2012年12月04日

国会事故調 報告書 福島原発事故の包括的報告書

国会事故調 報告書国会事故調 報告書
著者:東京電力福島原子力発電所事故調査委員会
徳間書店(2012-09-11)
販売元:Amazon.co.jp

以前紹介した大前健一さんの「原発再稼働『最後の条件』」に続いて国会事故調の福島原発事故報告書を読んでみた。

原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書
著者:大前 研一
小学館(2012-07-25)
販売元:Amazon.co.jp

この報告書は徳間書店から出版されているが、インターネットの国会事故調のホームページでも公開されている。YouTubeでも多くの映像が公開されている。



要約版(104ページ)、ダイジェスト版(12パージ)、報告書全文(575ページ)、参考資料、議事録などが無料でダウンロードできるので、是非一度国会事故調の報告書ページもチェックしてほしい。(国会事故調のホームページは2012年10月末で閉鎖されているが、同じコンテンツが国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業のウェブサイトで見られる)。

大前さんの報告書と比べると写真や図が少なく、ほとんどが文章による報告書なので、読みずらい。筆者も3日ほどかかって、全文(592ページ)を読んだが、付録CDの会議録(416ページ)や参考資料(242ページ)はざっと目を通した程度だ。

興味のある人はまずはダイジェスト版(12ページ)を読むことをおすすめする。

大前報告書が技術面での検討がメインだったのに対して、この国会事故調の報告書は、技術面でもさることながら、根本原因から、当時の危機対応体制の妥当性、被災住民に対する政府・自治体の誘導・対応の悪さ、原子力規制体制の問題など、様々な角度から分析を行っている。

国会事故調のメンバーは次の通りだ。原子力の専門家は一人もいない。大前さん自身も元原子炉設計者という大前レポートと大きく異なる点だ。

委員長:黒川 清   東大名誉教授 専門:医学
委員 :石橋 克彦  神戸大学名誉教授 専門:地震学
委員 :大島 賢三  JICA顧問、元国連大使 専門:外交官
委員 :崎山 比早子 元放射線医学総合研究所主任研究官 専門:放射線医学
委員 :櫻井 正史  元名古屋高等検察庁検事長 専門:法律家
委員 :田中 耕一  島津製作所フェロー 2002年ノーベル化学賞受賞
委員 :田中 三彦  科学ジャーナリスト
委員 :野村 修也  中央大学教授 専門:法律家
委員 :蜂須賀 禮子 福島県大熊町商工会会長 被災者
委員 :横山 禎徳  社会システムデザイナー 元マッキンゼー東京支社長 東大EMP企画推進責任者


報告書の結論は「人災」

地震対策、津波対策、全電源喪失対策に問題があることを知りながら対策を先延ばしにしてたことが根本原因で、その意味で今回の事故は「自然災害」ではなく、「人災」だと結論づけている。

そして”東電がエネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながら、自らは矢面に立たず、役所に責任転嫁する黒幕のような経営を続けてきている。それゆえ東電のガバナンスは自律性と責任感が希薄で官僚的だった”と指摘している。


報告書の概要

報告書の概要がわかると思うので、重要な部分は主なサブタイトルまで含めて目次を紹介しておく。広範な検討を加えていることがわかるだろう。

第1部 事故は防げなかったのか?
1.1 本事故直前の地震に対する耐力不足
1.2 認識していながら対策を怠った津波リスク
1.3 国際水準を無視したシビアアクシデント対策

第2部 事故の進展と未解明問題の検証
2.1 事故の進展と総合的な検討
2.1.1 本事故をより深く理解するために
    1)原子炉と5重の壁
    2)原子炉事故、使用済み燃料プール問題
2.1.2 地震・津波による主な被害とその影響
2.1.3 原子炉事故の進展
2.1.4 原子炉パラメータに基づいた放射能放出家庭
2.1.5 ほかの原子力発電所における事故回避努力と事故リスク

2.2 いくつかの未解明問題の分析または検討
2.2.1 東北地方太平洋沖地震による福島第一原発の地震動
2.2.2 地震動に起因する重要機器の破損の可能性
2.2.3 津波襲来と全交流電源喪失の関係について
2.2.4 検証すべきさまざまな課題
2.2.5 MARK I型格納容器が抱える問題について

第3部 事故対応の問題点
3.1 事業者としての東電の事故対応の問題点
3.2 政府による事故対応の問題点
3.3 官邸が主導した事故対応の問題点
3.4 官邸及び政府(官僚機構)の事故対応に対する評価
3.5 福島県の事故対応の問題点
3.6 緊急時における政府の情報開示の問題点

第4部 被害の状況と被害拡大の要因
4.1 原発事故の被害状況
4.2 住民から見た避難指示の問題点
4.3 政府の原子力災害対策の不備
4.4 放射線による健康被害の現状と今後
4.4.1 放射線の健康影響
4.4.2 防護策として機能しなかった安定ヨウ素剤
4.4.3 内部被ばく対策と今後の健康管理
4.4.4 学校再開問題
4.4.5 原発作業員の被ばく
4.4.6 避難の長期化によるメンタルヘルスへの影響
4.5 環境汚染と長期化する除染問題

第5部事故当事者の組織的問題
5.1 事故原因の生まれた背景
5.1.1 耐震バックチェックの遅れ
5.1.2 先送りにされた津波対策
5.1.3 全交流電源喪失(SBO)対策規制化の先送り
5.2 東電・電事連の「虜(とりこ)」となった規制当局
5.3 東電の組織的問題
5.4 規制当局の組織的問題

第6部 法整備の必要性


報告書のポイント

長文で読みにくい報告書だが、筆者が理解したポイントを記しておく。

1.2006年に内閣府原子力安全委員会が耐震基準を改訂し、全国の原子力事業者に耐震安全性評価(耐震バックチェック)実施を求めた。東電は最終報告書の提出期限を2009年と届けていたが、勝手に2018年にまで先送りして対応を怠った。

東電及び経済産業省原子力安全・保安院は耐震補強工事が必要と知りながらも、工事を実施していなかった。保安院はあくまで事業者の問題として、大幅な遅れを黙認していた。

2.安全委員会は米国での規制強化を受けて、1993年に「全交流電源喪失事象検討WG」を設けて、「原子力発電所における全交流電源喪失事象について」という報告書を出したが、日本の外部電源・非常用電源の信頼性の高さを強調し、長時間の全交流電源の喪失を考慮する必要がないとして設計指針を変更しなかった。

米国では9.11以降にNRC(米国原子力規制委員会)が、テロ対策としてB.5.b.と呼ばれるSA(シビアアクシデント)対策を打ち出し、全電源喪失を想定した機材の備え(使用済み核燃料プールへの直接代替給水ライン設置など)と訓練を全原子力発電所に義務付けていたが、日本ではこの情報は事業者にも安全委員会にも伝えられなかった。

このように今回の事故はこれまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず、歴代の規制当局及び東電経営陣が、それぞれ意図的な先送り、不作為で安全対策を取らなかったまま、3.11を迎えたことで発生したものだ。

3.東電は新たな知見に基づく規制が導入されると、原発の稼働率に深刻な影響が出ることと、安全性に対する過去の主張を維持できず、訴訟などで不利になることを恐れ、安全対策の規制化に強く反対した。電力事業連合会を通して規制当局に働きかけ、規制当局もこれを黙認し、規制は骨抜きにされた。

4.実際に地震と津波で全電源喪失という事態が起こると、官邸、規制当局、東電経営陣にはシビアアクシデントの準備も心構えもなく、緊急事態に適切に対処できず、官邸は東電の本店や現場に直接的な指示をだし、現場の指揮命令系統の混乱を招いた。

当時の菅総理によって東電の全面撤退が阻止されたというのは、菅総理の都合の良い理解で、東電自身は緊急対応メンバーを残して残りは撤退というものだった。現場に行って指示するなどの菅総理のスタンドプレイは、結局危機管理としては無駄な動きで、単に現場を混乱させるだけだった。

5.避難指示は混乱した状況で出され、一時避難のつもりで、着の身着のままで避難して結果的に長期間自宅に戻れなかったり、線量の高い地域に避難した住民が続出し、適切な避難指示がなされなかった。政府及び規制当局の危機管理は機能しなかった。

政府は緊急時対策支援システム(ERSS)と緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を何百億円もかけて構築していた。しかし、ERSSが停電やネットワーク遮断で長時間使えず、ERSSからの放出源情報がないSPEEDIの予測は正確性に欠け、結局初動の避難指示には役に立たなかった。


国会事故調の7つの提言

国会事故調は、次の7つの提言を出している。

1.規制当局に対する国会の監視
2.政府の危機管理体制の見直し
3.被災住民に対する政府の対応
4.電気事業者の監視
5.新しい規制組織の要件
6.原子力法規制の見直し
7.独立調査委員会の活用

国家事故調は報告書を提出してホームページも閉鎖し、活動を終えている。しかし、報告書を書いても、何のアクションも取らなければ意味がない。民主党は単に大飯を除く全原発休止という事態から何もしないという不作為の作為を決め込んでいる様にも思えるが、この報告書で指摘されている問題点を考慮して、7つの提言を実現すべく動く必要がある。

単に除染活動を続ければ、それで被災地が復興するわけではない。福島原発事故を風化させず、広島・長崎原爆とともに、人類の教訓とするためにも、この報告書は役立てるべきだと思う。


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Posted by yaori at 00:21│Comments(0)TrackBack(0) 環境問題 | 政治・外交

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