2012年06月02日

日本の農業が必ず復活する45の理由 農業について物知りになれる本

日本の農業が必ず復活する45の理由日本の農業が必ず復活する45の理由
著者:浅川 芳裕
文藝春秋(2011-06-28)
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農業経営者向けの月刊誌「農業経営者」の副編集長の浅川芳裕さんが、農業に関する様々な疑問に答えるQ&A集。農業に関しては知っているようで知らない点が多いのに気づかされる。

農業経営者 2012年3月号(192号)農業経営者 2012年3月号(192号)
農業技術通信社(2012-03-06)
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農家って誰のこと?

たとえば「農家って誰のこと?」という質問だ。

誰もが農家は何か知っているが、統計だと必ずしも農家=農業ではない。10アール以上の農地を持っているか、年間15万円以上の農作物売上げがあれば、農林水産省の定義する「農家」となり、これが253万戸ある。

そのうち、年間50万円以上の売上げのある販売農家が163万戸、それ以下が自給的農家90万戸だ。販売農家のうち主に農業収入の割合が5割以上の主業農家が36万戸あり、この世帯の農家が日本の農産物の大半を生産している。

一方農地だけ持っている「土地持ち非農家」が137万戸ある。自給的農家や土地持ち非農家から農地を借り受けて耕作しているのが、3万社余りの農業法人などだ。


農家優遇策

農地がないと農家にはなれない。農家はある意味特権階級で、補助金が交付されたり、生産物は公設市場に持って行けば必ず値段がつく。農業収入が5兆円に対し、農地を転用した「転売収入」は3兆円だ。猶予制度を利用すれば、相続して20年経てば、宅地にしても相続税はゼロと優遇されている。農家が農業を積極的に辞める理由はどこにもない。


農家に生まれなければ「農業就業人口」には入らない

農水省が発表している「基幹的農業従事者」は農家の同居世帯員で、主に農業に従事している人だ。全体的には高齢化による引退により減少しているが、専業農家数は増えている。定年を期に、農家に戻って農業を始める高齢者が増えているからだ。

このようにリターン農業でおいしいコメの生産をめざす人が増えていることもあり、コメの直売率は増え続け、生産量の2割の165万トンが直売となっている。

「農業就業人口」は、販売農家の世帯員であり、「基幹的農業従事者」と時々農業を手伝う同居の主婦や学生も含んでいる。しかし、農家や農業法人に雇われている233万人の農業労働者が含まれていない。つまり1日でも農業を手伝う農家の世帯員はカウントされ、農業生産に従事していても農家に生まれなければ「農業就業人口」にはカウントされないのだ。

このような誤解を招く指標を多く使って、農業をミステリアスな分野化して、日本の土地は狭い=日本の農家は小規模=保護が必要というロジックで、国家予算を確保し、自分たちの権益維持に使っているのが日本の農林水産省である。


食料自給率の欺瞞

その最たる手口が、食料自給率だ。日本の農水省の発表する食料自給率は2種類ある。一つは1983年から用いられているカロリーベースの自給率で日本独自の指標である。世界各国の自給率もこの指標で計算されているが、計算根拠は公表されていない。

自給率





もう一つは生産額ベースの自給率で、これは世界各国の公表された統計を元にした指標である。国際交渉でコメを一粒たりとも入れないという論理を通すために国内向けに生み出されたのがカロリーベースの自給率なのだ。

エネルギー自給率のように4%では低すぎるので、4割くらいになる指標を生み出したというのが実際のところだという。これにより農水省の自給率予算は2006年の17億円から、戸別所得補償制度が始まった2010年度は8,000億円になっている。

農水省は食料危機で輸入全面停止に備える為と言っているが、日本のエネルギー自給率は4%で、このボトルネックを無視して食品だけの自給率を議論するのは空理空論であると浅川さんは語る。


取引の本質を理解していない食料危機論者

食料危機をあおる人は多いが、筆者は商社マンで原料の貿易に20年間従事していたので、この人たちは取引の本質を理解していないのではないかと思う。

穀物は商品取引所で価格が決定されるが、取引は毎年継続されてきており、何十年も続くものだ。たしかに干ばつなどの不作の年は、市況が高騰し、売り手市場になることもあるが、逆に豊作の年は市況が低迷し、買い手市場になり、穀物は長期間保存が利かないため、物理的に在庫スペースがなくなれば、投げ売りしなければならなくなる。

市況が下がり、どこにも売れないのに、在庫がどんどん積みあがるという恐怖は、市況商品の取引を経験したことにない人にはわからないだろう。

不作の年もあれば豊作の年もある。たまたま市況が高騰したからといって、長年の買い手に一切売らず、スポットで一番高い値を付ける買い手に売ったりすると、信頼関係が崩れ、需給が緩和したらその取引先には、もう買ってもらえなくなる。市況商品はいい時もあれば、悪い時もある。だから実際の取引者は短絡的な行動はとらないものだ。

もし日本の食料輸入が止まれば、世界中の食料生産者が主要売り先を失って困ることになる。食料は長期保存が利かないから、供給が止まって困るのは日本だけではない、供給者も困るのだ。

日本の食料輸入が止まるというような安全保障上の問題が起これば、たぶん中国、台湾、韓国の輸入も止まる。世界中の穀物生産国が極東アジアという最大の顧客を失い、途方に暮れることになるだろう。

第1次世界大戦中も、第2次世界大戦中も大勢が決するまでは食料の貿易は中断したことはない。それで豊かになったのが、筆者が駐在していたアルゼンチンだ。アルゼンチンは1943年まで中立を保ち、両陣営に食料を売っていた。戦時中の日本でも、アルゼンチンからの情報は中立国の情報として重宝されたのだ。

食料危機説は取引の本質を理解していない机上の空論だと思う。


経済合理性を追求するとカロリーベースの食料自給率は下がる

単価が安く国際競争力のない小麦や大豆の代わりに、日本が世界に誇れる品質の果物や野菜、牛肉を増産して輸出が増え、農家が儲かってもカロリーベースの食料自給率は下がる。果物や野菜はカロリーが低く、牛肉は飼料を輸入に頼っているので、農村の理想像を達成しても自給率は下がるのだ。


日本は世界5位の農業大国

このブログで紹介した「日本は世界5位の農業大国」の通り、FAOが発表する農業生産額では、日本は世界第5位の農業大国である。中国が一位、2位は米国、3位がインド、4位ブラジルで、いわゆる農業大国のオーストラリアは16位、アルゼンチンは36位となっており、日本第一位の北海道の農業生産額の方が多くなっている。

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日本は農業生産に最適の風土

日本は南北に長く、四季がはっきりしていて雨が多いので、農業に最適で、品種改良も盛んで技術力の裏付けもある。さらに肥料や育成技術で糖度や酸味などの食味まで管理して、販売価格を上げるという技は海外の農家から見れば異次元の世界である。購買力のある日本国民の好む農産物を生産してきた日本農業の努力の賜といえるのが世界第五位というランクなのである。

たとえば世界にはイチゴは600品種が登録されているが、そのうち日本だけで1/3を保有している。センサーによる糖度管理や、物流の鮮度保持技術などの周辺技術の高さも日本の特長である。スーパーで多くのイチゴの品種が陳列されているのも、日本独自のものである。


アメリカの大豆生産はヘンリー・フォードが促進

アメリカの大豆生産は人類の完全食の実現を目指すヘンリー・フォードがエジソン研究所で世界中の作物を調べた結果、大豆が最適という結論から1920年代から生産を促進したものだ。

当時アメリカの大豆生産は少なく、日本は50万トンの大豆生産があったが、フォードの音頭取りで大豆油を使って工場を創業する他、車のシート材にも大豆繊維を使い、今では日本の20万トンに対し、米国7000万トンと圧倒的な差が付いている。

単位当たり収穫量も米国のヘクタール当たり3トンに比べ、日本は1.5トンで、2トンの中国にも追い抜かれ、日本が大豆生産を教えたブラジルは3トン近くなっている。

米国の農家は醤油・味噌・豆腐・納豆と用途別に作り分けられるのに対して、日本は虫がついていないか、汚れがないかという外観検査だけで等級が決まり、この面でも日本は大豆生産後進国である。


戸別所得補償制度

戸別所得補償はすでにコメの生産を辞めている減反地で、単価の安い麦や大豆の生産や飼料用や米粉用の米をつくれば、最大の所得補償金がもらえることになる。

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出典:農水省パンフレット

そのため補償金目当ての不採算作物の生産が増え、その埋め合わせに税金が使われることになる。さらに所得補償制度のために、意欲のある専業農家に貸していた農地の返却を土地持ち農家が迫り、農地の”貸しはがし”が起こっている。

民主党がこの政策を続けるねらいは、農業を弱体化させ、食料不安をいだく国民の農政に対する期待を高め、農家・非農家ともに政治に頼ってこさせることにあると浅川さんは言う。

農業生産技術についても注目すべき動きがある。


世界的な直播(じかまき)の増加

日本の田植機が普及し始めた1960年代に、ヨーロッパでは田植えは完全廃止されたという。直播(じかまき)はアジアでは15%にも広がっているが、日本では秋田県大潟村などを除いては1.2%の普及率に留まっている。

田植機は田植え作業自体を効率化したが、機械が高価な上に田植えしかできないし、種もみから田植えの前の苗床での育苗など、一連の準備作業はそのままだ。直播きは準備作業もなくすことができる技術革新である。


TPPは大平首相の環太平洋連帯構想がそもそもの発端

1979年の大平首相の環太平洋連帯構想が、オーストラリアに引き継がれ、APECとなり、1995年のAPEC大阪行動指針をさらに具体化したものがTPPであるという指摘も新鮮である。ちなみに農水省は大平首相のビジョン構想当時蚊帳の外に置かれたとして今でも恨んでいるという話があるという。

TPPのメリットとしては、日本が競争力のある野菜、花卉(かき)、果物は輸出しやすくなる。外国人の受け入れが容易になれば、農業労働者不足が解消できるというものがある。

小麦の輸入関税は252%だが、無税の国家輸入枠があり、農水省が差益をエンジョイしてきた。大麦の輸入関税も256%だが、これが無税となれば畜産業界の飼料コストが下がる。

過去輸入解禁に農水省の指導の元に減産・国内果汁工場の設備を廃棄したミカン産業は、国産がピークの300万トンから100万トン以下に減少した。一方アメリカンチェリー解禁に増産で対抗したさくらんぼ業界は、旬の長期化により消費が拡大し、国産もメリットを享受した。


アメリカのコメは長粒種が中心

アメリカは1000万トンのコメの生産量があるが、ジャポニカ米の短粒種の生産は30万トンのみだ。食味的に許容できる中粒米でも輸出量は80万トン。そのうち35万トンを日本政府がミニマムアクセス米として輸入している。

世界的に需要が大きい長粒種であれば、タイやインドネシアなどの不作によりコメの国際相場は一挙に上昇するので、数年に一度は大もうけ出来る可能性がある。

しかし日本市場向けの短粒種は、生産量のわずか3%で、現在生産しているカリフォルニアなどの生産者を除いては、手間が掛かる上に生産経験がないので短粒米に転換するメリットがないのだ。


トウモロコシは最強の作物

トウモロコシはC4作物といって、他のC3作物より効率よく二酸化炭素を固定できる。単位面積当たりの収穫量も1ヘクタール当たり、小麦の3トンに比べて11トンと桁違いで、飼料用に使える茎や葉を含めると18トンの収穫が可能な最強の農作物だ。

天候変動・渇水にも強い。成分もたんぱく質、脂質、糖質をバランス良く含んでいるので家畜を飼育する上でも最高の作物だ。飼料に使われる他、甘味料、マーガリンなどのコーン油にも使われている。茎、葉などのセルロースを使えるようになれば、バイオ燃料生産も拡大が期待される。

唯一トウモロコシに勝てる作物はススキだという。同じC4作物で、トウモロコシより繁殖力が強く、多年草で、面積当たりのバイオマス収穫量はトウモロコシの3倍だが、残念ながら効率よく糖・アルコールに転換する技術は開発されていない。


カロリー確保ならイモ

同じ10アールで生産できる量は、米なら600キロだが、イモなら5トンで作物の中で最も多くのカロリーを供給できる。イモは食べるまで面倒な手間が掛からない。戦中・戦後に家の庭などでイモを生産していたのは、国民のカロリー確保という意味では至極妥当なことだったのだ。

ちなみにフレンチフライやポテトチップスの大成功は、大豆油革命で高品質の油が大量に出回るようになったからだという。


灌漑は世界の9%のみ

世界の灌漑比率は9%しかなく、灌漑地の7割は水田の多いアジアに集中している。

オーストラリアや南米では灌漑はほとんど行われておらず、オーストラリアの単位収穫量は世界でも100位程度に留まっている。広い面積の農地で手間を掛けずに生産するやり方を選んでいるのだ。


砂漠農業

日本の年間鉱量1700ミリに対してドバイは年間60ミリ。そんなドバイの砂漠での養液農業によるイチゴ栽培の話も参考になる。

砂漠での昼夜の寒暖差は果実には最適だ。植物は凍結しないように水分を下げて、糖度を上げる。植物が身を守るための生理現象によって、甘みが強い果実ができるのだ。

砂漠は日射量が多く、害虫と雑草がないので無農薬農業が可能だ。野外で養液栽培をやっているので、ハウスも必要ない。イスラエルやエジプトからヨーロッパに無農薬野菜が大量に輸出されているという。

最後に日本の農家の海外進出の例が紹介されている。千葉の和郷園はタイでマンゴーとバナナを生産している。

日本の種苗メーカーのサカタのタネとタキイ種苗は世界第8位と第10位で、日本の種苗業界は世界第3位だ。世界第一位の種苗メーカーはモンサント、2位デュポン、3位シンジェンタ(スイス)という順だという。農業機械業界や農薬業界も世界第3位なのだ。

アスパラは多年草で、一度株が育つと何年も収穫ができるとか、中国には世界的な農業生産基準であるGAP認定農場数が日本の倍あり、面積では日本の15倍とか、遺伝子組み換え作物は農産物で唯一安全性が公認されている食品とかいった情報も参考になる。

45の例を見てくると、土地が狭くとも日本農業は競争力があるのがわかる。別に市況商品の小麦や大豆で世界と競争する必要はないのだ。国民が高いお金を払ってくれる付加価値の高い甘い果実やおいしくて安全な野菜で勝負すれば良いのだ。

知っているようで知らない農業に関する基本的な知識を得るために最適の本である。


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Posted by yaori at 01:47│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 農業

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