2012年06月18日

日本の瀬戸際 森本新防衛大臣の本を読んでみた

日本の瀬戸際日本の瀬戸際
著者:森本 敏
実業之日本社(2011-03-01)
販売元:Amazon.co.jp
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第2次野田内閣で、防衛大臣に就任した防衛庁・外務省出身で、拓殖大学教授の森本敏(さとし)さんの本。

森本さんは昭和16年生まれ。防衛庁出身(防衛大学理工学部卒業)で、外務省に出向した後、外務省に入りなおして、在米日本大使館の一等書記官や、情報調査局安全保障政策室長など一貫して安全保障の実務を担当し、退官後は野村総研や、大学の講師や客員教授となり、平成12年からは拓殖大学教授という経歴を持つ。

野田内閣で森本さんの経歴を見たときに、「こんな防衛大臣に適任の民間人がいるとは!」と驚き、野田さんは人を見る目があるなと思ったので、興味を抱いて森本さんの本を読んでみた。

この本は2011年3月の発売なので、森本さんの最近著である。このほかに、「日本防衛再考論」という本も出しているので、これも読んでみる。

日本防衛再考論―自分の国を守るということ日本防衛再考論―自分の国を守るということ
著者:森本 敏
海竜社(2008-05)
販売元:Amazon.co.jp
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ひと言で言って、「百聞は一見に如(し)かず」だ。

この人は「学者」ではない。

この本にも、「日本防衛再考論」にも何の出典・参考文献・自己論文等も示されていない。この人がどれだけ安全保障について研究してきたのか、全くわからない。

一流の学者なら自分の本を書く場合、欧米なら数十ページ、日本でも最低数ページや十数ページは出典などを示すものである。

拓殖大学教授という肩書と、この本の内容に強く違和感を感じる。

一例を示すと、森本さんは「北朝鮮には莫大な天然ウランが埋蔵されている」とこの本で語っている(49ページ)。

1950年代末に中国の専門家の資源調査で莫大な天然ウランが埋蔵されていることを知り、1960年代からソ連から原子炉を購入し、この原子炉を動かして生産(前後の関係から重工業生産と読める)に必要な原子力エネルギーを確保してきたと書いている。

筆者が浅学なのかもしれないが、北朝鮮に莫大な天然ウラン資源があるという話は聞いたことがない。また北朝鮮の電力発電用の原子炉は止まっており、ソ連から購入した原子炉はすべて実験機規模だった。重工業生産を支えるエネルギーを原子力発電でまかなってきたわけではない。

この情報一つをとっても、出典・根拠を全く示さない森本さんの情報の正確性は非常に疑問に思える。

また安全保障の「専門家」なのかもしれないが、書いてあることが抽象的すぎて、具体論にかける。

たとえば第4章(日本の外交・安全保障政策と日米同盟進化はどうあるべきか)という章では、次のようなサブタイトルがならぶ。

1.外交・安保政策における日本の基本課題とは何か

 ・国益を追求する国家戦略を早急に構築すべし

 ・政策決定プロセスの封印で検証が不能に陥る(筆者注:そもそもタイトルからして何を言いたいのか不明)

 ・国家の情報機能を強化すべし

 ・法律で完全に縛られた自衛力を見直す局面に来ている

 ・価値観を共有する国々と連携強化すべき(韓国、豪州、ASEAN諸国など)

 ・日米同盟による抑止力強化が最重要課題

 ・アジア太平洋の地域的枠組みの進展に日本がイニシアティブを!

どれもこれも抽象論だ。具体策と筋道がないので、「足が地についた」議論ではない。

尖閣列島問題では、「尖閣諸島の実効支配が急務の課題」というサブタイトルを掲げて、5つほどのポイントを説明している。

「その第1は、尖閣諸島の実効支配をいかに強化するかについてである。(中略)…その具体的な方法については、まだ検討中である。」

「第2には、海上保安庁の能力向上についてである。(中略)…海上保安庁の予算を急に増やすことは、現実問題として難しく、…(後略)」という具合に、尻切れトンボの寄せ集めだ。

これでは「評論家」だ。「専門家」ともいえないだろう。

このブログは筆者のポリシーとして本の批判は書かない。世の中にろくでもない本は多くある。そういう本は、そもそもあらすじを書く対象としては選ばないのだ。

しかしこの本については、突如登場した防衛大臣という重要なポストの閣僚だけに、あえて批判めいた筆者の意見を公開する。

いずれ森本さんの真の能力が試される時が来るだろう。


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Posted by yaori at 07:32│Comments(0)TrackBack(0) 自衛隊・安全保障 | 政治・外交

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