
著者:山中 伸弥
講談社(2012-10-11)
販売元:Amazon.co.jp
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山中教授のノーベル賞受賞決定直後に出版された本。本の帯には「唯一の自伝」となっている。出版社は実にタイミングの良い出版を考えるものだ。この本は現在売り上げランキングの50位前後にある。
出版とほぼ同じタイミングで図書館で予約して、さっそく読んでみた。
このブログでは、山中教授とノーベル物理学賞受賞者の益川教授の対談の「大発見の思考法」のあらすじを紹介している。「大発見の思考法」は、あらすじのタイトルに記したように”ノーベル賞受賞者の知性のジャムセッション”そのもので、大変面白かったが、この本も自伝ならではの発見がある。
「大発見の思考法」のあらすじでは、他に2冊の本も読んで、iPS細胞がどういうものなのかもふくめて詳しくあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

著者:山中 伸弥
文藝春秋(2011-01-19)
販売元:Amazon.co.jp
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この本は「大発見の思考法」では触れていないiPS細胞研究上の様々な試み、決して順調ではなかった山中教授のいままでの研究生活、それと山中教授と一緒に研究してきた仲間などについて山中教授自身が書いている。
たぶん山中教授の話をライターがまとめたのだと思うが、英語の会話すら、こんな感じで大阪弁訳になっている。
「シンヤ、シンヤ」
「どないしたん?」
「あんたのマウスがいっぱい妊娠してんねん」
「そりゃ、妊娠くらいするやろ」
「いや、妊娠してんのはオスのマウスやねん」
これはマウスにコレステロールを下げる遺伝子の働きを強める操作をしたところ、その遺伝子ががん遺伝子で、マウスが肝臓がんになって肝臓が膨れ上がってしまったのだ。
第2部はフリーライターとのインタビューで、第1部が140ページ、第2部が50ページという構成だ。
いくつか印象に残った話を紹介しておく。
山中教授の生い立ちや、「人生塞翁が馬」というモットーを持つに至った、決して順調でない研究生活については「大発見の思考法」のあらすじを参照してほしい。
ノックアウトマウスに魅了(ノックアウト)される
山中さんはのノックアウトマウスの精度の高さに魅了されたという。
ノックアウトマウスは、25億の塩基対(2本のDNA結合)のうち、わずか1個の遺伝子だけつぶす技術だ。
文字数にたとえると、この本の1ページ当たりの文字数が600個なので、25億個だと416万ページ、つまり200ページの本が2万冊以上となる。それだけの本の中から、たった一か所を探し出して黒く塗りつぶしたのがノックアウトマウスなのだ。
iPS細胞発見も、ノックアウトマウスをつくった技術員の一阪さんと、後述の徳澤さんの貢献が大きい。
VWとプレゼン力
山中教授がしばしば口にするVWとは、フォルクス・ワーゲンではなく、山中教授の恩師のUCSFグラッドストーン研究所のロバート・メーリー所長の言葉だ。Vision & Work Hardだという。メーリー所長は「VWさえ実行すれば、君たちは必ず成功する。」と言っていたという。
VWと並んで、山中教授が強調するのは、プレゼン技術だ。アメリカ留学で身に着けたプレゼン力が、その後何度も山中教授を救った。
奈良先端大学で、上に教授のいない研究室主宰者としてはじめて独立したラボを持てることになったときも、VWにならって、ES細胞ができれば、どれだけ素晴らしいことができるかというビジョンをプレゼンに織り込んで、3人の大学院生を獲得したという。
それが現在も山中教授のもとで働く高橋和利講師、4つの遺伝子のうち一つのKlf4を見つけた徳澤佳美さんら3人だった。
高橋さんは、24個にまで絞った遺伝子から初期化に必要な遺伝子4個を特定するのに、大変功績があった。山中さんは、高橋さんのとりあえず24個いっぺんに入れて、一つ一つ減らしていくという発想に、「ほんまはこいつ賢いんちゃうか?」と思ったという。高橋さんはこの考え方をもとに、1年かけてきちんと実験し、4個の遺伝子を見つけた。
京都の作り方
この本ではiPS細胞の働きを説明するのに、「京都の作り方」という本があったと仮定して説明している。作業員に指示するときに、「京都の作り方」の一部だけコピーして渡すのか、全部コピーして、必要な場所にしおりを入れて渡すのかという問題だ。
どちらが正しいか論争があったが、山中教授が生まれた1962年にイギリスのジョン・ガードン教授がカエルの腸の細胞から、オタマジャクシを作ることに成功して、論争に決着をつけた。成体のカエルまでは成長できなかったが、ちゃんとオタマジャクシは作ることができたのだ。
これが山中教授が、「ガードン教授の研究がなければ、iPS細胞研究はなかった。ガードン教授と一緒にノーベル賞を受賞できることがなによりもうれしい」と語っている理由だ。
山中教授がPADを克服するのに役立った本
山中教授が、アメリカ留学から帰って来て、あまりの研究環境の違いに、うつのようになり、ベッドから起き上がれなくなったという話は、「大発見の発想法」で説明していたが、その状態を山中教授はPAD(Post America Depression)と呼んでいる。
そのPADを克服するのに役立った本として次の本を紹介している。

著者:デイル ドーテン
きこ書房(2001-12)
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今度読んでみる。
CiRA(京都大学iPS細胞研究所)はオープンラボ
山中教授が所長を務めるCiRA(サイラ:京都大学iPS細胞研究所)は米国グラッドストーン研究所をモデルとして、オープンラボ形式になっている。
実験スペースは共用で、研究室に仕切りはなく、教授室もラボとは別に横に並んでいる。高性能の装置をみんなで使うという考え方だ。
最後にiPS細胞の一日も早い医療応用のための、iPS細胞研究基金への支援を呼びかけて、この本は終わっている。山中教授自身も大阪や京都のマラソン大会に出場し、基金への支援を呼びかけているという。
ノーベル賞受賞後の記者会見の「私は無名の研究者だった。国に支えていただかなければ、受賞はできなかった。日本という国が受賞した。」という発言にも感心した。「大発見の思考法」のあらすじでも書いたように、山中教授の謙虚さには敬服する。
この本でも一緒に研究にあたった高橋講師や徳澤さん、ノックアウトマウスをつくった技術員の一阪さんなどの同僚の名前と具体的な貢献を紹介して感謝しており、ノーベル賞を共同受賞したガードン博士はじめ先達や、競争相手のウィスコンシン大学チームなどの業績も紹介している。
なんて気配りができる研究者なんだ!
200ページ余りの本で、簡単に読める。「大発見の思考法」と一緒に読むことをおすすめする。
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