2012年10月15日

となり町戦争 2004年小説すばる新人賞受賞作品 ある種のSF

となり町戦争 (集英社文庫)となり町戦争 (集英社文庫)
著者:三崎 亜記
集英社(2006-12-15)
販売元:Amazon.co.jp
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以前紹介した「桐島、部活やめるってよ」と同じく、小説すばる新人賞の2004年の受賞作品。

今度紹介する大澤在昌さんの「売れる作家の全技術」の”偏差値の高い新人賞”として小説すばる新人賞が挙げられ、過去の受賞作としてこの本が紹介されていたので、読んでみた。

小説講座 売れる作家の全技術  デビューだけで満足してはいけない小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
著者:大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)(2012-08-01)
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小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。

たまたま住んでいる町がとなり町と戦争を始め、銃声とか一切聞こえないのに、町の広報には毎週数十名の戦死者が出たことが発表されるという、ある種のSFのようなストーリーだ。

主人公はとなり町を通って、車で勤務先に通うサラリーマンという設定で、町役場の「となり町戦争係」から、偵察要員として任命され、町役場の女性職員と二人で、結婚してとなり町に越してきた新婚カップルに偽装してとなり町に住み始め、偵察活動を開始する。

勤務に忠実な女性職員の香西(こうさい)さんというのが、物語の重要な登場人物で、香西さんの弟は、志願兵として戦争に参加する。香西さんと二人で住み始めると…。

「ある種のSF」と評したが、知り合いが銃殺されたりして戦死者は出るが、最後まで銃声も破壊の後もなく、どこが戦争だったのかわからないままに終わるようなストーリーだ。

なにか不思議な思いながらも引き込まれる。

作者の三崎亜記さんの文才はたいしたものだ。ちょっと一節を紹介すると。

「これが戦争なんだね」

僕は香西さんを抱いたまま波打ち際に横たわり、そうつぶやいた。仰ぎ見た空には月が光っていた。冷徹に、慈悲なき姿で。

「これが戦争なんです…」

香西さんは、僕の腕の中で、自身も波に洗われながらそう応えた。僕は香西さんを引き寄せ、唇を重ねた。冷たい唇。まるで「月の光が暖めたかのように」冷たかった。

「これが戦争なんですよ」

香西さんは、穏やかな微笑のまま僕をあやすように、やさしく静かにそう告げた。波の雫と涙の雫が、へだてなく僕に降り注いだ。」

中略

僕は海に面して大きく配された窓辺に立ち、世界を見下ろした。月に照らされた海と砂浜。遠くには島影が、明滅する灯台のあかりでそれと知れた。

月はあまねく地上を照らし、世界を箱庭のように矮小化していた。僕は、なんだか違う世界にふみこんだような感覚の中に漂っていた。

時間も音も想いも、なにもかもがその軸足を、「ここではないどこか」へと一歩踏み出したかのようだ。そこには「世界を隔てた」かのような静謐さがつきまとった。…」

こんな感じで、場面の描写も「超絶技巧」という感じだし、セリフも考え抜いている。

不思議な作品だが、三崎さんのほかの本も読んでみようかと思わせる魅力のある小説である。

海に沈んだ町海に沈んだ町
著者:三崎 亜記
朝日新聞出版(2011-01)
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失われた町 (集英社文庫)失われた町 (集英社文庫)
著者:三崎 亜記
集英社(2009-11-20)
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廃墟建築士 (集英社文庫)廃墟建築士 (集英社文庫)
著者:三崎 亜記
集英社(2012-09-20)
販売元:Amazon.co.jp
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Posted by yaori at 21:46│Comments(0)TrackBack(0) 小説 

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