2012年11月05日

福島第1事故検証プロジェクト 最終報告書 大前研一の中立的報告書

原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書
著者:大前 研一
小学館(2012-07-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

元原子炉設計者の大前研一さんが、福島第1原発事故の真相を自費でまとめた検証報告書。

自費といっても、事前に細野豪志原発担当相に相談して賛同を得て、細野さんの口添えで東京電力、日本動燃、日立GEニュークリア・エナジー、東芝などの技術者に大前さんが質問して資料提供を受け、それを大前アンド・アソシエーツパートナーの柴田巌さんが取りまとめるという手順を踏んでおり、調査の緻密さには驚く。

元原子炉設計者の大前さんならではの内容である。

細野大臣はこの報告書をボランタリーな「セカンド・オピニオン」として大変ありがたいと共同記者会見で語っている。

大前さんはこの調査のために、事故検証チームH2Oを2011年6月に立ち上げ、2011年10月28日に細野原発担当大臣に報告書を手渡すとともに、一緒に記者会見を行った。この内容がYouTubeで公開されている。



マスコミが全く報道しないので、ほとんど知られていないが、大前さんは報告書をYouTubeで公開し、事務局長の柴田巌さんとともに2時間にわたり骨子を解説している。



中間報告書最終報告書ビジネスブレークスルーのPRページに公開されており、全編ダウンロードできるようになっている。

さらに世界の原子炉技術者が福島の事故から学べるようにという気持ちを込めて、大前さんは英語でも中間報告書最終報告書の要約版を公表している。

また上記のYouTubeの映像は2012年3月に英語の字幕が追加されている。画面右下の四角の「字幕」ボタンをクリックすると、ボタンの色が赤に変わり、英語と日本語の字幕が表示できる。

YouTubeには多言語翻訳機能もついている。英語や日本語の字幕を他の言語の字幕にも機械翻訳できるようになっているので、世界の技術者に知ってもらうという意味では、YouTubeの字幕機能は大変便利だと思う。

この本では公開されている最終報告書の主要部分と、追加で大飯第3,4号機の安全対策検証と視聴者からの質問に答えている。上記ウェブサイトで公開されている報告書では詳細なデータが満載されているので、中間報告書で186ページ、最終報告書で290ページある。

この本も175ページあるが、しろうと向けに整理されているので、この本の方が読みやすいと思う。この本の目次は次の通りだ。

第1章 地震と津波は原発にどんなダメージを与えたのか?

第2章 福島第1原発はどのようにして過酷事故に至ったか?

第3章 メルトダウンした原子炉と生き残った原子炉の分かれ道

第4章 福島第一事故からどんな教訓が得られるのか?

第5章 今後はどんなアクシデント・マネジメント体制が必要か?

    枝野官房長官の国民へのメッセージを検証

第6章 再稼働した大飯原発3、4号機の安全対策を検証する

第7章 なぜ福島第一原発1号機だけが事故の進展が早かったのか?

おわりに 福島の惨事から学んだ貴重な課題をいかさないまま終わっていいのか?

冒頭で紹介したYouTubeの細野大臣との共同記者会見で、この報告書の概要を大前さんが説明しており、福島第1原発の事故の根本原因は天災ではなく、人災であると結論付けている。

今回の福島第1原発の1〜4号機で事故が起こり、5〜6号機や他の東北地方の原発では冷温停止まで持って行けた差は、全電源の喪失に尽きる。それを比較したのが次の表だ。

scanner413





出典:本書82ページ

原発は交流電源喪失の場合は、ディーゼル自家発電機を備えていたが、肝心のディーゼル発電機は水冷式だったので、津波では流されなかったものの、冷却用の海水取り入れ装置が津波で機能しなかったため、冷却ができず発電できなかった。

福島第1の5号機、6号機が冷温停止できたのは、唯一残ったディーゼル発電機が空冷式だったことから、それを使って両方に電力を供給し、なんとか冷温停止ができたのだ。

このような事態に陥ったのは、原発の設計指針として政府がそれまで出していた「安全指針」で、”長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので、考慮する必要はない”としていたことが根本原因だ。

scanner416





出典:本書116ページ

つまり国の原発の設計方針が、今回のような全電源喪失という事態を想定しなくてよいとしていたから、原発の設計者が全電源喪失といった事態を設計の際に考慮していなかったのだ。

そんな環境の中で、福島第1原発の現場はよくやったと、大前さんは記者会見の最後で高く評価している。

また、共同記者会見では大前さんは、原発の設計は「確率論ではダメ」と語っていた。10メートルを超す津波は1,000年に一回だからとかいった理由で、確率を原発の設計に織り込んではならないと大前さんは語る。

どんな事態が起こるかわからないので、未知の事態が起こっても対応できるような設計とすべきだという。

大前さんは、原発存廃の是非は国民が判断すべきことであるが、今後日本で原発を新設することはたぶんできないと思うが、再生エネルギーはまだまだコストも高く、原発をすぐに代替できるほど供給力がない。

したがって、現在ある原発は寿命の30年間は操業して、30年後には原発をゼロにするというのが現実的な解決策だと大前さんは語っている。

その考えに基づいて、福島第1原発事故から得られた教訓を忠実に学ぶべきであり、「日本のエネルギーの未来」を考えるうえでの一助として本書を書いたのだと。

そして福島の二の舞を絶対に演じないために、取るべき対策を次の通り提案している。

1.電源の確保

2.冷却機能の確保

3.制御室機能の確保

4.ベント機能の確保

5.水素爆発の防止

6.アクシデント・マネジメントの整備

7.インフラの強化など

大飯原発3,4号機は、これらの対策を適切に導入し、非常時に備え、休日や夜間も訓練をしていることが紹介されている。

大飯原発の現場でも真剣に安全対策に取り組んでいることがよくわかる。

大飯原発は敷地の中に活断層があるかもしれないということで、原子力規制委員会が調査しており、活断層があれば原発をすぐに停止すべきと主張している学者もいるので、先行きが気になるところである。

公開されている報告書もあるが、中間報告書や最終報告書はボリュームがあるので、
まずは次のYouTubeの大前さんのまとめ(12分)を見るか、中間報告書のまとめ(37ページ)を読んでから、この本を読むことをお薦めする。



筆者はこの本を図書館で借りて読んでから買った。日本国民として福島第1原発の事故を正確に知っておく必要があると考えたからだ。

今後のスケジュールについては、東電の「中長期ロードマップ」を紹介し、福島第1原発については、これから燃料デブリの取り出しや、核廃棄物処理の完了まで30〜40年掛ることを説明している。

scanner403





出典:本書20ページ

大前さんは、地震発生直後からYouTubeで情報発信するなど、福島原発事故については、大変参考になる活動をしてきた。



大前さんの活動の集大成として価値ある報告書だと思う。


参考になれば投票ボタンをクリック願いたい。




Posted by yaori at 00:25│Comments(0)TrackBack(0) ビジネス | 大前研一

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/yaori/51835479