
著者:海老原 嗣生
朝日新聞出版(2012-03-13)
販売元:Amazon.co.jp
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このブログでも「学歴の耐えられない軽さ」など何冊か紹介している転職エージェントマンガ・エンゼルバンクのモデルとなったリクルートワークス編集長で人材コンサルティング会社(株)ニッチモ社長の海老原嗣生(つぐお)さんの本。

著者:海老原 嗣生
朝日新聞出版(2009-12-18)
販売元:Amazon.co.jp
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就職をめぐるデマ・誤解
この本のあとがきで、海老原さんは、マスコミに流れるデマ・誤解をデータで反証するために就職関係の本をこれで5冊出したが、もうこれで打ち止めにしようとして、この本を書いたという。
そのデマとは(カッコ内は海老原さんの反論や筆者のコメントだ):
1.新卒偏重の日本では、大学卒業時点の1回しか正社員になるチャンスがない。
2.既卒3年まで新卒扱いすれば、若者は救われる
3.内定解禁を半年後ろ倒しにして4年の秋にすべき
(筆者はこれを”デマ”とは思っていなかったが、海老原さんは4月1日解禁の現在でも10月1日時点で4割近い未就職者が出ている。そこから3月末までにこのうちの3割は(大体は中小企業に)内定する。もし10月解禁にすると、3月末に4割近い未就職者が出てしまうという。)
4.採用広報を12月1日に後ろ倒しにすることで、学業阻害が和らぐ
5.採用を通年化すべき
(採用を通研化すると、いつまでも大手志向が冷めやらず、学生が中小企業に目を向ける機会が減る。人気100社には5%しか入れず、1000人以上の企業に就職できるのは1/3だという現実を忘れている。)
6.日本式の新卒一括採用が、若者を苦しめる諸悪の根源
(OECDのデータでも一括採用している日本と韓国の若年失業率が際立って低い。欧米型にすると就職できずに、インターンとかアソシエイトという不安定な待遇を我慢しないと、正社員にはなれない。どちらが若者にとって良いのだ?)
大体わかっていたことではあるが…
国公立大学は卒業生の就職先を公表していないので、この本で論じられているのは私立大学の卒業生の話だ。大体わかっている通りだが、結論は次の通りだ:
★人気上位100社への就職に強いのは慶應、早稲田、上智まで。それも経済・法学部・商学部など偏差値の高い学部に限られる。
海老原さんが各大学の公表資料からまとめた人気上位100社への就職率が載っている。高い方の数字は全就職者に占める比率、低い方の数字は全卒業生に占める比率。全卒業生は大学院進学者も含んでいる。

出典:本書68ページ
次が上位100社に就職できたどの大学の学生が、どの業界に卒業できたかという表だ。早稲田・慶應・上智はいろいろな業界に、分布しているが、それ以下だと大量に採用する金融系の比率が圧倒的。

出典:本書71ページ
金融系を除いた人気上位100社への就職率は、早稲田・慶応・上智が10%、同志社が6%、それ以下だと数パーセントとなっている。

出典:本書75ページ
つまり、就職に強い私立大学は簡単に言うと慶應、早稲田、上智、同志社の順で、それ以下は金融系を除いては人気上位100社に就職は難しい。金融系は大量に採用するが、それは本店中心のキャリアを歩むエリートと、支店要員のソルジャーを両方採用しているからだという。
「誰でも大学生化」の当然の結果
「学歴の耐えられない軽さ」で説明されていた通り、若年層の人口は減っているのに、大学生の数は増えている。
当然のことながら、誰もが大学生となっている現在、平均学力は落ちている。産業構造が変わり、高卒求人が減少したことにより大学進学者が増えたのだ。
大学は少子化にもかかわらず、学生を確保しなければならない必要に迫られ、学力試験なしのAO入試や女子学生を増加させて、学生数を増やし続けてきた。そのツケが大学生の学力低下なのだ。

出典:本書37ページ
これからは東大の秋入学化に象徴されるように、日本の少子化対策として留学生獲得競争が日本の大学に起こるだろう。
企業の求める人材の要素
企業が求める人材の要素は次の6つだ。
1.地頭がいい
2.要領がいい
3.継続性がある
4.体力がある
5.ストレスに強い
6.人に嫌われない、人を嫌わない。
人気上位100社の採用数は景気が良くても悪くても大体2万人前後で変わらない。
従来型の入試で、厳しい受験戦争を勝ち抜いて難関校に入るには、少なくとも上記の1〜3が必要だ。だから企業は難関校出身者を優先的に採用してきた。
一方、AO入試拡大で全私立大学の無試験入学者は5割にも上る。国公立を加えた全大学でも無試験入学は4割を超えるという。
厳しい受験戦争を経験せず「誰でも大学生化」で入学した学生は、上記1〜3の試練を受けていないので、大企業の選考ではじかれてしまう結果となるのだ。
昔のエントリーはハガキの手書きで、多くの企業に応募するのはよほど根気がないとできなかった。ところが、今は就職サイトに一旦情報を登録しておけば、同じ情報を使って何十社でもボタン一つで応募できる。
就職説明会などのエントリーでも、大手企業は有名校向けは大学別に開催し、それ以外の大学はまとめて開催している。誰でもエントリーが可能なので、希望者が殺到し、下位大学の学生はエントリーシートすら提出できないという事態になっているが、企業側も機械的スクリーニングせざるを得ないのだ。
早稲田対慶応の星取表が面白い
この本では早稲田対慶応の人気100社への就職状況を細かく分析していて面白い。
就職数では早稲田、就職率では慶応。業界数では早稲田だが、慶応が強い業界は慶応が圧勝しており、早稲田はまんべんなく、慶応は金融、商社などに集中する傾向がある。
国際教養大学が就職では最強
就職に強い大学は、開学からまだ8年の秋田県にある国際教養大学だという。
一般入試比率が7割で、入学者全員にTOEFLの成績でクラス分けし、最初の1年は全員が寮生活。1年の海外留学が必須で、4年で卒業できる学生は半分。企業の評価は高く、就職率はほぼ100%だという。
女子のほうが相対的に優秀のメカニズム
人気企業では男子学生の応募が大量にあるので、ライフイベントコストの低い男子を優先的に採用する。そんなハンディをものともしないパワフル女子は、激戦を勝ち抜いた精鋭となり、同期男子に比べて優秀さが際立つ。
人気企業が優秀な男子学生を大量に採用するので、それほど人気のない企業では優秀な男子学生が集まらない。
ところが女子は優秀でもなかなか人気企業に採用されないため、こうした企業群にも数多く応募する。したがって、優秀な女子とそれほど優秀でない男子との比較なら、どうしても女子が良く見えるのだ。
しかし女子が優秀=女子を多く採用とはならない。女性が長期で活躍できるのは、マスコミと化学・日用品業界というのが現実だ。
下位私立大学の高就職率は分母を操作している
下位私立大学が発表する9割という就職率は、就職できなかった学生をいろいろな理由でノーカウントにして操作された数字だ。
つまり就職者数=分子はいじれないので、分母=就職希望者数を少なくしているのだ。
大体わかっていたことではあるが、データで詳しく検証しているので納得できる。読みやすく参考になる本である。
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