2012年08月13日

奇跡の脳 脳科学者の脳卒中体験実話

奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)
著者:ジル・ボルト テイラー
新潮社(2012-03-28)
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脳科学者として活躍していた37歳の時に脳卒中になり、8年かけて復活したジル・ボルト・テーラー博士の体験談。「バカの壁」で有名な解剖学者の養老孟司さんと、このブログでも何冊か著書を紹介している脳科学者の茂木健一郎さんの二人が解説を書いていることからも、注目度がわかると思う。

バカの壁 (新潮新書)バカの壁 (新潮新書)
著者:養老 孟司
新潮社(2003-04-10)
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脳卒中は誰でも罹る可能性がある

脳卒中は現在はガン、心臓病に次ぐ日本人の死因の第3位となっているが、戦後すぐから昭和55年までは日本人の死因のトップだった。早期発見とリハビリにより、死亡者は減少しているが、総患者数は死因ナンバーワンのガンの142万人とほぼ同数の137万人万人いる。

ガンは全身にできるわけだが、脳卒中だけでガンと同じだけ患者がいるということは、脳卒中になる人がいかに多いかを物語っている。米国では年間70万人脳卒中になり日本では年間25万人が脳卒中になる。

筆者の亡父も脳梗塞で亡くなった。脳卒中は身近な病気で、筆者も含めて誰でも罹る可能性がある。しかし発見が早く、すぐに対処すれば、後遺症も残らずに回復できるので、厚生労働省も「生活習慣病を知ろう」というページで、「脳卒中ホームページ」をつくって、マンガ入りで、脳卒中の症状などを詳しく説明している。

脳卒中HP






この本の「脳卒中の朝」の章にある脳卒中の症状や、厚生労働省の「脳卒中ホームページ」を読んで、自分や身近な人で同じようなことが起こった場合には、脳卒中ではないかと疑ってほしい。

なお、この本を読む前の基礎知識として、次のような入門書も参考になると思う。

マンガでわかる神経伝達物質の働き ヒトの行動、感情、記憶、病気など、そのカギは脳内の物質にあった!! (サイエンス・アイ新書)マンガでわかる神経伝達物質の働き ヒトの行動、感情、記憶、病気など、そのカギは脳内の物質にあった!! (サイエンス・アイ新書)
著者:野口 哲典
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マンガチックな本だが、簡単に読め、男女の脳の違い(脳の大きさは問題でなく、むしろ左脳と右脳を結ぶ脳梁の太さ=女性の方が太い=が注目されているという)や、脳を構成する神経細胞ニューロン、各種の脳内物質について説明している。


脳卒中の症状

脳卒中になると次のような症状がでる。

・からだの片側がしびれたり、手足に力が入らない
・足がもつれて歩けない
・話したいのに、急に言葉が出なくなる
・ろれつがまわらない
・人のいうことが一時的に理解できない
・ものが二重に見える
・片眼が見えなくなったり、視界の半分が見えない
・食べ物が一時的に飲み込めない

この本では、症状が出るにしたがって、著者の脳のどの部位に障害が発生したのかを、脳のイラストで示している。さすが脳科学者の書いた脳卒中の本である。


脳卒中の朝

ジルが朝7時に起きると、左目の裏から脳を突き刺すような痛みを感じ、上記のような症状が出た。

脳卒中を体験している部分はひらがなになっており、気が利いた翻訳である。

職場の電話番号をなんとか思い出して、電話で同僚に助けを頼む。主治医の名刺を引っ張り出すが、もはや文字を認識する能力は失われていた。やっとのことで、主治医に電話するが、今度はなかなか声が出せない。そのうち同僚が到着し、主治医の指示のあった病院の緊急病棟に連れて行ってくれた。

文字を認識する能力は失われ、激しい脳の痛みと、右側の機能障害が生じていたが、心はニルヴァーナ(涅槃)の境地で「あの世にいかなくちゃ」と思ったという。養老博士が注目する「脳科学者が描く臨死体験」である。

この本を読んで「ニルヴァーナ」が涅槃のことだと初めて知った。今までは「ニルヴァーナ」というと、今はない伝説のロックバンドだと思っていた。



脳は血のプールのなかでおぼれていて、重大な障害を抱えていたが、意識は失われなかった。「合衆国の大統領は誰?」と医師の一人に言われたという。もちろん答えられないが、質問を受けた記憶は残った。左脳は失われたが、右脳の意識は残っていたのだ。


長いリハビリを通して右脳・左脳の働きを知る

2日目からはリハビリが続く。最初にリハビリを担当した療法士は、耳が聞こえないものと思って大声で話し、まるでエネルギーを吸い取られる吸血鬼のようだったという。

主治医や同僚、母親の助けを借りて、長いリハビリ生活が始まる。2か月後に開頭手術して出血を取り除いた。

リハビリの中では、十分な睡眠が大事だという。半年後に20分間の講演を再開するが、時系列で考えることができなかった。左脳は物語を作り上げる能力が特徴なのだ。

6か月後には高校の同窓会に出席し、8か月後にはフルタイムの就業に戻る。2年後にはインディアナ州のローズ・ハルマン工科大学に採用された。

順調な回復のようだが、「1+1」は理解できなかった。足し算ができるようになったのは4年後だ。

パズルも、図形が認識できず格闘した。色で区別してジグソーパズルを解けるようになるには時間がかかった。

現在は任天堂の脳トレのゲームを利用している。「脳トレ」は脳卒中患者のみならず、40歳を過ぎたら誰でも非常に役立つという。

東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング
任天堂(2005-05-19)
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脳卒中という疾患を通して、自分の右脳と左脳の働きを「右脳マインド」、「左脳マインド」に分けて分析を行っている。
テーラー博士自身がまとめている「回復のためのオススメ」や、「脳についての解説」も参考になる。


脳科学者が書いた「内側から研究した脳卒中」という稀有な実体験談である。


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Posted by yaori at 00:22│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 医療

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