2012年11月26日

私の紅衛兵時代 中国の映画監督陳凱歌氏の紅衛兵時代

私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春 (講談社現代新書)私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春 (講談社現代新書)
著者:陳 凱歌
講談社(1990-06-12)
販売元:Amazon.co.jp

前回紹介した「北京バイオリン」や2011年12月に公開された「運命の子」などの優れた映画を監督している陳凱歌(チェン・カイコー)監督の紅衛兵時代のことを書いた手記。会社の読書家の友人から紹介されて読んでみた。

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山崎豊子さんの「大地の子」でも、主人公の陸一心が、中国の文化大革命時代に日本人の子供ということで、スパイ容疑をかけられ、内モンゴル自治区の労働改造所に送られる場面があった。

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今回中国共産党中央委員会総書記に就任した習近平氏も、父の習仲勲国務院副総理が文化大革命中に反動勢力として吊るし上げられたことから、1969年から7年間陝西省に下放され、洞窟で暮らしていたことが報じらている。



陳凱歌さんは1952年生まれ。映画監督の父とシナリオライターの母との間に生まれた。陳さんの母は裕福な家庭の出身で、アメリカ系のミッションスクールを出たが、日本軍が攻めてきたときに破産してしまったという。その後陳さんの母の両親と兄弟は台湾に移り、陳さんの母のみが大陸に残され、2度と両親に会うことはなかった。


陳さんの育った時代

1958年からの大躍進時代に続く1960年から62年にかけての大飢饉で、中国では2−3千万人、つまりオーストラリアの人口の2千万人以上が餓死した。1959年にはソ連と断交し、1962年にはインドとの国境紛争が起こり、1964年にフルシチョフ書記長が失脚した年に中国は核実験を成功させた。陳さんが育った時代は、このように中国が自主独立路線を歩み始めた時代だ。


文化大革命の始まり

陳さんは、1965年9月に北京の四中に入学した。大学進学率90%を誇る有名校で、党の高級幹部の子弟が多く含まれていたという。

1966年5月7日に毛沢東は、後に「5.7指示」と呼ばれる文化大革命の指示を出す。これに呼応して大学生、中学生が紅衛兵となって、「反動主義者」を吊るし上げ、集団リンチを加えた。共産主義では本来許されない個人崇拝が広まり、学生たちは「毛主席の良い子供になる」ことを目指した。

1966年7月29日、小平、周恩来、劉少奇の党首脳は、数十万人の大学生、中学生を前に演説を始め、最後に毛沢東が登場し、集会はクライマックスを迎え、それから町に軍服を着た中学生・大学生の紅衛兵があふれた。

北京四中の教師は頭を半分剃られ、メガネを割られ、首から下げた看板に書いた名前は×印で消されていたという。


破壊の限りを尽くす

「天地をひっくり返し、嵐のような波風を巻き起こして、大いにひっかきまわせ。そうやって、ブルジョア階級を眠れないようにし、プロレタリア階級も眠れないようにするのだ」というのが毛沢東の指令を受けた林彪の指示だったという。

寺院、孔子廟、キリスト教会を破壊し、北京には一切宗教的な建物はなくなった。北京市は築800年の城壁に囲まれていたが、城壁は紅衛兵たちに完全に破壊され何も残らなかった。

筆者の好きな北京ダックの名店「全聚徳」は、看板を壊され、「人民メニュー」を作らせられた。

髪が長すぎるとみられた男女はハサミで髪を切られた。細すぎるスラックスは切り裂かれ、ハイヒールのかかとは折られた。


陳さんは父親を攻撃

陳さんの父親は、若いころ国民党員だったことがあり、この過去が陳さんにも影響を与えてきた。陳さんは父親を憎むようになった。陳さんのお父さんは、「国民党分子、歴史的反革命、網に漏れた右派」として罵倒され、陳さん自身もお父さんを突き飛ばした。陳さんは14歳だった。翌日陳さんのお父さんは連行されていった。

数年後陳さんが下放された雲南省から帰省した時に、ボロをまとい、歯の抜け落ちた老人が学校の便所掃除をしていた。それが50歳になった陳さんのお父さんだったという。


陳さんの自宅も略奪される

陳さんの家は級友による家宅捜索を受け、衣装タンスは壊され、服は引き裂かれ、本は毛沢東のものなど一部を除き、すべて燃やされた。目覚まし時計やカメラなど金目のものは持ち去られ、頭痛薬まで見逃さなかった。

級友たちは破壊し尽くした後、陳さんと握手して立ち去ったという。数百万の家がおなじように略奪を受けた。紅衛兵自身の家もすべて略奪をうけた。共産党幹部、劉少奇や彭徳懐元帥も例外ではなかった。殴り倒され、ケガをさせられた。


文革の犠牲者は多い

「地主」や「資本家」とみなされたものは、もっと悲惨だった。ガラスの破片の上に座らされ、ちょっとでも動くと殴る蹴るの暴行を受け、殴り殺されたものもいた。陳さんも紅衛兵の軍服を着て、赤い腕章をつけて北京市内を自転車でまわった。人を殴ったこともある。

陳さんの友人の父親の元・石炭工業相は、頭を丸刈りにされ、全身に傷を負い、死ぬ直前に息子に会って、「お前は長男だ。しっかりしろ」と言って、数日後に亡くなった。毛沢東と周恩来に手紙を書いて無実を訴え、生涯信じた仕事に悔いはないという遺書が残っていたという。

今も共産党の考えで法律は変更されるので同じ傾向があるが、文革中には法律は存在しなかった。拷問を受け無理やり自供させられ、私設法廷で裁かれて処刑されていった。高いビルから落として、自殺とみせかけて犯行をごまかすといったことが平気に行われていた。

「人民芸術家」とされていた文豪の老舎は、京劇の衣装を焼かれ、重傷を負わされ、みずから北京の太平湖公園で湖に身を投げた。陳さんは死の直前老舎と出会ったという。

文豪老舎の生涯―義和団運動に生まれ、文革に死す (中公新書)文豪老舎の生涯―義和団運動に生まれ、文革に死す (中公新書)
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駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)
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雲南省シーサンパンナに下放

1969年の春、陳さんは雲南省の山奥の山林に下放された。17歳だった。労働改造中の父親はホームまで見送りに来て、陳さんは父親の涙を初めて見たという。

雲南のシーサンパンナのタイ族の村で、森林開発に従事した。野焼きして原生林を焼き払い、戦略物資のゴムの栽培をしていたが、結局うまくいかなかったという。

下放された女学生が発狂し、掘立小屋で乞食のように住んでいた話や、上海から来た16歳の知識青年が木の下敷きになって死亡した話が語られている。

陳さんはバスケットボールがうまかったので、1971年に軍のバスケットボールチームにリクルートされ、部隊はラオスに移動する。公然の秘密だったが、ベトナム戦争に中国軍が参加していたのだ。ラオスで爆撃跡の復旧作業を担当し、1975年除隊して北京に復員する。


北京で出発点に戻る

北京映画現像所で空調を取り扱う労働者となり、毛沢東が亡くなると、北京映画学院の監督科に入学する。1975年ー78年の入学者には、その後の中国のあらゆる部門の逸材を輩出しているという。習近平も1975年に精華大学に入学している。下放された1,000万人を超える知識青年たちが、都会に戻ってきて、出発点に戻ったのだ。

陳さんは、北京映画学院を卒業後、広西省と陝西省西安の映画撮影所で数本の映画を制作し、その後1987年に1年間映画の講義をするために米国に行き、そのままニューヨークに滞在して映画制作に取り組んでいる。

この本もニューヨークで日本での出版用に書き下ろしたものだ。

この本を読んでいて、中国は昔から変わらないとつくづく思う。

同じことのぶり返しで、最近の共産党幹部の汚職や日系企業・日本車をターゲットにした攻撃を見ていると、「アラブの春」のように、民衆の怒りが共産党に向かう日も近いのではないかという気がする。

文化大革命は毛沢東が指導した権力闘争だった。反日デモには毛沢東の肖像画を掲げる民衆の姿が放映されていた。このままいくと毛沢東崇拝が復活し、違う形での文化大革命の再来となるかもしれない。

最近では「中国は崩壊する」や、「中国大分裂」などセンセーショナルなタイトルの本が日本で多く出版されている。

2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)
著者:宇田川 敬介
扶桑社(2012-06-01)
販売元:Amazon.co.jp

中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動中国大分裂 改革開放路線の終焉と反動
著者:長谷川 慶太郎
実業之日本社(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp

中国が崩壊した場合、日本も無傷ではないだろうが、共産党の一党独裁が永遠に続くこともありえないだろう。

文革時代を描いてはいるが、同じことがまた起こりそうな懸念を抱かせる本である。


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Posted by yaori at 12:40│Comments(0)TrackBack(0) 自叙伝・人物伝 | 中国

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