2012年11月20日

ジャパン・ハンド 米国の知日派とは

ジャパン・ハンド (文春新書)ジャパン・ハンド (文春新書)
著者:春原 剛
文藝春秋(2006-11)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介した日経・CSISシンポジウムのアーミテージ・ナイ鼎談で、日経新聞編集委員の春原 剛(すのはら つよし)さんの進行役が手際よかったので、著書を何冊か読んでみた。

春原さんは、1961年生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院で学んだ。日経のワシントン支局勤務の他に、米国のCSISの客員研究員として1年間、超党派のシンクタンクのヘンリー・スティムソン・センターの東アジアプログラムの短期研究員として勤務した経験を持つ。ちなみに小泉進次郎も、CSISの客員研究員として在籍した経験がある。

「日中もし戦わば」は、出版社が売らんがためにエキセントリックなタイトルをつけた感じで、あまり得るところがなかったが、共和党のリチャード・アーミテージ、マイケル・グリーン、民主党のジョセフ・ナイ、カート・キャンベルなどについて書いた「ジャパン・ハンド」は参考になった。

日中もし戦わば (文春新書)日中もし戦わば (文春新書)
著者:マイケル・グリーン 張 宇燕 春原 剛 富坂 聰
文藝春秋(2011-12-15)
販売元:Amazon.co.jp

米国で対日関係にかかわった知日派(ジャパン・ハンド)は次の3つのグループに分類できるという。

1.国務省で日本語を専門とし、日本研究に取り組んだキャリア外交官
俗に「菊クラブ」と呼ばれる。国務省で2年間日本語研修を積み、日本に駐在経験を持つ外交官。トーマス・ハバード、ラスト・デミング、宮沢喜一元首相の娘婿のクリストファー・ラフルアーなどだ。戦前の駐日日本大使で、日本の真の友人と呼ばれるジョセフ・グルーが「菊クラブ」の草分け的存在だ。

グルー―真の日本の友 (ミネルヴァ日本評伝選)グルー―真の日本の友 (ミネルヴァ日本評伝選)
著者:廣部 泉
ミネルヴァ書房(2011-05-06)
販売元:Amazon.co.jp

クルーは1902年にハーバード大学を卒業、1904年に国務省に入り、エジプト、メキシコ、ロシア、ドイツの大使館勤務を経て、1924年から5年間国務次官として勤務。その後トルコ大使を経て、1932年に駐日大使となっている。

日米開戦を回避すべく努力を続けるが、1942年に交換船で無念の帰国をしている。帰国後も親日派として活動し、1944年12月には国務次官に返り咲き、日本の天皇制存続や穏当な対日政策を主張し、まさに「真の日本の友」といえる存在である。

2.ハーバード大学で日本学の権威として知られ、のちに駐日大使となったエドウィン・ライシャワーに代表される学界関係者
コロンビア大学のジェラルド・カーティス、ハーバードのエズラ・ボーゲルなどが代表的人物だ。

ライシャワーは自伝をはじめ、日本についての本をいくつも書いている。

ザ・ジャパニーズ―日本人 (1979年)ザ・ジャパニーズ―日本人 (1979年)
著者:エドウィン・O.ライシャワー
文藝春秋(1979-06)
販売元:Amazon.co.jp

ライシャワーの奥さんのハルさんも本を書いており、ハルさんについて書いた本もある。

絹と武士
著者:ハル・松方 ライシャワー
文藝春秋(1987-10)
販売元:Amazon.co.jp

ハル・ライシャワー (講談社プラスアルファ文庫)ハル・ライシャワー (講談社プラスアルファ文庫)
著者:上坂 冬子
講談社(1999-02)
販売元:Amazon.co.jp

エズラ・ボーゲルは1980年に出版されて大変話題になった"Japan as No. 1"の著者だ。

ジャパン・アズ・ナンバーワンジャパン・アズ・ナンバーワン
著者:エズラ・F. ヴォーゲル
阪急コミュニケーションズ(2004-12)
販売元:Amazon.co.jp

もっとも"No. 1"といっても、日本が世界一の大国になるという意味ではなく、副題の"Lessons for America"、つまり日本に学ぼうという趣旨の本だ。

この本はアメリカでも大変な反響を巻き起こし、日本研究が盛んになった。

ジェラルド・カーティスは日本とのかかわりあい45年という日本の政治研究の専門家だ。

政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年
著者:ジェラルド・カーティス
日経BP社(2008-04-10)
販売元:Amazon.co.jp

マイケル・グリーン元大統領補佐官(1961年生まれ)も、ジョンズ・ホプキンス大学博士課程を卒業し、もともとはアカデミズムの系譜を継ぐ人材とされている。

マイケル・グリーンは静岡県の高校で英語を教え、東大で学び、椎名素夫代議士の秘書となり、日本の防衛政策に関する論文で博士号を取った日本研究の専門家だ。ジョージW.ブッシュ政権の時に、2005年まで大統領補佐官としてNSCのメンバーだった。現在はCSIS上級副所長で、アジア・日本部長をつとめている。

日本語が堪能で、先日のシンポジウムでは、自民党の林芳正参議院議員が、ロムニーに会ったら、グリーンさんをホワイトハウスで使うようにアドバイスするとジョークを言ったら、「ほめ殺し」ありがとうと言っていた。


3.官僚・学会いずれにも属さない個性派集団
存在感の大きい元国務副長官のリチャード・アーミテージの名前をとって「アーミテージ・スクール」と呼ばれる。ジム・ケリー元国務次官補、トーケル・パターソン元大統領補佐官、ロビン・サコダ元国防総省日本部長らがいる。

アーミテージは米国海軍将校だった時に、佐世保での船舶修理で修理にあたった日本人技術者たちと一緒に飲みに行き、それから日本びいきになったという。

アーミテージ・ナイ緊急提言ということで、「尖閣、尖閣、尖閣、オレたちをなめるんじゃないぞ!」という中国に対して刺激的な帯がついた本を出している。

日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)
著者:リチャード・L・アーミテージ
文藝春秋(2010-12-15)
販売元:Amazon.co.jp

ジョセフ・グルーが「真の日本の友」なら、それの継承者ともいうべき存在だ。

マイケル・グリーン、アーミテージは共和党だ。日米関係については慢性的な「人材不足」が指摘されている民主党の知日派の代表が、現・国務次官補、東アジア・大洋州担当のカート・キャンベルだ。キャンベルは、クリントン政権時代に国防副次官補となり、普天間の変換問題や、在日米軍の縮小などを担当した。

キャンベルはハーバード大学出身。元々はロシア問題の専門家だったが、冷戦終了とともにやることがなくなっていたところを、ハーバード出身の先輩ナイがクリントン政権の国防次官補になった時に、国防副次官補としてペンタゴンに呼ばれた。

この時、キャンベルはマイケル・グリーンのところに相談に行き、グリーンの言葉を何から何までノートにとって必死に理解・吸収しようとしていたという。

普天間返還問題、テポドン発射問題、日本独自スパイ衛星導入など、キャンベルはたぐいまれな行動力と理解力で、対日政策を事実上一人で切り盛りするようになる。

ナイはキャンベルのことを「自分が見抜いた通り、見事に開花した」と評しているという。

この第3グループの知日派は、偶然が積み重なって知日派となった人ばかりで、その意味では第2.第3のアーミテージを見出すことは難しい。

この本の文末のアーミテージ、トーマス・シーファー前駐日大使、ブルース・ライト在日米軍司令官のインタビューの中でアーミテージは、「多くの人が『なぜ、それほどまでにあなたは日本が好きなのか』と聞いてくるが、私はいつも『なぜなら、私は合衆国が好きだからだ。今、日米同盟を維持することが、我々の利益になっているのだ』と答えることにしている。」という。

日本が"Power Projection"能力(敵基地攻撃能力)を持つことの必要性についてもアーミテージは語っている。

「かつて海部首相が掃海艇をペルシャ湾に派遣した時、自衛艦に『軍艦マーチ』を演奏させなかった。彼らが帰還した時に、それを演奏したのは米国の第7艦隊だった。(中略)あれ以来、多くのことが変わった。自衛隊はイラクのサマワに派遣され、日本は国際社会の『完全な市民』になった。今こそ日本は対外攻撃能力を開発する時ではないかと自分には思える」

有名になった"Show the flag"(戦列に参加しろ)や、"Boots on the ground"(兵員を派遣しろ)といったことを語ったアーミテージらしい発言だ。

この本では1995年と2006年の2回に行った米国政府関係者、約40名への日米関係についての記名式アンケート調査の内容を、「日本か、それとも中国か」というタイトルで、1章にわたって紹介しており興味深い。


将来の知日派を生み出すJET制度

1987年から日本政府が行っているJET(Japan Exchange and Teaching Program)制度を利用して日本に英語教師として滞在し、日本の文化を学んだ米国の学生は、累計で15,000人を超える。

2005年度は、米国が約3,000人、イギリス900人、カナダ800人、オーストラリア400人、ニュージーランド300人といった内訳だ。

このJET世代が、将来の知日派を生み出す宝庫となっていくだろう。


2006年の本だが、「ジャパン・ハンド」自体はあまりメンバーも変わっていない。CSISに客員研究員として務めた経験もある春原さんだけに、参考になる情報が満載の本である。


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Posted by yaori at 22:51│Comments(0)TrackBack(0) 趣味・生活に役立つ情報 | 政治・外交

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