日のジャカルタのムルデカ広場で行われたスカルノ大統領の独立集会を警備していたという。

藤山さんはYouTubeで公開されているニュース特集で登場するので、それをまずは紹介しておく。



この独立集会で、スカルノの独立宣言をインドネシアの民衆が熱狂的に支持し、独立を武力弾圧しようとするオランダとの間で4年間にわたって独立戦争が繰り広げられ、藤山さん他の約800名(数千人という説もある)の元日本兵が独立戦争に加わり、その半数が戦死したという。

藤山さんの場合は、インドネシアに来る前にビルマで英軍と戦ったことから、戦犯として訴追されるのではないかという危惧があった。日本は全滅したという流言から、日本に帰ってもしょうがないという気にもなり、部隊にあったチェコ製の軽機関銃と弾薬を持って、もう一人の同僚と脱走を決意した。

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出典:以下、別記ない限りWikipedia

「日本兵は強い。日本兵がいれば戦闘に勝てる」という神話があったので、脱走日本兵は歓迎されたが、インドネシア独立軍はろくな武器もないので、アメリカ軍のシャーマン戦車などの兵器の補給を受けているオランダ軍とはまともな戦いにならなかった。

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藤山さんと一緒にインドネシア軍に参加した14名の元日本兵のうち、12名が戦死した。弾薬がないので、オランダ兵から盗んで戦う毎日だったという。藤山さんはビルマ戦線で負傷して、もともと足が不自由だったが、インドネシア独立戦争でも負傷し、びっこをひいて歩くようになった。

この本ではインドネシア独立戦争でのオランダ軍との戦闘の様子が藤山さんの回顧談として紹介されている。

4年間の独立戦争の後は、インドネシア人と結婚し、爆薬を使っての漁や、解体船事業など、様々な職業や事業を生きるために経験し、日本商社の現地雇員として働いたこともあった。

晩年はジャカルタの北のタンジュン・プリオクで自動車修理工場を経営し、孫に囲まれ、元日本兵の実業家として日本でも紹介されるようになった。

藤山さんたち元日本兵の多くは独立戦争の英雄として、亡くなった後はカリバタ英雄墓地に埋葬されている。

インドネシアを訪れた日本の首相は、2002年の小泉純一郎首相以来カリバタ英雄墓地に参拝し、日本とインドネシア友好の礎となった残留元日本兵の功績をたたえている。

藤山さんは残留日本兵としてインドネシア軍に参加して、何度も死にそうな思いをし、また独立戦争が終わっても、特に特技や技量がないので、奥さんと一緒に食うや食わずの生活を強いられていた時期もあったことが紹介されている。

前述のように残留日本兵の半分以上は戦死している。

亡父と藤山さんは、年は2歳しか違わない。

亡父がインドネシアに残るという決断をしていたら、どうなったのだろうと、ふと思う(もちろんそうなると筆者は生まれていないわけだが)。

YouTubeに短編映画のような元日本兵のインドネシア独立戦争への貢献を描いた作品が載っているので、最後にこれを紹介しておく。



この短編映画はいわば表の部分しか紹介していない。独立戦争後、いわば無国籍人としてその日を生きるのも大変だった元日本兵の裏の生活を、藤山さんという一人の残留日本兵を通して描いたのが、この本である。

興味深い本である。


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Posted by yaori at 12:44│Comments(0)TrackBack(0) 自叙伝・人物伝 | 歴史

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