2012年08月14日

産業構造ビジョン2010 経済産業省が総力を結集した2010年の国家戦略レポート

産業構造ビジョン〈2010〉我々はこれから何で稼ぎ、何で雇用するか産業構造ビジョン〈2010〉我々はこれから何で稼ぎ、何で雇用するか
経済産業調査会(2010-07)
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他の本で紹介されていたので図書館で借りて読んでみた。レポート本体は「産業構造ビジョン2010」という経産省のウェブサイトの特設ページで公開されているので、ダウンロードしてもよい。

ただ、レポート本体は400ページ弱、レポートの内容と重複するものが多い討議資料が300ページくらいあるので、自分で印刷するのは大変だ。図書館にリクエストすれば、取り寄せてくれると思うので、最寄の図書館でチェックしてほしい。

またこのレポート作成の仕掛け人である経済産業省の柳瀬唯夫氏(当時大臣官房総務課長)が、2011年2月に開催されたJETROのシンポジウムでレポートの趣旨を説明しているので参考になると思う。

日本がこれから何で稼ぎ、何で雇用するかは、大変重要なテーマだし、日本国民みんなが問題意識を持っていると思う。

それについて経済産業省が総力を結集し、パナソニック、東京電力、三菱商事、三菱化学、みずほコーポレート銀行、トヨタ、東芝など、次の様な経済界や各界の代表者を集めて開催した「産業構造審議会産業競争力部会」の報告書だ。

部会長:伊藤元重氏(東京大学大学院経済学研究科教授)

・青山理恵子氏(社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会副会長)

・秋山咲恵氏(株式会社サキコーポレーション代表取締役社長)

・逢見直人氏(日本労働組合総連合会副事務局長)

・大坪文雄氏(パナソニック株式会社代表取締役社長)

・勝俣恒久氏(東京電力株式会社取締役会長)

・小島順彦氏(三菱商事社長)

・小林喜光氏(三菱化学社長)

・佐藤康博氏(みずほコーポレート銀行取締役頭取)

・重久吉弘氏(日揮グループ代表)

・白石隆氏(総合科学技術会議議員)

・妹尾堅一郎氏(東京大学特任教授NPO法人産学連携推進機構理事長)

・千金楽健司氏(株式会社アパレルウェブCEO)

・土屋了介氏(国立がんセンター中央病院病院長)

・鶴田暁氏(環境テクノス(株)代表取締役)

・寺島実郎氏(財団法人日本総合研究所会長、三井物産戦略研究所会長)

・西田厚聰氏(株式会社東芝取締役会長)

・長谷川閑史氏(武田薬品工業社長)

・宮島香澄氏(日本テレビ解説委員)

・森正勝氏(国際大学学長)

・渡辺捷昭氏(トヨタ自動車株式会社取締役副会長)

筆者は経産省が開催した「企業ポイント研究会」のメンバーとして呼ばれたことがある。この種の審議会は官僚と事務局(大体はコンサルタント会社)が一緒になって、プレゼン資料や報告原案をつくり、月に1回程度開催される会議で、委員の意見を聞き、異論がなければ事務局案通りに進められるというやり方だ。

議事内容は録音され、一言一句記録に残される。速記録は公開される場合と、公開されない場合があるようだ。

この「産業構造ビジョン2010」は経産省が総力を結集して作り上げたレポートで、マクロ的視野から各産業ごとの個別施策など、非常に充実した内容になっている。

最も関心のある「日本はこれから何で稼ぎ、何で雇用するか」については、次がこの報告書のまとめだ。

何で稼ぎ何で雇用するのか






民主党が政権を取った直後の2010年6月に出されたもので、分析内容や基本的な方向性は今でも参考になる。唯一の違いは3.11と福島原発事故後の原子力政策に関する状況変化だが、それ以外は現在でも通用する状況認識と方向性だと思う。

この報告書のなかで、文化産業立国政策の一環として、ソフトパワー強化や、日本文化を産業化などの提言が出てくる。

これを総称して「クール・ジャパン」と言い、角川書店会長の角川歴彦さんなどが本を書いている。これは米国のルーズベルトがニュー・ディールの一つとして打ち出した芸術家雇用政策「フェデラル・ワン」や、英国のトニー・ブレア前首相が打ち出した「クール・ブリタニア」に着想を得たもので、韓国も同じような「Cool Korea」をスローガンにしているとは知らなかった。

クラウド時代とクール革命 (角川oneテーマ21)クラウド時代とクール革命(角川oneテーマ21)
著者:角川 歴彦
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-03-10)
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この報告書では、単に構想のみのものも紹介されている。そのうちの一つが外国人ポイント制度だ。

外国人ポイント制






高度人材受け入れのために、学歴、資格、職歴、研究実績、予定年収、年齢、日本語能力をポイント化して、一定ポイント以上の外国人は、在留資格取得を簡素化したり、在留期間を現行の3年から5年にする、最短5年(現行10年)の永住権取得などで優遇するという。

優秀なアニメ、映像クリエーターなどは、大学に行かない人が多いため、現行の在留制度では資格基準を満たさない。それが機会損失となっているという声があるという。

これは小手先だけの議論という気がする。日本はまだ、外国人居住者をどんどん増やすということには踏み出していないと思う。だからこのような小手先の解決策が出てくるのだろうが、このポイントシステムを構築して運営するコストを考えると机上の空論ではないかという気がする。

ともあれ、全体としてよくまとまっている報告書であることは間違いない。たとえば、最近あまり話題にならない超電導についても、次のような図が紹介されていて参考になる。

超伝導




福島原発事故もあり、この報告書がほとんど引用されず、単に報告書を作っただけにとどまっているのは残念だ。

まずは骨子をダウンロードして、是非一度どんなものか見てみることをお勧めする。


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Posted by yaori at 12:44│Comments(0) ビジネス | 経済